舞台「ディスられ彼女」脚本

「ディスられ彼女」
作/友池一彦

【登場人物】

・波多野沙恵(はたの さえ) 25歳
  …フリーターをしながらリサイクルの材料を使って家具作りをしようとしている。内気だが活発になりたいと思い、初めてボランティア活動に参加する。携帯依存の女子。

・上坂美和(こうさか みわ) 29歳
  …前の会社を辞めて、失業保険で生活している。ボランティア活動をしながら自分に向いている仕事と恋人探しに励む。SNSの評判を気にする。

・村野洋平(むらの ようへい) 38歳
  …家具作りの職人。工房と店を兼ねた自宅で丁寧な手作り家具を作り販売している。昔、小清水と交際をしていて、別れても若干引きずっている。

・アイ …沙恵にだけ見える携帯電話が擬人化した妄想の女の子。

・ケイタ…美和にだけ見える携帯電話が擬人化した妄想の男の子。

・藤ヶ谷光(ふじがや ひかる) 55歳
   …企業のコンサルタントをしながらボランティア活動に挑戦して私生活を充実刺せようとしている。プライドが高い。

・橘仁恵(たちばな ひとえ) 42歳
   …ボランティア活動をしている独身の家事手伝い。婚活中でイケメン好き。

・小清水優香(こしみず ゆうか) 26歳
   …OLをしながら土日はボランティア活動に励む。真面目な眼鏡女子。村野の元カノ。

・堂島信夫(どうじま のぶお) 25歳
   …沙恵の彼氏。アマチュアバンドをやっている実家暮らしの男。熱いが薄っぺらい。

・津田浩介(つだ こうすけ) 30歳
   …自営業を営みながらボランティア団体のセンター長をしている。優柔不断な男。

・並河恵(なみかわ めぐみ) 29歳
   …フリーライターで雑誌やウェブマガジンで記事を書く。あまり人の話を聞いていない。

・神(かみ)/神山利夫(かみやま としお) 40歳
   …ネットの「まとめサイト」の情報を語る沙恵の妄想の人/「まとめサイト」を運営している経営者。藤ヶ谷に会社を大きくする相談をしている。

・ピッピ市松(ぴっぴ いちまつ) 40歳
   …売れないYouTuber。

・舞台後方、段差になっている。
・中央後方、パネルが回転して裏側は家具屋の工房と机がある。

【第一景】~オープニング~

○沙恵の部屋

      沙恵、部屋の椅子に座って一人携帯をいじっている。
      明転。
      アイ、ニヤニヤしながら現れる。

アイ 「あんた、だいぶん評判悪いよ~」
沙恵 「…」
アイ 「勝手だよね…信じらんない…おとなしそうに見えて何考えてるのか分からないよね~…だって」
沙恵 「…」
アイ 「ねぇ、どうして何にも言わないの?」
沙恵 「…」
アイ 「でも、気になってるんでしょ?あのコの事。ほら、またあのコのツイート見てる。…やっぱり仲間って最高!…私の夢がどんどん形になっていく♪…だって」

      沙恵、携帯を見ながら爪を噛む。

アイ 「こんなのもあるよ、平気で友達を裏切る人って何なんだろう?人のアイデアをパクるなんてサイテー」
沙恵 「どっちがよ!」
アイ 「やっと喋った。笑えるよね、このツイート」
沙恵 「全然笑えない」
アイ 「こんな事も書いて。募金するなら振り込むより募金箱に直接入れたい。家具を作る事は未来の生活を作る事…だって」
沙恵 「私のパクリばっか…」
アイ 「そうだね~。でも仕方ないよ、何にも知らない世間から見たら、あのコの言ってる事の方が正しくて、沙恵の方がヤベェ奴だもんね」
沙恵 「そんなの酷くない」


アイ 「そうだね。でも、クズ相手にイライラしたって仕方ないよ。それとも、やっぱりまだ仲良くしたい?」
沙恵 「そんな訳ないじゃん」
アイ 「随分ムキになっちゃうんだね~」
沙恵 「なってない」
アイ 「コレも沙恵の人望のなさだよね~友達少ないし。私も悲しいよ、無念!」
沙恵 「ちょっと、おちょくってるの」
アイ 「違うよ、沙恵が凹んでるから明るく盛り上げようとしてるんじゃない」
沙恵 「ちょっと黙ってて!」
アイ 「そんな言い方はないと思うな~」
沙恵 「…今は誰とも話したくない」
アイ 「別に私が喋りたくて喋ってるんじゃないよ。喋らせてるのは、あんたでしょ?私から勝手に話し出した事なんてあった?」
沙恵 「もういい!」

      沙恵、携帯を操作しだす。

アイ 「やめなよ~これ以上あのコのSNS見るなんて。孤独になるだけだよ」
沙恵 「…」

下手に美和、村野、藤ヶ谷たちを堂島が携帯で撮影する。
      下手、明転。

アイ 「動画投稿してるんだ…」

美和 「コレが私たちの作った椅子でーす!ね」
村野 「(緊張して) …そうです!」
美和 「村野さん、村野さん!台詞!」
村野 「えっと…以上です」
美和 「ちょっと!」
村野 「ごめん、何だっけ…」
美和 「もぅ~」

アイ 「仲良さそうだね」
沙恵 「裏切り者だよ」

藤ヶ谷「ココでバシッと説明しなきゃ」
村野 「あぁ、はい…何を?」
藤ヶ谷「だから!この椅子はただの椅子じゃないんですよって。実はこの椅子の材料を知ったら皆さん驚きますよって。頑丈で清潔感があるだけじゃなく、とってもエコなこの椅子についてもっと知りたい方はサイトをアクセス!…って言うんだよ」
村野 「そっか」
美和 「オジサン、全部言っちゃってる」
藤ヶ谷「あっ」
村野 「何やってるんすか、俺の台詞なくなっちゃったじゃないですか」
藤ヶ谷「君がそれ言えるか?」
美和 「とにかく興味のある方はコチラまで、せーの、お問い合わせくださいー」
村野 「(同時に) 聞いてくださいー」
藤ヶ谷「(同時に) アクセス待ってます」
堂島 「もぅバラバラですよ!」

      皆で楽しそうにダメだしをしあっている。

沙恵 「え!何でいるの!?信じらんない…」
アイ 「コメント沢山きてるねー…グダグダ過ぎてウケル。皆さん仲良しなんですね。楽しそう~私も参加したい…」
沙恵 「皆、馬鹿なんじゃない?こんなグダグダの動画の何処が楽しいの?自己満足なだけじゃない。誰が見るのよ」
アイ 「そういう沙恵も見てるよ」

      上手に小清水が現れる。
      上手、明転。

小清水「波多野さーん、いる?今日さー、皆で久々に集まろうかってなってるんだけど、一緒に来ないー?ねぇー」

      沙恵、耳を押さえて目をつぶる。

アイ 「出ないの?出ないよね…そうだ、こういう時は自分よりダメな奴を見たら良いんだよ。うん、そうしよう!ほら、あれ見ようよ、グダグダのネタをやるユーチューバー。半年前よく見てたやつ」
沙恵 「…」
アイ 「こういう時は現実逃避も大事だって。ね。どう?…じゃあさ、思い切って殴り込みに行っちゃう?あいつらボッコボコにしてやるの♪」

      沙恵、頷く。
      M「絶対彼女」
      照明が鮮やかになる。
      沙恵、椅子の上に立つ。

アイ 「よしっ、ボッコボコにしちゃおう~!」
沙恵 「決めた!皆、私の世界から排除してやる」
アイ 「イイネ~!」
沙恵 「だって、だって…」
アイ 「この世界の主人公は」
沙恵 「私だから!」
アイ 「イエーイ!」

      沙恵、下手を覗き込む。

沙恵 「まずは、あいつらから」
アイ 「ラジャー!」

      アイ、ピコピコハンマーで沙恵以外の人たちを叩いて行く。
      叩かれた工房の人たちは白目むいて倒れる。

小清水「波多野さん」
沙恵 「あいつも!」
アイ 「出て行けー!」

      アイ、小清水をハンマーで叩いて追い出す。
      沙恵、楽しそうにアイとハイタッチをする。

      暗転。


【第二景】 ~半年前見ている動画サイト~

      上手に橘と小清水。

      中央、明転。
      上段にピッピ市松が現れて拍手しながら現れる。

ピッピ「…どうも、ピッチいちま…ピッピピ、ピチ、ピッピ市松です。言えた」

      全明転。
      橘が携帯の画面を小清水に見せて笑っている。
      
小清水「何ですかコレ?」
橘  「知らない?ピッピ市松っていう今話題のユーチューバー芸人」

ピッピ「それではピッチ市…違う、ピッピ市松がお送りする、あるあるフリップ」

小清水「この人、何で自分の名前毎回嚙んじゃうんですか」
橘  「ピッピは滑舌に難があるのよ」

      ピッピ、地の小さいフリップを出す。

ピッピ「合コンに来るこんな女は警告だ!その1」

小清水「字ぃ小さくないですか!」
橘  「だから、見ちゃうのよ~」

ピッピ「…ネギトロのの…えーっと、何だ?これ…えー…」

小清水「自分でも読めてないじゃないですか」
橘  「馬鹿なのね~」

ピッピ「(二枚目を出して) 次!」

小清水「諦めた!」

ピッピ「血液型で判断したがる女の人。あなた何型―?B型ですー。B型かー。どうしたんですかー。だってー。だってー?だってBってマイペースだから空気読めないんだもんー。お前もかー?違う、だー」

小清水「演技は下手過ぎて内容が入ってこない!」
橘  「いつも二役やるんだけど演技が一緒でよく分からないの」

ピッピ「続いてこちら…(フリップ落としてバラバラになる)えー、おしまい」
      笛を吹いて頭を下げる。

小清水「嘘でしょ!何ですかこれ」
橘  「ね!この動画、なんか面白くない?」
小清水「糞つまらないです。何処が笑う所なのか、さっぱり分かりません」

ピッピ、リアクションをして立ち去る。

橘  「小清水さん、笑いに厳しいんだね」
小清水「普通です」
橘  「でも、笛吹くあれ、ちょっと真似したくならない?」
小清水「なりません。そんな事より橘さん、ちゃんと仕事してください。ゴミの収集作業は終わったんですか?」
橘  「ちょっと休憩してただけじゃない。朝からずっと働いてるんだから、息抜きも大事でしょ」
小清水「そんな事言って、橘さん働いてる時間よりも息抜きをしている時間の方がだいぶん長いですよ。もうそれ息抜きって言いませんよ」
橘  「じゃあ、何て言うの?」
小清水「え?」
橘  「息抜きじゃなかったら、何て言うの?」
小清水「…息…吸い?」
橘  「はぁ?」
小清水「いや、橘さんが言わせたんでしょ!」
橘  「それちょっとピンとこないわ~」
      
      小清水と橘が話しているなか美和、下手からゴミを持って現れる。

美和 「橘さん、手伝ってくださいよー」
橘  「聞いてよ美和ちゃん、小清水さんが息抜きの反対は息吸いだって言うんだけど、どう思う?」
美和 「はぁ?」
橘  「ほら、やっぱり同じ反応でしょ?」
小清水「それは橘さんが急に言うからでしょ。私は別にその言い方を推してる訳じゃないですからー」
橘  「それより美和ちゃん、新しいの上がってたよ」
小清水「全然聞いてない!」
橘  「ピッピ市松の動画」
美和 「えー、まだ見てないー」
橘  「いつもに増してグダグダだったよぉー」

      沙恵、下手からゴミを持って現れる。皆、沙恵に気づかず話す。
沙恵 「コレどうしたら良いですかー?」

美和 「見てみよぉー(携帯を出す)」
小清水「今、休憩時間じゃないですよ」
橘  「私ももう一回見よ」
沙恵 「何見るんですか?」
小清水「見なくていいです!ちゃんと仕事してください」
橘  「だってぇ~」
美和 「仕事って言われてもね~」
小清水「まだまだ廃屋の片付けやゴミの収集が残ってるんですよ。皆で頑張って早く終わらせちゃいましょう」
橘  「…」

      橘、段に座り込む。

美和 「何で私たちだけ、こんな作業やんなくちゃいけないんだろ」
小清水「それは、被災して困っている方々の助けに少しでもなるように、私たちボランティアの皆で…」
美和 「それ!ボランティアでしょ、私たち。別に仕事じゃないんだし」
橘  「私、炊き出しとかやるんだと思って、これに参加したのになぁ~」
美和 「私も!」
小清水「それは…正直私もそう思ってましたよ。でも、ココは今ボランティアの人で溢れているような状態なんですから仕方ないじゃないですか」
美和 「やっぱり人気なんだね~炊き出しのボランティア」
橘  「だから、うちみたいな後乗りの団体は、こういうゴミの片付けみたいなハズレの作業しか残ってないし」
小清水「ハズレって言い方は良くないですよ」
橘  「あぁ~私も直接被災した人たちに接して『橘さんの豚汁を食べて元気が出ました。ありがとう』なんて言われたかったな~」
美和 「あっ、今明らかにイケメンをイメージしてたでしょ?」
橘  「分かちゃった?さっき体育館の前歩いてたらさ、ジャニーズ系のイケメンを見つけちゃったの。うふふ」
美和 「嘘!?私も見たかったぁー」
小清水「もぅ不謹慎ですよ!」
美和、橘「…」

美和も橘の隣に座る。

美和 「でた、魔法の言葉」
橘  「不謹慎だって言われたら何にも言えなくなっちゃうもんね」
小清水「皆さん、ちゃんと考えてます?被災した方は家具もない殺風景な仮設住宅で今暮らしてるんですよ。それを考えたらそんな事言えます?」
橘  「そうだけど…」
美和 「だったら、ゴミ片付けるより家具を作った方が良くないですか?」
小清水「もぅ屁理屈言わないで下さい」
美和 「はーい」

