タカキヨシナガ

元・書店員。店長・エリア長・SVなど。 https://twitter.com/tak…

タカキヨシナガ

元・書店員。店長・エリア長・SVなど。 https://twitter.com/takaki_ysng

マガジン

  • Korean-indies/R&B/jazz オススメ

    Korean-indies / R&B / hiphop / jazzの新譜を中心にオススメしています。

最近の記事

食べる・歴史・志ん生

(2019年1月執筆) 単身赴任を始めてそろそろ2年、節約のためになるべく自炊を心がけているが、レパートリーはさほど増えていない。同じようなものばかりでバランスが取れていないので、お腹まわりが年相応に成長している。 成長に見合った栄養が取れる給食という仕組みってよく出来てるよな…と手に取ったのが藤原辰史『給食の歴史』(岩波新書)。 貧困児童の救済という目的で、戦前から少しずつ給食という仕組みは整えられていったが、その背景には常に戦争があった。総力戦においては、子供も重要な後方

    • 非常時に、本と本屋ができるかもしれないこと

      非常事態が起きた時に最優先されるべきなのは、もちろん衣食住に関わることです。そして、次にくるのが心のケアだと思います。本や雑誌がそこでどんな役割を果たせるのかを、頭の片隅に置きながら日々仕事をしています。 鎌倉幸子『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)は、東日本大震災直後に立ち上げられた移動図書館プロジェクトについての活動記録です。もらうのでもなく購入するのでもなく、「借りる」という行動を選ぶ理由。それは、借りた本を返す・期限という約束を守る・みんなで使うものは大切に扱

      • 地方の商いでヒントになる本

        景気が上向いているというニュースを見ても、残念ながら実感がありません。地方に住んでいるからか、少子高齢化や人口減少といった話題の方が気になるからかもしれません。 平川克美『「消費」をやめる』(ミシマ社)は、ビジネスの第一線で活躍してきた著者が、顔が見える小さな商いの大切さを語った本です。成長し続けなければ維持できない今の世の中は、色んなところで無理が生じています。それを変えるためには、「無駄なものを買わないという選択肢」を大切にすること、そして働き方から変えていくことが必要な

        • 2012年の本屋大賞

          「全国書店員が選んだいちばん!売りたい本」のキャッチコピーで、今やすっかりおなじみになった本屋大賞。2012年の大賞は、三浦しをんさんの『舟を編む』(光文社)でした。辞書の編纂という一見地味な舞台設定が、ここまで厚く、もとい熱く心躍るエンタテイメントになってしまうなんて、本当に驚きです。言葉を紡ぎ、辞書を編んでいく主人公。その真摯で「まじめ」な姿に共鳴し、協力を惜しまない人々。老若男女問わず、言葉を愛する全ての人に、原作だけではなくコミックもアニメも映画も自信を持ってオススメ

        食べる・歴史・志ん生

        マガジン

        • Korean-indies/R&B/jazz オススメ
          5本

        記事

          じんわり暖かくなる本

          穂高明さんの『月のうた』(ポプラ文庫)は、病気で母を亡くした主人公の民子、継母となった宏子、実母の親友・祥子、父親の亮太が、それぞれの視点で語る家族の物語。ストーリーが進むに連れ、心に閉じ込めていた思いが明かされ、今まで見えなかった相手の優しさや強さに気づいていく。民子に、真摯に前を向いて生きることを教えたおばあちゃんがまた、かっこいい。 読書家として知られるお笑い芸人、ピース又吉直樹さんの、本にまつわるエッセイ集『第2図書係補佐』(幻冬舎文庫)。紹介されている本も渋くてお

          じんわり暖かくなる本

          見る/知る

          人間が外界から得る情報の8~9割は視覚に頼っている、らしい。メガネを外すのは風呂に入る時だけなので、自分の肌感覚としてもこの説は正しい気がしていた。 伊藤亜紗さんの『 目の見えない人は世界をどう見ているのか』(光文社新書)を手に取り、何枚ウロコが張り付いていたんだろう!?と、何も見えていなかった自分の感覚の鈍さに驚く。 例えば空に浮かぶ月。見える人には円形だが、見えない人には球体としてイメージされる。見える人にとっては、絵本などで「まあるいおつきさま」として幼いころから刷り

          今村翔吾 『じんかん』(講談社)

           仕えた主人を殺し、将軍を暗殺し、東大寺の大仏殿を焼き払う。「人がなせぬ大悪を一生のうちに三つもやってのけた男」と、あの織田信長に言わしめた極悪人・松永久秀。 その久秀が謀反を起こしたことを伝えに来たのは、小姓の狩野又九郎。信長に激昂されることを覚悟していた。しかし「奴は進めようとしているのだ」と穏やかにつぶやいた後、久秀の来歴を語り始める…。 とまどう又九郎に、信長は何を伝えようとしているのか。  幼いころに父を殺され母を失い、仲間を失い続けたことで、神仏を一切信じなくなっ

          今村翔吾 『じんかん』(講談社)

          新しい技術との出会いと戸惑いと(2018年1月)

          学生時代に使っていたのは、持ち運ぶには重すぎる兄からのおさがりのノートパソコンだった。卒論の保存先はフロッピーディスク。電話回線がつながるまでの長い時間をボンヤリと待った。ハイレベルな議論が交わされているパソコン通信の掲示板に参加する勇気など、もちろんない。インターネット以前の話だ。 今ならスマートフォンで大概のことができるようになった。じゃあその次は? これからの30年を示唆するのが『インターネットの次に来るもの』(ケヴィン・ケリー著 服部桂 訳 NHK出版)だ。人もモノも

          新しい技術との出会いと戸惑いと(2018年1月)

