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スパイスカレーと女のふたりごと

トントンと小気味よく野菜を切る友人の手元を見つめながら、ほんのりと自分を甘やかすこの時間がなんだか心地いいなと思う。

妻となり、母となり、家族の食事作りが私の仕事になって以来、何の後ろめたさも感じず料理を誰かにゆだねられるのは、なんと安心感に満ちたものなのだろう。

今日のメニューは野菜たっぷりのスパイスカレーだ。

「子どもが食べられるもの」ではなく「私が食べたいもの」を食べられる開放感に心が踊る。

そして今回のカレー作りに使うのは、「野菜用のネパールカレーセット」。

コリアンダー、ガラムマサラ、ガーリック、ジンジャー、ターメリックをブレンドしたカレースパイスはまばゆいばかりの山吹色。

砂金みたいに自然の強さを含んだきらめきに心がぞくっと震える。

【材料(4人分)】
たまねぎ   1個
トマト    2個
お好みの野菜(オクラ4個、ナス2個、パプリカ1個、ズッキーニ半分等)油      大さじ6
塩      小さじ2.5
ネパールカレー・お野菜用(カレースパイス1袋/クミン1袋/パンチフルナ1袋/チリ適量)

ぼーっと台所に突っ立ち、とりとめのない話をひとりダラダラつぶやく私を尻目に、スパイス好きかつ料理上手の友人は、手際よく野菜たちをカットしていく。

私よりも6つ年下の友人は、最近結婚したばかりだ。

夫婦2人だけの住居空間は、ほどよい生活感と2人のこだわりが心地よく添えられていて、懐かしい空気感にいつの日かの夫と私をふと思い浮かべたりする。

そんな過去の妄想にふけっている間に、友人は下ごしらえをすっかり済ませていた。

鍋にオリーブオイルをたらし、スパイスセットのパンチフルナを入れ、弱火にかけて香りを出していく。

さらにナス、たまねぎ、その他の野菜の順で野菜を鍋に入れ、炒めていく。

そういえば真面目で仕事熱心な友人は、これからの自分自身のキャリアや生き方に迷いを感じていると話してくれたことがあった。

30歳を過ぎ、任される仕事は増えたけれど、なんとなく仕事にやりがいを感じない。もっとほかの可能性を探りたい。だけど、安定した収入を手放す勇気が出ない。

そして目の前に立ちふさがる出産、育児の問題。

「仕事か家庭か」なんていう昭和思想に振り回されるのは、女だけでなく男だってきっと同じなんだろう……。だけど産む役割を担う女たちはその影響をあまりにもダイレクトに受けすぎる。

「産まない人生もあるような気がする。」

とある日のカフェで、彼女が口にした言葉が“チクリ”と胸にささったことを思い出す。

“チクリ”とは、「痛いほどの共感」いう意味での“チクリ”だ。

私も同じ思いを抱えて、つい最近まで生きてきたから。

でもその地点の答えは一生かけて続く自分自身への回答ではなかった。

別に先輩風を吹かせたいわけでもない。

ただ人生もカレーのごとく、スパイスの組み合わせや具材の入れるタイミングで風味が全く変わってしまうように、ちょっとした出来事や出会いにより、自分の想像を超えた未来が待ち受けていることがある。

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野菜が炒まったら、カレースパイスとクミンを加えていく。パンチが効いた辛さが欲しいならチリを適量お好みで……。(お腹が弱い私に合わせて今回はチリパウダーはパス……。)

さらに塩を加えてまぶすように炒めていく。

少し煮込んだら、今回はオクラを投入。

さらにグツグツ煮込むと、野菜のエキスとスパイスが溶けて混じり合い、カレーの面持ちをようやく見せはじめた。

2人で鍋を覗き込んでいると、友人が突然あらたまったように話し出す。

友人:「実は、旦那と子どものことについて話したんだよね。前向きな気持ちで『子どもが欲しい』って。」

私:「えっ!!どした?」

友人:「年末宿泊したホテルで朝食を食べてた時、子連れの家族が目に入ったのね。なんだかその風景を見てたら『いいなー』って、単純に思っちゃった。」

うれしいとも違う、よかったねと口にするのも違う。

だけど私はなんだかほんのり心が温かくなった。

子どもを持つことが人生の全てとは思わないけれど、その決断は決して軽いものではない。そのことがわかるからこそ、前に進もうとする彼女を心から応援したいと思ったのだ。

歳を重ねるたび、目の前に広がる風景はどんどん変化していく。いいこともあれば、最悪だと思うことさえある。

そんなことの連続のなかで、前を向いて自分自身の歩みを止めないことは、思った以上に大変なことなのだ。

気力も体力も若い頃のそれとは全く異なる今だからこそ、決意を持って前に進むことの尊さに拍手を送りたくなる。

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そうこうしている間に出来上がったスパイスカレーは、スッキリとしたスパイスの香りが際立った、だけどやさしい辛みのカレー。

