ダイアログインタビュー ~市井の人~ 梅田守さん「この街で暮らす『芯』とは」4

◎震災を経て

――今のお話を伺って、震災後の梅田さんの行動が腑に落ちるというか……「あ! そういう意味があったのね」と思える点が色々ありました。例えば、いち早く市外からの支援の受け入れの受け皿になったりされてましたよね。その大元には、エゴというごみを落としたことによる、人や地域への想いなんかもあったんだろうなという気がしました。そこで伺いますが、震災をきっかけに、転換した視点ってありましたか?

梅田 大いにありましたね! 人生をもう一度見つめなおすきっかけになったし。「いつ何時何が起こるか分からない」「最悪の事態を想定しておきなさい」みたいなことはよく言われていて、それは頭では分かっていたけど、心ではそれがどういうものなのかは分かっていなかった。それが震災と原発事故によって、望みもしないのに訪れてしまった。「何とかしなくちゃならない」という思いはあるけど、考えれば考えるほど「どうにも出来ない」。そんな中でも、「行動しなきゃ何も結果が出ない」という事に身を以て気づけたね。それにもう一つに、会社の経営者として「その家族を含めた社員の生活も経営者たる自分次第」という事に、本当の意味で気づけたというのが、この震災で自分の中であった事かな。

――失礼な言い方になっちゃうかもしれませんけど、責任の持ち方も変わった感じですかね。

梅田 トップが毅然とした気持ちを持っていないと、組織という物は成り立たない。その責任の重さというものに、改めて気づかされたね。ただ何となく「経営者」という感じでいたら、これから先は絶対に生き残れないんだという、良い意味での危機感を物凄く強く感じたね。

――例えばそれって、どんな行動に表れましたか?

梅田 原発事故の影響で、震災前は四三人いた社員が、一気に二四人まで減ってしまった。震災から二十日後の四月一日に事業を再開したんだけど、その時戻ってきてくれたのが二十人。ただ、普通に仕事が出来る状態で業務を再開したわけではなく、機能不全の状態だった。何とか仕事が出来る状態になるまで、二か月も三か月もかかってしまった。その間も、社員の退職に歯止めがかからない。二十キロ圏内や三十キロ圏内に住む社員は、避難先から戻っても来られず、退職せざるを得ないという状況が出来ちゃった。一方で、潤沢な支援を避難先で受けている人と、会社に残って人手不足の中で激務をこなしている社員との間で生じた不公平感や、「仕事をやらされている」という感覚から生じる不平不満が鬱積してしまい、社員の間でも荒んだ考え方が蔓延してしまった。そうした状況を終息させる手立てが見つからなかった。社員はどんどんいなくなってしまうし。そうした状況に一番苦慮したね。漸くここ一年半くらいで、状況が落ち着いてきた感じで……。

――やっぱりパニックでしたからね。

梅田 ずっとここまで強気でやってきたけど、「どうしていいかわからない」と、弱気になった時期もあったかな。表向きはそんなそぶりは見せたくなかったけど(苦笑)。

――それは分かりませんでしたね(笑)。でもあの時期は、特に地元の方々は皆さん悩んでおられたし、無理もない話だったかもしれません。

梅田 経営者としては、色々な意味で「核」「軸」「信念」を持たなければならないし、それがぐらついてしまうと、社員の皆さんには、弱いところが伝わってしまうんだなと感じたね。

――軸をしっかり持つですか……それはちょっと耳が痛い様な気がしますが(苦笑)。でもその通りですね。

梅田 一年半くらい前にようやく落ち着きを取り戻してきたんだけど、それには「落ち着きを取り戻す要因」があってね……。社員の皆さんの奥底には「この会社で頑張って働いて、五年後十年後はどうなるんだろう」という不安があって、それが思い描けない会社経営だと、不安が不満につながってしまい、仕事へのモチベーションが保てないんだという事が、本当の意味で分かった。そこで何が必要なんだろうと考えた時、「適正で公平な人事評価制度」が必要だろうと。やってもやらなくても同じだとなると、人って弱いからやらなくなってしまう。「きちんと成果を上げた人は報われて称賛される」「成果を上げて報われ称賛されるために必要な事を指導する」という制度にしていかなくちゃならない。そしてその立場、職責、役割に応じた評価制度を整備し、きちんとそれを明文化したものを作り上げ、社員の皆さんに提示して「あなたに期待していることはこれですよ」というものをはっきりさせる。それによって、社員の皆さんの不安を取り除く方向性が出来たかなと。これを制度として確立させるために、たっぷり一年半かかりましたね。
 
――人事評価制度って、「見える化」するのが難しいですからね。

梅田 「形のないものを明文化する」ってとても労力がかかる作業でした。それに、仕事の中でのその人の役割ってものを、本当の意味でしっかりと見なくちゃいけないので、時間もとてもかかりましたね。
~続~

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