          ジャズ・アンバサダーズ 「アメリカ」の音楽外交史

          時代を追うごとにより自由な表現形態を追求し、演奏者個人の創造性を重視する「自由の国アメリカ」を象徴する音楽、ジャズ。第二次世界大戦後、「自由」を宣伝し国内の人種問題に対する負のイメージを払拭するため、アメリカはジャズミュージシャンを「ジャズ大使」として積極的に世界各国に派遣します。しかし、その思惑通りには行きません。ジャズのもう一つの側面である「抵抗の音楽」が、国境と人種を超えて影響を与え合う様子を浮き彫りにした斎藤嘉臣氏の『ジャズ・アンバサダーズ』(講談社選書メチエ)は、ま

          ジャズ・アンバサダーズ 「アメリカ」の音楽外交史

          残響/ハーレム/本屋/JAZZ (2016年3月)

          私たちの生活にも大きな影響を及ぼすであろう、アメリカの大統領選挙。立候補者たちがしのぎを削っています。国内外に多くの不安を抱えるアメリカという大国が「壁を築く」のか「壁を壊す」のか、日々のニュースに注目しています。 中村寛さんが『残響のハーレム』(共和国)で描いたのは、9.11直後のニューヨーク・ハーレム地区で暮らす黒人のムスリム(イスラム教徒)たち。現在も黒人への差別と暴力があり、またアフリカ系アメリカ人と、近年アフリカから移住してきた人たちとの間には、同じムスリムであっ

          残響/ハーレム/本屋/JAZZ (2016年3月)

          言葉との距離の測り方

          物心つく前に、アメリカ人の父と日本人の母に養子として引き取られた、シリア人の女の子。私はなぜここにいられるのか、ここにいても良いのか。恵まれた環境への屈折した感情。家族や友人・恋人、そして自分をも傷つけながら、葛藤を経てたどりついたのは、怒りや悲しみも自身の感情として受け止めそれを肯定すること。それは、わからないことに対してわかったふりをせず、世界の多様性に想いを寄せることでもあります。主人公の名前である『 i(アイ)』(ポプラ文庫)というタイトルには、どんな意味が込められて

          言葉との距離の測り方

          あなたの背中を押してくれる3冊

          発売される本がすべて面白い一冊入魂の出版社、ミシマ社。たった一人で起業し、今も全力疾走中の、笑いと驚きに満ちた5年間を社長の三島さん自身がつづった一冊が『計画と無計画のあいだ』(河出文庫)。ここまでまっすぐな人はそういません。そんな無茶して大丈夫?と思える部分も結果オーライ。その不安定さもまた、魅力の一つです。 五十嵐貴久さんの『1995年のスモーク・オン・ザウォーター』(双葉文庫)は、平凡な人生を送ってきた主婦が主人公。友人の強引な誘いで、なぜかバンドを組むことに。曲はも

          あなたの背中を押してくれる3冊

          ソーシャル/デザイン/コミュニティ

          コミュニティ・デザインやソーシャル・デザインといったキーワードが、ここ数年書店の店頭でも目立つようになりました。私が住んでいる鳥取の市街地でも、個性的なお店が増えたり、空き家や空き店舗を活用したワークショップが開催されたりと、自分たちが暮らす場所を見直す機運が高まっています。そしてこの流れは、世界中で同時進行しています。 佐久間裕美子さんの『ヒップな生活革命』(朝日出版社)は、アメリカの各地で広がりつつある、「『より多く』から『より良く』へ」という動きを丁寧な取材で捉えた好

          ソーシャル/デザイン/コミュニティ

          茶と花とアヴァンギャルド

          花の名手・池坊専好と茶人・千利休は、互いを認め合う親友であり、ジャンルは違えど好敵手であった。無駄なものをそぎ落とし先鋭的になっていくふたりに対し、豊臣秀吉は天下を取ったことで顕示欲にまみれていく。業を煮やした秀吉は無実の罪をなすりつけ、利休に切腹を命じる。そして専好は秀吉への復讐を誓う。ただし、刀ではなく花を生けることで。 鬼塚忠さんの『花戦さ』(角川文庫)は、池坊に伝わる史実をもとに書かれた時代小説で、2017年には野村萬斎さん主演で映画化された。 花にしろお茶にしろ、

          茶と花とアヴァンギャルド

          子どもと関わる本3冊

          中脇初枝さんの『君はいい子』(ポプラ文庫)は、同じ町、同じ雨の日の午後を描く連作短編集。子供を愛せない、親を愛せない、それぞれの理由。親子だから愛情があって当然と思えるのはたまたまであって、必然ではない。抱えてしまった傷を癒すのは、ちょっとした行動やさりげない一言。この本を読んでから、「いい子」って誰にとっての「いい子」なんだろうと考え続けている。映画もオススメ。 図書館での児童向けサービスの充実に長年尽力し、うさこちゃんやパディントンの翻訳や創作など、児童文学の世界でも第

          子どもと関わる本3冊

          陣野俊史『サッカーと人種差別』(文春新書)

          2014年、あるJリーグチームのサポーターが差別的な横断幕を掲げて問題となり、無観客試合という処分が下されたことは、改めてスポーツと差別について多くの人が考える契機となった。 陣野俊史さん『サッカーと人種差別』(文春新書)では、ここ20年のヨーロッパを中心に、スタジアムで起きた人種差別事件と、チーム・選手・サポーターがそれにどう対処したかが、丁寧に紹介されている。 「人はレイシスト(人種差別主義者)に生まれるのではない。人はレイシストになるのだ。」(リリアン・テュラム:元フラ

          陣野俊史『サッカーと人種差別』(文春新書)