ICTは「知の自転車」!戸田市のGIGAスクール構想(前編)
はじめまして。教育政策室指導主事の布瀬川と申します。
戸田市のGIGAスクール構想の推進を担当して5年目となります。
前回、こちらの投稿で戸田市の教育改革の重点である「SEEPプロジェクト」を紹介させていただきました。
このうち「EdTech」にあたる1人1台の学習者用端末をはじめとしたICTの活用は、SEEPプロジェクトを支える重要な要素です。
そこで、戸田市におけるICTの活用を、GIGAスクール構想の実現という文脈を兼ねて、前後編の2回に分けて紹介します。
GIGAスクール前の戸田市の取組
戸田市では、国のGIGAスクール構想に先立ち、2016年より1人1台端末時代を見据えて、端末と高速インターネット環境の整備に取り組んできました。
市内学校において、産官学との連携による3OS(Windows、iPad OS(当時はiOS)、Chrome OS)の実証実験を経て、2018年に小学校、翌2019年に中学校へ、およそ3学級に1学級分の学習者用端末としてChromebook(特別支援学級には2人に1台分のiPad)を市費で整備しました。
Chromebookは、コストパフォーマンスに優れることはもちろん、運用管理のしやすさ、セキュリティ、フィルタリング設定の容易さ、アップデートのスピード、堅牢性等に優れています。学校サポート体制(後編にて)を整えながらも、1人1台体制になるとどうしても起こりうる学校での管理・運用、トラブルシューティングの負担を可能な限り減じ、活用に専念してもらうことこそ、活用の第一歩であると考えたときに、このことは選定上の大きな理由となりました。
一方、特別支援学級においては、1人1人の特性に応じた学びづくりに必要なアプリが無償かつ良質で、安全性まで担保されたものが豊富にあり、操作性のよいiPadを選定しています。
ちなみに、この環境整備は、当時の文部科学省が示した「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)」を達成するもので、当時は、GIGAの「G」の字も見当たらず、ユースケースもほとんどありません。
しかし、GIGAまでの2年の間に、市内各学校の先生方の努力によって多くの実践知が蓄積され、それが横展開されることを通してGIGA前には早期の1人1台化を求めるリクエストを山ほどいただき、教育委員会としては良い意味で困らされるほどの活用状況となりました。このあたりのICT活用の様子については、後編でご紹介したいと思います。
なぜ早期にICTを整備したのか
子供たちが生きるこれからの時代は、(誤解を恐れず言えば)高度経済成長期に代表される大量生産を支えたある種、規格化された仕事が求められた時代とは異なり、変化が激しく先行き不透明で個人と社会のウェルビーイングが求められる時代です。
変化が激しいからこそ一人一人が学び続け、自ら課題を見つけ、多様な他者と共創しながら解決を目指してやり抜く力が求められます。
また、子供たちにとってのICTは、日々の暮らしの中で当たり前に存在する道具であり、その進歩は加速度的です。既に、オンライン上では瞬間的に膨大で多様な知にアクセスできるようになり、学ぶ場所は学校以外の選択肢も増え、いつでも、どこでも、誰とでも学ぶことができるようになりました(このことは決して学校や紙媒体を否定するものではありません)。
そうした現状を踏まえ、今や「デジタル・ネイティブ」とも言われる子供たちに必要な学びの改革を行い、「AI では代替できない力」「AI を使いこなす力」を育成するためには、まずICT環境の整備が必要と考えました。このあたりは、第4次戸田市教育振興計画の紹介動画でも教育長がお話していますのでよろしければ御覧ください。
ICTが学びに必要なわけ
米・アップル社の創業者である故スティーブ・ジョブズ氏は、コンピュータを指して「Bicycle for the mind(知の自転車)」と表現しました。自転車は自動では動きませんが、人がペダルを漕ぐことで歩くよりも早く目的地に到達することができます。
ジョブズ氏が言いたいことは、テクノロジーは人の能力を拡張する、という意味であると解釈しています。
私自身、現場で子供たちを前にしていた頃、「もっとこんなことができればより深く学ばせることができるのになあ」「もっと子供たちの学びをサポートできるのになあ」と思う場面がたくさんありました。ICTは、下の図に示したような特性を理解し、生かすことで、そうした「できたらいいな」の実現範囲を拡げ、子供たちの「学びの質の向上」を可能にするものであると考えています。
※この他、ICTの強みは「教育の情報化に関する手引」など参照
いくつか例を示すと、「共有」すること一つにしても、(今やありきたりとなりましたが)教室にいる子供たちの考えや進捗状況を教師が手元で確認することができれば、適切な声掛けや支援ができます。意見の集約や集計もリアルタイムで行うことで、最新の学びの状況を踏まえて授業を展開することができます。
子供の目線に立てば、これまでの挙手をして先生に指名される授業スタイルでは手が挙げられなかった子がみんなに考えを届けられるようになりますし、学級全体でも友達の考えを参考にしながら自分の考えを深めることができます。
他にも、学び方の選択肢を増やすことができる、というのも大きなポイントです。従来は教科書や先生が用意した教材だけが子供たちの主な学習リソースでしたが、Webやクラウド、様々な機能を活用することで、子供たちが自分に適した学び方を選択することができます。AIを搭載したデジタルドリルに代表されるように、前に学んだ内容に戻ったり、先取りして学習をしたりすることも容易になります。
また、一人一人の個性や特性にも応じやすくなります。例えば、認知特性として視覚優位な子には、聞いて理解するより、デジタル教科書の視覚教材の方が理解しやすいこともあるでしょう。
さらに、「時間と空間の制約を受けない」という利点がICTにはあります。新型コロナウイルス感染症に伴う臨時休業の際に、本市ではICTが「学びを止めない」ための生命線としての役割を果たしました。
加えて、本市が進めるPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)などにおいても、外部や海外の専門家と協働することが学びの質を高める上で不可欠であり、ここでも遠隔での交流がICTにより可能となりました。
これらは一部の例ではありますが、いずれにしてもICTは、教師の授業づくりと子供自身の学びの可能性を拡げ、結果、学びの質の向上につながるものであると考えています。
後編に向けて
手前味噌ではありますが、戸田市はICT活用の先進地と認識いただき、日々多くの問い合わせや視察のリクエストをいただいています。その際、必ず聞かれるのは「何をすればICTの活用が進むのか?」というHow toの部分です。確かにHow toの部分は大切なのですが、授業と一緒で「AをすればBとなる」のような方程式はありません。
まず大切なのは、実態に即してWhat toの何をしたいか、何をすべきかの部分であり、戸田市では教育長のリーダーシップのもと、各学校の管理職の先生方がこの点を強く意識し、ビジョナリーに学校改革に取り組まれています。
ICTの活用は、そうした学校改革(学びの改革)と一体的にあってこそ進むものであり、ICTの活用のみを促進させる従来の手段の代替に留まれば進まないものであると考えています。
後編ではこうした問い合わせに対してお答えしている内容を中心に現在の様子や今後の展望などについて紹介します。是非こちらも御覧ください!
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