神様からのラブレター 第1話
カキーン。
そんな懐かしい音が響いてきた。
思わず振り向いてしまう。
白球を追いかけていた夏がすぐそこまで戻ってきた。
高校球児として青春を過ごしたのは10年以上も前のことだ。
今はというとキリスト教会で牧師をしている。
何がどうなってこのような人生になったのか、野球をやっていた頃まで遡ってみる。
この夏が第100回全国高等学校野球大会が開催された節目の年であることがまた面白い。
足の裏に刺激を感じるのが朝6時10分。
母に起こされ、新しい一日が始まる。
朝食を済ませ、弁当を四つ持ち朝練に出かける。朝練が終わりお弁当を食べ、二時間目が終わる10時に二つ目のお弁当を食べ、お昼休みに三つ目のお弁当を食べた。
授業が終わり、待ちに待った練習の時間が来た。
グラウンドで練習する時間が何より好きだ。
夜7時の下校時刻めいっぱいまで練習をし、四つ目のお弁当を食べながら帰途に着く。
家に帰って食事を済ませ、グローブとスパイクをキレイに磨き上げる。
お腹が落ち着いたころにバットを持ち夜練を始める。
あとはお風呂に入り、寝るだけ。
毎日が野球漬けの充実した日々だ。
そういえば、ある時からユニフォームをお風呂場で自分の手で洗うようになった。
汗ビッショリで泥だらけのユニフォーム。
これを洗うようになってから親への感謝の心が溢れてきた。
一人で一生懸命やっているだけだと思ってたけど、そんなことないな。
そう思った瞬間があった。
最後の夏の大会が終わったとき、「ありがとう」と母に言った。
母の目にたまった涙が光っていたのを今でも忘れない。
そしていよいよ最後の夏の大会が始まった。
2回戦最大の山場。
リードを許した状況の中、二死満塁のチャンスで自分に打席が回ってきた。
サインはスクイズ。
ファール。
決めきれなかった。
今度は打てのサイン。
思いっきりバットを振り抜いた。
決勝タイムリーになった走者一掃のスリーベースヒット。
ベンチもスタンドも大興奮に包まれた。
そのまま逃げ切り3回戦に進んだ。
ヤッター勝った!というのもつかの間。
3回戦の相手はシード校。
負ければそこで終わり。
少しでも長い夏をチームメイトと過ごしたい。
絶対勝てると意気込んでのぞんだが、あっけなく夏は終わった。
涙があふれてきた。
青春を駆け抜けた暑い暑い夏だった。
ああ、これで明日から練習が無くなるんだと思うと、どこか寂しかった。
あのユニフォームを着ることはもうない。
あんなに真剣にバットを振ることもない。
全力でボールを追いかけることもない。
あふれ出る涙と共に何かが自分の中から出ていった。全てのエネルギーをその夏においてきた。
全てを注いだ分、自分が空っぽになった。
今日から何しよう。
何かしたいけど、何もない…。
これが率直な感想だ。
この時から少しずつ自分の関心が“野球”から“何をして生きるか”に変わった。
野球が終わった夏は忙しい。
進路を決めなければならない。
旅に出るか。
働くか。
それとも他の人と同じように大学に進学するか。
なかなか決まらない。
この時、神様からのラブレターはまだ受け取ってい…。
続く。
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