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2023-004【梅家族の難逃れ】ラジオドラマ脚本0312

南礼央ミナミレオ(14歳)息子 
南世四郎ミナミヨシロウ(38歳)父親
南紗夜ミナミサヨ(38歳)母親
世四郎の父親 父親
礼央の同級生 泰二


【SE】始業を告げる学校のチャイム

礼央 「泰二、おは!」
泰二 「この暑さ、校門までのだらだら坂はきついよ」
礼央 「海からの風が気持ちいい」
泰二 「俺は、クーラーの方がいいよ」
礼央 「確かに…」
泰二 「どうした、眠そうだぞ」
礼央 「家庭内戦争が勃発した」
泰二 「お前、最近、梅干し食べてないだろう?」
礼央 「塩っぱいの苦手だし」
泰二 「祖父さんとかに1日の難逃れって言い聞かされてないのかよ」
礼央 「そんなの蹴り一発で十分」
泰二 「物騒だな」
礼央 「梅一粒で、家庭内戦争が停戦さられるなら、ここは平和な集落ってこと
    だ」
泰二 「そういえば…」
礼央 「梅のことで喧嘩とか?」
泰二 「お前の家、大丈夫か?」
礼央 「なんだよ、大丈夫ってどう言うことだよ」
泰二 「うちの両親がさあ…」
礼央 「えっ借金?」

礼央(M) 借金か、そんな話は聞かないけど、祖父さんが亡くなってから、父
      さんなんかおかしい。

担任 「泰二!授業中!」

【SE】泰二、真剣にメールを操作

泰二 「あっ」
礼央 「なあ、父親がいきなり梅農家を卒業するって宣言したんだ」泰二 「Z世代の気持ち、農家なんて、不安の塊だからな」
礼央 「確かにタイパも…」
泰二 「梅農家やめたら、この集落でどうやって食べていくんだよ」
礼央 「ラーメン屋かな、父さん、ラーメン好きだからな」
泰二 「毎日、ラーメンでも俺、大丈夫だぜ」
礼央 「お前、金ないだろう」
泰二 「礼央くん…」
礼央 「中学卒業したら、大阪に、丁稚奉公に行かされるかも…」
泰二 「友情は、永遠だよな」
礼央 「ツケななし」

礼央(M)俺たちなんて、両親の手の中で弄ばれてるだけなんだよ。唯一、梅の栽
     培が家族を繋ぎ止めてたような気がする。

礼央 「不安定は嫌だな、梅栽培、今、安定してるのに」
泰二 「Z世代のオヤジさん、よく不安で押しつぶされなかったな」
礼央 「お祖父さんが怖かったんだよ、おそらく…」
泰二 「あの年代は…」
礼央 「お父さんがお祖父さんに、盾突くところ…」
泰二 「昭和の男、絡みづらいよな」
礼央 「お祖父さんが死んだことも一つの原因かも…」
泰二 「精神的支柱か?責任か?」
礼央 「責任を負いたくないのかも」
泰二 「お祖父さんの存在って…」
礼央 「不思議だよ」
泰二 「青春の梅農園を彷徨い歩くZ世代の子供。哀れな礼央くん…」
礼央 「梅干しってなんか古臭くないか?」
担任 「泰二!授業中!何度も言わせるな」

