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茶と花とアヴァンギャルド

花の名手・池坊専好と茶人・千利休は、互いを認め合う親友であり、ジャンルは違えど好敵手であった。無駄なものをそぎ落とし先鋭的になっていくふたりに対し、豊臣秀吉は天下を取ったことで顕示欲にまみれていく。業を煮やした秀吉は無実の罪をなすりつけ、利休に切腹を命じる。そして専好は秀吉への復讐を誓う。ただし、刀ではなく花を生けることで。
鬼塚忠さんの『花戦さ』(角川文庫)は、池坊に伝わる史実をもとに書かれた時代小説で、2017年には野村萬斎さん主演で映画化された。

花にしろお茶にしろ、単なる趣味ではなく生き方であり、戦国時代に合っては文字通り「いくさ」だったことが、この小説を読むとわかる。秀吉が最も恐れたのが、美を追求する人たちの心の強さだった。

学生時代に、赤瀬川源平が脚本を手掛け、いけばな草月流の家元でもある勅使河宏が監督を務めた映画『利休』を観た。映画を見ただけでは、前衛的なふたりとお茶の世界とがあまり結びつかなかったが、赤瀬川の『千利休 無言の前衛』(岩波新書)を読んで納得した。
前衛芸術家の赤瀬川源平が、千利休を「前衛芸術家」と見立てて論じている。

何となく気になってテレビのチャンネルを変えた途端に飛び込んできた映像を、今でも覚えている。
空から舞い落ちる無数のチューリップの花びら。その下で踊るのは舞踏家の大野一雄。前衛生け花作家、中川幸夫の名前を覚えた瞬間だった。
早坂暁さんの『君は歩いていくらん』(求龍堂)で、その半生を知ることができる。家元制を否定し池坊を脱退。同じく生け花作家である妻の唄子と、極貧の生活を続けながら美に殉じる生き方には、畏敬の念を禁じえない。

芸術と地域とのかかわり方について知りたくなり、手に取った本が北川フラムさんの『ひらく美術』(ちくま新書)。読み進んでいくと、中川幸夫と大野一雄とのコラボを企画したのがこの人だったと分かり、驚きとともに色々なことがつながっていく喜びを同時に感じた。
理解されにくい現代美術を地域の人たちと作り上げていくには、どうすれば良いのか。地道な対話と実践を続けていく著者の行動力を見習って、地域とのかかわり方を考えていこうと思う。

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