女子高生と老婦人。BLが繋ぐ友情と、人生を彩る「好き」の話『メタモルフォーゼの縁側』
【レビュアー/ 新里 裕人】
BL=ボーイズラブとは日本における男性(少年)同士の同性愛(ゲイ)を題材とした小説や漫画などのジャンルのことです。
私自身は、自発的にそういうジャンルの本を買うことはありませんが、自社(CC2)で開発したゲームのBL同人誌は何冊も読んだことがあります。
自分たちが作り出したキャラクターが様々な組み合わせでカップリングされるのは、なかなか新鮮でドキドキするものです。
本作は、75歳の老婦人が、ふとしたはずみでBL本を購入し、それがきっかけで同じ趣味を持つ17歳の女子高校生と知り合いになるお話です。
「新しい扉」を開いてしまった老婦人の反応がかわいい!
老婦人は「BL」というジャンルの事も知らず、ただ「絵柄がきれい」という素直な気持ちから漫画を購入しました。
だからこそ、作品に対する反応がピュアで心が温かくなります。
『メタモルフォーゼの縁側』(鶴谷香央理/KADOKAWA)より引用
私初めて読んだんだけど
なんて言ったらいいのかしら…
応援したくなっちゃうのよ
老婦人の人柄が分かる素敵な言葉です。
同じ本のファンだった女子高生も彼女の率直さに心を開いていきます。
少女を見守る老婦人のやさしさ
女子高生は、ちょっとコミュ障でおしゃれにも気を使ったことのない女の子。自分に「女の子っぽさ」が不足していることにコンプレックスがあり「私なんか」が口癖です。
もちろんBLの趣味についても、今まで誰かと分かち合ったりすることはありませんでした。自分のオススメのBL本を貸した後も、コミックイベントに誘ったときも「もしかしたら、不快な想いをさせたかも……」とネガティブな心配をずっとしていました。
老婦人はそんな彼女を気遣いながら、温かい対応で心を解きほぐしていきます。
『メタモルフォーゼの縁側』(鶴谷香央理/KADOKAWA)より引用
さりげなく描かれる「老い」の影
とても印象的だったのは、老婦人が奥付の発行日を見てコミックスが1年半に1冊のペースで発行されていることを知るシーンです。
『メタモルフォーゼの縁側』(鶴谷香央理/KADOKAWA)より引用
彼女の残り時間が限られていることがリアルに思い知らされて、ドキッとしてしまいました。
生きていく事は「好き」を追いかけ続ける事
本作の冒頭では、老婦人が久しぶりに立ち寄った喫茶店が閉店していた事を知るところから始まります。
彼女は2年前に夫を亡くし、近所の子供たちに書道を教えながらルーチンワークのように変化のない日々を送っていました。
そんな彼女が「BL」漫画と出会い、それがきっかけで女子高生と出会い、新たな「好き」を見つけます。
全てのものは終わりを迎え、人間もいつかは死にます。
けれど、限られた時間の中で「好き」を追い続ける事ができれば毎日を充実することができる。
それは、歳がいくつであっても関係がない。
本作にはそんなメッセージが込められているように思えました。
それは「BL」のみならず、私たち全ての漫画好きに当てはまる言葉だと思います!
現在コミックスは4巻まで刊行。
すでに連載が終わっているので5巻(2021年01月09日予定)で完結です。
読後に心が温かくなって力をもらえる漫画です!
ぜひ読んでみて下さい。