【SE】メールを打つ手を止める泰二。

礼央 「じゃ、後でな」

【SE】学校の昼食を告げるチャイム

礼央 「梅農家の年収、検索したらさあ」
泰二 「どうした?」
礼央 「ここで新たな方向展開を模索の時期かも」
泰二 「うちの親は、仕事が忙しいって言ってるけどな」
礼央 「中長期的な見方だよ」
泰二 「このコロナ禍で、免疫機能アップで、注目されてるって、親父が言って
    た」 
礼央 「そこはワクチンだろ」
泰二 「免疫力アップ、年収アップとかにならないのかよ」
礼央 「実情はあっぷあっぷだろ」
泰二 「上手くいかないもんだ」
礼央 「健康志向もいろいろさ」
泰二 「うちの婆さんが作ってた塩っぱい梅干しが結構人気みたい」
礼央 「塩が悪いと叩かれて、濃度の低い梅干しとかハチミツ入りとかの加工品も
    飽きられてきたのかも」
泰二 「梅干しが腐るって、きいたけど」
礼央 「塩分濃度の低い塩じゃ、本来の梅干しの効果は期待できないんだって」
泰二 「塩かあ…」
礼央 「天然塩で昔ながらに作れないものかな」
泰二 「そこはユーザーの嗜好、健康だよ」
礼央 「そこか?」
泰二 「俺たちで作るか?」
礼央 「俺たちで、未来を作るか?」
泰二 「まずは、今から10年先」
礼央 「有機農法、無農薬、オーガニック」
泰二 「いきなり、無農薬は」
礼央 「有機農法から始めるか」
泰二 「完全に農薬を使わないとか…」
礼央 「となると、集落ごとの合意形成って」
泰二 「田舎の壁は厚いぜ」
礼央 「だから、10年先の布石」
泰二 「えっ?」
礼央 「学校を巻き込もうよ」
泰二 「盲点だったかも」
礼央 「農薬のデメリットとメリットを、歴史的な観点から考え、学校で発表」
礼央 「農薬の歴史か」
泰二 「農薬部会を立ち上げてさ、担任を顧問にして、無農薬の機運は確かにきて
    るんだから、いけるよ、いけるって」
礼央 「聴いてたか?」
泰二 「農薬散布のこと?」
礼央 「受粉時に、ミツバチを殺さないように、その時だけ殺虫剤を撒かないって
    ことだよ」
泰二 「タイパコスパの問題だろ」
礼央 「そういう問題じゃないだろう」
泰二 「でもさあ…」
礼央 「人間の都合のいい解釈さ」
泰二 「俺たちの親は、爺さん婆さんのいうことに逆らうなんて考えてなかっただ
    ろうし」
礼央 「上を見てか」
泰二 「そんな状況で、無農薬の選択は…」
礼央 「本来であれば完全無農薬を目指すべきじゃないのか?」
泰二 「そこは、コスパも必要じゃ」
礼央 「言葉に踊らされるなよ」
泰二 「二律背反する矛盾だよ、礼央くん」
礼央 「哲学者かよ」
泰二 「俺も最近、自分の親の言葉に反発を覚えたりすることがあるよ」
礼央 「この後に及んで、自分はできるとなんの根拠もなく行動しようとする父さ
    んが羨ましいよ」
泰二 「Z世代じゃないのか?」
泰二 「SNSの中に不安をみつける世代なのにな」
礼央 「会話なら流れてしまうけど、言葉は残って胸元を抉り続けるからな」

【SE】メールの着信音

泰二 「母親が帰ってこいって、メールがきたよ。また、明日な」
礼央 「結局は孫悟空と同じだ」
泰二 「お釈迦様、母さんだ」

【SE】犬のベッキーの唸り声

礼央 「俺、先に寝るね、待ってる必要ないんじゃないの?父さんのこと」

礼央(M) タイパ、コスパという割に、一番割の悪い仕事してるよね。お祖父さ
      んに逆らうのは難しかったのかも。

世四郎「ただいま」

世四郎(M) 怖い顔してるな。借金、話すか?だめだ。あいつ、昔から、感が鋭
       いんだよな。ここは、気合を入れてだな

紗代 「ごはんは?」
世四郎「あるなら…」
紗代 「食べるんだ…」
世四郎「えっ?」
紗代 「考えは変わらないの?」
世四郎「先行き不透明な不安な仕事から、解放されると思うとホッとするよ」
紗代 「高校の時、試合前、いつも不安そうな顔してた、図体が大きい割に。その
    時は可愛いいと思ってけど、今は…」
世四郎「大きな体、安心するって言ったろ、嘘か?」
紗代 「忘れた」
世四郎「お前はさ、自分の都合が悪いと、すぐに忘れただ、高校から変わらない」

礼央(M) 梅干しと友達は古いほどいいなんて嘘じゃん。幼馴染の小中高同級
      生の夫婦だぜ。

紗代 「で、どうするつもりなの?」
世四郎「だから、卒業だ!」
紗代 「なにが?卒業なの?あなたは、まだ、何もしてないじゃない」
世四郎「これからは俺が未来の舵を取るんだ」
紗代 「船長さん?」
世四郎「茶化すな。決意は変わらない」
紗代 「まさか…」
世四郎「なんだよ、睨むなよ」
紗代 「お義父さんが亡くなって、まさかの借金発覚とか?」
世四郎「バカなこと!」
紗代 「はっきりと全部、話してみてよ、お願いだから」
世四郎「梅農家の、将来のことを多角的に…」
紗代 「絶対に、行き当たりばったりの考えでしょ。嫌なことは見ないふりで、先
    送り」
世四郎「俺の思いつきは神の啓示みたいなもんだぞ」
紗代 「バチ当たり」
世四郎「神は、俺の味方に決まってる」
紗代 「馬鹿じゃないの」
世四郎「お前たち二人のことを考えてだな…」
紗代 「あんたの道楽に付き合わないといけないの?」
世四郎「家族なんだから、当たり前だろ」
紗代 「もういい加減にして」
世四郎「か ぞ く」
紗代 「解体する?」

礼央(M) 深夜でも30度越え。寝てられないよ。なんだ、父さんの大声。目
      が覚めた。ベッキー静かにしろ。

紗代 「ご近所の手前もあるから、大きな声出さないでよ、恥ずかしいから」世四郎「俺の家だぞ、誰の指図も受けない」
紗代 「喧嘩してるとこ、聞かれたくないでしょ」
世四郎「別に」

礼央(M) しっかり聞こえてるよ。父さん、呆れたよ。梅農家をやめて、次はどうするの?まだ、未定なんて認めないからな。

世四郎「家族じゃないのか?俺たちは?」
紗代 「未来はどうかしら?」
世四郎「高校の頃、素直な可愛い女の子だったのに、お前、かわったよなあ」紗代 「えっ、なにが?」

