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ラジオドラマ脚本 2021-002


タイトル【笑顔のご褒美を、あなたに】

登場人物
女社長―ミナミ47歳
女性ケーキ職人―カズコ45歳
女性従業員―さやか22歳 有名YouTuber
レンーカズコの息子。YouTuberに憧れる

ミナミ(M)私が小学生の頃。父親は、近所の喫茶店に時々、連れてってくれた。常連の父親は、いつものの一言。そして、私には…。

【SE】町内放送

【N】夕陽が眩しい商店街の外れ。手を繋いで、仲良く歩く親子づれ。なにやら、楽しそうに歩いています。

父親「ミナミちゃん、今日、よくお手伝いしたから、ご褒美。母さんには、内緒」
ミナミ「チョコレートパフェ、最高のご褒美!クリームだけ食べていたい」
父親「生クリーム、父さんたちの時代は、バナナと生クリームはご馳走だったんだぞ」
ミナミ「生クリームと結婚したい」
父親「父さんとは?」

ミナミ(M)子供の頃、チョコレートパフェはご褒美以外の何者でもなかった。日常にはない甘美な食べ物だった。

◾Chapter1

【N】午後一の信用金庫の会議室。服飾雑貨店を経営するミナミ。タイトな赤いスーツを着こなし、担当行員に熱心に事業計画を説明しています。

行員(M)ミナミさん、綺麗な顔立ちだからさあ、気合が入ると怖いんだよなあ。なんて、話を切り出そうか?困ったぞ…。

ミナミ「今度の融資で、新しいビジネスを構築したいの。ちゃんと、事業計画書に目を通して…」
行員「ただ、この状況ですと…」
ミナミ「今まで、そちらの言う通りに借入の借換や過度の融資にも、応じてきたじゃない?」
行員「この年末、緊急融資案件が多くて…」
ミナミ「次のビジネス、絶対に成功する予感しかないのよ。私のビジネスの嗅覚が騒いでるの。絶対、悪いようにはしないから」
行員「返済が遅れてることが致命傷なんです。私の力では…」

ミナミ(M)covid-19の休業要請で、丸々2ヶ月売上がなく、信金の返済も滞りがち。この状況下での緊急処置として金利のみの返済でお店も、首の皮一枚の状況。

ミナミ「新ビジネスに、私も、人生をかけるんです。あなたにも、ご褒美があるかも…」
行員「ご褒美?」
ミナミ「この状況、何かをかけないと、人生のご褒美をもらう権利はないのよ」
行員「そういうのは、ちょっと…」
ミナミ「そんな態度だと、この時代、サヴァイブ出来ないわよ」

【N】ただ黙り込む行員。

ミナミ「貴方の営業成績がいかない時に、何度か借りなくていいお金を借りたわよね」

【N】下を向いて黙り込む行員を尻目に、立ち上がる赤いスーツ。目の奥には、しっかりとファイティングポーズが…。

【SE】雑踏の音

【N】急に立ち止まる、ミナミさん、誰かと電話で話をしてる模様。

ミナミ「すみません、お店の家賃ですが、減額とお払いの方を…。はい、そこをなんとか?はい…」

ミナミ(M)逃げも隠れもしない。こんな状況だからこそ、正面から、一点突破。

【N】夕陽が落ち始めた。普段であれば、夕飯の支度の人で賑わう商店街にも、人が見えない。商店街の外れにあるお店に向かうミナミさん。ため息をついています。

【SE】お店のドアを開ける音

さやか「おかえり!ミナミちゃん、ミナミちゃん!」

ミナミ(M)黒縁メガネがよく似合う。オリーブ系女子なさやか。例えが、ちょっと、古いかな。いつも、元気をありがと。

ミナミ「ごめん、お茶、頂戴」
さやか「ミナミちゃん?」
ミナミ「あの行員に、融資しなかったこと、後悔させてあげるから…」

【N】お店の中は、売れ残りの商品で、窓が塞がれて、暗い感じです。

さやか「あの〜、ねぇ。このお店の在庫があるじゃない?私が、売ってもいいよね?」
ミナミ「どうやって売るの?」
さやか「本当に、いいの?絶対に、売れると思うんだ、ミナミちゃんのセンスは、最高だもん」


ミナミ(M)理解者がここにいた。

さやか「Twitter知ってる?フォワローさんに拡散してみる」
ミナミ「お金かかるの?」
さやか「お金は、とりあえずかからないから、問題なし!」
ミナミ「助かるわ!」
さやか「行動あるのみっしょ!なにもしないでいるより、ましまし」

ミナミ(M)なんか忘れてたよ。そのキラーフレーズ!

