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安全・安心の確保に向けて。教育データの利活用に関するガイドラインを決定しました

 次長兼教育政策室長の横田です。
 以前、11月14日の第3回アドバイザリーボードの中身についてこちらの投稿で紹介したところですが、そこでの御意見も踏まえ、昨年12月に「教育データの利活用に関するガイドライン」を決定・公開しました。

◆資料はこちら(ページ中程の「教育データの利活用に関するガイドラインの決定」にある2つのファイルです)

 この投稿では、ガイドラインの内容や策定の経過について、そこに込められた思いも含めて綴りたいと思います。

1.安全・安心の確保は、デジタル社会の大前提

 安全・安心の確保は、教育分野に限らずデジタル社会の大前提です。
令和2年12月に閣議決定された「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」では、デジタル社会の10原則の1つとして、「安全・安心」が掲げられました

(「デジタル社会を形成するための基本原則」(デジタル庁ホームページより。赤枠は筆者追加))

 これを受け、令和3年に成立したデジタル改革関連法案の1つ、デジタル社会形成基本法では、「デジタル社会の形成に当たっては、高度情報通信ネットワークの利用及び情報通信技術を用いた情報の活用により個人及び法人の権利利益、国の安全等が害されることのないようにされ」なければならない旨が基本理念として新たに規定されました(第10条)。

 また、施策の策定に係る基本方針として、「デジタル社会の形成に関する施策の策定に当たっては、サイバーセキュリティ(中略)の確保、情報通信技術を用いた犯罪の防止、情報通信技術を用いた本人確認の信頼性の確保、情報の改変の防止、高度情報通信ネットワークの災害対策、個人情報の保護その他の国民が安心して高度情報通信ネットワークの利用及び情報通信技術を用いた情報の活用を行うことができるようにするために必要な措置が講じられなければならない」ことも規定されています(第33条)。

 また、教育分野について言えば、データの利活用は、例えばそれまで気付けなかった支援が必要な子供の発見や複数のデータの活用によるアセスメントの質の向上といった効果により、「見えなかったものが見えてくる」ことを通じて、学力向上や生徒指導上の課題への対応など、様々な教育課題解決の一助となる可能性があります。

(「教育データ利活用ロードマップ」(令和4年1月デジタル庁、総務省、文部科学省、経産省)より))

 他方で、データは暖かみのない冷たいものだ、評価の材料に使われるのではないか、情報漏洩が心配である、といった不安感や抵抗感の声があるのも事実です。

 こうしたことや、教育分野で施策の対象となる児童生徒は基本的に未成年者であることも踏まえれば、教育のデジタル化のミッションである「誰もが、いつでもどこからでも、誰とでも、自分らしく学べる社会」 を実現していく上では、「安全・安心」の確保を図ることが大前提だと考えました。

2.ガイドラインの検討開始(令和4年7月)

・論点ペーパーの提示

 こうした問題意識や、令和4年度に本市が取り組んでいる「教育総合データベース」の公募に当たり、デジタル庁から倫理的な課題について検討する体制を可能な限り整備することという条件が付されていたことも踏まえ、個人情報保護やスクールコンプライアンスに知見を有する有識者も参画している、戸田市教育政策シンクタンクのアドバイザリーボードにおいて、検討を行うこととしました。

 とはいえ、教育データ利活用は日本においてまだまだ未開拓の分野です。ガイドラインとして参考にできるものも、私が調べた限りでは見当たりませんでした。
 本市においても、GIGAスクール構想による1人1台端末をフル活用した授業は市内で浸透していますが、そこから更に一歩進んで、データを利活用する取組が学校で日常的に行われているのは、まだ一部の学校にとどまるというのが実情なのではないかと思います。
 まさに、「ファーストペンギン」として0から1を生み出さなければならないのが、このガイドライン策定のプロジェクトだったと言えます。

 データベースの構築自体が目的ではありませんので、まずは、データベースの目的や具体的な活用イメージを定めることから始めました。
 具体的には、「誰一人取り残されない、子供たち一人一人に応じた支援の実現」と、以下の3つの具体的な活用イメージ(モデルプラン)です。