礼央(M) 地雷を見事に踏んだね。まだ、お母さんのことが理解できてないみ
      たいだ。

紗代 「私たちのことで、礼央に迷惑をかけるわけにはいかないの」世四郎「あいつのことは…」
紗代 「思春期なんだよ、わかる不安な時期なんだよ」

礼央(M) 最近は、嫌いというよりもほぼ理解不能に近い。なにを聞いても答え
      てくれないし。

世四郎「俺の子供だ、理解してくれるはず」
紗代 「最近は話もしてないでしょ」
世四郎「どちらにせよ、もう、梅農家からの卒業は変えられない」
紗代 「この先、梅農家をやめて、どんな未来を描いていくの?」
世四郎「何でもさあ、不安な気持ちを自分で煽るZ世代の悪いところだぞ」
紗代 「あんたも同じでしょ」
世四郎「そこだよ、そこ、可愛くねぇな」

礼央(M) 離婚決定的かも。梅干し一日1個の難逃れ。やっぱり効果なんてあ
      りゃしない。

【SE】飼い犬のベッキーが突然吠えた。

紗代 「ベッキーが吠えた、礼央、きっと、起きてこの話聞いてるよ」
世四郎「そんなことあるはずないじゃないか?」
紗代 「全く、呆れるわ」

礼央(M) さすが、母さんだよ。鋭い感。

世四郎「後で話す手間が省けたじゃないか」
紗代 「クーラー効きすぎじゃない?」
世四郎「頭を冷やせよ」
紗代 「あなたでしょ」
世四郎「卒業については、俺が決めたことだ」
紗代 「一方的になによ、誰も認めていないか」

【SE】ガラス製風鈴の音

世四郎「親父が死んでやっと、タイパの悪い梅農家から卒業できるんだ」
紗代 「梅農家としては3代続いているこの家をどうするつもり?お母さんは?介
    護は?」

礼央(M) 流石、母さんだ。鋭いところをついてくるね。この家は問題が山積
      みなんだよ。父さん逃げるつもり?

紗代 「一人で卒業すればいいのよ。私は、無農薬を推し進める」
世四郎「一緒に卒業だ」
紗代 「勝手すぎる」
世四郎「非効率的なことは許さない」
紗代 「やります、あたしの生きる希望だから、邪魔しないで欲しい」

礼央(M) 無農薬栽培にそんなに力を入れてたんなんてしらなかった。まして
      や、希望?

世四郎「お前さあ、いつでも自分のことだけだな」
紗代 「梅の将来と、礼央の将来も考えただけのこと、貴方のこと…、知らない」
世四郎「俺も梅も家族だよな…、違うのか?」
紗代 「私のことも、家族のことも、梅のことも理解しようとしないじゃないし、
    考えようとすらしない」

礼央(M) 梅だって、母さんの言う通り、家族だよ。その家族を一方的に見捨
      てるようなことは許せない。

世四郎「卒業は変わらない」 
紗代 「なら、この先、どうやって食べていくの?」
世四郎「俺が、なんとかするしかないだろう」
紗代 「なんとかすると言いながら何もしないでしょ、いつものように」
世四郎「なんで、俺のこと信じてもらえないんだろうな、なんでだよ」
紗代 「自分のことしか考えていないから」
世四郎「う、うるさいな!」

礼央(M) 母さんはよく父さんの行動をみてるよ。好きで結婚した相手だもん
      な。

紗代 「だいたい幾つだと思ってるのよ。こんな田舎で再就職が簡単にできると思
    ってる?」
世四郎「そこは、やる気、やる気だよ、違うか?」
紗代 「びっくり」
世四郎「本気だよ、本気」
紗代 「マジで?」
世四郎「俺も、これから変わるんだ」
紗代 「変わった、変わったって、いつもの口だけ、いいとこ見せたいだけでし
    ょ」
世四郎「温度下げすぎじゃないか?」
紗代 「あなたの頭を冷やすにはちょうどかも」
世四郎「俺は、冷静だ」
紗代 「無農薬栽培、実を結びそうなの、お願いよ」

礼央(M) 母さん、無農薬栽培をどこかでもうやってるってこと?信じられな
      いんだけど…。

紗代 「私の小学校の頃、覚えてる?」
世四郎「クラスで一番可愛かったから、よく覚えてるよ」
紗代 「そんなことじゃない」
世四郎「いちいち絡むな」
紗代 「子供の頃、アレルギーで荒れた肌。見られるの嫌でしょうがなかった」
世四郎「どんなに暑くても長袖しか着てなくてクラスメートによくからかわれて
    た」
紗代 「あの時は、ありがとう」
世四郎「見てられなかったから…」

