むくろ幽介の怖い話17【詰問路地】
『詰問路地』
2019年9月9日にした話。
この話は14話の『火野さんの話』の時に火野さんから聞いた話の1つです。
といっても、火野さん自身の話ではなくて、体験した女性から彼が聞いた話とのことです。
職業や人物の詳細などは変更してお話しします。
2014年頃の出来事だそうです。
体験した女性、Aさんとしておきますが、このAさん当時大学3年生で、バンド活動に熱心に入れ込んでいて、みんなが就活がんばるなか、自分は卒業後もしばらくはフリーターでお金貯めるのでいいや、と思っていたそうです。
Aさん、明け透けな性格で愛想も良いので世渡りも上手だった。その当時は歌手活動の傍ら、大学の午前授業がない日に朝シフトのコンビニバイトをしていたんだとか。
本人曰く割とミスしがちだったそうですが、ハキハキとした働きぶりと持ち前の愛想の良さで、職場での評価も良い方だったそうです。
そんなAさんと仲が良かったのが、20代の同期のOさんという女性。そして、20代後半の先輩の男性Tさんでした。同じシフトでよく冗談言って仲良くなったそうです。特に面倒見が良く優しかったTさんには、Aさん割と浅からぬ思いもあったそうで、とにかく楽しくバイトしていたんだそう。
でも、Tさんに関してちょっと気になることもあったそうです。
AさんとOさん、2人とも割と時間にルーズなところがあるので、いつも出勤は結構ギリギリだったそうですが、ある日Aさん早めに出れたことがあった。その日も夏の暑い日だったので早めに休憩室で涼んでいようと思ったんだそうです。
で、早めに着いて、休憩室の扉開けようとしたら中から声がしたそうです。
「あーーー……はい、私の意志です。あーーー…もういいですか、そろそろ人が来ます。うーーー…はい、だから私の意志です。もういいでしょうか」
「Tさん? なんか電話中かな…」と思ったAさん、気づいてもらおうと咳払いしてから「おはようございまーす」って部屋入ったんですよ。
そしたら、Tさん一人で上向いてて、電話なんかかけてなかったそうで、顔が片側だけ引きつっていたらしいんですよ。
「え…」って思ったらすぐにTさん「あ、Aさん、早くない? ちょっと言ってよー」って。
「どうしたんですか一人で?」って冗談めかして聞いたけど、Aさん内心びっくりしてて、そんなTさん見たことなかったから。
でもTさん「いや、考え事してただけ。ごめん変なとこ見せて」って。
まあ、その日はそれ以降何も変なことはなかったんですが、どうしてもその光景が頭から離れなくて。あまりに突飛な内容ゆえOさんにも話せず。
でも、どうしても気になって、Aさんもう一度早く行って確かめようとしたらしいんですよ。路線が同じなことは知ってたので、早起きして。
で、次のシフトの日、早めに出て、駅降りて、いつもとちょっと雰囲気が違う駅前の空気感じながら歩いてたら不意に
「私何してんだろ…こんなに気にして馬鹿らしくなってきたなぁ…」
って思えて「やめよう。どっかでお茶してから行こう」って路地入ったんだそうです。
そしたら、前をTさん歩いてて。
「うわ、ヤバ。いや、ヤバくないけどどうしよう」って、でもその時不意に抑えた好奇心またぶり返してきて、様子見て声かけようかなって思ったその時。
「やっぱそうだよなぁ?」
Aさんじゃない人、3歳児くらいの子ども連れたお母さんがTさんに話しかけたんだそうです。
急に、対向から歩いてきたのに、Tさんとすれ違う時、突然。
Aさんビックリして、ちょっと歩くの止めちゃって。
でも、Tさん無視なんだそう。
「え、無視すんの!? ちょっと感じ悪いなぁ…というか、知り合いなの? この人も無視されたのになんで反応ないの? いきなり言うには内容おかしくない?」
色々浮かんできて立ちすくんでたら、その子連れの人とAさんすれ違って、でもその人、何事もないような表情。
そしたら、子どもが
「…あの人誰?」
ってお母さんに。
Aさん振り返って。え、知らないの子ども? って。
我に返ってTさん見たら、前屈みの足早で歩いてて。
Aさん、置いてかれまいと自然と歩き出して。
そしたら、また向こうから男子学生きて突然、
「やっぱそうだよなぁ?」
ってTさんに。でも無視で。
え、何が起こってるのこれ…って。
追ってた足取りも遅くなって、なんか、Aさん無性に怖くなって。
そしたら、またTさん、今度は痩せ型の地味なおばさんに声かけられてて、無視したんだけど、おばさんに、
「おいっ!」
って怒鳴りながら肩掴まれて、今度はTさんも立ち止まった。
それ見てAさんも思わず立ち止まった。
ジーワジーワジーワジーワ
蝉がやたらうるさい。
耳済ますと、Tさん情けない声で「違います。違います」って。
じっと見てたら
「あの子だろ?」
夏の暑さで歪む景色の先で、おばさんがこっち指差して怒鳴ってる。
血の気引いて。
「なあ、あの子だろ?」
