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映画分析ノック⑨『刑事ジョン・ブック/目撃者』(1985)

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■構成表

起「事件発生/目撃者となった子ども」
①:アーミッシュの村の葬式。夫を亡くした妻・レイチェルと、息子・サミュエル。悲しみに暮れる。
②:親族のいるボルチモアへ向かうため、汽車に乗るレイチェルとサミュエル。乗り換えの駅で遅延があり、待ちぼうけを食らう。
③:サミュエル、駅の公衆トイレで2人組の男による殺人を目撃!間一髪で見つからずに済む。黒人である犯人の顔を覚える。

承「犯人の判明/アーミッシュ村へ避難」
④:刑事ジョンブック、犯人の顔を見たというサミュエルに事情を聞くため、2人を車に乗せる。
⑤:車で目的地へ向かう途中、ジョンがクラブで黒人を乱暴に連行してサミュエルに確認する。それを見て嫌悪感を抱くレイチェル。
⑥:ジョンの姉の家に着いたレイチェルとサミュエルは、そこに泊められることに(勝手に退散されないように)
⑦:翌日、サミュエルは警察署で容疑者たちを見せられるが、どれも目撃した犯人とは違うようだ。
⑧:休憩のホットドック屋、レイチェルは刑事ジョンに最悪の印象を持っている。アーミッシュという村の宗教性・異端さも分かる。
⑨:警察署で容疑者リストをめくっているサミュエル。そこで目撃した犯人と一致する刑事マクフィーの表彰写真を発見。ジョン確信。
⑩:ジョン、シェイファー本部長の家へ赴き、彼に犯人がマクフィーであることを伝える(麻薬捜査履歴とも辻褄が合う)。
⑪:その夜、駐車場でジョンはマクフィー刑事に銃で狙撃され負傷する。本部長もグル(黒幕)であることを悟る。
⑫:ジョンは目撃者であるサミュエルとレイチェルの安全を守るため、2人を姉の車でアーミッシュの村に送り返す。
⑬:途中、相棒の刑事にサミュエルの居場所を特定されないようにするため、調書を破棄してもらうように伝える。
⑭:アーミッシュ村に着いたレイチェルとサミュエルだが、車で引き返そうとしたジョンは負傷で気絶。車で小鳥の家を壊してしまう。
⑮:病院へ行くと警察に通報されてしまうため、アーミッシュ村の薬膳で治療を受けるジョン。
⑯:非暴力主義の村人たちは銃を持つイギリス人のジョンを置いておくことに反対するが、看病すると決めたレイチェル。
⑰:一方で本部長シェイファーと、犯人のマクフィー刑事らは、アーミッシュ村の管轄にレイチェルを探すよう要求。しかし至難の業(アーミッシュ村の人々は前近代的な暮らしを送っている)。
⑱:目を覚ましたジョンは、引き出しに仕舞っておいた銃をサミュエルがいじっているのを発見し注意する。村人たちの反感は大きくなる。
⑲:ジョンはアーミッシュ村の格好をして、町の公衆電話から相棒に連絡。相棒は、今ジョンを犯人刑事たちが血眼で探していると伝える。
⑳:ジョンはレイチェルの義父に頼まれ、牛の乳搾りを手伝う。
㉑:レイチェルとサミュエルと義父と共に、食卓につくジョン。
㉒:ジョン、工具で小鳥の家を修理する。そこにレイチェルが来て、二人は惹かれあう(反対する義父)。
㉓:一方、本部長シェイファーがジョンの居場所を知る相棒刑事を問い詰めている。口を割らない相棒刑事。
㉔:アーミッシュ村の新婚夫婦のために納屋の建設を手伝うジョン。見守るレイチェル(村人たちはジョンとレイチェルの関係を噂する)。
㉕:ジョン、レイチェルに好意を伝えると共に、一緒になることはできないとも伝える。