さやか「このお店で撮影。部屋のレイアウトも、大きく変えないとダメ。ミナミちゃん、肉体労働をば…。お願いね」

ミナミ(M)張り切りすぎて、腰やらないように、注意しないと。
【SE】家具や物を動かす音

ミナミ「これで、商材がきれいに見えるの?」
さやか「創意工夫でね」
ミナミ「撮影用のカメラとかは?」
さやか「えっ!今時、スマフォですよ。ミナミちゃん!撮影した写真も加工できますよ」
ミナミ「うそ!」

【N】ニヤニヤするさやか、覚悟を決めたようなミナミ。

ミナミ「本日より、ネット事業部部長に任命します」
さやか「それでは、ミナミちゃん、一番在庫のあるもの教えて」

【N】パソコンを開き、さやかに、在庫状況を教える。ミナミさん。

さやか「あの〜…」
ミナミ「わかったわよ、パソコンね」
さやか「ありがとう!明日以降は、自分のを持ってくるね」
ミナミ「くれぐれも、仕入れ値を考えてね」

ミナミ(M)今の状況では、在庫の現金化が大事だけど、ダメだ。赤を切って売っても意味がない。今は、我慢のしどころだ。

ミナミ「もう、肉体労働はしないけど、手伝いは?」
さやか「なにもないから、帰っても大丈夫だよ、ミナミちゃん」
ミナミ「無理しないように、お先!」

ミナミ(M)心配だけど、現状、お店のことはさやかに任せて、私は、新規事業に集中しなきゃ。

■Chapter2

【SE】お店のドアを開ける音

ミナミ「おはよう!早いわね?」
さやか「あっ、おはよう!徹夜になっちゃった。ミナミちゃん、これから、家に帰えるけど、いいよね?」
ミナミ「ちゃんと寝てよ」
さやか「社長出勤、やってみたかったんだ」
ミナミ「いない間に、私、何かすることある?」
さやか「ナッシング!ミナミちゃん」
ミナミ「大丈夫なの?」
さやか「パソコン、夕方、私のとデータ同期するので、よろしく!」
ミナミ「それまでに、私の仕事、終わらせておくわ」
さやか「夕方、電話で起こして!寝起きが悪いけど、我慢してね。ミナミちゃん」

【N】日課のメールチェックをするミナミさん、ため息ひとつ。天井に吸い込まれていきました。

ミナミ「やっぱり、ダメか。月末まで、融資先を探してみよう、それと、人探し」

【N】お店の窓の隙間から、夕日が差し込んできた。ミナミさん、電話をかけています。

ミナミ「あっ、もう、夕方よ。起きて」
さやか「誰?誰よ?誰なの?」
ミナミ「起きてよ。こりゃ、彼氏が大変だ」
さやか「包容力があるの」
ミナミ「こら、からかうな!」

【SE】お店のドアが開く音

さやか「ミナミちゃん、メールチェックした?」
ミナミ「今、忙しいの!」
さやか「しないとダメダメダメ、だからね!」

ミナミ(M)なんか、もう、さやかちゃんのペースにはめられてる感じ。メールを見るよりも大切な融資のことやってるのよ!ごめん。

さやか「これからは、朝、昼、夕方、1日3回メールチェックがミナミちゃんの担当!」
ミナミ「えっ!なによ、それ、私にパソコンを持ち歩けっていうの?」
さやか「ミナミちゃんのスマフォに転送して、見れるように設定するから、OK」
ミナミ「メールって、便利なのね」

【SE】キーボードの早打ちの音

【N】さやかさんが、自分のパソコンとミナミさんのパソコンの転送設定をすごいスピードで打ち込んで設定しています。
ミナミ「ねえ?もしかして、腐女子?」
さやか「ご褒美、待ってますよ。ご褒美っていい響きですよね」

