オマエは関係ないし。

悪い人間という一種が世の中にあると君は思っているんですか。
そんな鋳型に入れたような悪人は世の中にあるはずがありませんよ。
平生はみんな善人なんです。
すくなくともみんな普通の人間なんです。
それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。
　　　　　　　　　　夏目漱石

先日、友人に車で家まで送ってもらった。

それまで２０年以上乗っていた車が夏にとうとう壊れ、新しく買ったとのこと。

で、
「２０年も乗ると、ゴムやプラスチックの部品がさすがに保たなくてね。だいたいそこら辺からやられていくらしい、エンジン廻り」と話したので、
「２０年以上保つってでもすごいよ。オレの車、VWだけど、５年でエンジンに水を送り込むゴムの部品が劣化して駄目になったもん。それで経年劣化だから仕方ない、といわれたし。日本のゴム製品はすごいらしい。タイヤにしても、ワイパーにしても、日本製がいいって聞いたよ。日本のゴムの技術はすごいよ」

そんな会話をしていた。

で、家に戻り、ひとりで飯を食っている時に、あの時、日本のと言いながら、なんか誇っている自分がいたよな、テメェがそのゴムであり製品を作っているわけでも開発しているわけでもないのに、恥ずかしい気持ちになった。

ついつい、日本人がなんか偉業を成すと、自分でもないのに誇ってしまう。

ありがちだ。

うちの中学からダレダレが出ってんだぜ！とか
うちの高校、何々で優勝してんだぜ！とか
ナニナニの世界チャンピオンは日本人だぜ！とか
応援していて、喜んでいるだけならいいが、
オレもそこの中学出身
オレもそこのの高校出身
オレも日本人
ってスケベ根性が見えるときがある。

テレビではやたらと日本は素晴しい！日本の技術は！ってやりまくっているが、素晴らしい技術はそれを作り上げた人であり、日本人だからではない。
現にオレはそんな素晴らしものは作れない。
イチローがすごいのは日本人だからではない。
現にオレは彼よりも先に野球を始めていたが、おそらく、彼が小学生の頃の野球の選手としての実力にまでも到達できたことはない。

大坂なおみが、テニスで世界一位になる実力を持ち、思慮深く、繊細なのは日本人だからではない。
たしかに育った環境や出会ってきた人々の影響は多大にあるだろうが、彼女自身の努力や、彼女の持つ几帳面さや真面目さ繊細さが、あの世界一のテニスプレイヤーであり、思慮深い人格を持つ彼女を作り出したのだろう。
たとえ、彼女がもう日本に嫌気をさして他国の国籍になったとしても彼女は変わらないだろう。

ブリジストンのタイヤが世界に誇るものなのは、そこでより善いものを作り上げるという願いを持った方々がすごいのであって、別に日本人だからすごいわけではない。

日本はすごいってのにもいい加減羞恥を感じる頃合いだ。

だいたい、誰かが偉業を成すと、「日本人、日本人」と騒ぐが、悪行をなしたときには「日本人だから」とは絶対に言わない。

たとえば、誰かが殺人したとしよう。
その時に、「Aが人を殺しました。Aは日本人です。恐ろしいですね、日本人は」
っとは絶対にならない。

他国の人には平気でそういう事を言う。

犯罪者家族には言うね、「ダレダレの家族だから〜〜〜」みたいなことを。
これまたナンセンス。
犯罪＝DNAみたいな頭の悪い考え方も正していかねばならないよね。

自分がいいなと応援している人が何か偉業をなしたら、偉業をなした人がなんか応援したくなような自分にとってタイプだったら、その人が成した偉業だけを観ればいい。その他の情報は基本必要ない。国籍だの性別だの、そんなのどうでもいい。
そう努めて受け止めたい。

いまの日本の有りがちな、偉業は日本の宝、悪行は成した本人と家族とその人が所属していたカテゴリのせい、というのとは逆転した見方をしていきたいんだ。

偉業はその人とその人の周りの親しい方々のもの。
悪行は、日本という国の社会機構が作り出している闇。
そんな感じで見ていくようにしたい。

いや、そりゃ、嬉しいと、ついつい、すげぇな日本人って気分になるよ。

そんな時は、「オマエは関係ないし！」と自分自身に言い聞かせることにしている。