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#312 『心の中で二次災害を起こさない』

本日は、文学博士の鈴木秀子さんの「心の中で二次災害を起こさない」についてのお話です。鈴木さんは、東京大学大学院人文科学研究科博士課程を修了し、フランスやイタリアに留学、ハワイ大学やスタンフォード大学で教鞭をとってきました。日本に「エニアグラム(9つの性格タイプ)」を紹介した人物としても知られ、これまでに50万人以上の悩みに耳を傾けてきました。

"その青年はトラックの運転手でした。しかし、赤信号で停止中にトコトコ と前に出てきた2歳の男の子に気づかず、前輪で巻き込み死亡させてしまうのです。意図してやったわけではなくても、法的には過失致死と見なされます。事故を起こして以来、青年は「あと5分出ていたら」「あの場所に止まってさえいなかったらあんなことにならなかったのに」と悶々と悩み、自己を攻め裁くようになります。"
"青年の裁判を担当したのは一人の国選弁護士でした。弁護士はいたく落ち込んだ彼を見かねて、次のように話しかけました。
「人生では何も悪いことをしていないのに、思いがけない災難に遭うことがある。''なぜこうなったのか''と思い悩めば、心の中に新たな二次災害を引き起こしてしまう。だから、とにかくいまやることだけに心を集中し、過ぎ去ったことは考えないようにしなさい。辛い出来事にも深い意味があったと、いつか気づく日が必ず来るはずだから」"
"実はこの弁護士も国道で車を走行中に、真っ暗な中でうずくまっていた老人を撥ね、死亡させた経験があるというのです。老人のポケットからは「自殺したいが死ねない。轢いてほしい」という自筆のメモが見つかり、自殺と認定されたものの、弁護士にとっては自分が死んでしまいたいほど耐え難い苦しみでした。"
"しかし、心身ともにボロボロの中にあって、一つの思いが込み上げてきたといいます。
「この苦しみには、もしかしたら自分で知り得ない深い意味があるのかもしれない」
この気づきは弁護士の人生を大きく変えました。彼の心に浮かぶのは、事故を起こしたという自責の念で心の二次災害、三次災害を引き起こし、人生をメチャクチャにしてしまう人たちのことでした。"
"自分と同じ悩みで苦しんでいる人たちの救済のために人生のすべてを捧げようと一大決心をするのです。新聞記者をやめ、猛勉強の末に司法試験に合格。そして今日まで弁護士として人生に傷ついた人たちのために祈り、救いの手を差し伸べ続けています。それが弁護士が自らに課した使命でした。"


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書籍『1日1話、読めば心が熱くなる365人の仕事の教科書』
2021/11/08 『心の中で二次災害を起こさない』
鈴木秀子 文学博士
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※Photo by Tomasz Woźniak on Unsplash