第6回 これだけ!行列式の基本 (線形代数)
前回は転置行列について解説しました。
今回から行列式について解説していきます。重要な概念であり、工学的にも重要な「固有値」や「固有ベクトル」を求めるために必要です。なので数回に分けて丁寧に解説していきます。今回は2,3次行列の行列式の求め方を学びましょう。
1.行列式とは?
What the f*ck?って感じだと思います。詳細は次の節で解説しますね。とにかくまず覚えてほしいのは以下の3つの性質と表記の方法。
行列式は行と列の数が同じ正方行列でしか定義できない(正方行列以外で行列式を計算できない)
要素積はある決められたルールによって計算される。(そのルールは後述します)
行列式は一つの数値、つまりスカラーとして求まる。
行列$${A}$$の行列式は以下のように表記します。
$$
A=
\begin{bmatrix}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{bmatrix}
$$
$$
\bold{
(行列Aの行列式)=\det A =
\begin{vmatrix}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{vmatrix}\\
}
$$
2.ひとまず暗記!2次行列の行列式
2次正方行列$${A}$$の行列式は以下のように計算されます。
$$
A=
\begin{bmatrix}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{bmatrix}
$$
この$${A}$$に対し、
$$
\begin{vmatrix}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{vmatrix}
=a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}
$$
ここで、$${a_{11}a_{22}やa_{12}a_{21}}$$などの要素同士の積を要素積といいます。2次正方行列の場合は対角線上の要素同士をかけ合わせるのがルールなんですね。
ところでこの要素積、どっかで見た文字の並びじゃないですか?
そう、逆行列をの有無を判定するときのあれですね!
逆行列?判定?という方はこちらを読んで学んでみましょう↓
3.ひとまず暗記!3次行列の行列式
3次正方行列$${A}$$の行列式を求める式をサラスの公式と呼びます。サラスの公式では行列式は以下のように計算されます。
$$
A=
\begin{bmatrix}
a_{11}&a_{12}&a_{13}\\
a_{21}&a_{22}&a_{23}\\
a_{31}&a_{32}&a_{33}
\end{bmatrix}
$$
この$${A}$$に対し、行列式は、
$$
\begin{vmatrix}
a_{11}&a_{12}&a_{13}\\
a_{21}&a_{22}&a_{23}\\
a_{31}&a_{32}&a_{33}
\end{vmatrix}
=a_{11}a_{22}a_{33}+a_{12}a_{23}a_{31}+a_{13}a_{21}a_{32}-a_{13}a_{22}a_{31}-a_{11}a_{23}a_{32}-a_{12}a_{21}a_{33}
$$
長いですね(笑)
覚え方はこうです。まず$${a_{11}}$$から$${a_{33}}$$にかけて対角線上に線を引きます(赤い線)。そしてその線に対して対称形となるような2つの3角形を引きます。この線上の要素をそれぞれかけたものがプラスの要素積になります。
続いて$${a_{31}}$$から$${a_{13}}$$にかけて対角線上に線を引きます(紫の線)。そしてその線に対して対称形となるような2つの3角形を引きます。この線上の要素をそれぞれかけたものがマイナスの要素積になります。
プラスの要素積同士を足し合わせ、そこからマイナスの要素積をすべて引いてください。そうすれば行列式が求まります。覚えておきましょう。
4.暗記したくない方へ
暗記したくない!ちゃんとルールを知りたい!と思ったあなた。よい心がけです。まずは2次行列を例に要素積を求めるためのルールを解説しましょう。
まず要素の組み合わせを決める方法ですが、組み合わせを決める際、
という決まりがあります。つまり行列$${A}$$について
$$
A=
\begin{bmatrix}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{bmatrix}
$$