濃厚なスパイスの香りが鼻先をくすぐり、食欲をそそる。ほどよいとろみを残しつつも、さらりとした感触のカレーを口に運ぶと、舌先がスパイスでじんわりと刺激される。

濃厚だけどマイルドな味わいが食べやすくて、一気に食してしまいそうだ。

おいしくて、なんだかあったかい。

「これなら子どもでも食べられそうかも」

気づいたらいつもの母としての私がひょっこり顔を出す。

気付けば「私」と同じくらい、いやそれ以上に、大切な誰かの存在が頭をかすめるようになった。

刺激的なスパイスカレーにワクワクしたい私もいるけれど、温もりがあってやさしい味わいのスパイスカレーが今の私には一番合っているかもしれない。

そんなことをぼんやり考えていると、隣で幸せそうにカレーを頬張る友人がやけに神々しく見える。

どんなに見える景色が変わっても、この無邪気な笑顔をずっと見ていたいな……。

すっかり散らかった台所を背に、ぐにゃりとゆるむ心と体を包み込みながら、“私だけの私”を今日は慈しもうと小さく思った。

(おしまい)

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『tobira.』で販売中のスパイスカレーの調理風景をストーリー仕立てにしてみました。

在庫も少なく、そろそろ賞味期限も近くなってきていますので、気になる方はぜひお知らせください。

スパイスはフェアトレードの商品で、ネパールの奥地の村に住む人々の貴重な収入源になっています。

そして作る人にとっても、食べる人にとっても安全で安心できる農法を追及しようと、有機農業で作られているものです。

商品名:ネパールカレースパイス(野菜用)
コチラから購入できます!

■【内容量】4皿分×2回分
■【原材料】カレースパイス(コリアンダー、ガラムマサラ、ガーリック、ジンジャー、ターメリック)2袋、クミン2袋、パンチフルナ2袋、チリ1袋
■【生産者】SHS(ネパール)

※レシピ(豆カレー&キャベツのタルカリ)は商品に同封されています。商品裏面にもベジタブルカレーのレシピを記載。
※“カレースパイス“は、5種類のスパイスミックスです。
※味の決め手になる“クミン“と“チリ”は別封です。〝チリ〟はピリッと刺激的な辛さなので、お味を見ながらご使用下さい。

<スパイス初心者にもおすすめ!>
自宅で手軽にスパイスカレーが作れるキットです。作り方も超シンプル!基本のレシピもついているので、迷わず安心して本格的なスパイス料理が楽しめます。ちょっとしたギフトにもおすすめです。

<自然にそった農法で栽培された、安全・安心のスパイス>
作る人にとっても、食べる人にとっても安全で安心できる農法を追及しようと、有機農業を進めています。さらに作り手の顔が見える栽培環境も大切にしているため、小規模な組織や、より困窮している生産者と一人ひとり密接に、きめ細かく関わりながらその土地に適したスパイス栽培に取り組んでいます。

<ネパールからスパイスが届くまで>
1. ネパールの奥地の村で有機栽培
荒地でも育ち、成長が早く収穫頻度の高いスパイスは、遠隔地で暮らす村人の貴重な現金収入の機会になっています。さらに、生産者の健康と豊かな大地を守るため、有機栽培にもこだわっています。

2. カトマンズの工房「スパイシー・ホーム・スパイシーズ(SHS)」へ
SHSで洗浄、乾燥、選別、粉砕、パッキングをします。SHSは女性の仕事創りを目指して立ち上げたのが始まり。教育の機会がなかった女性たちでも、安心して働けられる環境が整えられています。

3. 毎月少量ずつ、飛行機で日本に出荷
ネパールの生産者の仕事と収入が安定するように、毎月のように空輸しています。そのため、世界一!と思えるほど新鮮なスパイスを手にすることができます。生産者を守り顔の見える関係を築くことが、安全で安心、美味しく豊かな食生活につながります。

4. 国内の福祉作業所「サポートセンター径」と「かたくりの里」へ
袋に入れてラベルを貼り、商品が完成!



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