      沙恵以外の一同、溜息。

沙恵 「私は…私はそんなに嫌じゃないですよ。正直、思ってたより地味な仕事で、ちょっと戸惑いましたけど。なんか皆で一つの作業をするのって良いなって」
橘  「偉いね~」
沙恵 「別に優等生ぶってる訳じゃ」
美和 「今日初日だからだよ。新人さんも休みなよ」
小清水「だから、まだ休憩じゃないですって」

      津田、現れる。

津田 「皆さんー、ビックニュースですよー。明日、ココの団体に取材がくるって」
小清水「本当ですか!」
橘、美和「えぇ~」

      沙恵、喜びかけるが二人の反応を見て止める。

津田 「何で?嬉しくないの?」
橘  「だってゴミとか集めてるところを写真に撮られてもねぇ」
美和 「私、撮影NGで」
橘  「私も」
津田 「そんなぁー。沙恵ちゃんはどう?」
沙恵 「私は…別にどちらでも。あの、コレどうしたら?」
津田 「あぁ、リサイクル出来るもんはコッチの袋でゴミはこっちね」
沙恵 「はい」
橘  「センター長、私もう帰っても良いですか?」
小清水「橘さん」
津田 「え?何で?何で?どうしました?」
美和 「朝からずっとゴミ集めて、もう私たちクタクタです」
小清水「もぅ皆さん、駄々こねないで下さい」
津田 「なんだか分かんないけどさ、もう少し頑張りましょ」
橘  「倒壊した家屋のゴミを運ぶなんて力仕事、私たちのような乙女がする作業かしら」
津田 「そう言われても…」
沙恵 「じゃあ私分別じゃなくて、そっち手伝いましょうか?」
橘  「良いの?」
津田 「あぁ大丈夫、大丈夫、沙恵ちゃんは皆が持って来たゴミの分別で」
沙恵 「でも」
津田 「そんな力仕事、女の子がする事じゃないよ」
橘、美和、小清水「!?」

      津田、沙恵の微妙な表情を見て、橘の方を振り返り、焦る。

橘  「じゃあ私たちは何なんですか?女の子じゃないと?」
小清水「それは流石に」
美和 「あり得ない!」
津田 「いや、その…女の子…だった」
橘  「だった!?」
美和 「過去形!?」
小清水「どういう意味ですか!」

      橘、美和、小清水、津田に怒って迫る。津田、後ずさる。

津田 「あ、あぁそうだ、休憩にしましょう!ね、それが良い、そうだそうだ、テントにお弁当がありますから、ね、波多野さんも、ね、うん…」
      津田、下手に逃げる。

小清水「ちょっと!」
美和 「まだ話終わってない」
橘  「どう見ても女の子だろぉー」
      三人、津田を追いかけて行く。

      沙恵、三人が去って行くのを見て、溜息をついて携帯でツイート。
      上の段にアイが現れて、沙恵に話しかける。

アイ 「お腹減った~、でも今お弁当食べに行きづらい。てんてんてん…またツイートで愚痴ってる」
沙恵 「だって、今あっちには行きにくいよ…」
アイ 「だね」
沙恵 「やっぱりココでも馴染めそうにないな~」
アイ 「まだ初日じゃん。分かんないよ」
沙恵 「明らかに溶け込んないもん、私。それにさ、今のも私何にも言ってないのに、なんか感じ悪い女になってるよね」
アイ 「その可能性は充分あるね」
沙恵 「最悪~。あのセンター長のせいだよ」
アイ 「絶対、あいつモテないよね」
      沙恵、携帯で検索し始める。
アイ 「モテない男…で検索」

      神、上の段へ現れる。

神  「ようこそ!まとめサイト、ゴッドウェブへ!モテない男の3か条!」
      津田、くたびれて現れる。
神  「1、清潔感がない。…例えば皺くちゃのシャツを着ていたり、襟にフケがついていたり。そんな男はあかんね!」
      津田、シャツを伸ばしたり、フケを払ったりする。
沙恵 「まさに!」
アイ 「うん」
神  「2、空気が読めない。これはもう論外やね、相手の状況を考えずに何かを勧めたり、女性に年齢の話を聞いて来たり…」
津田 「沙恵ちゃんお弁当食べないの?」
沙恵 「あ、後で頂きます」
津田 「そういえばさ、沙恵ちゃんって幾つなの?」
沙恵 「今年で25です」
津田 「25?若いなぁ~」
沙恵 「いや、十代のコとかと話してると、もうおばさんだなって思ったりしますよ」
津田 「そんな事ないって!全然おばさんじゃないよ!おばさんっていうのは、向こうにいる橘さんみたいな人の事を言うの!あ…」
      津田の背後に橘が現れる。津田、振り返って直ぐ下を向く。
アイ 「ヤバいね~」

      橘、睨みつけて去って行く。

神  「3、優柔不断。これはイコール、男らしくないっちゅー事やね。人の意見にすぐ左右されて自分の意見がない奴。皆にええ顔した結果、一人のハートも掴めないって訳よ」

      津田の後ろに小清水と美和が現れる。

小清水「センター長、休憩いつまでにするんですか?早く作業しないと日が暮れちゃいますよ」
津田 「じゃあ、もう休憩おわにしよっか」
美和 「えぇ!私まだお弁当もたべてないし、お手洗いにも行きたいんですけど。避難所のトイレ、特に女子はすっごい混んでて相当並ばないとダメなんですよ」
津田 「そっか、じゃあ一時間後で」
小清水「そんなに!?」
津田 「じゃあ30分後」
美和 「短い!」
津田 「45分後で」
小清水「大丈夫ですか?」
津田 「あぁ~えーっと、思い思いで。それぞれ思い思いで休んだり働いたりしてー」

      津田を頭をかきむしりながら去って行く。

美和 「良いんですね!」
小清水「良いんですか?」

      小清水、追っていく。

沙恵、アイ「ピッタリ!条件満たしてる!」

      沙恵、アイ笑っていると、美和が気づいて沙恵を見る。
      沙恵、携帯を切ってゴミを分別する作業をしだす。

神  「ちなみに、次はモテる男の仕草!ダンディな笑顔で関西弁を使う…かまへんで…」
アイ 「何それ?もう下がって」
神  「は?今からええとこやねんけど」
アイ 「はいはい、あんたの出番もうおしまい!」

      アイ、神を押して去って行く。
      美和、沙恵に近づいて来る。

美和 「誰と話してたの?」
沙恵 「いや、話してないですよ…」
美和 「でも今ピッタリって」
沙恵 「あぁ、このゴミが、ちょうどこの袋にピッタリだなぁって。条件満たしてるな~って」
美和 「ふ~ん。疲れてるんじゃない?ちょっと休んだら。センター長、思い思いで休憩って言ってたし」
沙恵 「はい」
美和 「でもさ、条件満たしてるって言ったら、センター長だよね」
沙恵 「え…(自分の独り言が聞こえたのか心配する)」
美和 「なんていうか、モテない男の条件みたいな。ちょっと清潔感に欠けてる所あるしさ。空気読めないなって思う事ない?」
沙恵 「…」
美和 「あ、ごめん、ちょっと毒舌過ぎたよね。私、思った事すぐ口に出しちゃうし、何でも勝手に決めつけて言い過ぎるってよく言われるんだよね。ひょっとしてタイプだった?センター長」
沙恵 「(首を振ってから) 共感します!」
美和 「だよね!」
沙恵 「モテない男の3か条」
美和 「三か条?じゃあ、あと1つは…あっ」
沙恵、美和「優柔不断!」

      沙恵、美和、笑う。

沙恵 「センター長に悪いですよね、こんな陰口言ってたら」
美和 「良いよ、本当の事なんだし。
それに私、本人の前でも言っちゃうし」
沙恵 「すごい!」
美和 「全然平気♪」
沙恵 「美和さん、さっきの話、私良いなぁ~って思ったんです」
美和 「さっきの話?…センター長がキショいって」
沙恵 「それじゃないです。そこまで言ってないし」
美和 「何?」
沙恵 「仮設住宅が殺風景なら、まず家具を作ったら良いんじゃないかって」
美和 「あぁ小清水さんに勢いで言っちゃったやつね」
沙恵 「あれ、本当にやりませんか!」
美和 「家具を?私たちで?」
沙恵 「はい!私、DIYが趣味で。家で自分で棚とか作ってるんですよ」
美和 「すごい~」
沙恵 「だから、そういう特技を活かせたらなって思って、元々このボランティアに参加したんですけど」
美和 「ココじゃ活かしようがないもんね」
沙恵 「はい…」
美和 「良いね!やってみたい」
沙恵 「本当ですか!?」
美和 「うん。なんか楽しそう♪私ずっと思ってたんだよね~ココってなんか物足らないなって。分かってるよ、ゴミ集めも大事な作業だって。でも、せっかくボランティアに参加したのにイマイチ人の為になってるっていう実感が沸かないんだよね~」

沙恵 「募金するなら、銀行とかに振り込むより、募金箱に直接入れて『ありがとう』って言われたいみたいな?…違いますかね」
美和 「そう!そんな感じ!それだよ~今の私たちに足りないのはさ、リアルなんだよ。沙恵ちゃん、なんか気が合うね」
沙恵 「本当ですか?」
美和 「うん♪あ、溜口で良いよ。私の方がだいぶん年上だけどね。沙恵ちゃんとは良い友達になれそう♪」
沙恵 「嬉しいです…嬉しい、よ」
美和 「そう、それで良し♪」
沙恵 「でも、私と友達少ないですよ。美和さんと違って口下手だし、根暗だし」
美和 「面白いよ。沙恵ちゃんと話してると楽しい。それに私も結構根暗だし」
沙恵 「絶対嘘だ~」
美和 「本当!基本インドアだし。休みの前日は一人で缶チューハイ飲みながらネットでアニメばっかり見て朝になっちゃうし」
沙恵 「分かる!一話だけって思ってるのに、ついつい次も次もって最終回まで見ちゃうやつ」
美和 「それで結局、次の日寝て休みが終わっちゃうんだよね~」
沙恵 「それ先週の私だ」
美和 「私たち根暗だね♪」
沙恵 「根暗仲間♪」

      小清水、顔を出す。
小清水「そろそろ作業始めるよー」

沙恵 「はーい」
美和 「あ、ちょっと」

      美和、携帯で沙恵と自撮りする。

美和 「これSNSにあげて良い?」
沙恵 「うん♪」
      沙恵、ゴミ袋を持って行こうとする。
美和 「沙恵ちゃん、ゴミ分別しなくて良いの?」
沙恵 「逆に捨てる物なかったんで」
美和 「嘘?」
沙恵 「私ちょっと試したい事があるんです」
      
沙恵、嬉しそうにゴミ袋を持って去って行く。

○現在 ~回想している美和~
   
   照明が変わる。
美和、携帯を眺めながら暗い表情になる。
ケイタ、現れる。

ケイタ「随分、昔のツイート見てるんだね」
美和 「…」
ケイタ「沙恵と出会った日の写真だ。懐かしいな~」
美和 「これ削除しよっかな」
ケイタ「そのツイート消したって意味ないよ。リツイートや引用ツイートまでは消せないんだし」
美和 「だよね」
ケイタ「それ今さら消して何か意味ある?」
美和 「…」
ケイタ「本当はまた沙恵と仲良くしたかったりして」


美和 「馬鹿じゃない!もぅ解約しちゃおっかな」
ケイタ「待って待って」
美和 「…あの時は気づかなかったんだよね。あのコが面倒くさい女だって…」
ケイタ「そうだね…(去って行く)」

○ボランティアの現場 ~半年前~

      橘が美和の所に近づいて来る。

橘  「ねぇ、ライングループ見た?」
美和 「あぁ、今朝一人追加されてましたよね」
橘  「新人さん、絶対若いイケメンだよね!」
美和 「何で知ってるんですか?プロフィール、ギターの写真でしたよね」
橘  「馬鹿ね、名前見てないの?藤ヶ谷光だって、藤ヶ谷光!絶対若いイケメンの名前でしょ?イケメン以外有り得ないでしょ」
美和 「ちょっと期待できるかも♪」

      小清水が現れる。

小清水「皆さん、センター長が呼んでますよー」
橘  「それよりどう思う?今日来る新人さん。絶対イケメンだよね?」
小清水「知らないですよ。それより、集合して下さい」
橘  「もう、後で行くって言っといて」
 
      堂島、現れる。

堂島 「あのー、皆さんピースハートのボランティアの皆さんですか?」
美和 「はい」
堂島 「良かった」
橘  「!?…やっぱり!」
堂島 「え?」
橘  「(美和に) 私の想像通り♪けっこうイケメンじゃない?」
美和 「(橘に)シッ!(堂島に) ごめんなさいね、急に」
橘  「ま、名前の感じ的にもっと王子様系なのかなって思ってたら真逆のワイルドな感じだったけど」
美和 「じゃあ想像通りって言わないですよ」
橘  「イケメンって意味でよ」
堂島 「皆さん、俺の名前知ってるんですか?」
橘  「当たり前じゃない、光♪」
堂島 「え…」
美和 「ひいちゃってるじゃない」
橘  「じゃあ、王子で」
小清水「そうじゃなくって、ココは合コンの場じゃないんですよ」
橘  「じゃあ何て呼べば良いの?」
小清水「普通に苗字で呼べば良いじゃないですか」
橘  「そんなの硬くない~」
小清水「皆そうしてるじゃないですか」
堂島 「(美和に) あの…」
橘  「皆じゃなくない?美和ちゃんは美和ちゃんって呼ばれてるし。私もなっちゃんって呼んで欲しいよ」
小清水「何で?」
橘  「私はダメ?」
小清水「だって橘さんって、橘仁恵でしょ?どこがなっちゃんなんですか?」
橘  「たちばなの、な!」
小清水「どこ取ってるんですか!」
堂島 「俺、今来たばっかりで、よく分からないんですけど」
橘  「あぁ、仕事なら私が教えてあげる♪」
堂島 「そうじゃなくって…」
橘  「あ、センター長ね、分かった、私が呼んできてあげる♪」
堂島 「いや…」

