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#144 『人を恨む行為は、人生をつまらないものにする』

本日は、河野義行さんの「人を恨む行為は、人生をつまらないものにする」についてのお話です。1994年に発生した松本サリン事件の被害者であり、事件の第一通報者でしたが、事件後に警察やメディアによって、事件の容疑者であると見なされ報道被害を受けました。

現在、河野さんは特定非営利活動法人リカバリー・サポート・センター理事や「ヘイトスピーチとレイシズムを乗り越える国際ネットワーク」の共同代表をしながら、オウム真理教事件及びメディア・リテラシーに関する講演を行っています。

今回のお話は、サリン事件の被害者である河野さんの奥様についてお話が語られています。河野さんは事件後、意識不明状態で回復が難しい奥様をずっと介護していました。事件の容疑者として扱われたこと、意識不明の奥様を介護すること、とても想像ができない苦労と苦悩も語られています。

"日本は法治国家であり、法の前では個人が権力と対等に戦うことができます。しかし日本では、いったん逮捕されてしまえばその均衡は一気に崩れ、逮捕の段階では容疑者にすぎないにも拘らず、犯人という目で見られてしまいます。だから私は、あらゆる手を尽くして戦ったのです。妻の意識はいまだに戻りませんが、私の話はすべて理解できているという前提で、元気な頃と同じように話しかけています。きっといつかは目覚めると信じて、日々の出来事を語り聞かせることで、記憶の断絶をつくらないようにしたいのです。"
"私はよく、「あなたはなぜオウムを恨まないのですか」と聞かれます。人生は有限です。人を恨むという行為は、その限られた人生を実につまらないものにしてしまうと私は思うのです。恨んで、恨んで、自分の時間、すなわち自分の命を削っていくような人生を、私は送りたいとは思いません。恨むことに費やすエネルギーがあるのなら、逆に妻が生きていてくれたことに感謝するほうに注いでいきたい。"
"以前会社に勤めていた頃、同僚が会議中に倒れたことがありました。私はすぐ救急車を呼び、応急の措置を施しました。同僚は一命は取り留めたものの植物状態となりました。お見舞いに伺った私に奥様は「夫の命を助けていただいてありがとうございました」と何度も礼を言われました。私はその時、もし彼を助けなければ奥様も介護に大変な思いをせずに済んだかもしれない。自分は余計なことをしてしまったのではという思いに苛まれました。しかし、自らが妻の介護をする身となったいま、あの時の奥様の感謝が本物だったことが実感できます。愛する人に尽くせること。そのためにどんな犠牲を払うことにも私は喜びを感じます。妻が生きることは私が生きること。心に芽生えたその思いはあの事件により突き落とされた悲しみの底にから私が見出した光といえるでしょう。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/05/24『人を恨む行為は、人生をつまらないものにする』
河野義行 松本サリン事件被害者
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※Photo by Zac Durant on Unsplash