(1)子供たちのSOSの早期発見・支援:不登校、いじめ等に関し、子供たちのSOSが事前に何らかの兆候として現れていないか。それを踏まえ、ニーズに応じた早期支援ができないか。
(2)貧困・虐待等の困難を有する子供への支援:上記(1)のようなSOSの兆候が現れた場合に、家庭的な要因に係るデータを市内の関係部局等に共有することにより、貧困・虐待等の困難を有する子供や家庭への支援につなげることができないか。
(3)学校カルテによる現場への継続的改善のためのフィードバック:困難な状況にもかかわらず学力向上等を達成している学校には、共通する特徴があるのではないか。そうした傾向の分析により、継続的改善のためのフィードバックが提供できないか。

(データベースの概要)

 併せて、これまでの本市教育委員会におけるデータ利活用の実践から出てきた課題や、文部科学省「教育データの利活用に関する有識者会議」の議論も踏まえ、昨年7月の第2回アドバイザリーボードで以下のような倫理面での配慮に関する1枚の論点を提示し、御議論いただきました。
◆こちらの資料1の14頁になります。

(第2回アドバイザリーボード(R4.7)資料)

・アドバイザーからいただいた御意見

 この倫理面の配慮事項の骨子について、アドバイザーの方々からは、主に以下の論点について御意見をいただきました。
 (詳細は、以下のURLから御覧いただけます。)

(第2回アドバイザリーボードの様子)

・保護者から自分のこどもの不登校のリスクを教えて欲しいと言われた場合の対応
・上記の場合において、本人の権利利益の擁護の観点から慎重に検討する必要性
学術研究機関による二次利用についてのガイドラインの必要性
・個人情報保護とは別個の問題としてのプライバシー、セキュリティ対策の重要性
大きな方針ビジョンといった前向きなメッセージで見せていく必要性
過去のデータを遡ってデータベースに搭載する可能性
・本人・保護者に対する丁寧な説明の内容
・学校現場に対するデータリテラシー向上の研修等の必要性
企業・研究者とのデータ共有の範囲に関するプロトコルの必要性
・本ガイドラインをデータベースに限定したものにするのか、教育データ利活用一般に係るものにするのか、検討を深める必要性

◆議事概要はこちらです
 
 こうした幅広い角度からの御意見をいただいたことが、私たちにとってもこのガイドラインの位置付けや射程を改めて考えなおすキッカケになりました。

 特に一番最後の御意見に関連して、当初、この1枚のペーパーを提示した時点では、ガイドラインとして教育データ利活用の「基本的な方針」を主として提示することを想定していました。
 しかし、そうすると非常に抽象度の高い論点で終わってしまい、今後教育データ利活用に同様にチャレンジしようとする自治体にとって重要で、アドバイザーの方々からも指摘いただいた具体の部分が見えなくなってしまうため、可能な限りそうした具体的な措置も包含するものとするよう、位置付けを見直すことにしました。

 ガイドラインを基本的な方針のみならず具体的な措置も含めたものとすることで、「今何をしているか」と「なぜそうしているか」の両方の部分を理解いただける文書とするという大きな方向性が定まりました。

3.ガイドラインの文章化作業(令和4年8~10月)

 こうした方向性の下で、国内の教育データ利活用に関する様々な文書も参考にしながら、私のほうで当初1枚だったものから、ガイドラインとして文章化をすべく作業に取り掛かりました。

 こうした文書策定に当たっては、用語が文書全体で一貫性を持って使われているかなどの観点から、最終的な文書編集は私が一元的に行いました。
 しかしながら、一人の視点だけでこうした未知の文書を作成することには限界があります。そのため、教育委員会事務局内のデータ利活用担当職員や、学校現場出身の指導主事、データベースの活用目的である不登校の早期発見・支援を担当する職員などからも意見をいただきました。
 それを受けて、行政目線になっていて分かりづらい言葉を言い換えたりするなど、少しずつ改善を重ねていきました。