【SE】ガラス製風鈴の音

紗代 「当時、親に、よく湯ノ峰温泉に連れて行かれた」
世四郎「親も治そうと必死だったんだろうな」
紗代 「湯治なんて、私は信じてなかった」
世四郎「父親の気持ちよくわかる」
紗代 「仲のよくなかった両親だったけど、湯ノ峰温泉に行くときだけは笑顔だっ
    た」
世四郎「お前がいたから…」
紗代 「なにもなくて、夜は暗いし、子供心に、行くのが怖かった」
世四郎「熊野だもの」
紗代 「アレルギーが治るまで、父親は根気強く接してくれた…私を真ん中にし
    て」

礼央(M) そんな事があったんだ。母さんも大変だったんだ。それがあったか
      らか。三人川の字の頃はよく笑ってた。

世四郎「俺には…」
紗代 「あなたは優しかったよ、あの頃はね。今じゃ…」
世四郎「変わらない、変わってない」
紗代 「自分で言うんだ…」
世四郎「ダメか?」
紗代 「ちゃんと、私の話を聞いて、耳を傾けて、あの頃のように」
世四郎「お前こそ」

【SE】ガラス製風鈴の音

紗代 「私らの時は原因不明みたいに言われたけど、農薬散布がもたらす影響っ
    て」
世四郎「農薬は必要悪なんだ」
紗代 「でも、私は、礼央にアレルギーが出るんじゃないかと不安で不安でしかた
    なかった、だから産むのも不安だった」
世四郎「大丈夫だったじゃないか」
紗代 「私のようにはさせたくなかった」
世四郎「なにも…」
紗代 「それは偶然」
世四郎「なにがこの先、不安なんだ」
紗代 「消費者の方がいろんな情報に触れて、ダメなものは買わないところに来て
    るの!」
世四郎「虫に食われたのを作ってもだな…」

礼央(M) ありのままを曝け出して、ちゃんとしたもの作りをしていると伝える
      ことが今の時代重要なんだ。

世四郎「言われなくても…」
紗代 「昔のやり方を踏襲すれば良かった時代は終わったのよ、少しでも変えてい
    かなきゃ、未来では生きていけない」
世四郎「俺はなあ、最善と思って…」
紗代 「梅を本当の意味で健康食として、作りたいの、長期保存できる梅干しに戻
    したいの?」
世四郎「もういい」

【SE】ガラス製風鈴の音

紗代 「なんで、私の話に耳を傾けてくれないの」
世四郎「もう少し現実をさあ…」
紗代 「現実から目を逸らしいているのは、あなたでしょう。消費も落ちてきてる
    のも肌で感じてるでしょ」
世四郎「もう、やめようぜ」
紗代 「私が、礼央を産んだ時に、どれほど悩んだか、あれだけ言っても理解して
    もらえないみたいだった」
世四郎「俺だって悩んでだなあ…」
紗代 「アレルギーが出るかどうかの不安。理解してなかったでしょ。あたしの気
    持ちわかってた?」
世四郎「出てないじゃないか!」
紗代 「変わった」

礼央(M) 俺にアレルギーが遺伝するかどうか?そんなに悩んでたのか?だか
      ら、無農薬に…。

紗代 「卒業は延期!何があっても」
世四郎「明日、JAに相談にんだ」
紗代 「人の話をちゃんと聞いてよ」
世四郎「聞いてるさ、紗代こそ俺のだな…」
紗代 「もう、寝る。明日も早く起きて礼央のお弁当作らないと」
世四郎「俺の…、気持ちは」
紗代 「この部屋寒くない?」
世四郎「お前の頭を冷やせってことだよ」
紗代 「寝室に来ないでね」

【SE】ガラス製風鈴の音。

紗代 「甘い卵焼き、礼央の好物。綺麗に焼けた」

【SE】ベッキーが吠えた

礼央(M) 吠えるなよ。ベッキー、お前は頭の良い犬だから、きっと、両親が喧
      嘩するのがいやだから、真ん中に入って仲裁したいのか?

【SE】リビングのドアを開ける。

礼央 「無理に、弁当作らなくても…」
紗代 「おはよう、また、背が伸びた?」
礼央 「寝てると、節々が痛いよ」

礼央(M) 両親の喧嘩。ベッキーじゃないけど僕が真ん中に…。

紗代 「成長痛かあ、いいな。まだまだ、大きくなる証拠だよ」
礼央 「痛い思いはしたくないよ、ごめん」
紗代 「背が高いと女子にモテるけどね」
礼央 「モテなくてもいいよ」
紗代 「彼女は?」
礼央 「どうかな?」
紗代 「中学の頃から、父さんと付き合ってたんだよ。梅干しの諺と同じ」
礼央 「ことわざって嘘だね」

【SE】ベッキーが礼央に向かって吠える。

礼央 「なんだよ、ベッキー」
紗代 「ベッキーも心配なのよ、きっと」
礼央 「お前が焦ってどうするんだよ。俺のことだぜ」
紗代 「ご飯は?」
礼央 「この暑さで食欲ないな」
紗代 「寝不足?」
礼央 「よく寝たよ」
紗代 「梅酢のソーダ割り、これだけでも飲んで」
礼央 「塩っぱいじゃん」
紗代 「お弁当、礼央の好きな卵焼き入れておいたから」
礼央 「あっ」

