知的・発達障害児・者とその家族にとってつらい自粛生活
まだまだnote初心者で、読みづらいかもしれませんがよろしくお願いします。
1.はじめに
2020/5/14(木)に、緊急事態宣言の解除が一部地域を除いて出されました。とはいえ、感染拡大の脅威がまったくなくなったわけではなく、私も、じゃあすぐに、レジャーに出かけようか、なんて気分にはなりません。早くこの自粛生活から、本当に解き放たれる日を心待ちにしています。それは、知的・発達障害児・者とその家族にとっては特に大きいものと思います。
このことについて、実は2020/5/7(木)に、とある新聞社様よりメールで取材を受けていました。
具体的には、以下のような質問でした。
【質問】
自閉症、ダウン症の方など、知的障害者の方とコロナというテーマで、何点かお伺いしたいと思っています。
●取材した知的障害者の親御さんや施設関係者によりますと、知的障害者の方はマスクをつけるといった予防を自発的にとることが難しく、コロナによる生活環境の変化に戸惑い、自傷行為をしてしまう人も見受けられているそうです。なかなか収束の時期もつかめない中、知的障害のある方に対して、どのような身体的・心理的ケアが必要だとお考えになられますでしょうか。
●もう一点、知的障害者向けのデイサービスでは、利用者がどんどん減少し、立ち行かない施設もあると聞きました。また、親御さんからは「自分が感染して入院したら、いったい誰が子どもの面倒を見るのか」といった不安の声も上がっています。行政は施設や親の不安に対して、どのような補助・支援を行うべきだとお考えになられますか。
特別支援や障害に関する分野のご専門ということで、是非ともご回答いただけましたら幸いです。何卒、よろしくお願いいたします。
この質問を見た時、まず1点目の質問は想定する一般の新聞読者層に現状を知っていただく上でとても重要なことだと思いました。ただ2点目の質問は、「どうあるべきか?」と聞かれても、正直、最適解など答えられないなぁとも思いました。そこで、私は、自分の意見だけでなく、知り合いの特別支援学校の先生や放課後等デイサービスのスタッフの方に現状や意見も確認して、すぐさま以下のようにメールにて回答させていただきました。ここではその回答(原文ママ)を紹介します。なお、文中に引用しているサイトなどソースの最終確認日は2020/5/8です。
2.知的障害のある方に対して、どのような身体的・心理的ケアが必要か?
【質問1】
●取材した知的障害者の親御さんや施設関係者によりますと、知的障害者の方はマスクをつけるといった予防を自発的にとることが難しく、コロナによる生活環境の変化に戸惑い、自傷行為をしてしまう人も見受けられているそうです。なかなか収束の時期もつかめない中、知的障害のある方に対して、どのような身体的・心理的ケアが必要だとお考えになられますでしょうか。
【回答1】
この状況下において、家庭に閉じ込められて、生活環境の変化に耐えきれず、自傷行為だけでなく他傷行為も激しくなっている児童生徒もいます。当事者だけでなく、家族もまた、精神的にも肉体的にも、苦しい毎日だと思います。
知的障害や発達障害のある方の中には、毎日同じ環境の中で安心して過ごすことで安定でき、逆に、急にこれまでとは異なる環境に合わせることが難しい方が少なくありません。加えて、自閉スペクトラム症のお子さんには、障害特性としての触覚や嗅覚などに対する感覚の過敏性もあるため、マスクの締め付けや素材の匂いなどが苦手で、マスクをつけることができない子どもが多数います。
中には、コロナウイルスによる感染症のメカニズムやその予防の意味、そして対処方法についてわかりやすくていねいに説明することで、マスクや手洗いをきちんとできる子もいます。
以下に示すような、医師監修の下で作成された知的障害や発達障害のある子どもとその家族にとってわかりやすくこの状況と対応を説明する動画もあります。視聴することは家庭で保護者ができる心理的ケアとしても参考になります。
【CBCこどもチャンネル】コロナウィルスってなんだろう?