Tさん振り向いたら泣いてて、目が合って。
Aさん怖くなって走って逃げたそうです。
バイト先着いて、怖くてじっとしてたらOさんきて、「おはよ〜」って、いつものぼーっとした感じで。不意に涙出てきて。「え、どしたん〜」って。言えなくて。
そろそろ始まるから切り替えなきゃって思ってたら店長入ってきて
「Tさんそこで跳ねられたみたい…」って。
それから、Tさん暫く休業してしまって。脚の骨折る大事故で、店長から聞いたら、あの時Aさんが走り去ったあと、フラーっと大通りの交差点に歩き出して跳ねられたんだそう。
それから二週間くらい経った頃、ショックだったけどOさんの励ましもあって、Aさん徐々に気を持ち直したそうです。
TさんとのLINEも定期的にしてて、たまに通話とかも。仲はむしろ怪我してからの方が深まっていたそうで「復帰したら告白しようかな」とか冗談で言われて内心ドキドキしてたそうです。
そんな頃に、店に求人があった。人手も足りてなかったので採用したそうです。Yさんという無口な女子大生で、同じ朝番だったそう。
でもこの人、色々教えても反応が薄くて、Aさん「あ、合わないな」ってなってしまって。あまり深入りせずにしていたそうです。
Yさん、ボーッとしてて愛想は全然ないけど、仕事は普通にこなす人だったそうです。Aさん何度か話しかけたけど「はい。あ、はい」ぐらいしか答えてくれない。
そんな空気のまま何日かした頃、Oさんが風邪ひいてしまい、バイトがYさんと二人だった日があったそうです。
まあ、話も弾まずに時間が経って。
数時間経ち休憩時間。
Aさん菓子パン食べながらスマホ見たら、TさんからLINEの通知が一件来てる。
「バレた」
「ほんとにごめんなさい」
「え、どうしたんですか?」
「なにがバレた???」
え…どういう意味。
バァン!!
机叩かれた。
「え……」
叩いたのYさんで。
叩いたまま動かない。
「なんですか…」
「あいつの意志なんだな?」
「は?」
「あいつの意志なんだな? ほんとにあいつの意志なんだな、なあ?」
よく見ると、垂れた髪の毛のすき間から見える顔、片方だけ引きつってる。
Aさんの問いかけには答えず。
5分くらい、ずっと小声で言い続けてる。
「ほんとあいつの意志なんだな? お前からじゃなくて、ほんとあいつの意志なんだな?」
全身の鳥肌が立って。
「知らない。私まだ何も言ってない」
って、何故か口をついて。
Yさん急にガタってテーブルから手離して立ち上がる。ボサボサの髪。顔引きつらせたまま天井見てる。そしたら下半身から血が出てきて、あっという間に床に血だまりまでできてる。
Aさん血の気引いてしまい固まってたら、Yさんが急に机に頭ガンッガンッて何度かぶつけて、そのまま倒れてしまったそうです。
その後、店長来たり、急遽中番の人に早めに入ったりしてもらって、バタバタで。Yさん病院運ばれて。
ボーッとしてたら店長に事情聞かれて、気がつくと涙止まっていたそうです。
「おい、大丈夫か?」って店長が聞いてくれたのに、「私よりYさん大丈夫ですか…?」ってAさん聞いてて。
「ああ、Yさん、なんか、わかんないけど、『ここ数週間の記憶ない』『あなたたちも知らない』ってずっと泣いてるんだよ…」
「あと…『子どもが死んじゃった』って。意味わかんないよほんと…どうすりゃいいんだよ…」って。
店長もなんか少し泣いてて。
それから一日中、ボーッとしてて。
「私まだ何も言ってない」ってどういう意味だ。
なんでそんなこと言ったんだろう……。
あれ本当にYさんだったのか……。
なんとか仕事終えて帰ってたら、あの時の小道で、
蝉の声がジーワジーワジーワジーワジーワジーワって鳴ってて。
そしたら、LINEの通話が鳴って、肩がけバッグからスマホ出して見たらTさんで、出たら大泣きしてて。
「俺言ってない…ほんとに…言ってない…ほんとごめん……ごめん………。たぶんもう一生付いてくると思う…はぁ、もうダメかも……好きでした…ほんとに…ごめ」
Aさん通話そこで切って、「ああ、失恋しちゃった」って。
で、スマホ、バッグに戻そうとしたら、なかに赤ん坊いて、
ギュッて手掴まれて
「おい、殺すぞ」
掴まれた手の薬指のところ噛みつかれて。
バッグ落として、中身飛び散って。
バッグの中の赤ん坊モゾモゾ動いてて、聞いたことない女の声で「まだ早いじゃん。使えねー女」って。
次の瞬間、オギャ-オギャ-って赤ん坊の声がした後フッてかばん萎んで。
Aさん、財布とスマホだけ掴んで走って逃げて、すぐ電話してコンビニ辞めて、Tさんの連絡先消したそうです。
その後Aさん、心配してて家来てくれたOさんとは交流続けたそうですが、子宮の病気になり、身籠もれない身体になってしまい、薬指も壊死してしまったそうです。
おわり
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