      橘、ウキウキして走って行く。

小清水「ちょっと!逆にセンター長が呼んでるんですよー、橘さーん」

      小清水、追いかけて行く。

美和 「なんかごめんなさいね、騒々しくって。でも、皆悪い人じゃないから」
堂島 「はい」
美和 「…あ、全然座って待ってて良いからね。なんか飲み物持ってこようか」
堂島 「大丈夫です。やっぱ良い人ですね」
美和 「そんな良い人だなんて、やめてよ。照れちゃうよ~」
堂島 「もしかして、美和さんですか?」
美和 「え!はい。何で知ってるの?」
堂島 「よく聞いてるんで」
美和 「誰に?」
堂島 「沙恵が昨日ずっと電話で話してたんです、美和っていう親友が出来たって」
美和 「沙恵に?」
堂島 「あれ?沙恵まだ俺の話してませんか?照れてんのかな~あいつ」
美和 「沙恵の彼氏さん?」
堂島 「はい、堂島信夫っていいます。いつも沙恵がお世話になってます」
美和 「あぁ…あぁ~…そうなんだ~…」
堂島 「どうかしました?でも嬉しいな、イケメンだなんて言われたら、調子乗っちゃいますよ。ハハハ」
美和 「(独り言で) なんか急に馬鹿っぽく見えてきた…」
堂島 「何か言いました?」
美和 「いえ、別に~」

      藤ヶ谷、並河と話しながら上の段から現れる。
      並河、藤ヶ谷の話をメモを取りながら聞いている。

藤ヶ谷「~ですからね、実際に自分の足で、現場を見て汗をかきたいと。こう思った訳ですよ」
並河 「なるほど~」
藤ヶ谷「あ、お嬢さん、ピースハートの現場っていうのはココで良いのかな?」
美和 「はい。…あ、取材の方ですか?」
藤ヶ谷「あぁ、取材はコチラのお嬢さん」
並河 「どうも、フリーライターの並河といいます。今日は藤ヶ谷さんに紹介して頂きまして、こちらの取材をさせて頂く事になりました」
美和 「藤ヶ谷?」
藤ヶ谷「おぉ急に呼び捨て!」
美和 「すいません」
藤ヶ谷「良いですよ、良いですよ。逆に新鮮で良い!ま、このボランティアの現場では私の方が新人ですからね。呼び捨て大いに結構!新人ですから。片仮名で“シンジン”ですから」
      沈黙。
並河 「…はい?」
藤ヶ谷「今の、シンゴジラとかけてみました。ハハハ」
美和 「何で?」
堂島 「分かりづらい」
並河 「ハハハ、分かる、分かる」
美和 「嘘でしょ」
藤ヶ谷「皆ね、私が経営コンサルタントなんていう硬い仕事をしてるもんですから、私まで硬い人間だと思われがちなんですが、実際は全然、硬いどころかフニャフニャです。ハハハ、もう冗談が大好きなんですよ」
並河 「なるほど~」
      美和、藤ヶ谷を見てから頭を抱える。
美和 「若いイケメンかぁ~…」

      橘、津田、沙恵が話しながらやって来る。

津田 「新人さんもう来てるの?」
橘  「こっちこっち」
津田 「(藤ヶ谷に) あぁ、どうも~」
橘  「ちょっと、誰に挨拶してんのよ!」
津田 「え?」

      美和、マイムで橘に新人は堂島じゃない事を伝えようとする。

堂島 「(沙恵に) おう!」
沙恵 「ノブ…君」
橘  「ノブ!?あんた、何処取ってんの!?私はまだ橘の“な”があるから、なっちゃんで良いけど、ノブなんか何処にもはいってないじゃない」
沙恵 「何の話をしてるんですか?」
橘  「呼ぶんだったら王子、もしくは…ヒカル♪」
藤ヶ谷「おぉ~今度は下の名前で呼び捨てですか!フレンドリーな現場ですね」
橘  「はぁ!?」
津田 「橘さん、急に失礼じゃない?」
美和 「違うんですよ、橘さん」

      沙恵、堂島に寄って行く。

沙恵 「ノブ君、何してんの?」
堂島 「沙恵の頑張ってるところ見ようと思って」
美和 「ほら、あれ!(堂島と沙恵を指さす)」
橘  「波多野さん、抜け駆けー!」
美和 「そういう事じゃなくて!」
堂島 「(皆に) 沙恵がお世話になっています。(沙恵に)…沙恵、俺の話皆にしてくれてるんだって」
沙恵 「いや、してないけど」
堂島 「照れるなってぇ」
美和 「あの人は沙恵ちゃんの彼氏で、藤ヶ谷さんは…(顎で藤ヶ谷を指す)」
藤ヶ谷「どうも、シンジンの藤ヶ谷光です」
橘  「…えぇ!嘘でしょ、藤ヶ谷光?」
藤ヶ谷「はい」
橘  「いやいや、こんなオジサンがLINEのプロフィール、ギターな訳ない」
藤ヶ谷「私、趣味でオヤジバンドを組んでまして…」
橘  「詐欺だよぉー」
藤ヶ谷「詐欺じゃないですよ、私はボランティアに来たんです」
並河 「私は取材に」
橘  「新人がこんな濃いぃオッサンだなんて。有り得ない!」
美和 「しょうがないよ、なかなかそんなイケてる人こないよ」
橘  「イケメンとの出会いは?」
美和 「ココでは無理だよ」
藤ヶ谷「悪かったね、イケてなくて」
津田 「ねぇ聞こえてるよ」
橘  「嫌だぁー!」
美和 「私だって嫌だよ。でも受け入れなきゃ、現実を」
橘  「悪い夢なら覚めてぇー」
藤ヶ谷「私こそ悪い夢を見ているようだよ」
美和 「橘さん、冷静に」
並河 「(メモリながら) 悪夢のような現場…」
津田 「何を記事にしようとしてるんですか!止めてください」
藤ヶ谷「私もう帰りますよ」
津田 「待ってくださいよ」
橘  「(美和に)もう大丈夫…(作り笑顔で) 新人さん、大歓迎です」
藤ヶ谷「嘘つけ!」
橘  「くぅ~せっかく気を遣ったのに」
藤ヶ谷「それ口にしてる時点でダメだからな」

      堂島、皆の方に近づいて行く。

堂島 「皆さん、だいたい察しました。新人がイケメンな方の俺じゃなくて、すいません」
藤ヶ谷「じゃあ、私がブサイクな方みたいじゃないですか!」
沙恵 「ややこしくしないで」
橘  「あんたもそこまでじゃなからね!」
堂島 「えぇ」
沙恵 「皆さん、すいません。彼、ちょっと言葉知らない所があって。悪い人じゃないんです」
堂島 「言葉知らなくねーよ、俺」
橘  「あんたが彼なんか連れて来るからいけないのよ」
藤ヶ谷「そうだよ、よく分かんないけど君たちも何なんだ!」
津田 「えぇ~そいつ沙恵ちゃんの彼なの」
並河 「あの、いつもこんな感じなんですか?」
津田 「違います!もぅ沙恵ちゃん、頼むよ」
沙恵 「私!?」
橘  「そうよ!」
藤ヶ谷「この屈辱どうしてくれるんだ」
堂島 「俺、言葉知らなくねーから」
沙恵 「あぁ~悪い夢なら覚めて!」

      沙恵、しゃがみ込む。美和、皆との間に入り謝る。
      ケイタ、現れる。
      照明暗くなり、下手のケイタのみ明かり。

ケイタ「ハハハ、訳わかんないね~」

      橘が藤ヶ谷に謝る。
      津田が並河に弁明をしてから資料を見せる。
      沙恵が堂島に怒る。しばらくして堂島、藤ヶ谷に謝る。
      美和、携帯を持ってケイタに近づいて来る。

美和 「結局、私が何の関係もないのに一緒に謝って何とかしたんだから」
ケイタ「美和は災難だったけど、沙恵も可哀想だよね」
美和 「いや、あのコが悪いよ。なのに、自分は被害者です、みたいな顔してさ」
ケイタ「そうかな~?原因は橘さんなんじゃないかな」
美和 「いや、沙恵だよ」
ケイタ「でも、それは今の美和が思う事でしょ?」
…思い出ってさ、その時その時の気持ちで、全く違って見えてくるものなんだよ。同じ景色のはずなのに」
美和 「…じゃあ、私が悪いの?」
ケイタ「分かんない。だって僕の意見は君の意見だから」

美和 「…」
ケイタ「でも、あの日がなかったら今こんな事になってないよ」
美和 「うん…」

      上手にアイが現れる。
      ケイタ、去って行く。
      美和は下手奥で携帯で話している動き。
      下手と切り替えで上手のアイのみ明かり。

アイ 「皆、本当に馬鹿だね~」

      沙恵が携帯を持ってアイに近づいて来る。

沙恵 「でしょ!あの時から皆、私の敵だったんだよ」
アイ 「そうかな~?」
沙恵 「そうだよ。美和だってさ、私のフォローしてくれたのかと思ったら、最後私に、沙恵も気をつけた方が良いよって言ったんだよ。沙恵“も”って」
アイ 「そういう言い回しになっただけじゃない」
沙恵 「違うよ。きっと、あのコ内心は私が怒られるのを見て楽しんでたんだよ」
アイ 「でも、一番悪いのは橘さんだけどね」
沙恵 「いや、美和だよ」
アイ 「フフ…楽しかった景色を黒く塗り潰しちゃダメだよ。ま、思い出って上書きされちゃうもんだけどさ」
沙恵 「…何それ?」
アイ 「沙恵が言わせてるんだよ~」
沙恵 「…」
アイ 「それに、流石にこの後は嫌な思い出じゃないでしょ?」
沙恵 「分かんない。今となっては…」

      アイ、去って行く。
      照明元に戻る。

      藤ヶ谷、橘、堂島で仲良く笑いあう。

沙恵 「え!知らない間に仲良くなってる」
藤ヶ谷「あれ良い曲だろ?」
堂島 「最高っす!」
橘  「私も好き」
沙恵 「何で私より早く馴染んでるの!?」
堂島 「俺もバンド組んでるんすよね。まだ路上しかやってないっすけど、プロ目指してます」
橘  「へぇ~どんな曲やるの?」
藤ヶ谷「オリジナル?」
堂島 「はい。一応自分がヴォーカルで詩も曲も作ってます」
橘  「へぇ~ちょっと歌ってみて♪」
藤ヶ谷「聞きたいね」
堂島 「うちパンクなんすけどね。じゃあ…老人ファックって曲なんすけど…」
橘  「老人ファック?」
藤ヶ谷「聞きたくないね」
堂島 「いや、いきます!」
沙恵 「やめといた方が良いよ、ノブ君」
堂島 「なんで?」
沙恵 「ちょっと雰囲気と合わない気がするし」
津田 「じゃあ皆さんそろそろ作業に移りましょうか。今日はこちらの並河さんがその様子を取材してくださるみたいなんで」
並河 「宜しくお願いします」
橘  「あぁ、私メイク直してきます」
津田 「そのままで良いですから顔は写さないようにお願いしたんで。とにかく作業を始めましょう!」

      美和、奥から走って来る。

美和 「沙恵―、小清水さんが怒ってるよー」
沙恵 「え?私に?」
津田 「作業始めるよー」

      小清水、試作の脚の折れた椅子を持って来る。

小清水「家具のゴミ、テントに置かないでちゃんと片付けてください!」
沙恵 「それゴミじゃないんです」
小清水「そうなの?」
沙恵 「ゴミだけど」
小清水「どっち!?」
津田 「作業は?」
沙恵 「だから、ココで出たゴミを使って椅子を作ってたんです!」
小清水「これ、あなたが作ったの?」
沙恵 「はい。いつも集めてる廃材のゴミなんかを再利用できないかなって思って」
美和 「もしかして、昨日言ってたやつ?」
沙恵 「うん」
堂島 「へぇ~コレ!コレがゴミ」
橘  「すごいじゃない」

      堂島、橘、椅子の前にまわり込んで見る。

津田 「いや、すごいけどさ。作業の時間だから」
並河 「へぇ~、新しいタイプのボランティアですね!」
津田 「いや、別にうちはそういう団体じゃないですよ」
藤ヶ谷「いや、良いじゃないですか。物を大切にするという精神。復興にも繋がるし、むしろコレを皆でやってみるというのも。いつもの淡々とした作業よりも、コッチの方が被災地に貢献していますよ」
津田 「いや、あなた今日初めて来たんでしょ。何で決めつけるんですか?」
並河 「これは良い記事になりそうですよ!」
津田 「本当ですか?ま、僕もアリだとは思ってたんですけど」
藤ヶ谷「ほぉ~近くで見たら、なかなか上出来じゃないですか、ねぇ」
沙恵 「あ!それまだ試作品なんで…」   

      藤ヶ谷、座ろうとするが、倒れる。

一同 「うわぁ!」

      上手以外、薄暗くなる。
      沙恵、頭を抱える。
      アイ、上手に現れて笑う。
      皆、藤ヶ谷を抱き起こしている。

沙恵 「やっぱり最悪の思い出だよ~」
アイ 「そう?」
藤ヶ谷「いやいや、気にしなくて大丈夫だよ。失敗は誰にでもある事だからね」
堂島 「大丈夫っすか?」
津田 「病院行きます?」
藤ヶ谷「いや、本当に大丈夫だから。痛たた…」
橘  「確かテントに湿布があるから」

