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【中学受験】米国産牛肉

このあいだ、スーパーでおいしそうなアメリカ産牛肉を見つけた。
いつもは国産以外はおいしくないので、和牛しか買わないようにしているのだが、見た目にもおいしそうなので買って食べてみたら、思った通り、おいしかった。
値段も安いし、味もいいし、牛肉好きの息子もおいしいと言っていた。
「これからはこのお肉で十分だね」
と家計にも優しい牛肉を発見したことで、妻も大喜び。

量が多かったので、残った牛肉はステーキ弁当にして、息子氏の塾弁当にした。
ところが息子が塾から帰るなり不安顔で言った。
「今日の弁当の牛肉なんだけどさ、肉に変な空洞があったんだよ。それでね。食べて以来、頭がチクチク、喉がイガイガしてるんだよ。きっと異常プリオンだよ。僕狂牛病になったのかなあ」
と、いろいろとツッコミがあり過ぎて、どこから突っ込んでいいのか困ってしまう発言。
寄生虫かもしれないだの、狂牛病だのうるさいので、とりあえずBSEの人への感染経路を説明したのだが、まったく信じない。
仕方がないので、彼が残した牛肉を見たら、単なる血管だった。
「これ血管だよ」
「僕もそれは考えたんだけどね。絶対に血管だって言いきれる?」
「言い切れるけど」
「証拠は?」
こいつうぜえなと思いながらも、ネットで調べて写真を見せたら、初めて信じた。
「ああ、よかった」
ひとしきり安心したあと、息子は妻に言った。
「お母さん、僕、やっぱり国産牛肉以外は食べられないと思う」
この上から目線、いや、あなた何様ですかの発言に、我が家の空気が軽くピリつく。
「そんなに食べたくないなら、食べなくていいわよ」
妻は冷たく言い放った。
さすがの息子も妻の塩対応に気づいたようで、
「……お母さん、なんか怒ってる?」
と恐る恐る訊ねていた。
「あなたがアホ過ぎて呆れてるだけ」
そう妻が言うと、息子は黙っていた。

「この子にトンデモ本ばかり買い与えるから、変なことを言い出すのよ」
と私まで妻に叱られた。
ちなみに、彼女の言うトンデモ本とは、猛毒に関する本、ググってはいけないなどの本、トラウマになるなどの本、本当は怖い真実……などの本のことである。
これらの本は、私が趣味で買っただけで、それを息子が勝手に持ち出して読んでいるわけで、決して私のせいではない。
勝手に持ち出して読んでいる息子のせいである。

この息子、4年生の時日能研に「ググってはいけない……」の本を塾に持っていって、それを読んだ同級生の女子が気持ちが悪くなったとのことで、いつもはメチャメチャ温厚な塾長先生に「息子君、こういうのを塾に持ってくるのはやめようか」とマジ顔で言われた前科がある。
そのときは私が息子にこの本を買い与えたみたいな妙な雰囲気になって、勘弁してくれよと思った。

とりあえず牛肉は翌日妻が全部食べることにした。
今朝、ステーキサンドを作って食べていたが、おいしくて大満足だったようで、妻の機嫌はやっと直った。
でも息子にはいまだに怒っているようで、
「いいわよ。和牛しか食べられないなら、めったに食べられないってことで」
と言っていた。

息子の場合、一度でもイメージを壊すようなことがあったら、その食材は二度と食べなくなる。
「僕の好き嫌いって、どうしてイメージ優先なんだろうね?」
そりゃこっちが聞きたいわ。(≧▽≦)

小説が面白いと思ったら、スキしてもらえれば嬉しいです。 講談社から「虫とりのうた」、「赤い蟷螂」、「幼虫旅館」が出版されているので、もしよろしければ! (怖い話です)