 また、実際にデータベースに関連する戸田市役所のデジタル戦略室やこども健やか部などの市長部局はもちろん、国の行政機関としてデジタル庁、文部科学省、個人情報保護委員会事務局などにもガイドラインの素案を提示し、意見をいただきました。
 そうしたプロセスの中で、改めて一つ一つの用語や抜けている論点はないかなどの再確認を行っていき、ガイドラインが徐々に精緻化されてきました。

 この作業に関わって下さった方々にも、この場を借りて御礼申し上げたいと思います。

4.ガイドラインの素案提示(令和4年11月)

・第3回アドバイザリーボード

 こうした地道な作業を経て、昨年11月の第3回アドバイザリーボードで、「教育データの利活用に関するガイドライン(案)」を提示しました。
 基本的な方針と具体的な措置の両方を盛り込んだ、42頁にもわたる文書です。
◆資料はこちらの資料1-2です(概要は、資料1-1の26~27頁にあります)

 まず、教育データ利活用の基本的な方針については7月時点のものを更にバージョンアップし、以下のようにまとめました。

1.教育は技術に優先する
〇 本市におけるデータベースをはじめとしたデータ利活用の目的は、誰一人取り残されない、子供たち一人一人に応じた支援の実現にある。また、データベースが人間の判断を代替するということではなく、あくまでも教職員等の気付きや判断をサポートするツールとして位置付ける必要がある。さらに、データは必ずしも万能なものではなく、「データ化する必要のないもの」「データで測れていないもの」が存在することを常に認識すべきである。
 こうした意味で、「手段」であるデータ利活用が、「目的」化しないようにする必要がある。
〇 アルゴリズムや判定ロジックの設計等に当たっても、上記の考え方に基づき、本市が主体となって具体的な仕組みを検討するとともに、定期的に評価する。

2.差別的取扱いの禁止等
〇 教育データの利活用により、例えば特別支援学級や通級による指導の対象とすべき者を恣意的に選別したり、いじめっ子を予測するなど、児童生徒個々人のふるい分けを行ったり、差別的な取扱いや不適正な利用につながることがないようにする
〇 これを含め、教育データの利活用は、本人や保護者の理解・納得の上で行われる必要があり、望まない形で行われることによって、個人が権利利益の侵害を受けることのないようにする必要がある。

3.内心の自由の保障等
〇 教育データの利活用により、信条や価値観等のうち本人が外部に表出することを望まない内面の部分を可視化することがないようにする
〇 また、外部に表出している部分であったとしても、行動の細部まで把握され、逐一監視されるような教育環境に児童生徒が置かれるとすれば自由の制約になる可能性もあり、こうしたことにも留意する必要がある。

4.教育の機会均等と水準の維持向上
〇 教育データは、あくまでも学校経営や教育指導の改善といった、教育の機会均等と水準の維持向上に資する目的で利活用することとし、学校又は児童生徒の成績等の序列化や一面的な評価につながることのないようにする
〇 教育データを利活用する主体として想定されるのは、児童生徒、保護者、教職員、学校、自治体、大学、民間事業者等であるが、何よりも学習者である児童生徒が受益者となるよう、各主体が連携して取り組んでいく必要がある。

 次に、教育データ利活用に際しての具体的措置として、以下について記載しました。

・総括管理主体、保有・管理主体、分析主体、活用主体といった関係者の役割の明確化による「データガバナンス体制の確立
・個人情報等の適正な取扱いを確保するための、組織的・人的・物理的・技術的な観点からの「安全管理措置の実施
利用目的の丁寧な説明や、学校現場におけるデータ利活用の文化醸成、幅広い市民・世論の理解の醸成、開示請求があった場合の対応
・データベースに実装すべき機能や、搭載するデータの対象年度・保存期間、卒業等に際してのデータの取り扱い、学術研究機関等とのデータ共有の在り方など、「データベースの構築・運用の在り方

(教育データの利活用に関するガイドライン(案)の概要)

 さらに、今後同様の取組にチャレンジしようとする自治体の参考になるよう、私達がデータベース構築を契機として取り組んだ紙の資料のデジタル化が、学校現場の事務の効率化にもつながった事例を紹介しました。