ミナミ(M)さやかちゃん、素敵な腐女子よ。

さやか「私、もう少し、仕事するんで、ミナミちゃん、先に帰ってもらってもいいよ」

ミナミ(M)ネット販売は、さやかに任せたんだから、口出し無用。

ミナミ「お言葉に甘えて、帰るわね。もし良ければ、駅前のやきとん屋でご飯食べてるから、早く終われば、顔出して」
さやか「飲みすぎないでね」

◾Chapter3

【SE】学校に向かう子供達の声
ミナミ(M)朝日に起こされて、目が覚めた。さやかは、来なかった。飲み過ぎたみたいだ。昨日のジャケットから、メモ書きが出てきた。

ミナミ「この名前、聞き覚えがないけど、誰だろう?」

【N】朝から、スマフォに、メールが数件あった。タイミングが悪いことに、ミナミさん、気づいていない模様。

【SE】お店のドアの音

さやか「おはよう!彼から、連絡きて、行けなかったの?ミナミちゃん、寂しかったでしょ?」
ミナミ「えーと、メールチェックしないとね」
さやか「えっ?メール見てないの?スマフォ、見てないの。100個注文が入りました!」
ミナミ「売れたの?」
さやか「それよりも、発送の準備しないと!ミナミちゃん、梱包材とか買ってもいい?」
ミナミ「入金確認後にしてね」
さやか「カード決済だから、問題なしだもん」

ミナミ(M)なにいきなり、100個の注文って、ネットってどうなってるの?注文の電話が鳴らないのに。あぁ、アナログ世界に取り残されたかも?

【N】電話もならない事務所。商品の注文メールは、少しづつ増えてきていた。

さやか「お腹すいたね」
ミナミ「お昼にしようか?梱包どんな感じ?ゆうパック、足りそう?」
さやか「Uber頼みますか?」

【SE】電話の呼び出し音

ミナミ「はい?私ですが?」
カズミ「昨日、やきとん屋さんで、お会いしたカズミです」

ミナミ(M)あっ!メモ書きの名前の人だ。

ミナミ「すみません、昨日飲み過ぎたのか、よく、覚えてないですが…」

カズミ(M)調子、よかったものなあ。また、ダメかもな。ダメダメ、弱気な心は、横に置いとかないと。

カズミ「そうなんですか?チョコレートパフェのことで意気投合したんですよ」
ミナミ「パティシエの件とか?」
カズミ「新しくお店を作るから、一緒にやろうって…」

ミナミ(M)ダメだ思い出せない。きっと、話したんだろうな。この話は、信金に融資の時に話しただけだし。

カズミ「面接はいつになりますか?名刺をいただいたので、場所はGoogle先生に確認済みです」

カズミ(M)ちょっと、強引かしら?でも、仕事をなんとしても、見つけないとダメなんだから。

ミナミ「ちょっと、今日は、取り込んでるから、明日の10時に事務所で」
さやか「ミナミちゃん、なに焦ってるの?」
ミナミ「酔っ払って、就職しないかって…」
さやか「ちょうどいいですよ、発送業務の人が足らないですよ」
ミナミ「パティシエよ」
さやか「一番の売れ残り商品だったものが、今、素敵に完売!」
ミナミ「ゆうパック、買いに行ってくる」
さやか「お弁当も、買ってきて!」

ミナミ(M)どんな魔法使ったのよ。さやか、見直した!

◾Chapter4

【N】翌朝、朝日が差し込むお店。続々と、商品購入メールが入って来ていた。お店の窓が顔を見せ始め、微かに、あさひが顔をのぞかせた。

【SE】事務所のインターフォンの音

カズミ「すみません、今日、10時からの面接のお約束をした、カズミです」
ミナミ「はい!どうぞ」

ミナミ(M)デニムに、白のブラウス。シンプルないでたち。清潔感があって好感がもてる感じ。

ミナミ「ごめんなさいね。昨日は、ちょっと、ひどい飲み方したみたいで、あまり覚えてないの?」
カズミ「働けませんか?」

ミナミ(M)単刀直入に聞いてくるなんて。そんなに、切羽詰ってるのかしら?

ミナミ「現状、服飾雑貨のネット通販が好調なの、出来れば、バイトとして働いてもらうのはどう?」
カズミ「ここ、カフェにするんですよね?」
さやか「カフェ?ここ?」
ミナミ「まだ、決まってないのよ。融資も、下りるか分からないし…」
さやか「カフェか?毎日、スイーツ食べ放題だよね、ミナミちゃん?」
カズミ「こちらは?」
ミナミ「ネット販売の責任者で、さやかです」
さやか「美味しいスイーツ、食べさせてね!」

ミナミ(M)まだまだ問題山積みなんだからね。山頂までも、たどり着けないよ。

ミナミ「チョコレートパフェの事は、ほんと。それも、専門店にしたいと思ってる」
カズミ「私、子供がいて、旦那の元から、逃げてきたんです。今、お金が必要なんです」
ミナミ「そう、子供かあ」
さやか「いいじゃん!ミナミちゃん、きっと、仲良くやってけるよ」
ミナミ「カズミさん、どう?こんな状況だけど、働いてもらえるかしら?」
カズミ「明日まで、お時間もらってもいいですか?子供にも聞いてみたいので」
ミナミ「いいわよ。お子さんのことも、大事だから、よく考えてみて」


