第5回 

長女に発達障害を告知したその後…。そして、長男にも告知した時の驚くべき反応

外科医のちっちです。前回の記事では、当時小2だった長女いっちに自閉スペクトラム症であることを告知したときの話を書きました。今回は、告知後のいっちはどうなったのかと、長男にっちへの告知についてお話しします。


発達障害の告知から1年後、本人の気持ちは

いっちは、子ども向けの自閉症に関する本のおかげで、自分が自閉スペクトラム症だと納得したようでした。
その後の診察の時に、いっちの発言など(自分で図書館に行って自閉症を調べたうえで、自分は障害者ではないと言ったこと)を児童精神科医に伝えました。先生は「本人の気持ちを尊重して、次回(2年後)の療育手帳の更新はやめてもいいかもしれませんね」ということでした。

その後1年ほど経って、本人に次回の更新をしたいかどうか尋ねてみました。
「手帳を持っていてどうだった? これからもあったほうがいいかな?最近できることがたくさん増えて困っていることがないから(まだ少々あるけれど)、更新しても、しなくても、あなたの好きにしていいよ」

するといっちは、「療育は楽しいから行きたいし、(手帳割引で)美術館とか行けるから更新しようかな」と、前向きな気持ちを持っているようでした。希望通りに手帳も更新しました。親としてもポジティブにとらえていることを知り、安心しました。



かんしゃくやパニックを起こしやすい長男への告知


さて、いっちはなんとかなりました。一方、長男にっちに自閉症のことを伝えることは怖かったのです。
診断を受けた年長5歳の頃は、些細なことで「殴る蹴る壊す暴れる」ことが多かったにっち。被害妄想も強く、なんてことない言葉も、すべて否定的にとらえて怒る子どもでした。
「あなたは自閉症だ」と伝える前に我々が予想した、にっちの反応は怒って暴れるだろうというものでした。

さぁ暴れるにっちに、殴らせない、殴られない、そんな覚悟をして切り出します。
「あのね、にっちは自閉症という変わったところがあるんだ。にっちはほかの人より心が大きくて、まだ体が小さい今は持て余してしまっているみたい。だから、一回、嫌だなとか、怖いなとか思ってしまうと、その気持ちが大きくなりすぎて体が困ってしまう。
だけど、その分、嬉しいとか、面白いとかのいい気持ちも沢山持てるよ」

イメージとしてその時に書いたイラスト↓



人それぞれの個性だし、手帳は色々お得だし
恐る恐る切り出した時の、本人の反応はというと
にっち「………………」
我々の予想に反し、黙って聞いていました。

にっちは頼りにしている姉もそうだと聞いているためか、自閉症だと言われることに抵抗はないようでした。
通級指導教室へ新たに行くことになったときも、祖父母に「今度にっちは通級に行くんだ」とか、「にっちはジヘーショーだから」と話していたのです。


先日、機嫌のよさそうなとき、にっちに「自閉症って言われるの嫌じゃないの?」と聞いてみると、「にっちはすぐ怒っちゃうけど、それは人それぞれの個性だし、手帳は色々お得だし。みんなにも聞かれないし全然平気」と前向きにとらえているようでした。


親は「なんてことない」と、どっしり構えていたほうがいい

前回の記事でお話ししたとおり、自閉症や発達障害の告知を「いつ」行うかについては、考えが分かれます。

ただ、知的障害を伴わない場合や、療育や通級を利用する場合などは、本人たち自身が「周りと違うこと」を薄々気づいています。それなのに説明せずにこのまま生活することは、悪いことではないのに隠し事をしているようで、私たちには違和感がありました。
そのため、わが家では年長・小学校低学年の診断を受けたときに、「障害に対する、自分たち親の理解を噛み砕いて伝える」形で告知しました。

これは医師として思うことですが、臨床では「エビデンスの高い研究結果から、効率がよく成功の可能性が高い選択肢がわかっていても、目の前の症例に対しその選択肢を選んで本当に正解か」はわかりません。

簡単に言うと「その治療方法が成功する可能性が高いという実験結果があっても、その人に効くかどうかはわからない」ということです。
ただ、「発達障害だろうがなんだろうが関係なく、3人の子どもたちが大切で大好きだ」「あなたは素晴らしい人間だと私たち両親は思っている」ということには自信があります。親としても人間としても未熟な我々は、そこを頼りに日々生活しています。


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