 データベース構築の前提として重要なのは、データの「収集」の段階です。
 ここで搭載しやすい形でデータ取得がされているかが、構築に要する作業時間短縮のポイントになります。
 もちろん、紙でしか情報がなければデジタルに変換するのにそれだけ手間がかかってしまいます。
 このアンケートの取組を紹介したことで、「具体的にイメージが湧いた」といった声を他の自治体の方などからいただきました。
 デジタル化のメリットを実感しやすく見せていくことも重要だということが再確認できました。

(学校生活アンケートのデジタル化について)

 データベース構築というと、「データをつなげればすぐ構築出来るんでしょ?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そうではありません。
 まず、それぞれのデータで異なっているIDを紐付けして、「このデータが誰についてのデータなのか」を一意に特定できるようにする必要があります。
 本市のデータでも、「Googleアカウント」「学年・組・番号」など異なるIDがデータ毎に振られており、これを突合するのに膨大な時間を要しました。
 当初の人員だけでは作業を実証事業期間内に終わらせることが難しいことが分かったため、秋からは会計年度任用職員を募集して、その方に週1日作業を手伝っていただくといった臨機応変な対応も行いました。

(データベース用のデータリスト作成作業について)

 こうした教育分野を軸にしたデータベース構築は、全国でもほとんど例がないものであり、新たな挑戦をするごとに新たな課題が生じるといった、道なき道や獣道を傷だらけになりながら切り拓いている状況が続いているというのが実情です。
 データベースを構築すると言っても、その裏にあるのはこうした地道な作業で、それだけ息の長い取組が必要であり、一年で完遂するプロジェクトではない、ということが実際に取り組んでみて改めて分かりました。

・アドバイザーからいただいた御意見

 アドバイザリーボードでは、私からの説明の後、アドバイザーの方々から、当初の予定時間を超える約1時間にわたり大変白熱した御意見をいただきました。
 ガイドラインについていただいた主な意見は以下のとおりです。(次の章で言及する関係上、番号を振っています。)

(第3回アドバイザリーボードの様子)

(1) 個人情報保護については、委託先の管理も含めて対象となっている。どう監督できるかについて、個別に協議していくといったような旨を記載することも必要ではないか。「氏名等の単体で個人を識別することができる記述等を削除」という記載があるが、そのようにした時に委託先において個人を識別できるかどうかは、相手方にとって異なるため、先ほど述べた個別に協議をした上で、必要があれば更に踏み込んだ措置をお願いしたい。
(2) リクナビ事件における行政指導の内容に鑑みれば、重要性に応じて個人情報の管理の仕方を分けることが必要。SOS情報や不登校情報は非常に重要度が高いので、管理の度合いを上げていくといった視点も必要となるのではないか。
(3) どこまでのデータをどこまで使うかによって、対応が異なってくる。保存期間5年、卒業等に際しては削除、外部への共有は限定的に、とガイドラインに記載されているが、一部自治体では小中高大まで含めてデータベースを作ろうとしているという話もあり、今後教育データが使われる事例を集めて、それに照らしてガイドラインについても見直しをしていくことも重要
(4) ガイドラインについては、色々な議論が有り得るのだと思う。細かい所について、今書かれているものとは別の設定の仕方の可能性もあり、そういった議論も今後出てくると思われるので、公開する際には議論自体も並べて公開するのが良いのではないか。例えばコメントやメタデータ、議論や批判など、他の自治体がガイドラインを作る時に、いくつかの可能な選択肢が見られるような形で公開できると良い。
(5) 基本的な方針の「差別的取扱いの禁止等」「内心の自由の保障等」については非常に重要だが、どのように担保していくのか。データが集まれば集まる程、色々活用したくなる誘惑が働く分野だと思うが、行き過ぎないように歯止めをかけるシステムなど、考えていることについてお聞きしたい。
(6) 誰一人取り残されない支援の実現、さらには自立に繋がっていけることが結果として重要であり、研究者の力も借りながら、アウトカム評価の所まで行ってこそ成果だと考える。不登校はやればやっただけ施策が生まれ続けていく性質のものだが、その積み重ねが現場の疲弊感にもなるし、焦点化が必要になってくることも有り得るかもしれない。
(7) 卒業等に際してのデータの取扱いについて、法律に則って目的上必要でなくなった段階で個人情報としては破棄・削除することとなるとあるが、転入・転出があっても、その子が困難を抱えているという把握がされているのであれば、次の自治体に行ったときに幸せに生きているのか、支援が繋がっているのかということについて、少なくとも問い合わせがあった時に答えられるようにしておくことが必要ではないか。中学生の所まで支援した子がその先どうなっていくかが見えなくなってしまうことが、引きこもりや就労困難といったもっと大きな社会問題になった時にやっと発見されるまで、データが引き継がれないと追いかけることが出来ない。そういった意味で、今後踏み込んで検討いただけると有難い。
(8) 今回のデータベースが、SOSの兆候が発見されないと次に結びつかない仕組みになっているように見える。例えば貧困や虐待については要保護児童対策地域協議会であれば情報を掴んでいることもあるのではないか。また、不登校については学校環境による部分も有り得るので、学校や教師の条件など、学校関係者全体のWell-Beingに関わる側面についても見る必要があるのではないか。
(9) このような川下での政策に加えて、川上での政策、いかに不登校等を予防できるか、についても検討していく必要があると考える。