      橘、藤ヶ谷に肩を貸す堂島と津田、並河、小清水去って行く。

沙恵 「その後のツイートだよ」
アイ 「荒れてたもんね~」
沙恵 「美和と一緒に携帯見てビックリしたんだもん」
アイ 「私も読み上げながら引いたな~」
 
      アイ、上段に登る。
      美和、近寄る。

美和 「沙恵、藤ヶ谷さん怒ってなくて良かったね」
沙恵 「(携帯を見ながら) 何コレ…」
アイ 「今日来た現場は馬鹿が多い!」
美和 「何それ?藤ヶ谷さんのツイート?」      

      藤ヶ谷、上段に現れる。

藤ヶ谷「…不愉快な現場、不愉快な若者、もっとしっかり注意しておけば良かった。…だいたい自分で試してもいないのに俺を座らせるなんて、俺は実験動物か!?モルモットか!?ふざけるなっ!」

      藤ヶ谷、怒りながら去って行く。

アイ 「相当ご立腹だよ~」
沙恵 「何でぇ!?怒ってない、大丈夫って言ってたじゃん~」
美和 「だよね」
アイ 「こっちが本音だよ~」
美和 「あっ、コレ見て」

      上段にケイタが現れる。

ケイタ「橘さんも、あり得ない!って書いてるし、津田さんも取材が台無しだぁーってさ。ヤバいね」
沙恵 「さっきは皆、すごいとか、アリだとか言ってたのに」
アイ 「皆、SNSだと普段以上に辛口になるからね~」
美和 「でも大丈夫だよ、きっとそんな意見ばっかりじゃないよ」
沙恵 「そうかな~」
アイ 「ほら、きっと彼なら味方してくれてるよ!」
美和 「これ、彼氏さんのツイート?」
沙恵 「うん」
ケイタ「彼、こんな事言ってるよ~」
アイ 「一分前にツイートしてるね」
 
      堂島、段上に現れる。

堂島 「今日は空が高いなぁ~良い曲が浮かびそうだ!」

      堂島、満面の笑顔を見せて去って行く。

アイ 「全然、関係ない!」
ケイタ「今、つぶやく事じゃないね」
沙恵 「嘘でしょ…」

      小清水、現れる。

小清水「波多野さん」
沙恵 「ごめんなさい、コレすぐ片付けますんで」
美和 「私も手伝いますから」
小清水「そうじゃなくって」
沙恵 「藤ヶ谷さんまだ怒ってます」
小清水「どうだろう?大丈夫じゃないかな。今は奥で煙草吸いながら貧乏ゆすりしてるけど」
美和 「それ絶対怒ってるよ」
小清水「波多野さん、何処かで家具作りの勉強とかしたの?」
沙恵 「いえ、自己流で。自分で棚とかは作ったりしてるんですけど。椅子は初めてで」
小清水「そっか。じゃあ、プロの人に相談してみたら?私もね、被災地の廃材を使って家具を作るって発想はすごい良いなって思うんだ。だから、協力するよ。どうかな?」
沙恵 「でも、家具屋さんの知り合いなんていないし」
美和 「私も」
小清水「じゃあ…私の知り合いでさ、家具を作ってる職人さんがいるんだけど会ってみる?」
沙恵 「はい!」
美和 「ちょっと癖のあるオジサンなんだけど。特に椅子を造るのに定評があってさ、雑誌とかにも紹介されてるんだ。だから腕は確かだと思う。その人なら何か頑丈に作れる方法とか教えてくれるかもしれないし」
美和 「良かったじゃん!沙恵、紹介してもらいなよ」
沙恵 「でも、なんかちょっと怖いな」
美和 「大丈夫だよ、私も一緒に行くから。小清水さんお願いします」
小清水「じゃあ、ちょっと連絡取ってみるね。もし向こうの都合が合えば、今日この後でも会いに行ってみましょ」
沙恵 「え!今日!?」
小清水「私、それで連絡してみるね」

      小清水、携帯で電話をしながら下手に去って行く。

沙恵 「大丈夫かな?」
美和 「大丈夫だって!」
沙恵 「でも、私みたいな素人がいきなりこんなの持って行っても、舐めるんじゃないっとか言われて断られれないかな?」
美和 「言わないよ、雑誌とかにも紹介されてる有名な職人さんなんでしょ?そんな小さい事言わないよ」
沙恵 「そうかな~」
アイ 「家具職人のオジサンって、なんか暖かそうなイメージあるよね~」
ケイタ「そう?」
アイ 「あるよ!いつも笑顔でさ、暖かく人を包んでくれるような…」


      笑顔の村野、現れる。

村野 「これ、君が作ったのかい?」
沙恵 「はい」
村野 「センス良いねぇ~」
沙恵 「本当ですか!」
美和 「良かったね!」
村野 「それに筋が良い!あとはちょっとしたプロの技を教えるから、そしたら簡単に素敵な椅子が出来上がるよ!」
沙恵 「本当ですか!?でもプロの技って、やっぱり難しいんじゃ?」
村野 「釘の打ち方をちょっとソフトにちょんちょーんってやれば頑丈な椅子になるから」
沙恵 「ちょんちょんですか」
村野 「いや、ちょんちょーん」
沙恵 「ちょんちょーん」
村野 「良い!それ!すっごく良い!もう出来てる!出来ちゃってる!そんな感じでちょんちょーん」
沙恵 「ちょんちょーん」
美和 「スゴイよ!沙恵もうプロだよ!」
村野 「うん、君はもうプロだ!今日からうちで働かないかい?即戦力だ!」
美和 「沙恵、やるべきだよ!」
沙恵 「うん♪お願いします!」

      沙恵、美和、頭を下げる。

アイ 「夢が広がるね~」

      アイ、去って行く。ケイタも首を傾げながら去って行く。
      小清水、入れ違いに現れる。
      照明が現実に切り替わる。

村野 「お断りします」
沙恵、美和「え…」
村野 「今、忙しいんだよ~だいたい椅子作りなんて素人がやるもんじゃないよ」
沙恵 「現実はこれか…」
小清水「そんな事言わないで、手伝ってあげなよ」
村野 「無理言うなよ、俺だって仕事があるんだから」
小清水「そんな事言って、相変わらず注文断ってばかりいるんでしょ」
村野 「それは値段と発注が合わないからだろ。本当に日本では椅子作りの認識が甘すぎるんだよ」
小清水「じゃあ暇なんだからやってあげなさいよ」
村野 「お前なぁ」
美和 「あの、小清水さんと村野さんって仲良いんですね?」
小清水「え…」
村野、小清水「全然!」
美和 「すごい息合ってる」
小清水「私、大学時代にココでバイトしてた事があってね。それだけ。それだけだから」
村野 「ま、使えないバイトだったけどね」
小清水「よく言う…よく言いますね。私が仕事取って来てあげてたのに」
村野 「バイトが勝手に客の注文受けたりするか?」
小清水「それは村野さんが片っ端から注文断ったりするからでしょ」
村野 「だから、それはコストとのバランスでさー」
沙恵 「良いなぁ~」
村野、小清水「え?」
沙恵 「そんな言い合いが出来るなんて、やっぱり仲が良いんですね」
      村野、小清水、顔を見合わせる。
村野 「…」
小清水「腐れ縁なだけです。村野さん、ちょっとアドバイスとかしてあげるだけで良いから。相談に乗ってあげてよ」
村野 「うん、でも…」
小清水「お願い。ちょっと良いから」
村野 「ちょっとって言ってもさー」
小清水「じゃ、私行かないとだから。ごめんね」

      小清水、去って行く。

村野 「おい、まだ俺はOKとは言ってないぞ、おい…」
沙恵 「お願いします」
村野 「…で、設計図は?」
沙恵 「一応これ…(携帯の画面を見せる)」
村野 「なんだこれ?椅子の絵が描いてるだけじゃない。三面図は?」
沙恵 「いや…」
村野 「だから、正面と側面、あと平面で書いた図がるでしょ。…ないの?そんなのも作らずに行き当たりばったりで作ったのかよ」
沙恵 「はい…」
美和 「私たち素人で分からない事だらけだから、そういうのを教えてもらえたらなって」
村野 「素人すぎるでしょ。そりゃ請われるよ。じゃあプレッシャーは何なの?」
沙恵 「プレッシャー?」
村野 「そう、それによってストレスも変わってくるから」
沙恵 「たぶん…初めての事に挑戦するっていう事かな。それがストレスになってるのかも」
村野 「はぁ?」
沙恵 「だから、それがプレッシャーになってストレスになってるのかもって」
村野 「何言ってんの!家具作りでプレッシャーって言ったら、荷重、椅子だったら座る物の事。それで素材に与える負担の事をストレスっていうの。で、この椅子は何用なの」
沙恵 「座る用です」
村野 「そりゃそうでしょ、椅子なんだから。どんな人が座るの?」
沙恵 「…色んな人?」
美和 「椅子に誰用とかないでしょ。男用とか女用とかあるの」
村野 「あるよ!例えば、飲食店に置く椅子なのか、パソコンで作業する時に座る椅子なのか、机のない場所に置く椅子なのかで、かかる負担も作りも全部変わってくるんだよ。それくらい椅子作りっていうのは君たちが思っているより繊細なもんなんだよ」
沙恵 「そっか…」
村野 「まず、学校行って力学から勉強する事だね。じゃあ僕は作業があるから」
沙恵 「色んな時に座れる椅子が造りたいんです!」
村野 「だから…」
沙恵 「だって椅子なんていっぱい置けないから。例えば、仮設住宅に住んでる人が部屋にいっぱい椅子なんて置けないし。でも、家具が一つもない部屋ってきっと殺風景で淋しいし。そんな時に部屋にあると暖かい気持ちになれて、食事をする時にも作業をする時にも色んな時に使える家族みたいな椅子が、災害で出たゴミから作れたら…なんか良いかなって。馬鹿みたいって思われるかもだけど、でも、家具を作ることが未来の生活を作る事なら、私はそういう家具が作りたいなって」
村野 「…」
美和 「そうだよね、何用かは決まってないけど、目的はしっかりありますよ」
村野 「理想を語るだけなら、誰でも出来るよ」
美和 「理想語っちゃダメなんですか?おじさんはそういうのないんですか?」
沙恵 「美和」
美和 「復興に貢献しようとかって気持ちはないんですか?」
村野 「それがこれと一致すると思わないけどね」
美和 「でも…」
沙恵 「良いよ、帰ろ。失礼しました」

      沙恵、美和を連れて帰ろうとする。

村野 「…筆記用具、持っておいで。明日の夕方なら作業も終わってるし」
沙恵 「え?」
村野 「まずは設計図の書き方から勉強しないとだろ」
美和 「じゃあ協力してもらえるんですか?」
村野 「アドバイスをするだけだよ。あんまり変な椅子が世の中に出回るのは僕も職人として嫌だし。それに、理想語るだけの奴は嫌いけど、行動に移そうとする奴は嫌いじゃないから」
美和 「なんか回りくどい言い方でよくわかんないよね」
沙恵 「ありがとうございます!」

暗転


【第三景】

      上段にアイ。
      下段で沙恵、携帯を持って正面を向いて嬉しそうにしている。

      M、アップテンポの洋楽

      中央明転。

○沙恵の一人の世界

アイ 「ワクワクする♪景色が色づきだした感じ!」

      沙恵、アイの方を振り向いて話しながら駆け寄る。

沙恵 「意味わかんないかな?」
アイ 「良いんじゃない?久々にコッチにツイートしたい気分なんでしょ?」
沙恵 「そう!なんかジッとしてられないんだ。もぅ飛び跳ねたい気分」
アイ 「じゃあ、飛び跳ねちゃえ!」
沙恵 「うん!(飛び跳ねてから) 私、椅子を作る為に超~勉強する!」
アイ 「イイネ!」
 
      上段に神、現れる。

神  「ようこそ!まとめサイト…」
沙恵 「いい!(携帯の画面をスクロールする) あの工房で勉強するから!早く明日にならないかな♪」

      沙恵、去って行く。

神  「ちょっと!(沙恵を追っていく)」
アイ 「イイネ!…(言ってから後を追う)」

      暗転。

○ボランティア現場

      下段、下手から上手へケイタ、携帯持つ美和、上手へ歩いて来る。
      上手、切り替えで明転。

ケイタ「ほら、こんなサイトもあるよ」
美和 「うん、これとか使えそう♪」

      下手から橘、美和の所へ走って来る。

橘  「ねぇねぇ、向こうにイケメンのボランティアさんいたよー」
美和 「ごめんなさい、今ちょっと忙しくって」
ケイタ「あと、こんなサイトもあるよー」

      美和、再び携帯を見て歩き出し去る。

橘  「見に行かないのぉー、ねぇー(追いかけて行く)」

      暗転。

○工房と堂島の部屋

      上段に沙恵、村野、図面を見ながら歩いて来る。
      上段、切り替えで明転。

村野 「この辺をもっと細かく」
沙恵 「はい」

      下段に堂島、電話をしながら現れる。
      下手、明転。
少し後に、上段にアイが現れる。

アイ 「ねぇ彼から電話だよ」

      沙恵、携帯の電源を切ってしまう。

沙恵 「すいません」
      堂島、凹んで去って行く。下手暗転。
      アイ、微笑んで去って行く。

村野 「例えば、ココをさ…」

      村野、沙恵、図面の話をしながら去って行く。
      暗転。

○ボランティア現場

      下段、上手から橘、携帯を眺めながらニヤニヤして現れる。
      続いて携帯でネットを見る美和、ケイタ歩いて来る。
      上手、切り替え明転。

橘  「ねぇ、ピッピ市松の新しい動画アップされてるよ」
ケイタ「このサイトも家具の紹介とかしてるよ。ブックマークする?」
美和 「うん」
橘  「ねぇ今見る?見ちゃう?」
ケイタ「それに、このサイト、家具の販売もやってるよ」
美和 「それ良い!沙恵に教えなきゃ (上手へ走って行く)」
ケイタ「イイネ!(続いて去って行く)」
橘  「ちょっと、見ないの?一人で見ちゃうよ、ピッピ市松…」

