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第14回 これだけ!連成振動を求めよう(線形代数)

 前回は行列の対角化の方法について解説しました。

 今回は行列の対角化を活用して、実際に3次元のばねマス系の連成振動の解を求めていきます。これが解けるようになるために13回も解説を続けてきたつもりなので、皆さん最後のひと踏ん張りです!

1.問題提起。3自由度の連成振動

 以下のようなばねと質点が繋がった系があります。この時各質点の変位$${x_{1},x_{2},x_{3}}$$を求めてください。…というか一緒に求めていきましょう。

まずは運動方程式を打ち立てます。運動方程式は下式のようになります。

$$
\begin{align*}
m\"{x_{1}}&=-kx_{1}+k(x_{2}-x_{1})=-2kx_{1}+kx_{2}\\
m\"{x_{2}}&=-k(x_{2}-x_{1})+k(x_{3}-x_{2})=+kx_{1}-2kx_{2}+kx_{3}\\
m\"{x_{3}}&=-k(x_{3}-x_{2})-kx_{3}=kx_{2}-2kx_{3}
\end{align*}
$$

これを行列で表現すると、

$$
m
\begin{pmatrix}
\"{x_{1}}\\\"{x_{2}}\\\"{x_{3}}
\end{pmatrix}
=-k
\begin{pmatrix}
2&-1&0\\
-1&2&-1\\
0&-1&2
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
x_{1}\\x_{2}\\x_{3}
\end{pmatrix}
$$

よって

$$
\"{X}=-\frac{k}{m}AX
$$

ここで後々に微分方程式を解くときのために次のような置き換えをします。

$$
\"{X}=-\omega^2AX\\
\omega^2=\frac{k}{m}
$$

このように運動方程式は一見シンプルな微分方程式で表すことができます。
 下準備は整いました。しかし各質点の加速度はそれぞれの質点の変位に複雑に影響を及ぼし合っており、このままでは微分方程式を解くことはできません。
 なので続いてはこの微分方程式をどのような方針で解いていくかを考えましょう。


2.方針。どうやって解けば

定性的なお話はこの回の最後の節を読み解けばわかります。深く理解してほしいのでぜひ読んでほしいです。その回は↓です。

ここでは解析的なお話です。以下のような線形変換を考えます。

$$
UQ=X
$$

ここで行列$${U}$$は行列$${A}$$の固有ベクトルを並べてできる行列です。この線形変換により先ほどの微分方程式は、

$$
U\"{Q}=-\omega^2AUQ
$$

と表せます。ここで両辺に$${U^T}$$をかけると、

$$
U^TU\"{Q}=-\omega^2U^TAUQ
$$

これは対角化された行列$${\Lambda}$$を用いて以下のように変形されます。

$$
\"{Q}=-\omega^2\Lambda Q
$$

ここまでの解説を読破した皆さんなら何の疑問もなくこの変形を受け入れられるはずです。え?読んでいない?それはいけません。そんな方は下の記事を読みましょう。

この、

$$
\"{Q}=-\omega^2\Lambda Q
$$

の中身を見ると、

$$
\"{q_{k}}=-\omega^2\lambda_{k} q_{k}\\
kは1からnまでの任意の整数
$$

であり、超単純な微分方程式としてあらわされていることが分かります。この微分方程式の一般解は下式となります。

$$
q_{k}=a_{k}\cos(\sqrt{\lambda_{k}}\omega t+\epsilon_{k})
$$

$${Q}$$がこのように求まるということは、

$$
UQ=X
$$

によって$${X}$$を求めることができます。

 つまり$${X}$$を求めるには、

①固有ベクトルからなる行列$${U}$$で微分方程式を線形変換する
②-1 行列$${A}$$の固有ベクトルを求める
②-2 行列$${A}$$を対角化した$${\Lambda}$$を求める
③$${Q}$$で表された微分方程式を解き$${Q}$$の一般解を求める
④線形変換の式から$${X}$$の一般解を求める
(⑤初期値条件を代入し最終的な解を求める)

を順番通りに実行すればいいわけです。では実際に解いてみましょう。


3.固有ベクトルと対角化した行列を求めよう

 実際に次の行列$${A}$$について固有ベクトルと対角化した行列$${\Lambda}$$を求めてみましょう。というか前回やりましたね。復習です。

$$
A=
\begin{pmatrix}
2&-1&0\\
-1&2&-1\\
0&-1&2
\end{pmatrix}
$$

上式から固有値は下のようになり…

$$
\lambda=2+\sqrt{2},\quad2,\quad2-\sqrt{2}
$$

下のような規格化された固有ベクトルが導かれましたね。

$$
u_{1}=\frac{1}{2}
\begin{pmatrix}
1\\-\sqrt{2}\\1
\end{pmatrix}\quad
u_{2}=\frac{1}{\sqrt{2}}
\begin{pmatrix}
1\\0\\-1
\end{pmatrix}\quad
u_{1}=\frac{1}{2}
\begin{pmatrix}
1\\\sqrt{2}\\1
\end{pmatrix}
$$

直行行列$${U}$$は以下のようになりました。

$$
U=\frac{1}{2}
\begin{pmatrix}
1&\sqrt{2}&1\\
-\sqrt{2}&0&\sqrt{2}\\
1&-\sqrt{2}&1
\end{pmatrix}
$$

そして対角化された行列$${\Lambda}$$は次のように求まります。

$$
\Lambda=
\begin{pmatrix}
2+\sqrt{2}&0&0\\
0&2&0\\
0&0&2-\sqrt{2}
\end{pmatrix}
$$

 求め方がわからない方は重ね重ねですが前回の記事を復習してみましょう。


4.一般解を求める

$${q}$$の一般解は先ほど書きましたね。3自由度の連成振動においては一般解は次のように表されます。

$$
Q=
\begin{pmatrix}
q_{1}\\q_{2}\\q_{3}
\end{pmatrix}
=
\begin{pmatrix}
a_{1}\cos(\sqrt{2+\sqrt{2}}\omega t+\epsilon_{1})\\
a_{2}\cos(\sqrt{2}\omega t+\epsilon_{2})\\
a_{3}\cos(\sqrt{2-\sqrt{2}}\omega t+\epsilon_{3})
\end{pmatrix}
$$

したがって$${X}$$は、

$$
X=UQ=q_{1}u_{1}+q_{2}u_{2}+q_{3}u_{3}=\\
a_{1}\cos(\sqrt{2+\sqrt{2}}\omega t+\epsilon_{1})u_{1}+
a_{2}\cos(\sqrt{2}\omega t+\epsilon_{2})u_{2}+
a_{3}\cos(\sqrt{2-\sqrt{2}}\omega t+\epsilon_{3})u_{3}
$$

と求まります。めでたしめでたし。
 本来はここに初期条件と呼ばれる、$${t=0}$$における変位や速度の条件を代入することで$${a}$$と$${\epsilon}$$を決定させることができます。それは皆さんのお好きなように設定してみてください。


まとめ

 今回は行列の対角化を活用して、実際に3次元のばねマス系の連成振動の解を求めました。今回の内容が理解できると、実際の学術研究の内容や工学への応用方法が徐々に理解できるようになってきます。ということで次回は番外編、実際に線形代数が工学にどう用いられているのか、論文を1つ取り上げて読み解いていきます。キーワードは"自動車のサスペンション"です。

次回はこちら


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