転「居場所がバレた/対決の時」
㉖:ジョン、町の公衆電話から相棒に電話するが、相棒が亡くなったことを知らされる。本部長シェイファーによる暗殺だと確信。
㉗:ジョン、逆探知されないように本部長シェイファーの自宅に電話し、絶対に相棒の仇を打つと宣戦布告。苛立つ。
㉘:馬車で移動中、アーミッシュ村の人々をバカにする者たちに遭遇したジョン。苛立っていたことから我慢ならず彼らを殴ってしまう。
㉙:非暴力主義のアーミッシュ村において暴行騒ぎは異例であり、そのことから犯人警官たちに居場所を特定されてしまうジョン。
㉚:新しい小鳥の家を建てるジョン、明日にアーミッシュ村を去るらしい。
㉛:悲しむレイチェル。ジョンとレイチェルは抱き合い、別れを惜しむようにキスをする。
㉜:そこへ犯人警官たちがジョンを狙ってレイチェルの家に押しかけてくる。義父がジョンに警告し、ジョンとサミュエルは逃げる。
㉝:ジョン、よく知った家の地理を活かして、逃げながら犯人たちを一人一人殺してゆく。
㉞:逃げたサミュエルだったが、ジョンのことが心配で戻ってくる。義父の指示でサミュエルは村の鐘を鳴らす。
㉟:追い詰められた本部長シェイファーは、レイチェルを人質にとりジョンを脅迫。しかし鐘の音を聞いた村人たちが集まってくる。

結「事件解決/別れ」
㊱:本部長シェイファーを説得するジョン。村人皆が目撃者である。降伏するシェイファー。
㊲:ジョン、アーミッシュ村を離れ、自分の街へと帰っていく。見送るレイチェル。しばし見つめあって…。


映画『刑事ジョン・ブック/目撃者』分析


■主人公は誰で、どこから登場しているか

主人公は刑事ジョン・ブック。
事件の目撃者であるサミュエルに事情聴取を行う刑事として登場。
「承」の冒頭④(※開始16分地点)


■二番目の人物は誰で、どこで登場しているか

レイチェル。目撃者・サミュエルの母親。
冒頭、アーミッシュ村の葬式シーンで、夫を亡くした妻として登場。
「起」の冒頭①(開始1分地点)


■主人公の物語が本格的に始まるのはどこか。それはどんな物語か

刑事ジョン・ブックが、事件の目撃者・サミュエルに事情聴取をするシーン。
主人公の登場シーンであり、物語の本格的なスタート地点でもある。

これは【刑事ジョン・ブックが、事件の目撃者である少年とその母親を守るため、村に隠れながら犯人と対峙する物語】


■物語が大きく転換しているのはどこか

転換点は2ヶ所ある。

①狙撃された刑事ジョン・ブックがアーミッシュ村で気絶するシーン
→以降、刑事ジョンは村に身を寄せることとなる。

②刑事ジョンが町の公衆電話から相棒の死を知らされるシーン
→以降、刑事ジョンは村を出ていくことを決意。同時に、居場所が犯人たちにバレてしまう。


■クライマックスはどこか

刑事ジョン・ブックが身を寄せていたレイチェルの家に犯人たちが訪れ、直接対決するシーン。
ジョンは自分がこの家で過ごした時間を感じさせる逃げ方で犯人の攻撃をかわしてゆく。
ジョンは実行犯の2人を銃殺するが、黒幕である本部長シェイファーは愛しのレイチェルを人質に取る。
そこに目撃者・サミュエルの助け(鐘の音を鳴らす)があり、犯人を追い詰めることに成功。
村人全員が本部長シェイファーの犯行の「目撃者」となることで、事件は解決する。


■主人公が困ること、苦しむことはどこでどんなふうに起こっているか

・刑事ジョンが目撃者・サミュエルに事情を聴くが、母・レイチェルがそれをよく思わない。
・事件が警察内部の犯行であることが分かり、命を狙われることに。
・銃で狙撃され、気絶するほどの傷を負ってしまう。
・馴染みのないアーミッシュ村で過ごすことになる。
・銃を持っているイギリス人のジョンは村人からよく思われていない。
・レイチェルに恋をしてしまう(別れが分かっている恋)。
・自分を匿っていた相棒刑事が、黒幕である本部長シェイファーによって暗殺されてしまう。
・アーミッシュ村の人々をバカにする若者を殴ってしまい、犯人たちに居場所が知られてしまう。
・ジョンの暮らすレイチェルとサミュエルの家に犯人たちが銃を構えて乗り込んでくる。
・最愛のレイチェルを人質に取られてしまう。


■逆にホッとするようなことや主人公が喜ぶことはどこで起こっているか

・目撃者サミュエルが犯人を警察署内で偶然見つける(表彰写真)。
・銃撃された傷から瀕死の危機にあったが、村人やレイチェルの看病で一命を取り留める。
・自分を嫌悪していたはずのレイチェルが、徐々に好意を持ってくれるようになる。
・アーミッシュ村での暮らしを通して、少しだけ村に馴染んでくる。
・実行犯2人を銃撃戦の末に制圧する。
・黒幕である本部長シェイファーの説得に成功する。