      上段にピッピ、フリップを持って現れる。
      上段、明転。

橘  「あ、充電切れちゃった」

      ピッピ、すぐ暗転になり去って行く。
      橘もガッカリして上手へ去って行く。
      上手暗転。

○藤ヶ谷家の玄関

      下段、下手から藤ヶ谷、家に帰り電気のスイッチを入れる仕草。
      切り替えで下手明転。

藤ヶ谷「ただいま…」

      藤ヶ谷、誰も誰もいない事確認する。
      藤ヶ谷、溜息をつく。
暗転。そのまま下手へ去って行く。
      上段には設計図を持った村野、沙恵、美和、出てきている。

○工房

      上段、切り替え明転。

村野、図面を見ている。
沙恵 「どうですか?」
美和 「OKですか?」
村野 「ん~…悪くないね。これで作ってみるか」
沙恵、美和「やったぁ!」
村野 「じゃあ早速作業に…」
美和 「記念に写メ!」

      美和の自撮りで三人で写メを撮る。

村野 「じゃあ作…」
沙恵 「私も!笑って」

      沙恵の自撮りで三人で写メを撮る。
      美和、沙恵、すぐにツイートをする。
      下段、左右からアイ、ケイタ現れる。

村野 「じゃあ今から作業に…って時に、何で携帯いじってんの」
ケイタ「私たちのプロジェクト、一歩前進!イイネ!イイネ!イイネ!」
美和 「すぐにいっぱいイイネきてる!」
アイ 「夢の椅子の図面が完成!イイネ!イイネ!イイネ!」
沙恵 「こっちも!」
ケイタ「その投稿シェア!」
アイ 「こっちもシェア!」
ケイタ「イイネ!」
アイ 「イイネ!」
ケイタ、アイ「イイネ!!」

      ケイタ、アイ、ハイタッチをして去って行く。

美和 「ヤバいね!」
沙恵 「うん!」

      M,フェイドアウト。

村野 「君達がヤバイよ!ほら、携帯ばっかいじってないで。椅子造るんだろ」
沙恵、美和「はーい」

      沙恵、美和、嬉しそうに去って行く。

村野 「まず5分の1の模型の準備から始め…」
沙恵、美和「はーい!」
村野 「ったく…」

      村野、少し嬉しそうに工房の奥の二人を見てから、図面を見ながら段差に腰かける。

      小清水、プリンの箱を持って下手に現れる。

小清水「楽しそうだね」
村野 「優香…どうしたの急に?」
小清水「ちゃんとやってんのかな~って様子見に来ただけ。でも心配なさそう」
村野 「こっちは大変だよ、素人に1から教えるなんて」
小清水「そう?その割には楽しそう」
村野 「馬鹿言うな」
小清水「嬉しそうに写メなんか撮って。ツイートされてたよ~(携帯を出す)」
村野 「は?あれは、あの子たちに無理やり撮られて…」
小清水「図面出来たんだね」
村野 「あぁ、とりあえず。ほら。…俺はさ、やっぱり写真とか苦手で」
小清水「フフッ、やっぱり、ぎこちない」
村野 「ま、初めて書いた図面じゃこんなもんだろ」
小清水「相変わらず笑顔が下手」
村野 「写真の話?」
小清水「微妙な表情。でも分かるよ、楽しそう」
村野 「そうか?」
小清水「写真の表情なんて作り笑顔ばっかりだけどさ、その場の空気は意外と正直に伝わるもんだよ」
村野 「なら分かるでしょ、無理やり撮られたって」
小清水「フフフ、何?このピースサイン」
村野 「それは条件反射でつい」
小清水「知ってる?写真撮る時にピースサインをするのって日本人だけなんだって」
村野 「そうなんだ。ま、日本人だからな」
小清水「世界は見ないんだ…」
村野 「世界?ま、ネットだから世界中から見られるんだろうけど、別に世界に向けて写真撮った訳じゃないし」
小清水「初めて作ったにしては…なんて誉め言葉は、職人にとって屈辱の言葉だ。モノを作るなら、コレを作って世界を変えてやるってくらいの気持ちがないとダメだって。昔言ってたよね」
村野 「…言ったか?」
小清水「言ったよ。私が初めて図面を書いた時。あのコたちには言わないの?」
村野 「…実際、家具一つ作ったくらいで世界が変わるはずないからな」
小清水「知ってるよ。皆知ってる。でしょ?でも、馬鹿みたいに真っ直ぐに信じて理想を追いかけてたから。だから私は支えようと思ったし、職人を諦めて就職したんだけどな」

美和、上段奥から現れる。

村野 「理想ばっか言ってちゃダメだって言ったのは優香だろ」
小清水「理想じゃ美味しいスイーツ買えないもん。理想じゃ住民税だって払えないし。理想の生活をしようと思えば思う程ほど現実はどんどん理想とはかけ離れていっちゃう。だから私は現実の幸せを大切にすることにしたんだ。現実の幸せを掴むのって夢みたいに甘くないんだよ」
村野 「…」

      美和、気まずくなって去ろうとするが箱に足をぶつける。

小清水「あ、美和さん」
美和 「小清水さん、来てたんですね~気づかなかった~」
小清水「これ、差し入れに持って来たんで皆で食べてください」
美和 「ありがとうございます。わぁ、これ高級プリンじゃないですか!」
小清水「じゃあ私もう行きますんで」
美和 「お疲れ様です」
村野 「もう行くの?」
小清水「ボランティアで休んでたぶん、仕事たまっちゃって」
村野 「そうなんだ」
小清水「(行こうとして振り返って) あ、親指たてちゃダメですよ」
村野 「え?」
小清水「ピースサイン。これだとフレミングの法則になっちゃう。(美和に)じゃあ、頑張って」

      小清水、去って行く。
      村野、手でフレミングを作って見つめる。

村野 「あ、駅まで送るよ (出て行く)」

      美和、プリンを奥の箱に置いて、下段の前の方まで来る。

美和 「何あれ!絶対あの二人、怪しい」

      美和、携帯を出す。ケイタ現れる。

ケイタ「“怪しい男女関係”で検索する?」
美和 「沙恵がはまってるっていうサイトにあるかも」

      神、上段に現れる。

神  「ようこそ!まとめサイト、ゴッドウェブへ!」
美和 「これ、いつもTOP画面うるさいよね」
ケイタ「なんかこのサイト主張強いよね」
神  「皆さんにお知らせ!来月よりゴッドウェブショッピングを開設します!このサイトは…」
美和 「広告もうるさっ!」
ケイタ「スキップしよう」
神  「スキップすんのぉ?はいはい、…身の周りの怪しい男女の関係を見極める条件、204か条!」
ケイタ「多過ぎない!?まとめろよ」
神  「その1、付き合っていないと言いながらペアルックで出社する」
ケイタ「それ誰が見ても付き合ってるよ!怪しくないよ」
神  「その2、特定の男性のギャグだけでよく笑い、写真をよく撮る」
ケイタ「…それ、林家ペーとパー子だけだよ」
神  「ちなみにパー子は高い声で笑い過ぎて耳が悪くなった」
ケイタ「いつの間にかパー子のまとめサイトになっちゃったよ」
美和 「このサイト使えないね」
ケイタ「消そう」
神  「待って待って!次が大事やから。その3、第三者がいると妙に仲良しじゃない事を強調したり、丁寧に喋ろうとしてるのにたまに溜口になる男女!これは、まずデキてると見て良いね」
美和 「これはあるかも!」
ケイタ「うん」
神  「(前まで来て) でしょ!やっぱり使えるサイトでしょ!俺的にお勧めはね、その164やねんけど」
ケイタ「やっぱ主張強いね」
美和 「もう消そう」
神  「まだ164いってませんけど!」

      ケイタ、神を押しやって去って行く。
      美和、工房の出口の方を見て二人の仲を推理する。

      暗転。切り替えで段上のみ明転。
      美和、去って行く。

○沙恵の部屋

      堂島が図面を見ながら現れる。
      沙恵、楽しそうに今日の出来事を話す。

沙恵 「それでね、村野さんが、初めてにしては上出来だって。すごくない?」
堂島 「うん…」
沙恵 「村野さんの作る家具ってさ、オーソドックスなんだけど、なんか温かみ
   があるっていうか、人柄が出てて良いんだよね~」
堂島 「ふ~ん」
沙恵 「だから私、村野さんが作ったやつみたいなのが作りたいって言ったら、
十年早いって怒られちゃった。ま、確かにそうなんだけど、五年…いや、
三年で私も作ってやろうと思うんだ!」
堂島 「沙恵は今のバイト辞めてこのまま、その工房で働くの?」
沙恵 「分かんない。でも、楽しいんだ♪それで今日、村野さんがね…」
堂島 「沙恵、久々に二人で会ったのに、そのオッサンの話ばっかりだね」
沙恵 「ノブ君妬いてるの?」
堂島 「そういう訳じゃないけど」
沙恵 「ノブ君も工房に遊びに来なよ、村野さんに紹介したいし。ノブ君みたいにアーティスト目指してる人は、絶対話が合うと思うな。曲作りとかのヒントを貰えるかも」
堂島 「何で俺が家具屋のオッサンに曲のアドバイスなんか貰わなきゃいけないんだよ。逆に俺がアドバイスしてやりたいね、そのオッサンに。ヴィジョンが甘いって」
沙恵 「何でそんな事言うの?ノブ君、村野さんの家具見た事ないでしょ」
堂島 「だいたい分かるね。だって、いい歳して客もあんまり来ないような家具屋やってんだろ。それヤバくない?ヴィジョンが甘いんだよ。だいたい今は家具なんかもネットで注文する時代だろ?わざわざ店にまで来て椅子買ってくような奴いないって。どうせ後1、2年で店も潰れて、そのオッサンも失業するのがオチだね」
沙恵 「何でそんな酷い事言うの?私、ノブ君のバンドの事悪く言った事あった?ノブ君のバンドに女の子のメンバーが入った時も私、何にも言わなかったよ」
堂島 「何でそんな昔の話すんの?今関係なくない」
沙恵 「ノブ君に私の気持ちなんか分かんないよ」
堂島 「そんな事ないって」
沙恵 「もういい」
堂島 「沙恵」
沙恵 「プリン食べよ、今日貰ったやつあるから」
堂島 「うん。誰に貰ったの?」
沙恵 「村野さん。買ったのは小清水さんだけど、くれたのは村野さん」
堂島 「どういう事?」
沙恵 「嫌なら食べなくて良いよ」

      沙恵、プリンの箱を持って下手の奥へ。

堂島 「いや、意味分かんなかったから聞いただけでしょ…なんだよっ…」

      堂島、俯き、やがて台所の沙恵を見つめる。

堂島 「…やっぱ怪しいよな…そういや、まとめサイトに…(携帯を見る)」

      沙恵、戻って来る。
      堂島、慌てて携帯をしまう。

沙恵 「ねぇ、うち大きいスプーンしかないんだけど良い?」
堂島 「う、うん」

      沙恵、戻ろうとする。

堂島 「沙恵、椅子作る時ってどんな格好してんの?」
沙恵 「別にこのままだけど。何で?」
堂島 「いや、なんとなく。工房でどんな格好してんのかな~って」
沙恵 「そういえば、皆でお揃いのエプロン買おうってなってるけど」
堂島 「お揃い!?…ペアルック」
沙恵 「え、何で?」
堂島 「あのさ、その家具屋のオジサンと話す時に笑ったりする」
沙恵 「するよ。何が聞きたいの?」
堂島 「いや、職人さんって怖いのかなぁって思って」
沙恵 「(和んで)…私も最初は怖い人かなって思ったけど、仲良くなったら結構冗談とかも言う面白い人だよ」
堂島 「じゃあそのオジサンのギャグでよく笑うんだ…」
沙恵 「はぁ?」
堂島 「写真とかは撮らないよね?」
沙恵 「撮ったよ、今日。見る?」
堂島 「…あぁ~最悪だ!」
沙恵 「何?」
堂島 「もうこんだけ条件揃ったら、言い逃れ出来ないからな!俺ショックだよ、家具屋のオッサンと沙恵がデキてるなんてさ!」
沙恵 「何でそうなるの!?」
堂島 「最近、全然電話に出ないって思ったら、そういう事だったんだな!酷いのは沙恵の方だよ。信じらんない!」
沙恵 「ちょっと意味分かんないよ」
堂島 「そうやって高い声で笑ってたら、耳が悪くなるからな!」

      堂島、怒って上手へ去って行く。

沙恵 「はぁ!?…何なのっ!」

      暗転。


【第四景】

○ボランティア現場

      コートやアウターを着たボランティアの面々。
      藤ヶ谷、小清水、津田、橘、美和。
      明転。

津田 「…という訳で無事に全作業終了致しました。お疲れ様です」
皆  「お疲れ様です」
藤ヶ谷「良かったですね、本格的に冬になる前に終わって」
津田 「はい」
美和 「今日でも充分寒かったですよ。私、さっき荷物運んでる時、泣きそうになりましたもん」
小清水「海側、風強いですもんね」

      橘、泣き出す。

津田 「どうしたの橘さん?」
藤ヶ谷「産卵か?」
美和 「そんなに寒いの?」
橘  「だってぇ~…」
小清水「どうしたんですか?」
藤ヶ谷「卵を産んでるのか?」

      沙恵、上手から現れる。

沙恵 「遅れてすいません…」
小清水「(泣きながら) ウミガメじゃないですぅー!」
沙恵 「え?」
津田 「分かってますよ」
沙恵 「(美和の方に行って) 何が起こってるの?」

