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詩|めばえ

雪が 長い時間をかけ
ゆっくりと あなたにしみこんだのです

あたたかな土の中で
あなたは のどを鳴らし うるおし
こくん こくん と飲んでいました
少しずつ ほそいほそい根をのばし
胎盤に吸いついていたのです

ほら ほのかに聞こえませんでしたか
その かわいいあんよ
わたしのなかに大きく伸ばしなさい
という声が

だから お陽さまにちいさな顔を出し
だれよりも先に喜んだのは
お母さん

あなたは ふた葉をひらき
いま はじめて おおきな青い空を見あげました

両の手のひらでつつんでいるのは銀河宇宙
種のころより もうすべて知られていました

銀河の滴のお手紙を あなたはいつか思い出します

その未来は天末線
まわりに 果てしなく広がる きらきらした大地 
ちかすぎて まだ なにか判らぬまま

うまれでたばかりなので
あなたのこころを生んだものさえ まだ見ていません

あなたはこれから足元をみて
あなたになります


(雑誌『詩と思想』'24年4月号 掲載)

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