◾Chapter5

【SE】ドアの閉まる音

さやか「いい人じゃん!」

ミナミ(M)人当たりは良さそうだけど、子供と旦那の件は、ちょっと、引っかかるわ。

【SE】やきとん屋の音

【N】ミナミさん、ネット通販事業部、好調のお祝いにやきとん屋さんでお祝いをしてるようです。

ミナミ「さやか、好きなものなんでも頼んで」
さやか「ほんと?お金、大丈夫?」
ミナミ「なに言ってるのよ。さやかのおかげで、今月乗り越えられそうよ、ありがとう」
さやか「やきとん盛り合わせ10本!」

【SE】店内のざわめき

さやか「ミナミちゃん、チョコパの事、本当にやる気なの?」
ミナミ「やる気!本気!根気!勇気!元気もね」
さやか「なにそれ?」
ミナミ「子供の頃にね、父さんに、人生のご褒美をもらえるように頑張れってよく言われたの」
さやか「ご褒美、いい響きだね」

ミナミ(M)父さん、優しかったな。私が、雑貨屋を始めた時も、応援してくれてた。

さやか「お父さんの事、好きなんだ」
ミナミ「でもね、父さんにご褒美をあげられなかった」

ミナミ(M)入院中に、covid-19で、病院に満足に行けずに、他界。お店のことでも、心配ばかりかけていた。

さやか「ご褒美って、もらう方も、嬉しいけど、私は、あげられる人になりたい」
ミナミ「ちょっと、意外」
さやか「だって、大事な人のとびっきりの笑顔が見れるんだよ!」
ミナミ「そうか、そうだよね。その笑顔は…」
さやか「あげた人へのご褒美だよ」
ミナミ「大将!盛合せ、おかわりね」
さやか「いっぱい食べちゃうおうと」
ミナミ「やきとんのご褒美よ」

ミナミ(M)そうだった。父さんから、ご褒美をもらった時に、父さんの笑顔が、みれて、私自身もすごく嬉しかったのを覚えてる。

さやか「カズミさんだっけ?彼女の笑顔見たいでしょ」
ミナミ「そうだね」

ミナミ(M)周りの人に笑顔を配れる人になろう。人生のご褒美が、笑顔って最高じゃん。

【N】カズミさん、部屋の中で、子供の顔を見て、微笑んでいます。

かずみ(M)今は、この子のために、なんとしても、就職しよう。それと子供に言われたことも忘れずに。

レン「お母さん笑ってよ。僕は、その笑顔があれば、なんでも我慢するよ」

◾Chapter6

【SE】事務所のドアが開く音


ミナミ「おはよう!」
さやか「カズミさん、お待ちかねだよ。今日から、働くって」

カズミ(M)先に、言われちゃった。

カズミ「お、おはようございます。今日は、なにをすればいいですか」

【N】ミナミさん、カズミさんにゆうパックで商品を梱包するコツを教えています。最初は苦戦したようですが、コツを飲み込んだようです。

カズミ「あれ?さやかさんは?」
ミナミ「ゆうパック、買いに行った」
カズミ「ネットって、すごいんですね」
ミナミ「私も、びっくりよ。でも、売れるカラクリは知らないんだ」
かずみ「鶴の恩返しみたいですね」

【N】店内に、二人の笑い声が響き渡った。

ミナミ「カズミさん、幾つなの?」
カズミ「今年、45歳になります」
ミナミ「カズミさん、私のところで大丈夫?」
カズミ「時間の融通が効くのが一番なんです」
ミナミ「旦那さんとは、裁判とかしてるの?差支えがないのであれば教えて」

【N】カズミから、笑顔が消えた。お店の天井を見ながら。

カズミ「接見禁止の裁判所命令が出て、一応の離婚も成立しています」
ミナミ「なら」
カズミ「それで、終わるような人じゃないんです。何度、付き纏われたことか…」
ミナミ「大丈夫なの?」
カズミ「今は、大丈夫だと思います。私の名前は、どこにも出ていませんから、探しようがないんです」
ミナミ「チョコレートパフェは大丈夫?」
カズミ「実家がケーキ屋兼喫茶店で、チョコレートパフェは、私の担当でした」