$${a_{11}}$$をピックアップしたら1列目と1行目はもう選べないので、もう一つの要素が$${a_{22}}$$と決まりますし、$${a_{12}}$$をピックアップしたもう一つの要素が$${a_{21}}$$と決まります。よって要素積の組み合わせは$${a_{11}a_{22}}$$と$${a_{12}a_{21}}$$に決まります。
「じゃあ要素積にプラスとかマイナスがあるのは何なんだよ」と思うところですが、ここでもう一つの決まりです。
??????って感じですね。これを理解するためにはまず置換というものを説明する必要があります。
行列式を定義する上では行列の要素$${a_{ij}}$$に対して、$${i→j}$$という置換を対応させます。具体的には、$${a_{12}a_{21}}$$に対する置換$${\sigma}$$は
$$
\sigma=
\begin{bmatrix}
1&2\\
2&1
\end{bmatrix}
$$
と表現します。見方としては下式のようになります。各列の上から下に読んでみてください。
$$
\sigma=
\begin{bmatrix}
a_{12}は\bold{"i=1"}から&a_{21}は\bold{"i=2"}から\\
\bold{"j=2"}への置換&\bold{"j=1"}への置換
\end{bmatrix}
=
\begin{bmatrix}
1&2\\
2&1
\end{bmatrix}
$$
そして置換について説明したところでもう一度決まりを見ましょう。置換の行列が偶置換か奇置換かどうかで符号が決まるとのことですが、偶置換、奇置換とは何でしょう?それには互換について説明する必要があります。
互換とは2個の数字の順序を入れ替えることです。難しく考えないでください。$${a_{12}a_{21}}$$に対する置換$${\sigma}$$は以下の行列ですが、
$$
\sigma=
\begin{bmatrix}
1&2\\
2&1
\end{bmatrix}
$$
下の行について2つの数字を入れ替える動作を何回すると上の行になるでしょうか?……1回ですね。1と2を入れ替えることで上下の行が一致します。つまり2つの数字を入れ替える動作(互換)を1回すると上の行になる=この置換は互換が1回となります。
ここで、互換の回数が奇数回の置換を奇置換、偶数回の置換を偶置換といいます。つまり$${a_{12}a_{21}}$$に対する置換$${\sigma}$$は奇置換なので符号はーとなるわけですね。
一方の$${a_{11}a_{22}}$$の置換は、
$$
\sigma=
\begin{bmatrix}
1&2\\
1&2
\end{bmatrix}
$$
であり、互換0回で上下の行が一致するので偶置換、よって符号は+になります。
そういうわけで行列$${A}$$の行列式が
$$
\begin{vmatrix}
a_{11}&a_{12}\\
a_{21}&a_{22}
\end{vmatrix}
=a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21}
$$
と導出されるわけですね。
3次行列の場合も全く同様にできます。まず決まりの一つ目。
3次行列の場合この決まりに従うと、組み合わせが6通りになるのが分かりましたか?サラスの公式の要素積がちゃんと頭に浮かんで来たら正解です。
そして2つ目の決まり、
例として$${a_{12}a_{23}a_{31}}$$について考えましょう。この要素積の置換は、
$$
\sigma=
\begin{bmatrix}
1&2&3\\
2&3&1
\end{bmatrix}
$$
(忘れてましたが、置換行列において上の行は1,2,3というように連続した表記をします。1,3,2のようにはしません。)これは置換が2回なので偶置換です(1,2を入れ替えた後、2,3を入れ替えれば上下行が一致する)。なので$${a_{12}a_{23}a_{31}}$$の符号は+になります。
5.最後に例題を解こう
次の行列$${A}$$の行列式を求めてください。
$$
A=
\begin{bmatrix}
2&1&3\\
0&-2&4\\
-1&3&5
\end{bmatrix}
$$
答えは-54です。あってましたか?
まとめ
今回は2次3次行列の行列式の求め方と、要素積と符号の決定ルールについて解説しました。
このブログは理工系として必要最低限の会話ができる知識をお伝えしていますが、書籍と合わせて勉強することでより効率的にそしてさらに深く勉強が進むかと思います。まずこちらの書籍を手に取ってみて、並行して学んでみるのもいいかもしれません。
次回は余因子展開、列基本変形を用いた行列式計算方法についてです。
次回はこちら↓
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