■起承転結に分けるならどこまでが起でどこまでが承か

起:事件発生/目撃者となった子ども
①アーミッシュの村の葬式。夫を亡くした妻・レイチェルと、息子・サミュエル。悲しみに暮れる。

③サミュエル、駅の公衆トイレで2人組の男による殺人を目撃!間一髪で見つからずに済む。黒人である犯人の顔を覚える。

承:犯人の判明/アーミッシュ村へ避難
④:刑事ジョンブック、犯人の顔を見たというサミュエルに事情を聞くため、2人を車に乗せる。

㉕:ジョン、レイチェルに好意を伝えると共に、一緒になることはできないとも伝える。

転:居場所がバレた/対決の時
㉖:ジョン、町の公衆電話から相棒に電話するが、相棒が亡くなったことを知らされる。本部長シェイファーによる暗殺だと確信。

㉟:追い詰められた本部長シェイファーは、レイチェルを人質にとりジョンを脅迫。しかし鐘の音を聞いた村人たちが集まってくる。

結:事件解決/そして別れ
㊱:本部長シェイファーを説得するジョン。村人皆が目撃者である。降伏するシェイファー。
㊲:ジョン、アーミッシュ村を離れ、自分の街へと帰っていく。見送るレイチェル。しばし見つめあって…。


■三幕だとするとどこが分かれ目か

第1幕:事件発生/犯人判明/避難
①アーミッシュの村の葬式。夫を亡くした妻・レイチェルと、息子・サミュエル。悲しみに暮れる。

⑭:アーミッシュ村に着いたレイチェルとサミュエルだが、車で引き返そうとしたジョンは負傷で気絶。車で小鳥の家を壊してしまう。

第2幕:村の暮らし/交流
⑮:病院へ行くと警察に通報されてしまうため、アーミッシュ村の薬膳で治療を受けるジョン。

㉛:悲しむレイチェル。ジョンとレイチェルは抱き合い、別れを惜しむようにキスをする。

第3幕:犯人との対決/事件解決/別れ
㉜:そこへ犯人警官たちがジョンを狙ってレイチェルの家に押しかけてくる。義父がジョンに警告し、ジョンとサミュエルは逃げる。

㊲:ジョン、アーミッシュ村を離れ、自分の街へと帰っていく。見送るレイチェル。しばし見つめあって…。


■このストーリーを3行で言うとどうなるか

刑事ジョン・ブックが目撃者であるアーミッシュの少年・サミュエルの証言により警察内部に犯人を突き止める。
しかし黒幕も警察にいることから命を狙われてしまい、目撃者であるサミュエルと母のレイチェルを連れてアーミッシュ村へ。
村で暮らす過程でレイチェルに恋をしたジョン。そんな彼の元に犯人が現れ、銃撃戦の末に事件を解決へと導くことに成功する。


■このストーリーを15項目くらいの箇条書きにするとどうなるか

・アーミッシュ村の葬式。夫を亡くしたレイチェルと息子・サミュエルが悲しみに暮れる。
・レイチェルとサミュエルが親戚の住む地方へ向かう途中、駅のトイレで事件の目撃者となってしまうサミュエル。
・刑事ジョンブックがサミュエルに容疑者を見せるために連れてきた警察署の中で、サミュエルが犯人である刑事マクフィーを発見。
・ジョン、犯人がマクフィーであることを本部長シェイファーに伝えると、夜に狙撃されて負傷(黒幕はシェイファーだった)。
・目撃者であるサミュエルと母レイチェルの安全を確保するため、姉の車でアーミッシュ村へと送り返すジョン。
・銃の負傷からアーミッシュ村で気絶してしまうジョン。レイチェルや他の村人から看病されて、一命を取り留める。
・一方で本部長シェイファーや実行犯の刑事マクフィーらは、血眼でジョンの行方を探している。唯一知っているのは相棒刑事。
・ジョンはレイチェルの義父の家に身を隠しながら、牧畜などの家業を手伝って暮らす。
・次第にジョンはレイチェルに対して恋心を寄せていく。レイチェルもまたジョンに惹かれていく。義父や村人たちは反対する。
・ジョン、町の公衆電話から相棒刑事が殉職したことを知らされ、本部長シェイファーの仕業だと確信する。
・苛立ちからアーミッシュ村の人を馬鹿にした若者を殴ってしまい、警察(犯人たち)にジョンの居場所がバレてしまう。
・ジョンは村を出ていくことを決め、レイチェルと別れのキスをする。
・居場所を突き止めた犯人たちが、ジョンが暮らすレイチェルの義父の家に銃を持って現れる。
・激しい銃撃戦の末に実行犯2人を射殺し、黒幕である本部長シェイファーも降伏されることに成功。事件は解決した。
・レイチェルに別れを告げて、アーミッシュ村を後にするジョン。レイチェルが見送るジョンの後ろ姿。