 いずれも鋭い御指摘で、まさに様々な専門的知見をお持ちの教育界のトップランナーの皆様だからこそのコメントだったと思います。

 一般的に、行政の会議では、こうした完成段階の文書については、「いただいた御意見について文言の修正で反映する」という対応が多いと思われます。
しかし、今回のガイドラインについて私達は極めて重要なものだと考えており、今後同様の取組にチャレンジする他の自治体にとっても有用なものとしたいと考えていたため、そうしたいわば形式的な対応ではなく、上記の意見を極限まで反映出来ないかということについて時間をかけて吟味することにしました。

5.ガイドラインの修正(令和4年11~12月)

 そのような考えの下、上記(1)~(9)の御意見のそれぞれを踏まえ、ガイドラインの修正を行いました。
 御意見とそれを踏まえた具体的な修正内容について、1対1対応で全て以下のURLで公開しています。
◆資料はこちらの3~6頁にあります

 まず、(1)~(3)の御意見については、委託した場合の監督の在り方について事業者と個別に協議すること、情報の機微性を踏まえた適切な管理を行うこと、教育データ利活用の取組は具体的なユースケースを踏まえて検討・推進されるべきこと、などを追記しました。(赤字が追記・修正箇所です。)

(ガイドライン参考資料3頁より)

 次に、(4)~(6)の御意見については、取組に至るまでの過程の議論についても公開することを検討すること、本ガイドラインに記載した内容と実際の運用が大きく異なることとなった場合には、その程度に応じて、シンクタンク所長又はアドバイザリーボードに諮ること、政策効果の検証についても適切な指標を設定しつつ、有識者の助言も得ながら行っていくこと、などを追記しました。

(ガイドライン参考資料4頁より)

 さらに、(7)の御意見については、個人情報としてのデータの引き継ぎについては、まず、どのような制度上・運用上の課題があるかについて整理を行った上で、制度上の課題に関わるものについては、国とも問題意識を共有することとすることを追記しました。

(ガイドライン参考資料5頁より)

 最後に、(8)~(9)の御意見については、子供たちのSOSの早期発見・支援のうち不登校及び貧困・虐待等の困難を有する子供への支援について具体的な活用イメージを大幅に加筆するとともに、不登校施策としての「戸田型オルタナティブ・プラン~誰一人取り残されない教育の実現~」や、今後、これらの施策自体の一層の充実や見直しに努めていくことを追記しました。

(ガイドライン参考資料6頁より)

 このような修正の結果、ガイドラインの分量はアドバイザリーボード時の42頁から、実に50頁にまで、8頁も増えました
 その中では、以下のように新たに設けた章もあり、有識者の御意見を取り入れながら本ガイドラインを充実させていったことがお分かりになるかと思います。

(ガイドラインの目次(赤枠が第3回アドバイザリーボード後、新たに設けた章))