      美和、沙恵に耳打ちで状況を教える。

橘  「もう明日から皆に会えないなんてぇー…(泣く)」
津田 「そんな事ないですよ」
小清水「たまに集まれば良いじゃないですか。帰りだっていつも皆途中まで一緒なんだし。会おうと思えば」
橘  「そうじゃなくって。こういう集まりって一回解散したら、なかなか集まる事ないんです。私、知ってるんです。たまにはこのメンバーでまた集まろうねっとか、何かあったら連絡するねっていう口約束は、もう年賀メールくらいしか接点を持ちませんって意味なんですっ」
津田 「そうですかね」
藤ヶ谷「確かに、一理あるね」
小清水「藤ヶ谷さん」
橘  「きっと次会うのは…誰かのお葬式」
一同 「えぇ…」
橘  「センター長、まだ作業している団体もあるんだし、ここで解散しないで、他の作業手伝いましょ!もうちょっとやりましょうよ」
津田 「そんな事言われても…」
橘  「じゃないと、私暇になっちゃうし、まだイケメンの彼も見つけてないのに…」
小清水「何しに来てるんですか!不謹慎ですよ」
橘  「また、それ言う~」
小清水「私たちは復興のお手伝いをしに来てるんですよ。それにココみたいにボランティアがい過ぎて逆に迷惑になっちゃう事もあるんです」
橘  「そりゃあさ、小清水さんとか美和ちゃんみたいに就職してて忙しい人は良いよ。でも、私みたいに実家で親の介護をしながら生活している人間は、本当に皆が思っている以上に社会との接点がないんだからね」
小清水「だからって、それをココに求めるのは…」
藤ヶ谷「いや、私もこれで解散するのは惜しいなって思いますよ」
津田 「えぇ」
橘  「でしょ!」
津田 「藤ヶ谷さんだって、お仕事お忙しいでしょ」
藤ヶ谷「まぁ融通が利く仕事ですし、休みを返上すれば何とかなるからね」
小清水「奥さんや娘さんはいいんですか?」
藤ヶ谷「うん…ま、家族もボランティアには理解があるからね」
津田 「でも、もうボランティアの人は帰ってくださいってなってますから」
藤ヶ谷「だから、他の何かをやれたら良いなと思うんだよね。ほら、せっかく良い人材が揃ってるんだから。勿体ないでしょう」
津田 「(周りを見ながら) 良い人材ですか…?」
小清水「何かって、何をやるんですか?」
藤ヶ谷「だから…う~ん…」

      アイ、ウサギのカチューシャを持って現れ、藤ヶ谷に被せる。

アイ 「良いの~?真面目な話してるのに、アプリでこのオジサン、ウサギにして」
藤ヶ谷「う~ん…」

      沙恵、携帯で撮りながら笑いを堪えている。

美和 「どうしたの、沙恵?…ウケる」
藤ヶ谷「例えば、復興に関わる事業をする会社を興すとか」
橘  「それ良い!」
小清水「何をする会社ですか?」
藤ヶ谷「飼えなくなったペットを預かるとか、犬とか猫とか」
美和 「ウサギとか?」
沙恵 「シッ」
藤ヶ谷「そう、ウサギとかも」

      沙恵、美和、クスクス笑っている。

小清水「それもうやっている団体ありますよ」
津田 「それに場所とか確保するのが難しそうですよね」
橘  「やっぱ無理かぁ~」
藤ヶ谷「じゃあ、ネットで何か事業をするっていうのはどうですか。それだったら大きな場所はいらないし、初期投資も少なくて済みますし」
橘  「それ私でも出来ます?パワポとか何の事かも分からないんですけど」
藤ヶ谷「大丈夫、私の知り合いに人気のサイトを起ち上げて成功している人間がおりましてね。そいつに協力してもらえば、何とかなるでしょう」
橘  「へぇ~すごい」
藤ヶ谷「(沙恵と美和に) そこの二人、ずっと携帯見て笑ってないで、何かやりたい事とかないのかね」
沙恵 「え!(携帯をしまう)」
アイ 「ヤバい!バレたよー」

      アイ、ウサギの耳をはずして去って行く。

沙恵 「いや、私は特に…」
美和 「ネットとか使って事業をやるなら…私たちが今作っている椅子をそのサイトで売るっていうのは、どうですか?」
沙恵 「美和さん」
橘  「あぁ、あのココのゴミで作るっていう椅子?」
藤ヶ谷「それ、アリなんじゃないか。被災地から出たゴミを使って作る椅子を売るんだから復興にも繋がるし」
橘  「なんか良い感じなんじゃない」
美和 「ですよね!ちょうど私、椅子を売ったり出来るサイトがないかなってずっと探してたんです」
藤ヶ谷「良いよ!これはちゃんと打ち合わせたら、立派な事業になる可能性があるんじゃないかな。どうですか?」
津田 「いや、どうですかね…それボランティアじゃないですし、僕は責任持てないですよ」
小清水「私も会社がありますから、ちょっと」
美和 「じゃあ、とりあえず空いてる時だけでも手伝いに来てくださいよ」
藤ヶ谷「さっそく軽く打ち合わせしませんか」
沙恵 「待ってください。まだ椅子も完成してないし。私たちだけで作っているのに、そんな大々的にサイト作っても沢山作れないし」
美和 「だから皆に手伝ってもらえば良いじゃない」
沙恵 「でも…」
藤ヶ谷「善は急げですよ」
美和 「良いじゃない、沙恵。打ち合わすだけ打ち合わせてみても。色んな意見が聞けた方がきっと可能性も広がるよ」
沙恵 「うん…」

      並河、上段から現れる。

並河 「すいません、今、作業を終えて解散する団体さん達にインタビューをしてるんですけど、ピースハートさんも今日まででしたよね」
津田 「はい、うちも今日で無事に終わりまして」
藤ヶ谷「ですが、うちは今日で解散しないんです」
並河 「はい?」
津田 「それまだ決まった訳じゃ…」
橘  「逆に今日から始まるんです!」
並河 「どういう事ですか?」
藤ヶ谷「こないだ私が座ろうとして壊れちゃった椅子あったでしょう。覚えてます?」
並河 「あぁ~はいはい」
藤ヶ谷「あれを皆で本格的に造って売っていこうという話になりまして」
沙恵 「皆で?」
並河 「面白そうですね」
橘  「でしょ♪」
藤ヶ谷「まだ企画段階なんですけどね。これから盛り上がっていけばなぁと思っていまして」
並河 「それ取材させてもらっても良いですか?」
藤ヶ谷「勿論。どうぞどうぞ」
沙恵 「何で勝手に?」
美和 「そうだ、逆に何か良いアイデアがあったら教えてください。参考にしたいんで」
並河 「私の?なんか照れるな~。じゃあ、外だと冷えるんで、あっちの食堂で詳しくお話聞かせてもらっても良いですか?」
藤ヶ谷「はいはい」
橘  「写真撮ります?だったらメイク直したいんですけど」

      並河、藤ヶ谷、橘、上段下手へ去って行く。

津田 「それってこの団体でやるって事ですか?僕まだOKしてませんよー」

      津田、言いながら追いかけて行く。

小清水「センター長、テントの片付けどうするんですか?…もう知りませんよ」

      小清水、下手へ片付けに行く。

美和 「(小清水を見ながら) あの人の何処が良いんだろう?」
沙恵 「美和さん」
美和 「沙恵、小清水さんと村野さんってどう思う?」
沙恵 「勝手に決めすぎだよ」
美和 「え?」
沙恵 「何で藤ヶ谷さんや橘さんたちまで誘ったの?」
美和 「誘った訳じゃないけど、あの流れでアプリで遊んでたのがバレたら気まずいしさ。ただでさえ沙恵、今日遅刻して来たから、変な感じにならないように私なりにフォローしたんだよ」
沙恵 「…」
美和 「でも結果、良い感じの流れになったよね~。これで椅子を紹介するサイトも見つかりそうだし」
沙恵 「サイト、そんなに必要かな?」
美和 「当たり前じゃん。沙恵も言ってたでしょ、この椅子作りを色んな人に知ってもらいたいって」
沙恵 「そうだよ。でも、私は椅子が出来たら仮設住宅の人達に直接配って行けば良いかなって」
美和 「でも、それだけだったら世間には注目されないよ。配り終えたらそれでおしまいじゃ意味ないでしょ。この事をネットで話題にしてもらって、それから椅子を一般の人達に販売していかないと」
沙恵 「これで儲けようと思ってるの?」
美和 「そうじゃないけど。仮に儲かったとしても悪い事してる訳じゃないんだから良いと思うよ。どうするの?材料がゴミでも加工するのに制作代だってかかってるんだし。村野さんにもあんなに手伝ってもらってタダ働きって訳にいかないでしょ」
沙恵 「それはそうだけど…」
美和 「それに、利益の一部をココに寄付したら、もっと被災した人たちの為になるよ。その為には、沢山の人達の力を借りて大きなプロジェクトにしていかないと」
沙恵 「…うん…だけど…」
美和 「だけど何?」
沙恵 「…」
美和 「遊びじゃないんだから。沙恵ももっと大人にならないとダメだよ。さ、これから忙しくなるよ」

      美和、打ち合わせに向かおうとする。

沙恵 「美和さんは仕事大丈夫なの?これで忙しくなって」
美和 「私は…私は、どっちにしろ今の会社辞めようと思ってたし。だから今有休消化してるんだし。沙恵もバイト辞めて家具の仕事したいんでしょ?」
沙恵 「うん」
美和 「ほら、打ち合わせ行こう」
沙恵 「…美和さん」
美和 「何?」
沙恵 「…私たち二人で作った椅子だよね?」
美和 「そうだよ。先行ってるね」

      美和、去って行く。
      沙恵、箱に座り込んで携帯を触る。
      アイ、現れる。

アイ 「今日の美和はないよね~。勝手だったよね~。沙恵が変な感じにならないようにフォローしたんだよぉなんて言って、結局は自分が椅子で儲けたいだけだよね~」
沙恵 「親友だと思ってたのに…」
アイ 「だから最後に質問したんだよね?あんな風に答えると思わなかったよね~」

      アイ、美和を連れて来る。

アイ 「さっきの質問どうぞ」
沙恵 「(立ち上がって) 私たち二人で作った椅子だよね?」
美和 「そうだよ」
アイ 「(美和に) 違う違う!NG!その答え0点だから。(紙を渡す) これ読んで。はい、もう一回いきまーす!どうぞ」
沙恵 「私たち二人で作った椅子だよね?」
美和 「違うよ。あの椅子は沙恵が作った椅子だよ。だって沙恵のアイデアで、沙恵が書いた設計図で、沙恵が一生懸命作業してる椅子なんだから!私は親友としてお手伝いをしてるだけ」
沙恵 「ううん、美和さんも頑張ってくれてるよ」
美和 「ううん、私なんか全然。沙恵ってさ、なんか応援したくなるコなんだよ。だから、ついつい出しゃばっちゃったんだ。ごめんね」
アイ 「次!」

      藤ヶ谷、現れる。
藤ヶ谷「沙恵ちゃんごめんね、こんなジジイが出しゃばって」
アイ 「次!」
      橘、現れる。
橘  「沙恵ちゃん、ごめん。ババアなのに出しゃばって」
アイ 「次!」
      並河、現れる。
並河 「ごめんなさい、一番取材をするべき人は沙恵ちゃんだったのに!」
アイ 「でしょ?この椅子のプロジェクトは沙恵がいないと始まらないんだから」
美和 「沙恵、イズ、パーフェクト!沙恵、イズ、ミラクルガール!」
美和、藤ヶ谷、橘、並河「沙恵、イズ、ミラクルガール!」
アイ 「もっと大きな声で!」
美和、藤ヶ谷、橘、並河「沙恵、イズ、ミラクルガール!イエー!!」
アイ 「(一緒に) イエー!!」
沙恵 「(座り込んで)…何でこうならないんだろ」
アイ 「ならないよっ!なったら変でしょ」
美和、藤ヶ谷、橘、並河「沙恵、イズ…」
アイ 「あぁ、もういい、もういい!キリがないから。帰って帰って!」
  
      美和、藤ヶ谷、橘、並河、去って行く。

沙恵 「別にこうなりたい訳でもないんだよな~」
アイ 「分かってるよ。なんか取り残されちゃった気がしたんだよね」
沙恵 「うん」
アイ 「高校時代のトラウマだよね?」
沙恵 「別にトラウマじゃないよ。イジメられてた訳じゃないし」
アイ 「でも親友にハブられた」
沙恵 「たまたま、あのコが好きだった男の子が私に告ってきたから。私は全然タイプじゃなかったから断ったし」
アイ 「そうだよ。沙恵は悪くないよ。でも卒業まで無視された。そして、他の皆とも距離が出来た。あのコはクラスの中心にいる一軍のコだったから」
沙恵 「はいはい、私はどうせ二軍以下ですよ」
アイ 「沙恵がもっと自分の意見を言えば良かったんだよ。あの時も、今も」
沙恵 「いつも家に帰ってから思うんだよね。あぁ言えば良かった、本当はこんな風に思ってたのにって。でも、もっと本音を言うと、自分でもどうしたいのか分からない。私、本当は何がしたいんだろう?さっき美和が言ってた事って正しい。でも、なんか違う気がする。こんな曖昧な気持ち誰に言っても理解されないよ。私の事なんて分かってくれる人いない」
アイ 「そんな事ないよ。きっとあの人なら分かってくれる気がする…」

      村野、下手に現れて、釘を打ったり作業をしだす。
      照明が工房の明かりに変わる。

○工房

アイ 「相談してみたら?」

      沙恵、首をふる。
     
アイ 「話したいから、打ち合わせに行かずにココに来たんでしょ?」
沙恵 「でも…」
アイ 「大丈夫だよ」
村野 「どうしたの?沙恵ちゃん。今日ボランティアじゃなかったの?」
沙恵 「今日は片付けてすぐ終わったんで」
村野 「ふ~ん (作業を続ける)」