礼央(M) 甘い卵焼きか、もう、それこそ卒業したんだ。それ言ったら、母さ
      ん、ショックだろうし…。

礼央 「学校に行ってくるね」
紗代 「お弁当持った?ちゃんと勉強してね、行ってらっしゃい」

【SE】台所から、朝食の片付けが聞こえる。

世四郎「出かけてくる」
紗代 「ご飯は?」
世四郎「えっと、夜は…」
紗代 「農園?」
世四郎「笑えない冗談だな」
紗代 「梅がダメになるよ。話は、まだ、終わってないからね」
世四郎「オレの気持ちも変わらない」
紗代 「礼央にちゃんと説明できるまで卒業は無理だからね」
世四郎「勝手にしろ」
紗代 「梅農家の何が不満なの?」
世四郎「タイパだよ、タイパ」
紗代 「嘘!そんなことじゃないでしょ。あなただけの問題じゃないんだから…」
世四郎「もう、いいだろ」
紗代 「ねぇ、ちゃんと、話してよ」
世四郎「安心しろ、俺がちゃんとするから」

【SE】世四郎が思いっきり玄関を開ける。

紗代 「どうしたら諦めてくれるのかしら!」
世四郎「男が決めたことだぞ!」
紗代 「いいんじゃないの?朝令暮改でも、男のプライドなんて…」

【SE】思いっきり玄関を閉める。

紗代 「ドアが壊れたらどうするのよ!」

【SE】JAの窓口のベルを押す

世四郎「外は猛暑だけど、JAの中は涼しいな。すみません」
職員 「は〜い」
世四郎「原田さん、います?」
職員 「原田は、今、外回りに…」
世四郎「じゃ、また、後で」
職員 「世四郎さんがお見えになったことは原田に伝えます」
世四郎「ありがとう」

【SE】ドアを開けJAを後にする世四郎

世四郎「早く決めないと…」

世四郎(M)父親が死んで、JAからの借入れを調べたら、思った通り借金だら
      け。返済能力の低い高齢者にする仕打ちだろうか?

世四郎「農園から見える海。塩の香りと梅の香りが混ざりあった香り、心地いい
    な」

【SE】世四郎のかすかな寝息。

世四郎「収穫も、ひと段落。海からの風が気持ちいいな」
父親 「どうだ、今年の収穫は?」
世四郎「えっ、なに、えっ」
父親 「梅の収穫で疲れた時に、この景色に俺も癒されたもんだ」
世四郎「オ、オヤジ?あ、いや、その…」
父親 「すまん」
世四郎「父さん、どうしたんだ。なにが、すまんなんだよ、らしくもない」
父親 「お前からタイパ、タイパと言われて、何度もぶつかったな」
世四郎「あの時はさあ…」
父親 「お前に図星をつかれて、頭に血が逆流したんだ、すまん」
世四郎「殴られるかと…」
父親 「殴りたかったけど…、母さんに言われてたんだ」
世四郎「あの母さんが?」
父親 「殴っても何も変わらないでしょって、母さんはわかってたんだよ」
世四郎「殴られた方が…」
父親 「あの借入を見たら、殴られても文句も言えないよな」
世四郎「海風が、気持ちいよ」
父親 「俺もいい父親でいたくてさ、お前に弱みを見せられなかった。借金のこと
    とか」
世四郎「見ようとしなかった俺も…」
父親 「50過ぎた頃、お前にタイパだタイパだと言われて頑なになったんだ」
世四郎「俺も、礼央が生まれて、なんとか父さんに認めてもらいたくて、わがまま
    をいったんだ」
父親 「母さんからも怒られた」
世四郎「ごめん、俺も…頑なだった」
父親 「お祖父さんから受け継いだ梅農園をどうしようかと考えていた時だった
    し…」
世四郎「なにも言わない父さんに対して、不安だったんだよ」
父親 「Z世代だもんな」
世四郎「その言い方やめてくれ」
父親 「子供を信じきれない父親なんて、最低だな」
世四郎「父さんの気持ちも考えずに…」
父親 「お前は、梅を可愛がり、そして、梅の発展を考えていたんだろ」
世四郎「いや…」
父親 「俺が、子供のお前を嫌ってたんだ。梅のことばかりに気を使い、お前のこ
    とは後回し。嫌われて当たり前」
世四郎「どうして?どうしてだよ、今更」
父親 「梅さえ、作ればうまくいくと思ってたんだ」
世四郎「父さんみたいな人ばっかりだったよ。ザ昭和って感じだった」
父親 「きっと、お前の発想が羨ましかったんだ」
世四郎「やめてくれ」
父親 「老いていく自分がとてつもなく不安だったんだ。若さに嫉妬だよ」
世四郎「でも、父さんの梅は…」
父親 「現実問題、実のつき具合が落ちてきたんだ」
世四郎「最高の梅だった」
父親 「ばかやろう!俺にタイパタイパと言ってくってかかった時のお前を思い
    出せ!」
世四郎「い、いきなりなんだよ」
父親 「無農薬、やってみろ」
世四郎「父さんまで…」
父親 「紗代さんに頭を下げられたよ」
世四郎「えっ?」
父親 「私のアレルギーが礼央に遺伝してないかって…」
世四郎「そこまで…」
父親 「だから、一番肥沃な土地にその年の一番の苗数本をそこに植えたんだ」
世四郎「なんで、黙ってたんだよ!」
父親 「反発するだけだろ、タイパがって」
世四郎「そんな…」
父親 「お前の思った通りに梅を作ってみろ。俺ができなかったことをお前らで、
    今、考えろ」
世四郎「借金の返済で、農園を売却…」
父親 「もう一度…」
世四郎「家族には迷惑をかけられない」
父親 「迷惑かけてもいいじゃないか。お前の意気込みが一番重要なんだ」
世四郎「信じてもらえないさ」
父親 「俺のせいだな」
世四郎「俺は、なにも言わない父さんが苦手だっただから、そうはなるまいと考え
    ていたんだ」
父親 「仕事してれば許されたからな」
世四郎「俺にはできそうないよ…」
父親 「諦めるな」
世四郎「あの金額見たら…」
父親 「そうか、あの借金を見たら、そうするのが一番かもしれんな。すまん、本
    当にすまん」
世四郎「父さん、無理だよ」
父親 「よく考えてみろ、お前には家族がいるじゃないか、家族がさあ」

