社会と、他者と、よい影響を分かち合っている実感なしには、どんな目標もさびしくとだえるばかりなんだよ……【物語・先の一打(せんのひとうち)】42
四郎は、宮垣の施術の途中からひどい夢を見ていた。
もう宮垣のところにはいなくて、どこかの大学病院か高度医療センターにいた。右肩の筋肉と右足内ふくらはぎを誰かの手術に使うらしく、黙って施術台に横たわってそれを提供していた。痛覚なく切り取られていくそれらを黙ってみていた。口は閉じている前提らしかった。切り取られたあとに透明なゼラチンシートを貼られて終わりらしかった。目が覚めた。
「どうした、大丈夫か」
宮垣の声に、四郎は曖昧に反応した。「先生……せっかく見つけた目標が、ちょっともうれしないとき、何をどうしたらええの?」
そんな質問をする気さえなかった。それは、案外からだの奥深くから出てきた質問だった。
「まずは三日坊主が二十回続かないと、ものにはなんねぇと思え。
それから俺の場合は、社会から完全に孤立したはぐれものの気分で戦ってきた。つまりな、はぐれもん代表だった。
世界中のはぐれもん、すさんだ奴らの代表だった。
クラッシャー宮垣は、そういう風に格闘した。
さほど嬉しくはなかった。けど金がなくてラーメンの汁しか飲めねえ奴、無銭飲食で捕まっちまうやつ、家にもガッコにも居場所のねえやつ。そういう奴らのすきっ腹を、孤独を、やり場のない怒りをまぎらすファイトをしていた。そういう奴らからだけ応援をもらっている、という思い込みだけ握りしめて、練習を戦い、ウェイトの追いこみを戦い、マイク挑発を戦い、一戦に臨んだ。
明日なんてない。今日しかないんだ。今日がないやつらもいるんだ。
そう言い聞かせていた」
土俵際の絆、孤独の絆、孤立したものだけが互いにもつ感覚、それに頼るしかなかった……と、宮垣耕造は言った。
「四郎には、もうちょっと甘ったるいあったけえ繋がり感で、仕合わせてやりてぇな」
甘ったるいあったかい繋がり感……?
息がつまるような気分で、四郎は宮垣の顔を見上げた。