面白いと感じたポイント

■セリフ

○義父の家
サミュエルと義父、机の上に置いてある(ジョンの)銃を見ている。
 義父   「銃は人の命を奪うための道具だ。」
 サミュエル「(銃を見つめ)……」
 義父   「人の命を奪ってはならん。それは神のお仕事だ」
 サミュエル「(聞いていて)……」
 義父   「戦争があるたびに世間は我々に言った。”武器をとり、人を殺せ。善を守るたった一つの道だ” と」
 サミュエル「……」
 義父   「だが、求めれば必ず、ほかの道がある」
 サミュエル「……」
 義父   「人間を殺したかね?」
 サミュエル「悪いやつなら……」
 義父   「悪いやつは殺すのか。(少し考えて)見ただけで分かるのか? 心の中の悪まで見えるのかね?」
 サミュエル「悪い行いは分かるよ。僕、見たもん」
 義父   「それを見たお前は、彼らと同類になるんだよ」
机の上の銃。
 義父   「(銃を見て)一度手にすれば、それは心を染める。”ゆえに、彼らの中を出て離れて暮らせ。主は言われた。汚れたものに触れるな" (話を終わらせるように)さあ手伝いを」
 サミュエル「はい。おじいちゃん」

👉アーミッシュ村の人々の「非暴力主義」の信仰を象徴するシーン。
ジョンの暴力的な振る舞いが「目立ってしまう」ことへの前段階になっている。

👉サミュエルは「銃」を触らない。
→クライマックスでジョンを助けたいサミュエルは、「銃」を触るのではなく「鐘」を鳴らす。


■キャラクター

《主要人物》
刑事ジョン・ブック
目撃者の少年・サミュエル
未亡人の母・レイチェル
義父
実行犯・刑事マクフィー
黒幕の本部長シェイファー
相棒刑事カーター

ーサブキャラー
殺された刑事
もう一人の実行犯
ジョンブックの姉
黒幕・シェイファーの妻
村人の医者(ジョンの傷を治療する)
村人の青年(レイチェルを気になっている)


👉警察の内部の犯行である場合、居場所を知られないように「身を隠す場所」が必要になる。
病院に行ったり、警察に相談したり、街で目立つような行為ができない制約が生まれる。


■構成/ストーリー


・「目撃者」のタイトル回収
事件発生:犯人を見た少年一人が「目撃者」となってしまう。
事件解決:犯人を大勢の村人が「目撃者」となって降伏させる。

・ラブコメの定番
前半:暴力的で銃を持っているイギリス人の刑事ジョンブックに嫌悪感を抱くレイチェル。
後半:徐々に惹かれてしまい、別れを惜しむキスをするジョンとレイチェル。
※「非暴力」を信条とするアーミッシュ村の人々からは理解されないジョン。だからこそ二人の恋は燃えるのである。

・映画『天使にラブソングを』や、テレ朝大賞『夏目泥棒綺譚』と同じ構成
最初は煩わしかった場所が、徐々に大切な場所へと変わっていく。
①事件があり、身を隠す必要性が。
②不本意なところに身を隠すことに(アーミッシュ村)
③徐々に馴染んで居場所となっていく。
④離れなくてはならない事情。別れを惜しむ。

・イントロは素早く「本題」へ!
事件発生までが早い。
葬式→移動途中の駅→公衆トイレで事件発生。

・犯人が判明・村に身を隠して以降は「カットバック」構成!
犯人判明で村へ…
(カットバックで)
>村の暮らしと交流
>犯人が近寄ってくる
>村の暮らしと交流
>犯人が近寄ってくる
>村の暮らしと交流
>犯人が近寄ってくる


■小道具

・アーミッシュ村で暮らしたレイチェルの義父の「家」
クライマックスで犯人3人から逃れる際、ジョンは身を寄せた家の地理を利用して、逃げ回る。
「家」のあちこちに暮らした思い出があることを印象づける。
つまり、ただ逃げているだけでなく、この「家」で過ごした時間を想わせるシーンになっている。

・「銃」は暴力の象徴
アーミッシュの人々は「非暴力」を信条としており、刑事とはいえ「銃」を持っているジョンは嫌悪される。
義父とサミュエルのシーンにおいても「銃」は暴力的で汚れたものだと印象づけている。


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