      アイ、笑って手を振りながら去って行く。

沙恵 「あっ」
村野 「ん?」
沙恵 「いや、…あの、村野さん」
村野 「何?」
沙恵 「ココの家具ってネットで販売したりしないんですか?」
村野 「しないねぇ。だってさ、うちは一つ一つ手作りでやってるんだし、椅子一脚造るのだって、使う人、使う目的に合わせてやってるんだから。実際に見て触ってもらわないと意味ないだろ」
沙恵 「でも、ホームページはあるじゃないですか」
村野 「あれは、前バイトしてたコが勝手に作ったやつだから」
沙恵 「それって小清水さんですか?」
村野 「…。今日、美和ちゃんは?」
沙恵 「さぁ。ボランティアの皆といるんじゃないかな」
村野 「喧嘩でもしたの?」
沙恵 「そういうんじゃないですけど。私、分かんなくて」
村野 「何が?」
沙恵 「色んな人が関わってきたり、お金の事を考えたりしていくうちに、自分の中でキラキラしてた物がどんどん汚されていくような気がして。友達の事も嫌いになりそうで。こんな椅子作ろうなんて言い出さなきゃ良かったのかなって…ごめんなさい、何言ってるのか分からないですよね」
      村野、立ち上がって、窓(客席側)を見る。
村野 「今日寒いね~。今年は雪降るかな」
沙恵 「寒いのは苦手です」
村野 「冬は嫌い?」
沙恵 「はい。暑いのも苦手ですけど、夏の方が好きです」
村野 「春とか秋より?」
沙恵 「ん~春や秋も良いけど、ワクワクするのは夏かな。私だけかもしれないけど、夏の晴れた日に空の入道雲を見ていると、これから新しい事が始まりそうなワクワクする気持ちになるんです」
村野 「なんか分かる気がするな~」
沙恵 「結局、毎年何にも起こらないんですけどね」
村野 「でも、俺は今ワクワクしてるよ。面白いよな~ゴミから椅子作るなんて。どう?もうすぐ完成するよ。作ってて楽しい?」
沙恵 「それは楽しいです!私なんて初めての体験だから、なんかもう…」
村野 「何?」
沙恵 「いや、いいです。また変な事言いそうになっちゃったんで。気にしないで下さい」
村野 「逆に気になるよ。何?」
沙恵 「ちょっと思っただけなんで。笑わないで下さいね」
村野 「うん」
沙恵 「コレを造ったら世界が変わるんじゃないかな…なんて、馬鹿な妄想までしちゃって」
村野 「…」
沙恵 「ほんと馬鹿ですよね。私、昔からすぐ頭ん中で妄想ばっかり膨らんじゃうんです」
村野 「(沙恵に近づき座る) 分かるよ。沙恵ちゃんの気持ち」
沙恵 「…本当に?」
村野 「うん。良い職人になるよ (頭をポンと撫でて作業に戻る)」
村野 「なんか、ごめんね。俺、人の相談とか乗るのあんまり得意じゃなくて」
沙恵 「そんな事ないです」
村野 「きっとそういう相談は彼氏さんとかに聞いた方が良いよ」
沙恵 「村野さんに相談して良かったです」
村野 「本当?」
沙恵 「はい。それに…相談とかするような彼氏とかいないんで」
村野 「へぇ~。沙恵ちゃんモテそうなのにね」

      村野、作業に戻る。
      沙恵、携帯を出す。
      アイ、現れる。

アイ 「嘘つきだね~沙恵は。こんな話してる今もノブ君からLINEきてるよ」

      沙恵、携帯を切る。

アイ 「ま、背徳感があるほど恋は燃えるもんだけどね~」
沙恵 「そんなんじゃない」
村野 「え?」
沙恵 「いや、何でもないです」
アイ 「知らないよ~(去って行く)」
沙恵 「あの、村野さんって彼女とかいるんですか?」
村野 「はぁ?何?急に。いないけど、どうして?」
沙恵 「いや、何となく。いるのかな~って。じゃあ好きな人とか…」

      小清水、入って来る。

小清水「今、良いかなー? (沙恵を見て) あれ?波多野さん」
沙恵 「どうも。お疲れ様です」
小清水「皆、波多野さんが打ち上げに来るの待ってたよ」
沙恵 「すいません、ちょっと気分悪くなちゃってて。もう大丈夫ですけど」
村野 「何だよ、急に」
小清水「ボランティアの皆が今からココに来たいって言い出してさ」
沙恵 「え!」
村野 「今からはちょっと困るな~」
小清水「もう来ちゃってるんだけど」
村野 「えぇ~」

      美和、藤ヶ谷、橘、津田、現れる。
      沙恵、思わず後ろを向く。

美和 「お疲れ様~」
藤ヶ谷「意外と狭いんだね~」
村野 「何この人達」
橘  「(作業していた木材を触って) これ椅子の材料!?」
村野 「ちょっと勝手に触らないで」
津田 「おえっ」
村野 「あんた、何でココで吐こうとしてるんだよ!」
小清水「センター長!」
津田 「ウーロン茶だと思ったらウーロンハイで」
村野 「はぁ?」
橘  「(村野に) この人、お酒一滴も飲めないのにウーロンハイ一気に飲んじゃって。フフフ」
美和 「(津田の真似して) 暑いです暑いですってね」

      橘、美和、爆笑する。

村野 「知らない人のそういうエピソード全然面白くないから!」
津田 「おえっ」
村野 「あぁもうトイレあっちですから、ココで吐かないで下さいー」

      村野、津田を上段上手奥に連れて行く。
      藤ヶ谷、パネル奥で人を呼びに行く。

美和 「あれ?沙恵」
沙恵 「どうしたの?」
美和 「こっちの台詞だよ。皆待ってたんだよ」
沙恵 「ごめん」
藤ヶ谷「どうぞどうぞ入ってください」

      藤ヶ谷、神山を連れて来る。
      村野、戻って来る。

村野 「まだいるの!?」
藤ヶ谷「すいませんね、こんな狭い所に」
村野 「何であんたが言うんだよ」
神山 「いやいや大丈夫です、なんかこの感じ、モノ創りの現場って感じがしますね!」
沙恵 「神!?」
美和 「あ、沙恵にも紹介するね。ゴッドウェブを運営されてる神山さん」
神山 「どうも神山です」
藤ヶ谷「私の知り合いでね。私の」
神山 「(美和に) さっき話してた一緒にやってるってコ?」
美和 「はい。彼女、設計図書く勉強してるんですよ」
神山 「へぇ~、じゃあ美和さんも心強いですね。そんな方が協力してくれると」
美和 「もう私なんて助けられっぱなしで」
沙恵 「…」
美和 「沙恵、自己紹介」
沙恵 「波多野沙恵です」

      神山、沙恵に近づく。

神山 「これはもう一つ話題作りが出来そうですよ。可愛すぎる家具職人さんってね (沙恵の方をポンポンする)」
沙恵 「(避けて) やめてください」
神山 「あぁ、ごめんなさい」
美和 「どうしたの?沙恵、大袈裟だよ。(神山に) ごめんなさい、彼女ちょっと人見知りなところがあるんで」
神山 「そうなんですね」
藤ヶ谷「社長さん、気をつけないと最近はセクハラも厳しいですからね。ただ私、藤ヶ谷は本日触り放題ですから」
神山 「じゃあお言葉に甘えて…って誰が触るねんっちゅうて」

      藤ヶ谷、神山、爆笑している。

村野 「ちょっともう夜遅いし帰ってくれないかな」
神山 「すいません」
藤ヶ谷「あぁご挨拶が遅れて申し訳ない。ちょっとはしゃいじゃいまして。私、冗談大好きですから」
村野 「どの辺が冗談だったんだよ。(橘に)だから、あんたは触るなって!」
小清水「村野さん、落ち着いて」
村野 「俺は落ち着いてるよ。落ち着いてないのは、この人たちの方だろ」
小清水「皆さんが波多野さんたちの椅子をネット販売するのに協力して下さるって言ってるの」
村野 「へぇ~…(沙恵の方を見る)」
沙恵 「聞いてないよ」
美和 「ずっとLINEしてたのに打ち合わせも飲み会も来ないから」
藤ヶ谷「こちら、“私の”知り合いのゴッドウェブの社長さんが力を貸して下さるそうなんですよ」
神山 「社長さんとかやめてくださいよ。 (村野に) 実は来月からうちのサイトでゴッドウェブショッピングというのをたちあげるんですけどね。商品を写真と文章で見せるだけじゃなく、動画で商品の制作過程や製作者さんも紹介して、クリックするだけで購入出来るっていう便利なサイトなんですよ!」
藤ヶ谷「すごいです、社長!スゴ過ぎて神に見えてきました」
橘  「よっ!神!」
神山 「神です!…って、もぅ藤ヶ谷さん乗せ上手だから~」
藤ヶ谷「いや、本音ですよ~」
村野 「勝手にすりゃ良いじゃない。俺は関係ないだろ」
小清水「だから、そこでこの工房の商品も載せてくださるって言ってるのよ」
村野 「はぁ?」
神山 「うちは元々神まとめサイトっていう人気情報サイトをやっていましてね、そこで今話題の家具屋さんって紹介して、そのままショッピングの方にリンクを貼ったら、もぅバンバン注文きますよ」
村野 「いや、別にうち話題の店とかじゃないから」
神山 「そこは、私の匙加減一つですから♪サイトに今話題って書いたらユーザーは、そうなんだってなるもんなんですよ」
藤ヶ谷「流石!」
沙恵 「(携帯を見て) こんなの信じてたんだ…」
村野 「なんだそれ」
小清水「良い話じゃない」
村野 「そんなインチキに俺は関わりたくないね」
小清水「ちょっと!」
藤ヶ谷「失礼だぞ、君」
小清水「ごめんなさい、この人ネットとか弱くて」
神山 「先取りです。うちみたいに新しいサイトは他でまだ扱っていないような話題を取り上げないとダメなんです。それで結果、皆さんが本当に話題になったら嘘じゃないですしね」

      美和、携帯を出して神山の方に近づく。

美和 「神山さん、さっき載せて頂いた記事のお陰で早速反応がありましたよ」
橘  「そう!私もあった!」
神山 「でしょ!」
美和 「(村野に) エコ商品の神まとめに、今作っている椅子の事を書いてくれたんですよ!ほら (携帯を見せる)」

      ケイタ、現れてツイートを読み上げる。

ケイタ「リンク先、神まとめニュース。エコグッズに新しい風!ゴミから出来た芸術的な椅子!イイネ!イイネ!すごい興味ある~若い女の子が作ってるなんてビックリ~絶対家に欲しい~」
美和 「このサイト、私前から大好きだったんで高まっちゃいます♪」
ケイタ「主張強いってボコボコに言ってたけどね」

      美和、ケイタを睨んで携帯の電源を切る・
      ケイタ去って行く。

神山 「さっき試しに軽く書いただけなんで。明日、更に詳しく書いてサイトのトップに載せますよ」
美和 「ヤバい!夢みたい♪ありがとうございます~」
神山 「そんな風に言われたら、オジサンもっと頑張っちゃおうかな (美和の肩に手をまわす)」
美和 「頑張って♪」
神山 「頑張る♪」
藤ヶ谷「社長、私もお願いしますよ」
神山 「勿論ですよ」
橘  「ヤバい!私も載せて欲しい~(神山にくっつこうとする)」
神山 「何なんすか」
橘  「ヤバい♪」
神山 「いや、あなたがヤバイですよ」
沙恵 「馬鹿馬鹿しい…すいません、私帰ります」

      沙恵、歩き出す。美和が捕まえる。
美和 「どうしたの沙恵、今日変だよ」
沙恵 「別に普通だけど…」
神山 「君の事もちゃんと記事にするから」
沙恵 「いいです」
神山 「そんな事言わないで」
藤ヶ谷「君、なかなかない事だよ」
橘  「羨ましいよ~」
美和 「さっき沙恵の彼からもお祝いのツイートきてたよ」
村野 「彼!?」
美和 「はい。沙恵、彼氏と超ラブラブなんですよ。ボランティアの現場まで会いに来たりして」
橘  「そうそう!」
村野 「そうなんだ」
沙恵 「やめてよ。今そんな話しなくていいでしょ」
美和 「何で?」
      ※台詞追加
沙恵 「…もぅそっとしといてよ。何で皆、勝手な事ばっかり言って、私の大切な物をグチャグチャにしていくの。意味分かんない。ネットを使って何かやりたいなら、自分たちで何か見つけて他でやれば良いじゃない。これ以上、私の居場所を荒らさないで」
美和 「何言ってるの?元々、沙恵が一緒にやろうって言ったんでしょ?私の椅子を作ったら良いのにって話を聞いてさ」
橘  「木材のゴミ集めるのだって私たち協力したよ」
藤ヶ谷「私なんて雑誌の取材まで紹介しただろ」
小清水「荒そうとなんて思ってないよ」
村野 「いや、荒してる事になるんじゃないかな…」
沙恵 「村野さん…」
村野 「分かんないけどさ、沙恵ちゃんはただ椅子を造って復興に協力したかっただけなんじゃないかな。こんなネットだなんだって大がかりなビジネスにするのは趣旨がずれてるんじゃないか」
美和 「ずれてないです!」
藤ヶ谷「そうですよ、地域に貢献するには金がいるんです」
神山 「色んな人に注目してもらった方が良いでしょう!」
村野 「そういうんじゃないんだよ、家具を造るっていう事はさー…」
小清水「じゃあ、どういう事?人知れず良い家具を黙々と作ってたら世界が変わるの?」
村野 「え?」
小清水「それとも、今は息抜きに好きな家具を作ってるだけなの?」
村野 「そんな訳ないだろ!」
橘  「じゃあ息吸いって事ね」
村野 「はぁ?」
小清水「じゃあ勝負しなきゃダメだよ。胡散臭いオジサンに頭下げてでも、なりふり構わず頑張らないとダメだよ!」
神山 「…いや、誰が胡散臭いオジサンやねん?」
藤ヶ谷「それ私も入ってるのか?」
村野 「…分かったよ。…うん、そうだな…(藤ヶ谷と神山に近づいて) うちの家具も宜しくお願いします(頭を下げる)」
神山 「いや、この流れで俺に頭下げられても!」
藤ヶ谷「私も入ってるのか!」
小清水「いや、悪い意味じゃないんで。私からもお願いします」
神山 「どの辺が良い意味なん!?」
沙恵 「…皆、大っ嫌い!」
村野 「沙恵ちゃん、沙恵ちゃんの気持ちは分かるけどさ、やっぱり…」
沙恵 「何にも分かってないよ。誰も仲間なんかじゃない」
美和 「沙恵、落ち着いて (沙恵の肩を抱きに行く)」
沙恵 「やめて!…美和は私を利用してお金儲けしたいだけなんでしょ。私、知ってるんだから。本当は会社なんてとっくにクビになってるの」
美和 「はぁ?何言ってるの?そんな訳ないでしょ、今私は有休をとってて…」

