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【映画】ウエスト・サイド・ストーリー

※一応核心的なネタバレは避けますが、概要ならびにハッピーエンドかそうじゃないかくらいは書きます。
 ただ、この映画の売りはストーリーではないと思うので、むしろここに書いたことくらいはご認識のうえで鑑賞いただくのもよいかなと思います。

元ネタの「ロミオとジュリエット」を含め、大体のストーリーは把握している上でどのくらい楽しめか確信はなかったものの、周りの評判も良かったので見て参りました。
 
結論、ストーリーを知っていてもそれ以外の部分で充分に楽しめる作品でした。
個人的にはオープニングからの没入感が凄くて、開始から数分間、スナックを食べるタイミングを完全に失った。
もうね、始まった途端にミュージカルなんですよ。
歌やダンスのパートじゃないんだけど、街を歩く・振り返る・すれ違う・ライターの火を点ける、といった一つ一つの音や動きがバックの音楽にマッチして、見事にミュージカルの世界に引き込まれた。
この導入だけでも一見の価値ありと思いました。
 
やはり見どころとして、全体を通してカメラワークや映像演出が素晴らしかったと思う。
賑やかなダンスパーティーの中で主役の2人が恋に落ちるシーンも、吸い寄せられるようにお互いの姿から目が離せなくなっていく様子がセリフの無い映像から伝わってきて、とても印象的でした。

・・・と、まず賞賛ポイントを並べましたが、前述の通りストーリーを知っていて観るくらいが丁度良かったかもしれず。
客観的にはこちら、物語としては相当後味が悪いです。
これリメイクだから。
そして物語の下地の文学作品があるから。
そこはスピルバーグのせいではなく、むしろシェイクスピアだから。

作品中の経過時間がほぼ24時間、プロローグを入れてもせいぜい1日半くらいの短さで、その時間で恋が燃え上がるだけならまだしも、随分といろいろ酷いことになります。そこはもう、そのつもりで観たほうがいい気がする。
映画としては明るいシーンも多いし、特に中盤まではミュージカルシーンも楽しい感じなんだけど。

まあ、以前の投稿でも触れた通り、民族(組織)間の紛争と復讐の連鎖の話なので、「それじゃ悲劇しか生まないんだよ」というメッセージは大事なんですけどね。
そして彼らの「争い」に関して、社会的な背景は物語の邪魔にならない程度にわかりやすく触れてくれているので、多民族国家アメリカの複雑さとか、格差や移民問題についてちょっと勉強にもなりました。
多様な社会の中で、立場が弱く居場所を追われる人達は常に居る。
奇しくも昨年の「イン・ザ・ハイツ」にも通じる話。
ここ数年の状況的に移民関連の話題がテーマになりやすかったんだろうなという事も窺える。

ちなみにリメイクである旨は先程も触れましたが、旧バージョンはこちら。

1961年公開。
「ウエスト・サイド ”物語”」だったのね、そういえば。
カタカナ語と漢字が混ざったタイトルの方がカッコ良かったのか、「ストーリー」という単語が日本人にあまり馴染みがなかったのか。
いやそんな・・・とも思うけど、60年代だと英語の浸透も今とはだいぶ違うかもしれない。
更にこの前身としてブロードウェイのミュージカルがあるので、脚本が出来たのはもっと前のはず。

こちらの61年版、子供の頃にTVの地上波放送で観た記憶があるのですが、今回の2022年版の字幕で「ジェッツ」「シャークス」の名前が出てきた時に蘇った記憶。
当時の日本語訳「ジェット団」と「シャーク団」だったわ・・・
なんかもう昭和。字幕にも歴史あり。
グループの名前であることを伝わりやすくする意図か。やっぱり「外来語+漢字」の表記が好まれる時代だったのか。
ツレに話したら「それでも鮫組じゃなかったんだ」と言われましたが。任侠映画か。
だったらジェット団は疾風(はやて)組がいいかな。ちょっとニュアンス違うけど。

以下雑感。
●子供の時は一切意識しなかった点として、この物語の舞台がニューヨークであること、取り壊しの計画が進むスラムに「Lincoln Center」の看板が立っている演出にもはっとさせられました。
NYを代表する文化施設はスラムを取り壊して作られてたのか。

●警察署で歌われる「Gee, Officer Krupke」のパート、現代版に追加された内容なのかと思うくらいに昨今の社会問題に通じるテーマだなと思いました。
彼等のような若者が「更生」する術がない。行政にたらい回しにされたり心の病を指摘されたりしたところで結局何も変わらない。
これが前世紀半ばに作られたメッセージなのか・・・という事にはちょっと考えさせられます。この課題自体が今も変わってないわけだ。

●先にも少し触れましたが、有色人種だけじゃなくてヨーロッパからの(おそらくある程度アメリカが豊かになった後で入ってきた)白人の移民もアメリカ社会における貧しい「弱者」として一定数存在しているあたりが、アメリカという社会を余計に複雑にさせてきたんでしょうね。
差別もあるけど、白人がみんな豊かで救いを要さないわけでもない。
前に観た「グリーンブック」が思い出されるテーマでした。

●過去版にて子供心にも感じたことなんだけど、トニーがもうちょっと上手くやってくれれば・・・というのは正直思ってしまう。
志は常に正しかったと思うけど、何かと裏目に出るし結局は後戻りできない状況に陥ってしまうという。まあそういう話なんだけど。

「登場人物の誰にも感情移入できない」なんて感想も見かけましたが、それはそうとして(否定はできないけど)見どころは他にある映画なので、時代の雰囲気や上記のテーマ、ミュージカルに興味のある方はぜひ。

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