ミナミ(M)子供の頃、倒産といった喫茶店も、ケーキ屋さんも併設されてたな。懐かしい。

ミナミ「子供もお店に連れてきても構わないわよ」
カズミ「うるさいですよ?」
ミナミ「別に構わないわよ。家族経営のお店だから」
カズミ「学校帰りに、寄らせてもらいます。ありがとうございます」

ミナミ(M)まず、彼女の笑顔が一つ見れた気がした。

さやか「ただいま、ゆうパック到着!」
かずみ「今日中に終わらせますね」
さやか「発注の状況を確認しよっと」

ミナミ(M)なんか、やっと、covid-19前のお店に戻ったみたい。通販は、いいけど。お店は、お客さんが来ない。

ミナミ「ねぇ、二人とも、聞いてくれる?」

【N】作業の手を止めて、ミナミを見つめる二人。

ミナミ「さやかのおかげで、在庫の方は、なんとか、消化できそうです」
さやか「もう、笑ってよ」
ミナミ「そうね、嬉しい時は、笑わないとね。ただ、お店としては、来客数が、前年の6掛けに届かない状況です」
さやか「来客、そういえば…」
ミナミ「そこで、このお店をチョコレートパフェの専門店として改装したいと…」
カズミ「やるんですね」

ミナミ(M)ほんとは、もう少し、通販が順調になった方がいいかもと思ったけど、今が、チャンスな気がするの。

さやか「チョコパの専門店?」
カズミ「ケーキは、作らないんですか?」
ミナミ「現状をよく考えると、過剰な投資は、できないので、チョコレートパフェ、一択で行く予定」
カズミ「バリエーションが…」
ミナミ「それは、考えたけど、トッピングを作って、バリエーションを増やすのは、どうかしら?」
カズミ「季節のフルーツの限定品とか…」
ミナミ「カズミさんには、梱包作業と並行して、お店の目玉になるようなアイディアを考えて欲しいの」
さやか「ミナミちゃん、相変わらず、冴えてるね」

【N】三人が自然と笑顔が溢れ出した。

カズミ「すみません、お先に失礼します」
ミナミ「お疲れ様、歓迎会、やるから、日程を考えといてね」
カズミ「子供もいいかしら?」
ミナミ「大歓迎よ」
さやか「歓迎会という飲み会だからね。覚悟!」
ミナミ「さやかも、仕事が終わったら、帰ってもいいわよ」
さやか「ありがとう。もう少し、Twitterで拡散してみるね」
ミナミ「任せるわ。私も、再度、事業計画を作り直して、信金にチャレンジしてみる」

◾Chapter7


【N】カズミさん、自宅についたようですが、電気がついていないことで、少し、不安な様子です。部屋の前から…。

カズミ「レン!レン!レン!」

【N】部屋の中は、静まり返っています。その時、後ろから。

レン「どうしたの?」
カズミ「どこに、行ってたのよ!」
レン「YouTuberのことで、遅くなるって言ったじゃないか」
カズミ「ユーチューなんとかって?なによ!」
レン「YouTuber」
カズミ「そうだっけ?」
レン「そうだよ」
カズミ「それなら、よかった、よかった、よかった」

【N】カズミさんの頬に大粒の涙が…。

レン「ハンカチ」

カズミ(M)いつの間にか、少し大人になったみたいだ。私も、ミナミさんからの宿題頑張んなきゃ。

カズミ「さっき言ってたことだけど?」
レン「YouTuberのこと?お母さん知らないんだ?」
カズミ「名前だけね」
レン「YouTubeに動画を上げて、お金がもらえるんだよ。すごい、すごすぎだよ」
カズミ「そんなことで、お金もらえるの?」
レン「動画の再生回数がすごいと、広告取れたりするんだって」

