【中学受験ネタ】プラモデル
母の三回忌に、宇都宮に住んでいる弟(次男)が実家に帰ってきた。
「ほら、これ。叔父さんが開発した車だよ」
そう言って、弟は車のプラモデルを息子に渡した。
「ありがとう!」
弟は自動車メーカーに勤めていて、自動車の開発をしているが、その車が日本車初のドイツカーオブザイヤーを受賞したそうだ。
「それはすごいじゃん。うちの車、次はその車にするよ」
弟はあいまいな表情をした。
「今、この車結構高級車になってんだよね」
値段を聞くと、手が出ない値段ではない。
「高すぎるってわけじゃないじゃん」
「しかも電気自動車なんだよね」
その言葉で、我が家での購入は諦めた。
電気自動車は充電時間がネックになる。ガソリンなら数十秒だけど、充電は時間がかかる。いっそのことバッテリーごと交換できたらいいのに。
一方、息子は大喜びで、さっそくプラモデルを組み立て始めたが、小さな部品を落としてしまった。
「どれくらいのサイズ?」
話を聞くと、3ミリ程度の小さな部品らしい。なかなか見つからず、しまいには家族総出で部品探しをすることになった。
数分後、弟が見つけたが、「実家の絨毯の模様に同化するので探しにくい」という話になって、実家で組み立てるのは禁止になった。
自宅マンションに帰ってから、息子はプラモデルを組み立て始めた。
「ボク、プラモデルを作るのは初めてだよ」
と嬉しそう。
組み立て系のおもちゃは沢山与えたが、たしかにプラモデルは初だった。息子はこういう組み立て系おもちゃには目がない。迷路なども好きで、低学年の時は自作の迷路を作っていた。
考えてみれば、弟(次男)もこういう組み立て系のおもちゃや機械が大好きだった。こういう志向は私より次男に似ていると思う。
我が家は三男の弟も愛知の自動車メーカーに勤めていて、似たような仕事をしている。
したがって、長男の私は、車購入の際、いつもどちらを買えばいいのか悩む。
次男に聞くと、「うちのは癖が強いから、三男の会社の車がいいと思う」
と言い、
三男に聞くと、「うちの車もいいけど、ドイツ車はどう?」
と言うので、結局あまり参考にもならない。
さて、組み立てが得意な息子は、あっという間にプラモデルを組み立て、車を走らせようと電池を入れ始めた。
時間は午後9:00過ぎになっていた。
息子が車にスイッチを入れると、耳をつんざくような猛烈な回転音が鳴った。
走らせてみたのだが、やはりうるさく、「隣の部屋に聞こえて苦情が出るのではないか」という話になって、夜に車を走らせるのは禁止になった。
翌朝。
息子はいつになく早起きして、計算と漢字を素早く終わらせた。
いつもはだらだらして妻に叱られるのに、見違えるようにてきぱきと準備をして、30分前に登校準備を完了させた。
「車走らせていい?」
そこまでして車を走らせたいならと許可した。
しかし、プラモデルの車は遠隔制御ができないため、壁のあちこちに車をぶつけた。耳障りな音が家じゅうに響き渡り、さわやかな朝が台無しになった。
挙句の果てには、車をぶつけて小さな鉢植えを倒す大惨事を引き起こした。
「車走らせるたびに、うるさい思いしたり、掃除をしたりするのは嫌だ」という話になって、自宅マンションでも車を走らすのは禁止になった。
「どこかに、小さな車を走らすレース場みたいなところ、ないかなあ……」
息子がぽつりとそう言った。
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