【SE】放課後を告げるチャイム

泰二 「授業終わった。いつもところで焼きそばでも食って帰ろうぜ」
礼央 「梅農家、合理的に経営できないのかな?1日8時間、残業なし」
泰二 「そんなこと考えてどうするんだよ」
礼央 「なくなる土地なら、大暴れしても、父さんも怒ることないだろうし、ど
    うだ?」
泰二 「当たって砕けろ」
礼央 「見えない敵に戦いを挑むのさ」
泰二 「俺は、サンチョ・パンサ」
礼央 「オレは差し詰めドンキホーテってことか」
泰二 「面白そうじゃん」
礼央 「コスパとかタイパなんてさあ…」
泰二 「農業と相容れない関係だよ」
礼央 「だよな」
泰二 「俺たちは、Z世代に叛逆する世代ってことか、いいね」
礼央 「でだ…」
担任 「早く帰れよ、泰二」
泰二 「また、オレかよ」
担任 「二人とも、暗くなる前に帰れよ」
泰二 「農家という大きな括りで考えるとさあ」
礼央 「なんだ」
泰二 「安定的な収穫が重要じゃんか?」
礼央 「当たり前だろう」
泰二 「儲からないことには、俺たち後継者もいなくなるから…」
礼央 「父さんは、なんで辞める気になったんだろうか?」
泰二 「簡単さ」
礼央 「えっ?」
泰二 「将来が不安なんだよ、Z世代の弱点だろ、不安が」
礼央 「そうなのか?」
泰二 「不安の原因はいろいろあるだろう」
礼央 「不安か」
泰二 「Z世代の不安に対する恐怖は、俺らが想像できないほどのものらしいぜ」
礼央 「あのイカつい父さんがか…」
泰二 「Z世代の典型例だよ」
礼央 「梅を、安定的に作るよりも、もっと必要なことってなんだ」
泰二 「昔からの循環型と言われてる物を再構築してだな…」
礼央 「あっ、それって…」
泰二 「完全無農薬栽培だよ」
礼央 「母さんがやろうとしてることだ」

礼央(M) 俺が生まれた時から、準備をした梅の木が実をつけるように…。

泰二 「えっ?もう、やってるのかよ」
礼央 「それで、父さんが卒業と言い出したから、母さんもドカン!」
泰二 「それなら、話が早いじゃん」
礼央 「家族がバラバラになりそうなんだ」
泰二 「梅根性のみせどきかも」
礼央 「やるか!」
泰二 「まずは、オヤジさんの説得からだね」
礼央 「でも、無農薬だと収穫が安定しないんじゃないか?」
泰二 「ストーリーだよ」
礼央 「そんなことより、安定した収穫だよ」
泰二 「お前さ、1個50円の梅、ストーリーの見える1個500円の梅、生産数
    が落ちても…」
礼央 「梅干しと友達は古い方がいいらしいなやっぱり」
担任 「もう、帰れ!親御さんが心配するぞ!」