カズミ(M)私の理解を超える時期なんだろうなあ。ネットのこと、さやかさんが詳しそうだから、明日、聞いてみよう。

【N】ミナミさん、珍しく、バーで、男の人と、深刻な話をしています。

ミナミ「ごめんなさい。忙しい時に、呼び出したりして。迷惑なだけでしょう?」

【N】男の人は、ミナミさんと目を合わせようとしない。

ミナミ「今度、新しい事業をやるんだけど、どうしても、融資が降りないの」


ミナミ(M)別れた旦那に、頭を下げることになるなんて。今は、我武者羅にやるしかない。

【N】男の人は、どしたものかと思案顔で、ミナミさんの話を聞いています。
ミナミ「そうよね、無理よね。あなたにも、生活があるものね。図々しくて、すみません」

ミナミ(M)さて、これで打てる手はうった。万事休すな状況だ。

◾Chapter8

【N】朝から、小雨が降る、生憎の天気。自宅のミナミさん。なんかゆうつな感じです。

ミナミ「なんで、別れた旦那に、お金を借りようとしたんだろう?私も、焼きがまわったかな」

【N】なんだか、独り言が多い、ミナミさん。その頃、お店の方で、さやかさんとカズミさんがYouTuberのことを聞いています。

カズミ「おはようございます」
さやか「カズミさん、早いですね」
カズミ「子供を学校に送るとこのくらいになるんです」
さやか「子供がいるんだ」
カズミ「ちょっと、聞きたいことがあるんですが」
さやか「敬語はやめよう!」
カズミ「だって、先輩じゃないですか?」
さやか「人生の先輩は、カズミさん。私は、この仕事だけが先輩。だから、タメ語で、お願い」
カズミ「あの、私の息子がYouTuberになるって言ってて」
さやか「最高じゃん!」
カズミ「なにが、最高かは、別にして、YouTuberってなんなの?」
さやか「そこね」

【N】さやかさんが、YouTuberについて、レクチャーしています。

【SE】お店のドアが開く音

ミナミ「なに?朝から、二人で」
カズミ「ちょっと、YouTuberについて、さやかさんに聞いていたところで…」
ミナミ「動画配信で、お金になるの?」
さやか「チャンネル登録の数で、収入は、大きく変わりますが、年収1000万円の10代も存在するみたいですよ」
ミナミ「女子ゴルファーみたいね」
カズミ「すごい世界なんだ、小学生が憧れるのも、頷けるかも」
さやか「家を建ててあげるって、息子さんが…」
ミナミ「すごいじゃない!」

【N】今日も、お店の在庫がネットで、売れ行き好調のようです。三人で、梱包作業に集中しています。

ミナミ「あっ、こんな時間。お昼にしましょう」
カズミ「お茶、入れますね」
ミナミ「お昼何か、店屋物でも、頼むけど?」
さやか「ピザ!」
カズミ「お弁当作ってきたので」
ミナミ「ピザだ!オーダーは、さやかに任せたからね、あっ、サラダも忘れずに」

【N】通販が、好調のおかげで、お店の中も明るい雰囲気が漂っています。ミナミさんが、ピザを食べながら。


ミナミ「二人とも、チョコレートパフェのことだけど…」
カズミ「すみません、宿題、まだ…」
ミナミ「そのことだけど、参考にして欲しいことがあるんだ」
さやか「なに?なに?どんなこと?」
ミナミ「私の子供の頃のチョコレートパフェは、クリームが重いイメージなの」
カズミ「なんとなくわかります」
ミナミ「その感じを再現して欲しんだ」
さやか「なんで?」
ミナミ「チョコレートパフェって、子供の食べ物だと思っていない?」
カズミ「違うの?」
ミナミ「子供の舌に合わせて味を決めたりすると思うの。甘さとかを」
さやか「ダメなの?」
ミナミ「でもさ、実際、同年代のお母さん達も、自分の子供の頃に食べた味を今でも、覚えてると思うんだよね」
カズミ「あっ!」
ミナミ「同年代の味覚の掘り起こしのためのチョコレートパフェを再現させたいんだ」
カズミ「心に残ってる舌触りかあ」
ミナミ「そして、子育てに疲れた同年代女子たちにご褒美をあげたいじゃない。子供の頃に食べたものでね」
さやか「ご褒美ね」
カズミ「ご褒美をもらえるっていう感覚、すごく嬉しいな」
ミナミ「ご褒美をもらったら、きっと笑顔も出るし、勇気も…」
さやか「ミナミちゃんといてよかった」
ミナミ「私はね、よく子供の未来って言う人がいるけど、その前に、親の未来じゃないのかと思うんだ」
カズミ「えっ!」
ミナミ「親の未来が明るくないと、子供も暗くなると思うの」
カズミ「あっ、この前…」
ミナミ「子供の未来っていうのは、親の言い訳だと思うんだ。私はね、親の未来に希望があれば、絶対に、子供の未来は、明るいと思ってる」
さやか「ご褒美の笑顔」
カズミ「責任重大」
さやか「流石に、ミナミちゃん、冴えてるよ!いいとこついてる」
カズミ「私、ちょっと勘違いしてたかも。そうだ、私の笑顔が重要ですね。息子にも言われたばかり」
ミナミ「親が暗い顔だと、子供にも影響が出ると思うんだ」