 他方、第3回のアドバイザリーボードの後にアドバイザーの方から個別に以下のような御意見もいただきました。
 これらについては、全てを本ガイドラインで網羅的に記載することが難しいため必ずしも反映出来ていない部分がありますが、今後の検討に当たって留意してまいりたいと思います。

(ガイドライン参考資料7頁より)

6.ガイドラインの決定(令和4年12月)

 こうした過程を経て、昨年12月末に市長まで決裁をいただいた上で、「教育データの利活用に関するガイドライン」を決定・公表しました。
 本ガイドラインは、国の最新の動向も参考として策定していますが、「一度決定したら終わり」というものではなく、実証事業の進捗を踏まえつつ、必要な場合には、適宜見直しを行うこととしたいと考えています。

◆資料はこちら(なお、編集可能なワードファイルもこちらのページ中程の「教育データの利活用に関するガイドラインの決定」にあります)

 実際にアドバイザーの方からも御意見をいただきましたが、最終的に決定された文書と同じくらい重要なのが、その決定に至るまでのプロセスだと考えています。

 今回、御意見への対応状況について、あまり他では例を見ないくらい詳細に公開させていただいたのは、

 「こうした議論の過程もオープン・透明にしていくことにより、今後同様の取組にチャレンジする他の自治体が参考にできるようにしたい

 という私達の思いの表れです。

7.本取組についての御質問とそれに対する考え方

最後に、データベースについてのQ&Aをいくつか掲載したいと思います。

・このデータベース構想は、こどもに関するデータを幅広く連携・分析して支援につなげるものですか?

 そうではありません。

 確かにより多くのデータを連携・分析させれば、SOSを一層正確に発見できる可能性はあります。
 しかし、それでは「なぜそのデータ項目が必要なのか」について説明責任が十分に果たすことは難しいです。

 個人情報等の取扱いが目的達成のために必要最小限の範囲内で相当である必要があるという観点を踏まえれば、幅広いデータ項目を連携の対象とすることは合理性を欠くため、今回の取組では、データ項目を限定した上でデータベースに搭載することとしました。

(ガイドライン参考資料8頁より)

 こうしたことについては、ガイドラインの中でも、
・文部科学省調査で不登校の要因として示されている、「学校に係る状況」「家庭に係る状況」及び「本人に係る状況」に関連するデータ項目に絞って、かつデータが分析に耐え得る程度まで整っているものについて、連携・分析を行うことを想定しており、子供に関するあらゆるデータ項目を幅広に連携・分析するということではないこと
・データベース構築のためだけに子供達から新たにデータを取ることは現時点において考えておらず、これまでに既に取得しているデータを適切な方法で連携し、分析を行っていくこと
 を記載しています。

(ガイドライン11頁より)

・このデータベースには、個々のこどもの生活保護・就学援助の受給有無や成績のデータも搭載されるのでしょうか?

 現時点でそのようなことは考えていません

 第3回アドバイザリーボード資料にもあるように、データベースの具体的な活用イメージの1つ「学校カルテ」では、「困難な状況にもかかわらず学力や非認知能力の向上を達成している学校には、共通する特徴が何らかあるのではないか」という問題意識の下、例えば学校や学級ごとの生活保護や就学援助の受給世帯率、日本語指導を必要とする児童生徒の割合などを制御して、うまくいっている点や課題点を見つけ出せないかと考えています。
 他方、以下の資料にもあるとおり、生活保護や就学援助の受給世帯率はあくまでも学校・学年・学級レベルの「割合」のデータを活用するのみであり、特定のこどもが受給対象になっているかという個人データはデータベースには搭載しません

(「学校カルテ」の考え方)

 また、学力関係データでデータベースに搭載しているのは、埼玉県学力・学習状況調査の結果であり、通知表に記載されている成績については搭載していません

・個々のこどもに関するデータベースの判定結果は、ずっと残ることになるのでしょうか?