【SE】礼央の家の夕飯の準備。

紗代 「礼央の好きなカレーを作って、家族でちゃんと話し合おう。このままじゃ
    よくないよ」

【SE】玄関、勢いよく開ける礼央

礼央 「ただいま」
紗代 「ちゃんと手洗って…また、コロナが流行ってきたみたいだから」
礼央 「今、やるよ」

【SE】水流の強い水の音

礼央 「母さん、梅農家、やめるの?」
紗代 「どうしたの?」
礼央 「聞こえたから」
紗代 「あんな大声で喋れば、聞こえるよね」
礼央 「父さんの横暴さはいつもの事だよ」
紗代 「もう、呆れた」
礼央 「無農薬…」
紗代 「諦めないよ。若い時から往生際が悪いから…」
礼央 「俺は、どうしたらいいかな」
紗代 「礼央、自分で考えてみて」
礼央 「無農薬って不安じゃないの?」
紗代 「今だから、無農薬なんだよ」
礼央 「今だから?」
紗代 「アレルギー、流行ってるでしょ」
礼央 「クラスにも何人かいるよ」
紗代 「私が小さい頃、アレルギーが酷くて、肌を見せるのがさあ…」
礼央 「俺のクラスにも長袖の女の子、一人いるんだ」
紗代 「その子も、きっと、アレルギーかもね」
礼央 「そうかな」
紗代 「思春期の女の子はね、些細なことでも気ついちゃんものなの、あれ、顔
    色」
礼央 「やばい」

礼央(M) 長袖モンスターって、あだ名つけてからかっちゃったよ。

紗代 「あんた、まさか…」
礼央 「俺、明日、謝るよ」
紗代 「もし、他の子からいじめられたりしてたら…」
礼央 「味方になるよ…、そして、守るよ」
紗代 「礼央のいいところはそこだよ」
礼央(M) ちょっと、母さんの若い頃に似てるんだ。

【SE】ガラス製の風鈴の音

紗代 「礼央が、生まれてきた時にアレルギーの検査をしたんだよ」
礼央 「俺の?」
紗代 「覚えてないか?」
礼央 「痛くなかったんだろうね、ほら、痛いの嫌いだから、オレ」
紗代 「不安な気持ちを断ち切りたかったんだ」
礼央 「アレルギーないぜ」
紗代 「その時にさあ、梅農園の一角に無農薬の栽培地を作ったんだ」
礼央 「オレと同じ歳なんだ」
紗代 「無農薬で梅が出来ないかと試行錯誤し始めたんだよ。礼央にアレルギー
    がないことがわかって」
礼央 「俺のため?」
紗代 「最初は、生まれてきた礼央のためと思ってたけど」
礼央 「けど?」
紗代 「私みたいに不安に思ってる女の人がいるんじゃないかと思ったらさ」
礼央 「でも、よく一人でさ…」
紗代 「お義父さんが、私のとこに来て、無農薬のことを教えてくてたんだよ」
礼央 「お祖父さん、調べてたの?」
紗代 「知識があるなんて思ってもみなかったから、正直、びっくりした」
礼央 「収穫第一の時代だろ」
紗代 「最初はね、ただ、お祖父さんも、農薬散布の時、肌に異常を感じていたみ
    たいで…」
礼央 「受粉の時は、いいけど、それ以外は来るなって、怒鳴られた」
紗代 「そんなことが…」
礼央 「めちゃくちゃ怖かったよ」
紗代 「お義父さんに、助けてもらった」
礼央 「なんでそんなに理解があったんだろう?」
紗代 「お義父さんも色々とあったみたい…」
礼央 「お祖父ちゃんに」
紗代 「タイパだ、コスパだって、食ってかかっるバカなお父さんがいたんだよ」
礼央 「あの父さんが…」
紗代 「特に礼央が生まれたときは、お義父さん とよく喧嘩してた」
礼央 「梅農家嫌いじゃ…」
紗代 「その時は、梅農家の将来を、自分で変えるって、いきがってた。母さん
    も、そんな父さんが素敵だと思ってたんだ」
礼央 「嘘でしょ?」
紗代 「人間、いろんな面を持ち合わせてるものなんだよ」
礼央 「そんな…」
紗代 「父さんを信じてあげて」
礼央 「あんな傲慢な奴、大嫌いに決まってるじゃん」
紗代 「きっと、礼央の将来が心配だったんだよ。だから、梅の収穫や労働環境を
    よくしたかったんだよ」
礼央 「信じたくないね」
紗代 「無農薬は、別として、農家なんて、365日仕事。父さんの時代は当たり
    前。それじゃ、後継者はいなくなるって」
礼央 「休みがないのは辛いね」

紗代(M) お父さんに似てきたな。

紗代 「私は、好きになった人だから、なかなか、見捨てることができないか
    ら…」
礼央 「理解したくない」

【SE】鍋が煮える音

礼央 「焦げ臭いけど、カレー?」
紗代 「あっ、早く言って」

【SE】夕飯のお皿をテーブルに並べる。

礼央 「一味、取って」
紗代 「そんなにかけて辛くないの?」
礼央 「若干、焦げ臭いけど、辛くて旨いよ」
紗代 「本当?」
礼央 「辛さもちょうどだよ」
紗代 「ねぇ、卵焼き?」
礼央 「父さん、今日も遅いの?」
紗代 「いつの間にか、子供じゃなくなったんだ、明日からは、だし巻きにする
    よ」
礼央 「あっ、ごめん」
紗代 「知らない間に大人になるんだ。母さんにも伝えてほしいな」
礼央 「ありがとう」
紗代 「帰ってきたら、三人で話そうよ」