https://www.youtube.com/watch?v=Z8S7fSEd1Pc
しんがたコロナってなんだろな〜子供のための新型コロナ予防
https://www.youtube.com/watch?v=Y59L9UnKBk0&feature=youtu.be
きみだからできること〜子供のための新型コロナ予防
https://www.youtube.com/watch?v=XDDxKO9nf9Y&t=115s
また、このような緊急時ではなく、普段から、幼児や障害のある子どもに手洗いを指導する際によく用いられる以下のようなものもありますが、現在はどこも品切れのようです。
https://www.shachihata.co.jp/products/new_item/otetepon/index.php
子どもにとっては、この長期の家庭生活は、一時的なものではなく、学校に行っていた時と同様に、家庭にあっても平日は1日のスケジュールを作り、定時に起床してご飯や着替え、歯磨きなど、毎日の生活リズムを整えることが大切です。子どもが家庭にあってどのようなことができるかについては、学校の先生と相談して決めると良いでしょう。
ただし学校での学習内容と同じことをそのまま家庭ですることは難しいこともあります。趣味や余暇を広げ増やすことも大切な学習です。ひとりでできる趣味や余暇、家族やきょうだいとできる余暇活動などを見つけられると良いですね。
家族の方がいつも以上にお子さんと過ごす時間が長くなることで、お互いがストレスを溜めやすくなります。そのため、お子さんにとっても、保護者にとっても楽しい活動を探し、お互いに「できたらほめる」、で一日を終えられるようにしましょう。保護者の方もごほうびがあって良いのです。この状況下においては保護者の方の悩みやストレスも心配されます。子育てのストレスを家庭内に溜め込むことは、虐待やDVなどのリスクを高めることになりかねません。
私たちが知っておくべき大事なことは、保護者の悩みやストレスは、子育てに起因することだけではないということです。家庭にあっては夫や妻、父や母であり、また職場や地域でも様々な側面を持つ保護者であることを理解し、学校の先生やスクールカウンセラーは、お子さんのことだけでなく、また父親・母親側面としての保護者としてだけでなく、様々な側面を有する一個人としての保護者自身の悩みや不安も傾聴し、また一緒に対処の仕方を考えることが重要です。聞いてもらえるだけでも楽になります。
また、障害のある子どもにかぎらず、緊急事態における子どもの心のケアについては、世界ではもちろんですが、日本でも東日本大震災などの大規模災害などをきっかけにその重要性が認識されてきています。専門家でなくとも、子どもの身近にいる保育士、先生、地域住民など、誰もが知っておき対応できる心理的応急処置(Psychological First Aid : PFA)もありますので、この機に知っておかれると良いでしょう。
国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所 ストレス・災害時こころの情報支援センター
https://saigai-kokoro.ncnp.go.jp/pfa.html
緊急下の子どものこころのケア「子どものための心理的応急処置」
https://www.savechildren.or.jp/lp/pfa/
3.この状況下で、この問題に対してどのような支援体制が必要か?
【質問2】
●もう一点、知的障害者向けのデイサービスでは、利用者がどんどん減少し、立ち行かない施設もあると聞きました。また、親御さんからは「自分が感染して入院したら、いったい誰が子どもの面倒を見るのか」といった不安の声も上がっています。行政は施設や親の不安に対して、どのような補助・支援を行うべきだとお考えになられますか。
【回答2】
理想は、保護者が感染した子どもを預かる専用の施設が別にできると良いのですが、このような状況下で実際受け皿が作れるのか、これはとても難しい質問です。
保護者が感染し、本人が濃厚接触者になった場合、デイサービスでみてもらうことも難しいですし、先述のように環境が変わることで、知的障害や発達障害のある子どもはとても不安定になります。
また保護者が感染している時点で、子どもも濃厚接触者になり、仮に検査をして陰性だったとしても、数日後には陽性が出たといったケースもあります。したがって、子どもがある時点で陰性だったからといって安心して預かれるわけではありません。考えられることして、仮に児童相談所の一時保護で預かるといったことができたとしても、そこの職員も大きなリスクを被ることとなります。今後、保護者が感染して入院し、子どもをみてくれる身内もいない、どこかに預けなければならない、といったケースがどれくらい出てくるかは分かりませんが、臨時でもそういった障害のある子どもたちに適切な対応ができる施設、環境を自治体は想定して整えておく必要があると思います。またそこで働く職員への配慮、徹底した感染予防の環境を整えておくことも必要です。