 そうではありません

 ガイドラインでは、データベースに搭載するデータの保存期間についても整理しています。
 データベースに搭載される情報のほとんどは、元々市役所のある部局が取得し、それをそのままデータベースに搭載してものです。
 こうしたものについては、特段、その情報が改変される訳ではないため、データベースの取組が、その保存期間に特段の影響を与えるものではありません
 当該文書の主務課の長(文書管理者)が、戸田市文書管理規程(以下「文書管理規程」という。)に基づき、適正に管理を行う責任を有します。

 他方、データベースにおける分析結果等については、データベースに固有のものとして生成される新たな情報と言うことができ、したがって、その保存期間について、検討を行う必要があります。
 この点、ガイドライン32頁では、「データベースにおける分析結果等の保存期間は5年を基本としつつ、対象となる文書ごとに、個別具体的に検討を行うことが適当」と記載されていますが、注目していただきたいのは、文書管理規程上の保存年限の類型との均衡性を勘案している点です。

(ガイドライン32頁より)

 基本的に、児童生徒が戸田市の所管する小中学校に在籍しなくなった後は、本市の行政サービスの対象から外れ、したがって情報を保有する政策目的がなくなるため、未来永劫その情報が保存されるということは考えられません
 文書管理規程上10年保存とされている文書が「告示及び広告に関する文書等」「市議会に関する重要な文書等」とされていることからも、分析結果等に係る個人データが卒業後20年も30年も保存されるといった事態はまず想定されないと言えます

・データベースに搭載された個人データは、分析のために大学や企業などに容易に流通することになるのですか?

 そうではありません

 ガイドライン35頁に記載のとおり、学術研究機関等がデータを利活用する目的としては、専ら統計の作成又は学術研究の目的といったものが主であり、また、データベースの活用についても、児童生徒個人への支援ではなく統計的な傾向の分析や効果の検証が主として想定され、その限りにおいては、児童生徒が特定される個人情報としての提供が必要とは必ずしも考えられません
 仮に、そうした学術研究目的での分析の結果を児童生徒個人への支援に活用しようとする場合には、地方公共団体において、氏名等の単体で個人を識別することができる記述等を削除した上で学術研究機関等に提供し、分析結果の提供を受けたデータと、そうした削除を行う前の元データを照合することで対応が可能であると考えられます。

 こうしたことから、「本市から学術研究機関等にデータを共有するに当たっては、氏名等の単体で個人を識別することができる記述等を削除した上で提供することを基本」とすると明記しました。

(ガイドライン35頁より)

 また、令和4年度の実証事業に当たっては、データ分析について事業者に委託を行い、不登校等の困難な状況に陥る可能性のある子供を早期発見するために傾向を分析し、判定ロジックやアルゴリズムについてまとめる業務を行っていただいています。
 この点、データベースの構築に係る事務を外部に委託等する場合については戸田市情報公開・個人情報保護運営審議会の承認を得ており、したがって個人情報を分析事業者に提供したとしても、市個情条例上特段の問題はありません
 他方で、当該情報が子供のプライバシーにも関わる重要なものであるとの共通認識から、本市と分析事業者の間における協議の結果、本市の事務担当者が各データに個人情報が含まれているかを目視で確認し、含まれている場合には、個人情報が含まれている列を指定して暗号化するファイルを使用し、氏名等の単体で個人を識別することができる記述等を削除した上で、分析事業者に情報提供することとしています。

 こうした厳格な措置を通じて、情報を分析する場合についても、情報の適正な取扱いの確保を図っているところです。

(ガイドライン13頁より)

8.おわりに

 今回は長編となりましたが、いかがだったでしょうか?

 安全・安心を確保した上で教育データの利活用を進めていくことが、時間と労力はかかるものの、より幅広い方々に私達の施策を意図も含めて御理解いただき、施策が浸透することに寄与すると考え、いわば「急がば回れ」の精神で取り組んでまいりました。
 日本では珍しい、教育データ利活用への自治体のチャレンジの裏側を綴ったものとして、参考になる点があったようであれば幸いです。

 関心を持って下さった方には、是非明日3月1日の第4回アドバイザリーボードの資料もご覧いただけますと幸いです。

◆第4回アドバイザリーボードの資料はこちら

 今後とも引き続き、戸田市の教育改革への挑戦への御指導、御支援の程よろしくお願い致します。

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