ショア『Transparancies』を読む 第2回「巻末のエッセイを読む」

はじめに

 読者の皆様、こんにちは、tkjgraph(@tkjgraph)と申します。本noteでは、自身のアウトプットの機会として、また、同じく写真やアートについて知りたい/学びたい方との交流の機会として、写真やアートについて(短く、簡潔に!)書いていきます。
 最初のシリーズでは、スティーブン・ショア『Transparencies: Small Camera Works 1971-1979』(以下、『Transparancies』)を扱います。

前回の記事はこちらから!シリーズなので、最初から順に読み進めていただけると!

Stephen Shoreとは?

アメリカ・ニューヨーク生まれ。幼少より写真を撮り始め、1971年にはメトロポリタン美術館で写真家として初の個展を開催。以降、ニューカラーの代表的旗手として活躍する。代表作に、『Uncommon Places』『American Surfaces』がある。

IMA「IMAPEDIA スティーブン・ショア」https://imaonlne.jp/imapedia/stephen-shore/、2023年3月6日アクセス

まずは、巻末のエッセイを読む

※写真集を持っていない方、まずはこの動画を見てください!※

 第1回は、『Transparancies』の概要をざっと説明しました。第2回では、次回以降への導入として、巻末のエッセイ、Britt Salvessen「Ordinary Speech: The Vernacular in Stephen Shore’s Early 35mm Photography」を扱います。写真史におけるショアの位置づけと『Transparancies』に収められた写真のユニークさについて、キュレーターである筆者がコンパクトにまとめています。

キーワード、「ヴァナキュラー」

Reffering to the 35mm photographs he made in the early-to-mid 1970s, Stephen Shore has explained his interest in making photographs that were the equivalent of how people talked: ordinary speech, as opposed to the formality of writing

Britt Salvessen, "Ordinary Speech: The Vernacular in Stephen Shore’s Early 35mm Photography",Transparencies: Small Camera Works 1971-1979, London; Mack, 2020,181 
 

 筆者は、フォーマルな「書き言葉」ではなく「日常会話」で写真を撮る、というショアの言葉から、「vernacular(ヴァナキュラー)」という単語を連想し、主題の選択から撮影方法まで、あらゆる水準での「ヴァナキュラー」さが、この作品の特徴であるとします。
 
 筆者によれば、(広義の意味での)ヴァナキュラー写真とは、芸術家ではない人々による、芸術を目的としない写真で、商業、犯罪捜査、産業、個人用など、様々なコンテクストにおいて撮影された写真のこと。当時の写真史は、自らを芸術家と見なし、芸術としての写真を撮影する写真家を中心に写真史が構成されていて、ヴァナキュラー写真は、数でみれば多数派だったのですが、蚊帳の外でした。

 で、そういう写真史のあり方に疑問を持った写真家たちが、新しい主題や技法を探索しようと、ヴァナキュラー写真に注目したわけです。

ショアは「ヴァナキュラー」にどう向き合ったの?

If you remove as much of the photographic convention as possible, what you’re left with is yourself, and how you see

Gil Blank, "A Ground Neutral and Replete: Gil Blank and Stephen Shore in Conversation", Whitewall, 2007, 92-107

 「ヴァナキュラー」とは元々、その土地固有の、あるいは、その土地固有の言葉の、といった意味です。ここでショアは「ヴァナキュラー」な写真に、「日常会話」のように世界と自然に関わる人々のあり方を見出し、まさにその経験を写そうと、通常の写真家の慣習にとらわれず、市井の人々と同じく35mm版のカメラ、カラーのポジフィルムを使います。そうして完成したのが『American Surfaces』

 しかしショアは、35mm版フィルムのプリントのクオリティには満足できませんでした。(第一回を参照) 「アメリカを探索した模様を、より鮮明かつ詳細に写したい」、そう思ったショアは8×10版フィルムでの撮影に移行します。8×10版フィルムは、ウォーカー・エヴァンスら過去の写真家が用い、信頼を置かれてきたフォーマットです。『Uncommon Places』は、こうして生まれ、前作にはなかった「会話のニュアンス」が見出せます。

 一方で、35mm版用のカメラと、8×10版用のカメラでは、その重さゆえに写真を撮影するプロセスが全く異なります。だから実際には、2つを併用して、互いに補完し合いながら撮影を行っていました。

Cameras are just tools, but in Shore’s case, they channel a memory full of photographic precedents and an eye uniquely attentive to visual experience.

Britt Salvessen, "Ordinary Speech: The Vernacular in Stephen Shore’s Early 35mm Photography",Transparencies: Small Camera Works 1971-1979, London; Mack, 2020, 189

『Transparancies』のショアには、人々の「日常会話」と過去の写真家の技術、その双方が備わっていた、ってわけです。

次回予告

 今回はここまで!次回は、ショア、あるいは全ての写真家に大きな影響をもたらした、ジョン・シャーカフスキーという重要人物について学びます。

 質問や感想は、ぜひコメントで教えてください!「ここが面白かった!」「ここもっと説明して欲しい!」何でもOKです!
 ではでは、ごきげんようー

参考文献

  • Britt Salvessen, "Ordinary Speech: The Vernacular in Stephen Shore’s Early 35mm Photography",Transparencies: Small Camera Works 1971-1979, London; Mack, 2020, 181-189

  • Gil Blank, "A Ground Neutral and Replete: Gil Blank and Stephen Shore in Conversation", Whitewall, 2007

  • Stephen Shore, Transparencies: Small Camera Works 1971-1979, London; Mack, 2020

  • unobtainium photobooks, "Transparencies: Small Camera Works 1971-1979 by Stephen Shore." Accesed March 6, 2023. https://www.youtube.com/watch?v=VlSaWbm78FA

  • IMA「IMAPEDIA スティーブン・ショア」https://imaonlne.jp/imapedia/stephen-shore/、2023年3月6日アクセス

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