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WEBTOONはスナックカルチャーではない。「彼女は人間か怪物か…」他者の思惑が交錯する重厚なストーリー『モンスターベイビー』

【レビュアー/初見明彦】

こんにちは。突然ですが、皆様にとって他者とはなんでしょう? 愛する人、友達、ライバル、会社の上司、様々な他者が存在するこの世界で、皆様は他者をどのように理解し、接しているでしょうか?

今回紹介するWEBTOON『モンスターベイビー』には、私たちが他者と共存していくために必要な考え方が凝縮されています。

本作品はPiccoma、LINEマンガ、comico等、WEBTOONが読めるほとんどのアプリで配信されており、全61話と読みやすいうえに内容も濃いので非常にオススメの作品です。まだWEBTOONを読んだことがないという皆様も、この機会にぜひ読んでみてください。

兵器として作られた少女と、彼女をとりまく人間たち

物語はバイトをクビになった主人公の少年が、怪しい仕事を引き受け、ある店舗の地下で怪物に変身する赤ん坊を発見するところから始まります。少年はその赤ん坊を「空」と名付け、自分の娘のように育てます。しかし、周りの人々はときおり怪物の姿に変身してしまう少女に恐れを抱き、空と主人公を遠ざけようとします。

人間にも怪物にもなれる少女・空。彼女自身はありのままを受け入れてほしいだけなのに、人々は彼女を疑い、恐れ、ときには殺害しようとします。そのたびに彼女は自分を守るために恐ろしい怪物に変身してしまい、ますます居場所を失ってしまうのです。

しかし一方で、そんな彼女の怪物の一面を待ち望んでいる人々もいました。彼女を産み出した科学者の父親と、彼女を兵器として利用する大人たちです。

本ストーリーは、彼女が人間としての姿で生きていくことを望む人々、兵器としての姿を望む人々、そのどちらもありのまま受け入れる人々、それらの思惑が交錯しながら進んでいきます。

重厚なストーリー/徹底的に計算された演出

まずこの『モンスターベイビー』は、61話という短い展開の中で非常に濃密な人間模様を描いているのが素晴らしい作品です。

WEBTOON作品の多くは、俺ツエ―系や悪女系など、ライトでサクサク読み進められるストーリーが人気ですが、本作はそれとは対照にとても重厚なストーリー展開が魅力です。ヘビーな内容を好む漫画ファンにもウケる内容だと思います。

また本作品は、絵に関しても特徴的です。フルカラーが基本と言われているWEBTOON作品においては珍しい、モノクロを中心とした表現で物語が進んでいきます。これは演出のために行われていることで、普段はあえてモノクロに表現されているのです。

基本的には色の少ない描画がされていますが、作中では空が他者から"攻撃的な感情"を受け取ったときのみ、そのシーンが赤く描かれることがあります。

空には、他者の殺意や恐れなどの「感情が見える」能力があるため、それをわかりやすく表現するために、色にこだわった演出がされているのです。

また、赤を使った色の表現のほかにも、過去回想シーンでは彩度を落とし線をぼかして描画されていたりなど、WEBTOONで可能な表現を最大限に活かして制作されています。本作はその点に着目して読むと、より一層楽しめるかと思います。

作者の思想をしっかりと感じるWEBTOON

私は漫画やWEBTOON作品を読むとき、それらを通して作者の思想を感じたいと思って読んでおります。本作品はそういった作者の強い思想を感じる作品です。

全61話完結と非常に短いストーリーの中にも、印象的なコマ、セリフが多く、後を引く読後感があります。それは、作品の随所に作者の思想が滲んでいるからだと思います。

作中でも作者のメッセージともとれるようなセリフがありますが、その全てを汲み取れなかったとしても問題はありません。

最終話のあとがきで作者が伝えたかったことがサラッと記載されています。それもあまり説教クサい文言ではないので、作品を全部読み終わってあとがきを読んでから、答え合わせ的に作品を読み直してもいいかもしれません。

そして、本作にさらに興味を持ってもらうために、私が本作品で一番印象に残ったシーンをご紹介いたします!

主人公と空は、行く当てを失った先で一人の不思議なおばあちゃんがボランティアで運営する村に行きつきます。(このおばあちゃんのキャラがすごくいいです)その村には特に厳しいルールもなく、自治的に皆が助け合って生活していました。

しかし、その村に空と主人公がやってきてから、二人に対して疑念や敵対心を向ける人間が増えていき、最終的に空は怪物の力を隠し切れず、村の住民たちに追い出されてしまうのです。

空がいなくなり村は分裂状態になってから、村長であるおばあちゃんは突如村の解散を切り出します。急に拠り所を失った居住者たちは、互いを非難し続けますが、おばあさんは一瞥もくれず、村を後にするのです。

そして、村から遠く離れた場所で、おばあちゃんはポツリつぶやくのです――

「結局お前たちが選んだのは、人のせいなんだね」

まとめ

本作は、「人間は他者をどう捉えるか」という本質的な問題を取り扱った、作者の思想溢れる作品です。鉛筆のようなタッチの雰囲気のある絵と、含蓄あるセリフ回しに引き込まれます。

スナックカルチャー、ライトコンテンツと評されがちなWEBTOON作品ですが、本作品のようにメッセージ性・作家性の強い作品もございますので、これを機に、その他のWEBTOON作品にもぜひご興味を持っていただければ幸いです。


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