【SE】ベッキーの鳴き声

紗代 「ベッキーも一緒だよ」
礼央 「お前も、家族なんだから」

【SE】ガラス製風鈴の音

礼央 「あぁ〜、食った」
紗代 「父さん遅いね」

【SE】玄関の開く音

世四郎「帰ったぞ」
礼央 「やっぱり、オレ…」
紗代 「3人で、話をするの、しっかりして」
世四郎「お、カレーか」
礼央 「おかえり…」
紗代 「ご飯、食べるの?」
世四郎「ルーだけでいいや」

【SE】ベッキーの鳴き声

世四郎「お前だけだな、歓迎してくれるのは」
礼央 「そんな言い方ないだろう」
紗代 「礼央!」
世四郎「このルー。焦げ臭くないか?」
紗代 「気のせいでしょ」

【SE】ガラス製風鈴の音

世四郎「一味くれ」
礼央 「あのさあ…」
世四郎「梅農家のことか?」
紗代 「ちゃんと、話してよ」
世四郎「卒業の件、もう一度…」
紗代 「さすが!ヨシリン」
礼央 「ヨシリン?、なにそれ!」
世四郎「お、お前、そのあだ名、言わない約束だろ!結婚の時に決めたよな」
礼央 「恥ずかしい」
紗代 「忘れた」
世四郎「お前なあ」
紗代 「ちゃんと説明して、ヨシリン」
世四郎「礼央、お前もちゃんと聞いいてくれ」

【SE】ベッキーの鳴き声。

世四郎「おまえも家族だから安心しろ」
礼央 「卒業は取りやめ?」
世四郎「違う、オレのやりたいように梅を栽培する」
紗代 「じゃ、無農薬も」
世四郎「ちょっと、待て、いいか」
紗代 「やっぱり、借金があったんだ」
世四郎「さすが、母さんは、感が鋭いよ。いついおうか、毎日、迷ってた」
紗代 「借金は?どうするの?」
世四郎「この土地、梅がなきゃ、二束三文の土地だ。価値を上げるためにも梅を作
    ることにした」
紗代 「やった」
礼央 「無農薬、続けられるね」
紗代 「良かった」
世四郎「いいことばかりじゃないんだ」
礼央 「どういうこと?」

【SE】ガラス製風鈴の音

世四郎「今まで通りに無尽蔵に借入は起こせない」
紗代 「3年?」
世四郎「3年の猶予期限を設けて、今後の運営していくことにする」
紗代 「要は、借金返済と利益を…」
世四郎「3年で、10年の未来を明るくする」
礼央 「できない場合は?」
世四郎「3年で、卒業する」

【SE】ガラス製風鈴の音

紗代 「そんなに甘くはないね」
礼央 「勝算は?」
世四郎「これは俺の考えだけど」
紗代 「1年後に、無農薬部門の生産量を…」
世四郎「そう、全体の3割までにあげようと思う」
紗代 「えっ」
世四郎「びっくりするな。で、礼央…」
礼央 「オレが無農薬の部長?」
世四郎「そうだ、母さんは、社長。しっかりと補佐してくれよ」

礼央(M) 初めて、父さんがオレを認めてくれた。

 世四郎「返済に関しては、一年の猶予を取り付けてきた」
紗代 「覚悟が決まった」
世四郎「いいか、返済の猶予は1年。返済に目処をつけるのは、2年しかない」
礼央 「オレは、この家族の真ん中にいればいいんだね」

礼央(M) 家族を支えるんじゃなくて、2人に支えられるような子供でいるよ。

世四郎「お前が、未来を考えるんだ」
紗代 「ヨシリンは?」
世四郎「ヨシリンは、やめてくれ。背中が痒いよ」
紗代 「新しい家族の絆ができたみたい」
礼央 「オレが家族の未来なら、母さんは、希望だね」
世四郎「俺は、現実をみる。梅干しを、天然塩で昔ながらのやり方で作る」
礼央 「最近、見直されてるんだよ」
紗代 「見直した、ヨシリン」
世四郎「やめろ!」
紗代 「礼央、どうしたの?何か言いたいの?」
礼央 「あのさ、今晩、川の字で寝ない?」

礼央(M) まだ、オレが小さい頃に、川の字で寝ていた時。父さんも母さんもす
      ごく笑ってた記憶があるんだ。

紗代 「いいね、いいね、それ、いいじゃん」
世四郎「恥ずかしいから…」
礼央 「オレだって恥ずかしいよ、でも…」

【SE】ガラス製風鈴の音

紗代 「布団ひいたよ」
礼央 「オレが真ん中」
紗代 「電気消すよ、ヨシリン!」

【SE】ベッキーの鳴き声

礼央 「なんだよ、ベッキー、母さんとオレの間に入ってくるなよ」
世四郎「ベッキーも家族だ!」

【SE】ベッキーの鳴き声

【完了】

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