      沙恵、携帯を出す。アイが浮かない顔で現れる。

沙恵 「私見つけたんだ。ブログ…」
美和 「え?」
アイ 「ねぇ、これ本当に読んじゃうの?良いの?」
沙恵 「これ、美和さんと同じ会社だった人でしょ」
アイ 「読むよ…同期のMちゃん、ちょっと可哀想だったな~。一応、自分で辞めた事になってたけど、あれ事実上のクビって事だよね~。Mちゃんちょっと出しゃばりすぎだったもんね。思った事すぐ言っちゃうし…」
美和 「止めてよ!何でそんな事するの?」
沙恵 「自分の居場所が欲しかったのは美和さんの方でしょ。きっとクビになったって知られたら恥ずかしいから、ボランティアがしたいって口実にしたんでしょ?」
美和 「違う!何で友達の事をそんなネットの情報だけで決めたりするの?」
藤ヶ谷「そうやって仲間のプライバシーを詮索するのは感心しないよ」
沙恵 「それって藤ヶ谷さんの嘘もバレたくないからでしょ」
藤ヶ谷「は?」
沙恵 「私、検索したんだ。何でこの人ボランティアなんてしに来たんだろうって。そしたら、こんな書き込み見つけて…」
アイ 「…Fって経営コンサルタントなんて言ってるけど、実際は色んな会社の社長にくっついては腰巾着になってるだけ。それも評判悪くて最近仕事がないらしい。Fって家族に逃げられて今一人暮らしだって。Facebookに家族団欒の記事を書いてるけど、いつも写真が一人でウケる…」
藤ヶ谷「止めろ!私は、家族のプライバシーを考えて…」
沙恵 「きっとボランティアに来て復興ビジネスをやっている人を探そうとしたんだよね。そしたら私たちがいた。それで利用しようとしたんでしょ」
藤ヶ谷「違う!それは君の憶測だ」
神山 「藤ヶ谷さん、もうやめましょう」
藤ヶ谷「社長、これは違うんです」
神山 「うちはこれだけで判断したりしませんから」
沙恵 「そうだよね。自分が適当なネットの記事作ってるんだから」
小清水「やめましょうよ、そんな風にネットの記事で傷つけあうの。せっかく同じ場所にいるんだから、ちゃんと顔を見て喋れば分かる事も…」
沙恵 「小清水さんだって村野さんと昔付き合ってた事隠してたでしょ。Facebookの写真見たら付き合ってた事も別れた事もすぐ分かるんだから」
橘  「そうだったの!?」
村野 「いや…」
沙恵 「村野さんが未だに引きずってたとは思わなかったけど…」
橘  「え、って事は、じゃあ私の事も調べてたの?」
沙恵 「…」
橘  「…どうやら調べてないでしょ?何で?何で私は調べないの?」
神山 「もぅあなたは話をややこしくしないで!」
橘  「私だって色々隠し事あるんだからね!ジャニーズが好きだって言ってるけど、意外と星野源とかもイケるんだから」
神山 「どうでもええから!もぅ私らは席外しましょ」

      神山、橘を奥に追いやり去る。

村野 「ねぇ、沙恵ちゃん、どうしちゃったの?らしくないよ」
沙恵 「らしいって何ですか?おとなしくて何にも言わないのが私なんですか?」
村野 「そうじゃなくって」
小清水「どうして皆の事をそんな調べたりしてるの?」
沙恵 「皆、嘘つきだから。昔からそう。皆、仲良しのふりして私と接してくるのに直ぐ裏では陰口を言ったり勝手な評価をしたりする。上手く隠せてるつもりなのかもしれないけど、SNS見たら、だいたい分かっちゃうんだから。馬鹿みたい、人前では言えない事ほど誰でも見られる場所に書いちゃうなんて」
美和 「それは沙恵だって同じでしょ。私も知ってるよ。沙恵が裏アカで色々書き込んでるの (携帯を見せる)」

      ケイタ、現れる。

ケイタ「ねぇ、本当に良いの?読んじゃっても…」
美和 「コレそうだよね?」
ケイタ「いつも家に帰ってから思うんだよね。あぁ言えば良かった、本当はこんな風に思ってたのにって。皆がミラクルガールって大合唱しないかな…」
アイ 「ヤバい!バレちゃったよ!」
美和 「これ沙恵の裏アカだよね」
沙恵 「…」
藤ヶ谷「うらあか?」
神山 「もう一つ持っている、裏のアカウント。たぶん彼女の偽名のツイート」
美和 「もっと読もうか?私の事ディスってたの知ってるんだからね」
ケイタ「今日の美和はないよね~。あの人なら分かってくれるはず。相談してみようかな…」
沙恵 「やめて!」
美和 「何これ?ひょっとして村野さんの事?あんた、彼氏いんのに村野さんに」
沙恵 「違う!それは違う!全然関係ない事だから」
美和 「じゃあ何?説明してよ。全部説明してよ。こんなグチャグチャな状況にして、どうしてくれるの!?」
沙恵 「……」
アイ 「どうするの?沙恵。このままじゃヤバい空気だよ。沙恵」
沙恵 「…あの…えっと…だから…」
アイ 「さっきの勢いどうしたの?」
沙恵 「…」
アイ 「そっか…頭が真っ白になっちゃったんだね…」

アイ、ケイタ悲しそうに去る。
      
沙恵 「…あの…」

      津田、戻って来る。

津田 「すいません、お水もらえますか?」
神山 「お前、また変なタイミングで」
津田 「おえっ…」
村野 「ちょっとぉ」

      津田が吐こうとして一同慌てている。その隙に沙恵、走り去る。

美和 「沙恵!」

      暗転。


【第五景】 ~半年後~

○市街地

      並河、インタビューの対象を探している。
      明転。

      ピッピ、歩いて来る。

並河 「あ、すいません、インタビューをお願いできますか?」
ピッピ「あれ?僕にですか?」
並河 「はい」
ピッピ「え、マジですか、やっぱ顔バレしちゃうんですね~」
並河 「え?」
ピッピ「え?僕の独占インタビューじゃないんですか?」
並河 「いや、今町の人に災害から半年経って、復興できたと思いますか?っていうインタビューをしてまして」
ピッピ「あぁ、そう…。あの、知りません?ピッピ市松って。ちょっと前に異色のユーチューバーって話題になったんですけど」
並河 「さぁ?…で、インタビュー良いですか?復興についてどう思われますか?町は再生されますかね」
ピッピ「うん…まず僕がもっと再生されたいですね。昨日は2しかなかったんで」
並河 「何の話をしてるんですか?」
ピッピ「ってか僕はこの町の人間じゃないんで。もういいですか」

      ピッピ、下手に去って行く。
      丁度歩いて来る橘とぶつかりそうになる。

ピッピ「あぁ、すいません」

      橘、ピッピの後ろ姿を見ている。

橘  「どっかで見た事あるような…」
並河 「あれ?橘さん!」
橘  「あぁ!記者の人!?ひさしぶりね~。こんな所で何してるの?」
並河 「インタビューをしていまして」
橘  「へぇ~。ね、さっきの人誰?どっかで見た事あるような気がしたんだけど」
並河 「さぁ?なんかユーチューバーとか言ってましたけど」
橘  「ユーチューバー…あぁ、ユーチューバーって言ったら、私今お勧めの人がいるの!デリシャス松村っていうんだけど。見る?」
並河 「いや、大丈夫です。それにしても皆さん頑張ってますね、例の椅子。結構ネットで話題になってるじゃないですか」
橘  「あぁそうみたいね。皆すごいよ」
並河 「え?橘さんは関わってないんですか?」
橘  「私は無理無理、あの時は盛り上がってたけど、家の事もあって大変だし、そんな暇ないから」
並河 「そうなんですか。勿体ないですね、今せっかく話題になってるのに」
橘  「どうだろ?皆には頑張って欲しいけど、去年や一昨年の流行語って思い出せる?…忘れられちゃわないと良いけどね~」
並河 「そうですね。じゃあ先を見越して参加しなかったってにもあるんですか?」
橘  「ううん。あのメンバーにイケメンがいないから」
並河 「フフッ確かに」
橘  「ねぇ、久々なんだから、どっかでお茶しない?」
並河 「はい。じゃあついでにインタビューにも答えてくださいね」
橘  「答える答える♪」

      橘、並河、去って行く。

○沙恵の部屋

      沙恵、部屋の椅子に座ってOPと同じ格好で携帯をいじっている。
      切り替え明転。
      
沙恵 「…皆、馬鹿なんじゃない?こんなグダグダの動画の何処が楽しいの?自己満足なだけじゃない。誰が見るのよ…」

小清水の声「波多野さーん、いる?今日さー、皆で久々に集まろうかってなってるんだけど、一緒に来ないー?ねぇー」

      沙恵、耳を押さえて目をつぶり、やがて頷く。

沙恵 「決めた!皆、私の世界から排除してやる…だって、だって…私だから…」

      沙恵、むなしくなって座り込む。

沙恵 「私は…一緒に良いねって言ってくれる友達が欲しかっただけなんだ…」

堂島の声「沙恵―!大丈夫?開けるよー」
沙恵 「え、嘘!?」
 
      堂島、入って来る。

堂島 「沙恵!心配したよー(抱きつこうとする)」
沙恵 「(避けて) ちょっと何してんの」
堂島 「いや、沙恵が心配だったからさ、管理人さんに言って鍵貸してもらったんだよ」
沙恵 「えぇ、何でそんな事するの」
堂島 「だって電話にも全然出ないし。倒れてるのかなって思ったんだよぉ、でも良かったー。何で全然出ないんだよ」
沙恵 「当たり前でしょ。私たち別れたんだから」
堂島 「別れたら会いに来ちゃダメなの?」
沙恵 「ダメだよ」
堂島 「何で?」
沙恵 「別に用がないから」
堂島 「俺はあるよ。沙恵と話したいし。…ねぇ、もう一回やり直そうよ。俺、沙恵の事好きだよ」
沙恵 「のぶ君…」
堂島 「沙恵の好きなプリン買って来たから。一緒に食べよう」

      堂島、奥に行く。

沙恵 「のぶ君!」

      沙恵、抱きつきに行こうとする。
      暗転。
 
      堂島と小清水が入れ替わってる。
      明転。

小清水「大丈夫?波多野さん」
沙恵 「え…小清水さん!?」
小清水「心配だったから管理人さんに鍵借りたんだ。皆心配してるよ」
沙恵 「そうですか…すいません」
小清水「ねぇ、気まずいのは分かるけどさ、皆の所に行ってみない?」
沙恵 「でも…」
小清水「暗い部屋で携帯の画面相手に妄想ばっかりしてても、どんどん悪い想像しちゃうばっかりだよ。ほら、外に出ないと!」

      小清水、沙恵の手を引っ張り、下の段に降りて行く。
      下の段には美和、藤ヶ谷、村野、堂島が椅子を囲んでいる。

小清水「みんなー!サプライズゲスト連れてきたよー!」
美和 「沙恵!」
藤ヶ谷、村野「沙恵ちゃん!」
堂島 「沙恵、会いたかったよ!」
沙恵 「あの…なんか、ごめん…」
美和 「何が?」
沙恵 「だって、私…皆にヒドイ事ばっかり言って…それなのに、その後ずっと既読無視ばっかりで…本当にダメだなって心の中では思ってたんだけど、でも今さらどう接して良いか分からなくて…実を言うと、皆ボッコボコにしてやりたいなんて思った事もあって、やっぱり私性格悪いなって思って…」
美和 「何言ってんの!私たちの方が悪かったよ。沙恵の大切な場所、奪い取っちゃって」
藤ヶ谷「悪かったね。これは君の考えたアイデアだからね。この椅子をどうにかして良いのは、君だけなんだよ」
村野 「沙恵ちゃん、沙恵ちゃんがいなくなってから、この工房がとっても淋しく感じるよ。もう一度ココで一緒に椅子作りをしないかい。君と一緒に、君の考えた温かい椅子を作ろうよ」
小清水「私ね、考えたんだけど、村野さんはやっぱり波多野さんと一緒にいた方が幸せになれると思うんだ。だから、私はもう村野さんの事は諦めるから」
堂島 「沙恵、俺も沙恵の新しい恋、応援する。俺、沙恵の事が人間として好きだから。これからも友達として沙恵の事を応援する!」
沙恵 「皆…。そっか、私、皆に認めてもらいたかったんだ…皆に勝ちたいとか、謝らせたいとかじゃなくって、皆に私を認めてもらいたかったんだ…」
村野 「沙恵ちゃんの事、皆認めてるに決まってるだろ」
美和 「当たり前じゃない!」
堂島 「沙恵はスゴイよ!」
藤ヶ谷「奇跡的だよ!」
小清水「ミラクルガールね」
美和 「沙恵、イズ、ミラクルガール!」
沙恵 「え…」
美和、藤ヶ谷、村野、堂島、小清水「沙恵、イズ、ミラクルガール!」
沙恵 「嘘…これ、現実じゃない…」

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