デイサービスの利用が減少しているという声も、デイサービス職員や特別支援学校の先生方からも聞いています。これはデイサービスが利用自粛を促しているケースもありますし、逆に利用者側が自粛をしているケースもあります。また利用者数が一時的に減ったもののGW明けは変わらず定員近くのところもあります。定員近くということは、通常時であれはそれでいいですが、現状況下においては「三密」であるということです。
全国や県下の感染者数の減少に伴い、今まで自粛で利用キャンセルしていた家庭も徐々に利用し始めるため、今後はこのまま減少が続くとは考えられません。子どもたちは1日のほとんどを室内で過ごす日々にストレスがたまり、子ども同士の揉め事や、問題行動等も多発していると聞いています。先述のように子どもたちは障害特性ゆえにマスクをつけることが難しい場合があります。
そのような中でのサービス提供で、スタッフの身体的、精神的疲労もたまるため、スタッフ側の身体面、心理面でのケアも必要です。また、デイサービスの職員には大学生アルバイトも多数います。経済的に苦慮する学生にとって大切な働き口でもある一方、利用者とスタッフの双方の感染リスク、クラスター感染の発生をどう防ぐのかも課題となります。
「行政に求める支援」については、申し訳ないですが、なかなか具体的なことは言えません。
先述の保護者が感染したときにどうするか、というような想定しうるケースについて、保護者も子どもも、経済的、身体的、心理的に安心・安全できるような、総合的・包括的な支援のあり方を検討し、子どもとその家族を取り巻く関係機関間が連携しながら柔軟に対応できるように務めることになろうと思います。先述のように通常であれば日中生活の大半をしめる学校や、地域の公衆衛生の拠点である保健センターが、この状況下においても、心理的にも近しい支援リソースとして、子どもとその家族にとって繋がりを保ち、孤立を避ける上でも、頼れる相談窓口と感じられるよう、電話や訪問により双方向でコミュニケーションできる機会を作り積極的に働きかけると良いでしょう。
また、行政は、自治体の広報紙やHPなどで、コロナについての予防法や地域の治療機関、相談機関などの、最新で正確な公衆衛生情報や、家庭でできる運動やストレス対処法などを提供することなどが望まれます。
4.新聞記事になって
さて、2020年5月14日(木)の朝刊に、当該記事が掲載されていました。上記に書いた私の4,000文字ほどのメールでの回答は、記事の最後に、「専門家の意見」として113文字にまとめられていました(これは「取材あるある」ですので気にしていません笑)。
記事の趣旨は、障害のある当事者のつらい自粛生活や大変な施設の状況を伝えることにあり、あくまで私のコメントはその傍証としての扱いです。それで良いのですが、せっかく書いた文章なので、noteに掲載させていただくことにしました。ぜひ、障害のある当事者とそのご家族の声、また、支援施設の方々のご意見などもお聞きしたいなと思います。
ちなみに、私は富山県の、障害のある当事者やその家族の会のいくつかに関わらせていただいているのですが、記事には、私も顧問を努めさせていただいている日本ダウン症協会富山支部(つなGO)の、お友達である、上原さん親子がバッチリ写っていて、びっくりしました笑 そこに取材もされていたのですね。
日本ダウン症協会富山支部(つなGO)
http://blog.livedoor.jp/jds_toyama
5.おわりに
この新型コロナウイルス感染症の拡大は、私たちの日常を大きく変えました。特に障害のある子どもとその家族にとっては社会的障壁が少なくない「あたりまえへのアクセス」を平常下よりもさらに困難なものにしました。例えば、私の支援している人の中に、歌を歌うことが大好きな発達障害のある人がいますが、カラオケにいくこともままなりません。でも、医療従事者の方々をはじめ、様々な方々の尽力により、少しずつですが良い方向に向かっていると思います。
私もですが、多くの人が、この状況下にあって、「自分に今何ができるのか」、と真剣に考えました。このことは、「ワンチーム」、社会の構成員であるみなさん一人一人にとって、いまとこれからに、とても大きなことだと思います。
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こんなnoteですが、どこかの誰かにとって需要があるのであれば、また次を書こうかなと思います。コロナ禍で、2020年度上半期の土日の学会や研修会講師の仕事がものの見事にすべてなくなったので、少し時間はあります。ただ、自分はマメな性格ではないので、計画的・継続的に書ける自信はありませんが…。
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