幅と深さで奪った2ゴールと勝点3~第22節レノファ山口VSファジアーノ岡山~


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19位レノファ山口と16位ファジアーノ岡山が激しい火花を散らす「PRIDE OF 中四国」の一戦。やりたいことを表現する両チームの勝敗を分けたのは幅と深さの使い方だった。

試合結果

明治安田生命J2リーグ第22節

レノファ山口1-2ファジアーノ岡山

【得点】

24分 ヘナン(山口)
33分 上田康太(岡山)
82分 山本大貴(岡山)



スタメン


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レノファ山口
・フォーメーションは4-2-3-1(中盤三角形の4-3-3)。
・出場停止明けのMFヘナンが先発復帰。
・両サイドに攻撃的な選手を配置。
・ポゼッションからのサイド攻撃を狙う。


ファジアーノ岡山
・フォーメーションは4-4-2。
・MF三村真、FW齋藤和樹がスタメン入り。



ハイライト




マッチレビュー

サイドバックで幅を取れた理由



 この試合では、有馬賢二監督がよく口にしていた「幅と深さを取った攻撃」が多く見られた。

 ファジアーノ岡山はセオリー通り、ボール保持時はサイドハーフ(以下SH)が内側、サイドバック(以下SB)が大外を取るポジショニング。特にボールとは逆のSBがフリーの状態でボールを受ける機会を多く作れた。

 岡山のSBがなぜフリーになれたのか。その答えはレノファ山口の守備に対する優先順位とDF椋原健太・徳元悠平の賢い立ち位置にある。

サイドを許容して中央を固める山口

 山口はボール非保持、4人のディフェンダーが1つの綺麗なラインを作って、岡山の攻撃を待ち構えた。そこで、内側を取る岡山のSHを山口のウイング(以下WG)が見ていたため、DFラインの1人としてプレーする山口のSBは岡山のSBをマークしていなかった。

 岡山のSBにボールが入ると、山口はセットしたポジションから保持者に近いサイドプレーヤー(WGが多かった)が出ていくという守備だった。したがって、ボールを受ける前に強いプレッシャーを受けることがほとんどなかった。

 ゴールに近い中央を優先して固める守備はサッカーにおいてセオリー通り。山口の判断が間違っていたわけではないが、少し自由にさせ過ぎた印象を受けた。

岡山の両SBの賢いポジショニング

また、DF椋原健太とDF徳元悠平がマークがいないからと上がり過ぎずに山口のSBとWGの中間の高さを取れていた。ちょうど、相手の監視外に立ち位置を取れた両SBの賢さが多くの起点となれた要因だろう。

[番外編]高い位置を取るSBへの岡山の対応

 ある程度SBに高い位置でフリーにな競ることを許容した山口に対して岡山の対応の仕方は対極的だった。

 高い位置でパスを受けた山口のSBに岡山はSBがDFラインから出ていき、プレスをかけていた。その際、DFラインは横にスライドして出ていったSBが担当していたWGのマークをセンターバック(以下CB)に受け渡して、逆サイドは空けるというリスク管理。山口の両SBのDF田中陸・橋本健人は非常に攻撃的センスを持った選手だったため、早めにアプローチをしていたのだろう。



疑似カウンターで獲得したPKでの同点弾



 MF上田康太のPKで追いついた岡山。MF上門知樹が警戒された中へのカットインを囮にして縦に突破したことでPKを獲得した。MF上門の機転の利いたプレーはもちろん素晴らしいが、ファウルをもらう前の流れに有馬監督の理想が隠れていた。

まずは、PKを獲得するまでの流れを振り返る。

 DF徳元の中距離スローインでボックス内のFW赤嶺真吾に渡し、深さを取る。FW赤嶺はボールを失わずに一度下げる。MF上門とDF徳元、MF白井永地のコンビネーションで左サイドを崩したいが、人数を集めた山口のディフェンスを崩せない。

 CBまで、ボールを下げて、CB間でパスを回すことで相手のラインを引き上げる。右サイドのDF椋原にパスを出し、右サイドを崩そうとするが、山口のスライドは早かったため、もう一度DF濱田水輝に下げる。このバックパスをスイッチに、山口はFW小松蓮とMF池上丈二が強度の高い前プレスをスタート。岡山はさらに低い位置でDF後藤圭太がパスを受けるが、FW小松の連続した激しいプレスでボールを失いそうになる。

