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#154 『宇宙と私たちは一体である』

本日は、生命科学者の柳澤桂子さんの「宇宙と私たちは一体である」についてのお話です。柳澤さんは、お茶の水女子大学を卒業して分子生物学勃興期にコロンビア大学大学院を修了しました。その後、慶應義塾大学医学部の助手を経て、三菱化成生命科学研究所の主任研究員として活動をしていましたが、激しい痛みとしびれを伴う原因不明の病に倒れてしまいます。以後30年以上の間、家庭を支えながら闘病生活を送ってきました。

今回のお話は、研究者でありながら、長きに渡り病と闘い、向き合ってきた柳澤さんの「生きること」「死ぬこと」といった生命に関わる考え方が語られています。生命科学の世界で研究をしてきた柳澤さんだからこそ見出した言葉であり、タイトルにある「宇宙と私たちは一体」という表現も、生命の本質に迫ったからこそのものだと感じました。

「私という自我がなければ、この世に苦しみはない」

"『般若心経』の中心にあるのは「空」という思想ですね。微塵な物質があってそれが寄り集まったり組み合わさったりして「色」という物の形になる。粒子は刻々と変化し形を変えていくわけですが、もともとは色も香りも味も触覚も何もないんです。しかも、その形は常に動いて留まることがない。"
"私という存在もまた粒子の集まりで、私の周りにある粒子と常に入り交じっている。そう考えると宇宙全体がすべて繋がっている。宇宙と私たちは一体なんです。別の見方をしたら、「私」「あなた」という人間的な考え方は錯覚であり、本来皆一元的なものなんです。そうすると、自我というものもなくなってしまう。"
"私もあなたも同じなのだから、意地悪したとか、そういうことはなくなってしまいますよね。同じように生きることも死ぬこともない。誰かが亡くなったとしても同じ粒子なのだから悲しむこともないわけです。そういうふうに考えていったら『般若心経』を2日で訳せました。"
"私はある日、電動車椅子で散歩をしていました。すると綺麗に着飾った奥様が寄ってきて「大変でいらっしゃいますね」と声を掛けてくださったんです。気持ちの良いご挨拶で、それまでだったら何とも思わなかったのでしょうけど、この時は不思議と心に何か引っかかるものがあって、車椅子を止めて考えました。「私は憐れみを受けたのかしら」。そう思ったら、何か大きなものに背中をドーンと突かれた感じがして「それは、私がそこにいるからだ」と声がしたんです。これも一種の神秘体験でしょうけど、私がいなければ、憐れみを受けることもありません。私はこの時、私という自我がなければ、この世に苦しみはないということを強烈に感じました。生きるのがとても楽になったのは、それからですね。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/06/03『宇宙と私たちは一体である』
柳澤桂子 生命科学者
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※Photo by Greg Rakozy on Unsplash