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2024年度はエネルギー価格中心の物価上昇になるか?~2024年3月の消費者物価

昨日(19日)、2024年3月の消費者物価が公表されました。消費者物価の前年同月比上昇率は2月の2.8%から3月は2.7%と0.1ポイント縮小しました。一方、日経朝刊はコストプッシュ圧力が今後の消費者物価を押し上げるリスクを示しています。

生鮮食品及びエネルギーを除く総合に注目

 消費者物価の代表的な指数は「総合」「生鮮食品を除く総合」「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」の3種類あります。金融政策では、景気とは無関係に天候要因などで変動する「生鮮食品を除く総合」が注目され、新聞での報道もそれが中心になちがちです。
 一方、エネルギー価格も日本の景気と無関係に変動する可能性があります。日本は多くのエネルギー源を輸入に頼っており、海外経済、地政学リスク、為替レートなどの影響を受けるためです。
 よって、日本の国内的な物価変動圧力を見るという点では「生鮮食品を除く総合」がふさわしいともいえます。実際、2003~2008年(のリーマンショック前まで)は世界経済が好景気に沸く中で、日本はひとりデフレに沈んでいました。この間、総合や生鮮食品を除く総合の上昇率を、生鮮食品とエネルギーを除く総合が下回り続けました。2007年まで伸び率はマイナスでした。
 当時、2006年に日本銀行は生鮮食品を除く総合の動向などを見て、量的緩和政策をいったん解除したのですが、生鮮食品及びエネルギーを除く総合が下落を続く中で時期尚早ではないかとの意見も多かったです(当時、民間エコノミストの端くれだった私もそう主張していました)。

2024年3月は2022年11月以来の3%割れ

 以前、以下の私のnoteで書かせていただいたように、2023年の生鮮食品及びエネルギーを除く総合の上昇率は、1981年以来の高さでした。2023年2月からは総合、生鮮食品を除く総合を上回り続けています。エネルギー価格が下落する中、価格転嫁が進んで企業収益が改善し、それが賃金上昇にもつながりつつあります。

 しかし、そうした幸せな日々はそろそろ終わりそうです(涙)。毎月私のnoteでお示ししている総合指数の上昇率の要因分解をみても、エネルギー価格のマイナス寄与はほぼゼロになっています。

川上の財・サービスの物価が上昇に転じる

 日本銀行が毎月公表している「最終需要・中間需要物価指数」を見ても、原材料に近い川上段階の物価が上昇に転じたことがわかります。
 この指数は、財・サービスを総合して、需要段階別の物価動向を観察できるように作成されています。最も川上に近いステージ1では、原油、石油製品、粗鋼、労働者派遣サービス、建築材料などの価格が総合されています。ステージ4にかけて原材料ではなく私たちや企業が購入する財・サービス(最終財といいます)の比率が高まり、最終需要の指数では私たちや企業が購入する財・サービスの動向を表すものになっています。
 つまり、ステージ1から順に最終需要にかけて観察することで、ステージ1での価格変化が、徐々に最終需要に向けて波及する姿を見ることができるわけです。
 ステージ1の下落率は2023年7月に最大になった後、縮小。2024年1月には0.3%上昇とプラスに転じ、2月にはプラス1.0%と高まっています。ステージ2も少し遅れてマイナス幅を縮小し始めています。これらの動きは、いずれ消費者物価のエネルギー価格などに波及するでしょう。
 エネルギー価格については、日経の記事にもあるように制度要因も影響しそうです。総務省の資料によると「電気・ガス価格激変緩和対策事業」による物価押し下げ効果は2024年3月で▲0.49%とのことですが、この事業は5月で終わる予定です。2024年度はエネルギー価格によって物価が押し上げられるという、日本にとってあまりうれしくないことになりそうです。

一般サービス物価は上昇率縮小

 最後に私のnoteで注目している一般サービス価格の動向を確認しましょう。一般サービス価格の上昇率は2.8%と2月の2.9%からわずかに縮小しました。外食の寄与がわずかに縮小したほか、このところ一般サービス価格上昇のけん引役であった宿泊料の寄与も縮小しています。
 外国パック旅行費の寄与はわずかに高まりましたが、これは特殊要因(2024年1月のnoteをご覧ください)が含まれ、来年1月にはその要因が剥落します。
 最近、スポーツクラブの値下げキャンペーンを目の当たりにしています。地元駅前のジムは、コスト増などを理由に一時引き上げた月会費を大幅に引き下げています。身の回りの動向だけでマクロ経済動向を判断するのは慎むべきとは思いますが、個人消費が弱含みを続ける中、せっかく動き出したサービス分野での価格転嫁が広がりを見せる前に止まってしまわないか心配になってきました。

#日経COMEMO #NIKKEI


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