 有馬ファジの中でルールになっているだろう「失うなら、大きく蹴れ」に基づいてDF後藤はロングキックを蹴ろうとするが、DF濱田が「圭太。ちょうだい、いいよ、いいよ」という声かけをしながら角度をつけてポジションを微調整。DF濱田から1タッチで下がってきたMF白井へパス。ここで、山口の前プレスを回避した。

 MF白井から前述したようにフリーになっているDF徳元へ展開。この大きなパスをスイッチにMF上門がSB-CB間の裏に走り込む。遅れながら対応するMF高宇洋のファウルを誘いPKを獲得した。

 PKを獲得した以上の流れはズバリ、「疑似カウンター」と言えるものだった。疑似カウンターは第3節ジュビロ磐田戦でも見られた形。自陣でのパス交換で相手を釣り出して、前がかりになった山口の背後をMF上門のフリーランで突いた。

 この疑似カウンターを成立させたのはDF濱田水輝の冷静な判断だったのではないか。ロングボールを蹴って、相手に渡すのではなくDF濱田が「繋げる」という意思表示をDF後藤にしながら、少しずれて角度をつけたことでMF白井へのパスコースを作り、山口の前プレスを掻い潜れた。濱田水輝の冷静な判断を称えたい。

 また、DF徳元ににプレスに行ったのは山口のサイドバック。山口はこれまでWGが対応してきたが、SBが出ていかざるを得なくなった。陣形が乱れたを見逃さなかったDF徳元とMF上門の阿吽の呼吸がもたらしたゴールとも言えるだろう。



サイドバックの裏と徳元悠平の頑張りから生まれた逆転弾



 速さと俊敏性を兼ね備えたMF森晃太の投入で、山口は右サイドの圧力を強めてきた。MF森の縦突破からのクロスを同じく途中出場FW河野孝太がニアで合わせるなど、徐々に押し込まれる。

 しかし、この試合アップダウンを繰り返していたDF徳元が試合終盤にも関わらず粘り強い対応で同点を許さない。

 81分、果敢な攻撃参加と堅実な守備で貢献してきたDF徳元にプレゼントがやってくる。MF森からの縦パスをDF徳元がカットすると浮いたFW野口竜彦に預けて、ボールはMF上門へ。山口はDF田中がMF森を追い越していたため、MF上門の前には広大なスペースが広がっていた。

 MF上門はドリブルで前進、前向きでパスカットしたDF徳元が試合終盤であることを感じさせないスプリントでオーバーラップ。MF上門がDF眞鍋旭輝を引き付けて、DF徳元へパス。

 ラインぎりぎりでDF徳元がふんわりとした正確なクロスを送ると、FW山本大貴が滞空時間の長いヘディングでしっかりと合わせてゴールネットを揺らした。

 途中出場のMF森という速い選手を粘り強いな対応で抑え込みながら、試合終盤に長い距離を走っての正確なクロス。DF徳元のたくましさとここぞとばかりの頑張りが生んだ逆転ゴール。堅実なプレーで左サイドを支配する「徳休さん」のプレーに目が離せない。



アウェイゲームはチーム・選手をたくましくさせる



 感染症の拡大を防ぐためにアウェイチームのサポーターがスタジアムに入場せずに行われている今シーズン。山口県内の大学に通っているため足を運んだが、自分たちのプレーに対して手拍子や拍手(声援や応援は解禁されてない)がない状態で90分間を戦うことは選手にとってやりにくいのではないかとスタンドから感じた。

 席から見渡すと、レノファ山口のチームカラーであるオレンジ色だらけだった。もちろんファジアーノ岡山を連想させる色は全くない。

 いつにも増してアウェイ感が強い中で、逆転で勝点3を持って帰れたのはチームにとって大きいはず。逆境の中でのプレーは必ずチームや選手をタフにするだろう。


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 スタジアムを後にして、少し歩き、大きくガッツポーズをしてから帰路に就いた。

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