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建て壊された、大学時代のボロアパート

美大時代、月3万、6畳一間、木造アパートを友達とアトリエとして借りていた。
二人で割ったから、家賃は1万5000円。

他の部屋の住人は全員、同じ美大生。
隙間風すごいし、他の部屋の音は丸聞こえだし、バランス釜のお風呂だったし、入居した時は2cmくらい砂埃が溜まってたけど、それ以上に楽しかった。

課題で終電を逃した日は、アトリエに泊まる。
他の部屋の住人も集まって、鍋(いや、クレープだったかな)を囲む。
解散したら、友達と布団並べて、壁紙の剥がれかけた天井見ながら、最近出た変な課題、バイト先で嫌だったこと、行きたい旅行先とかを延々と話した夜。修学旅行みたいだった。



そういえば、初めて泊まる日に「布団がない」と気づいて二人で駅前に買いに行った。ラーメン食べた後、スタバでフラペチーノ飲んで「バイト代飛んじゃった」って笑いながら、パンパンに膨れたお腹で大きい布団をよたよたと抱えて帰った。



お互い一限しか授業がなくバイトもない日は、蕎麦屋に行った。
帰りにコンビニでアイス買って、季節遅れの鶯が鳴く玉川上水を歩いた。
そのまま温泉の湧く銭湯に行って、露天風呂でピカピカの青空見ながら「卒業後に今日を思い出して切なくなるね」と言った。

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その日の写真。玉川上水に咲いた紫陽花の陰で、野良猫が昼寝していた。



卒業後、あのアパートは建て壊されたらしい。

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あのアパートに住んでいなかったら、大学の周りに多くの銭湯があったことも、隠れた名店があったことも、玉川上水のいろんな表情も知らないままでいた。

家賃はアパート近くに住む大家さんに手渡しだった。家賃ついでに家族のこと、近所のお店のことを世間話したりもした。そういう「大学のご近所さん」を知れたのも、アパートのおかげだった。


4年を費やす大学生活。キャンパスだけでなく「土地の魅力」を認識できたから、大学時代の思い出の範囲が広がった。



私はいま、生まれ育った下町・荒川区で、祖母から継いだ大家の仕事をしている。この町にある大学の学生さんは、あのボロアパート周辺で見つけたような町の思い出を積み重ねられているのだろうか。

「地域に触れるはじめの一歩」を掴むチャンスはなかなか落ちていない。学生さんに限らずこの町に住む人が、その一歩目が得られる住まいを作れたら。そう思って、私はいま賃貸を建てる計画をしている。

たとえ別の町に引っ越したとしても、その地域で重ねた愛着は消えない。荒川区に骨を埋めるつもりでいる私にとって、そんな「近くても離れても心のご近所さん」のような人が増えることが、一番嬉しい。

「そんな理想はムリ」「こんな路地裏に人は来ない」という声も貰うけど、私にとってはどこよりも魅力的で可能性のある、愛する場所。落ち込むこともあるけど、「良いね!」と力を貸してくれるご近所の皆さんと一緒に、コツコツ取り組んでいます。


7月11日(土)14:00〜オンラインイベントやります!

そんな新築設計を担当してくださっている建築家さんと一緒に、「荒川区への想い」を込めた新築マンション計画を語ります。

間取り図や模型や構想イラストもご紹介。家を買うとかしない限り、建設の計画段階を見るってあんまり無いと思います。
物件が建つプロセスを皆さんと共有できたら楽しいな〜と思って企画しました。

もちろんご入居予定の無い方も大歓迎です!まったりやわらかく開催します。土曜の昼下がり、おやつ片手に夢膨らむ時間を過ごしましょう~!

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おっちゃん物件トダビューハイツ http://todaviewheights.com/
町に長く住みたくなる新築マンション「想像建築」https://souzou-kenchiku.com/

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