【N】ミナミさんだけ、言葉と裏腹に、浮かない感じ。ミナミさん、笑顔を忘れると、幸運も逃げて行きますよ。

◾Chapter10

【N】お昼すぎ、自宅から気合を入れて、どこかに電話を入れているミナミさん。

ミナミ「お忙しいところ、すみません。先日の融資の件ですが…」
行員「上の人がなかなか、書類を通してもらえない状況なんです」
ミナミ「やっぱり、そうなんですか。なんとか…」
行員「現況が変わらない限り…」
ミナミ「実は、そのことなんですが、今週中にお店の方に来てもらうことは可能でしょうか?」
行員「何か?」
ミナミ「見ていただいて、判断してもらいたいんです」

【N】その頃、お店では、さやかさんとカズミさんが、なにやら、相談をしています。

さやか「お店の改装費用、ミナミちゃん、どうするつもりだと思う?」
カズミ「お店の状況は改善してるけどね」
さやか「もし、融資がおりない場合は…」
カズミ「お金か、協力したいけで、私には、ハードルが高すぎ」
さやか「やっぱり、クラウドファンディングしかないか?」
カズミ「クラウドなんとか?」
レン「ネットで資金調達するんだよ」
カズミ「レン、早いんじゃないの?」
さやか「もしかして?息子さん?」
レン「レンです。よろしく」
さやか「YouTuberになりたいんだって、どんな感じの動画を作りたいの?」
カズミ「YouTuber、知ってるの?」
さやか「あっ、実は、私もやってるんだ」
レン「えっ!名前は?」
さやか「陽炎3世、知ってる?」
レン「えっ、うそ!え〜〜〜!」
カズミ「なに、興奮してるのよ」
レン「興奮するさあ、さやかさん、超有名なYouTuberなんだよ!友達になっちゃったよ、どうしよう」

【N】レンくんとさやかさんが、YouTuber談議をしています。カズミさんは…。

レン「ねぇ、動画を作る時に、一番重要なことってなに?」
さやか「うーん」
カズミ「ちょっと、レン、お姉さんを困らせるようなこと聞かないの!」
さやか「レンくん、今、なにに、興味がある?」
レン「そりゃ、YouTuberになること、決まってるよ」
さやか「そうじゃなくて」
レン「どういうこと?」
さやか「例えばさあ、料理を作ってる動画を作るとして、どんな動画を作ったら、見てもらえるかな?」
レン「興味を持ってもらうにはね…」

【N】さやかさんは、レンくんに、技術的なことより、どうしたら、見てる人たちの気持ちを掴めるかをレクチャーしているようです。

さやか「綺麗な映像も、重要だけど、一番は、きっと、レンくんが作る映像に映る情熱だと思うけど」
レン「なんか、わかんないや」
カズミ「情熱か」

【N】夕日が眩しい商店街を、ミナミさんが、自信なさげに歩いています。影も、どこかゆらゆらして自信なさげです。

【SE】お店のドアが開く音

さやか「ミナミちゃん、どうしたの?」
ミナミ「この子は?」
カズミ「あっ、息子のレンです。お言葉に甘えて、お邪魔させてもらってます」
ミナミ「明日、信金の担当者がここに来ることになったの…」
さやか「お店にいない方がいい?」
ミナミ「さやかも、カズミさんも交渉のテーブルについていて欲しい!」
カズミ「えっ?」
ミナミ「在庫がなくなってることを見てもらい、その後、ネット通販の今後の展開を…」
さやか「いないとダメ?」
ミナミ「最後まで聞いて、融資は、チョコレートパフェ専門店に対してだということ」
カズミ「宿題の答えが…」
ミナミ「明日には、チョコレートパフェの企画書が欲しいの」
さやか「私は?」
ミナミ「今日までのネット通販の販売状況を表にしてもらえるかしら」
さやか「そうか、雑貨店としての機能は回復、そして、新規事業に、新たに融資かあ」
ミナミ「私は、チョコレートパフェのお店の重要性を今一度、考え直してみる」
【N】三人とも、顔を見合わせて、黙り込んでしまった。その時。

レン「動画を回して、アピールどう?」
カズミ「なに言ってるのよ」
ミナミ「カメラ、さやか、回せるよね。あとは、台本かあ」
さやか「やりますよ」
ミナミ「カズミさんとレンくんは、親子の役で出てもらって」
カズミ「化粧?化粧?しないと」
ミナミ「チョコレートパフェの作り方、動画が必要」

【N】ミナミさん、テキパキと指示出しをしていきます。明日に向けて、最善の体制を作ろうと、必死のミナミさん。

ミナミ(M)起死回生のホームランを打つには、どうしても何かが足らない気がする。

レン「情熱じゃない?」
カズミ「いい加減なこと言わないの!」
さやか「相手を説得させるには、小手先の作り話よりも、ミナミちゃんのチョコパに対する情熱を出さないとダメだよ」
ミナミ「レンくん、助かった」
レン「さっき、さやかさんに教わったんだよ」

【N】ミナミさん、今まで考えていたことを二人の前で、話し始めました。

ミナミ「オーナーである私が、みんなを守るんだと意地を張ってたけど…」
さやか「頑張りすぎだよ」
ミナミ「明日の信金との打合せ、二人とも、私と一緒に出席してお願い!」
カズミ「私、バイト…」
ミナミ「チョコレートパフェの製品企画はカズミがやるんでしょ!」
レン「お母さん、すげぇ!」
カズミ「レンも、YouTuberデビューよ」
ミナミ「さやか、ごめん、いつでも過小評価しすぎてた。みる目がなかった」
さやか「やる気を見せなかったからね…」
ミナミ「尻は私がふくから」
カズミ「時間がないけど、いいものに仕上げてきます」
さやか「私も」
ミナミ「絶対にうまく行く」
さやか「ほらね。レンくん、情熱が必要なんだってことわかったでしょ」
ミナミ「もし、融資がうまくいかなかったとしても、絶対に、別の形で、成功させて見せる」
さやか「ミナミちゃん、気合入りすぎ!」

【N】三人が、明日の打合せに向けて、お互いの考え方を議論し始めました。

ミナミ「明日は、10時から、事務所に来てね。遅刻厳禁!さやか、要注意だからね」
さやか「もう、寝ないよ」
カズミ「おにぎり握ってきます」
ミナミ「ありがとう!」
カズミ「腹が減っては、なんとかですから!」

ミナミ(M)二人とも、本当にありがとう。こんな時期に、二人がいてくれて私も助かったわ。これって、父さんが、私によく言ってたことじゃないの?

【N】雨音で、目覚めたミナミさん。今日の打合せ用の資料に再度、目を通すミナミさん。


ミナミ「よし、これで大丈夫、私のとびっきりの笑顔を添えれば、問題なし、天気だけが問題だ」

【N】いき良いよく傘を開いて、お店に向かうミナミさん。


◾Chapter11

行員「おはようございます」
ミナミ「ありがとうございます。お店、大きく変わったでしょう?」
行員「あれ?明るくなった」
ミナミ「この状況を見てもらいたかったんです。では、融資のためのプレゼンを…」

【N】店内が暗くなり、いきなり、動画がスタートしました。

行員「うーん」
ミナミ「今回の融資。チョコレートパフェ専門店のお店を開店費用に使います!」
行員「それって?」
カズミ「チョコレートパフェ、今の子供達にも大人気です」
さやか「私は、今でも好き」
ミナミ「でも、ここで、重要なのは、味の過去を掘り起こすことなんです」

【N】行員は、じっと、動画と、三人のプレゼンに耳を傾けています。

ミナミ「この融資で、私の会社も、二本足の経営に移行させます。新規融資は新規事業に…」
行員「すみません、ネットでの販売実績を出してもらえますか?」
さやか「販売開始後、およそ3週間程度です
が、在庫を60%消化」
行員「そんなに」
ミナミ「返済も順調にいくことを約束します」
さやか「商品発送に関しては、今後、増えていくことを想定して、大手通販会社と提携も視野に入れています」

ミナミ(M)そこまで考えていたの。

【N】行員、目を瞑って、何か考え事をしているよう。

ミナミ「事業計画の説明は、これで終了。何か、質問ありますか?」
行員「ご褒美、僕も貰えますか?ミナミさん」
ミナミ「人生を賭けてもらえるならね」

【N】笑顔を見せるミナミさん。その周りにはさやかさんとカズミさんが…。

ミナミ「今日は、本当にありがとう。これから、些細な打ち上げをやろう」
カズミ「記憶なくすまで、飲まないでくださいね」
さやか「彼氏に、今日はLINEの連絡はし〜ないっと!」
ミナミ「今日、気がついたの。この3人がいれば、未来を恐れることはないとね。ありがとう。そうだ、レンくんを忘れてた」

【N】朝からの雨も上がり、3人の素敵な笑顔を、夕焼けが照らしています。
【完了】


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