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大切なコトバは伝わる表現で | 直球ストレート【日本語と英語】

私は英文翻訳や英語教材の制作をしております。
コトバに触れていると、ふと「どうしてそう言うようになったのだろう」と思う表現があったりします。

目的地まで距離がない (近い)
目的地まで距離がある (遠い)

距離を「有る/無し」で表せるのって、実は不思議ですよね。
距離とは "近い" や "遠い" のように、ある地点から見たもうひとつの地点までの離れ具合を指す概念なのに。

さらに、物理的なものだけでなく心理的な距離を言う場合もありますね。

心理的に距離がない (近い)
心理的に距離がある (遠い)

日本語ネイティブ的には、心理的なほうがなぜか距離を使って表しても違和感が少ない気がします。(私だけ?)

これを英語に訳してみたら、面白いことがわかるのです。

「大切な人に伝えたいコトバは、直球ストレートで!」

うーん、恋愛指南のようになっていますが(笑)、恋愛だけでなく大切な友達や家族との関係にも通ずることだと考えています。

英語と日本語を行き来しながら、詳しく見ていきましょう。


いわゆる日本人の婉曲っぽい表現なのかと思い、英語にできないのかを考えてみました。
結論を言うとそんなこともなくて…

目的地まで距離がない (近い)
There’s a short distance to the destination. (We’re close to the destination.)
目的地まで距離がある (遠い)
There’s a long way to the destination. (We’re far from the destination.)

There'sを使うことで表現できてしまうんですね。(実際に誰かと話すときには、カッコ内の表現がわかりやすいです。これは日本語でも同様で、「距離がない」と言うより「近い」と言った方がわかりやすいですね。)

どうして距離を「有る/無し」で表現するのでしょうね?
小説などのおしゃれな婉曲表現だったのでしょうか?
心理的な表現の言い回しが転用されたのでしょうか?

ということで、心理的なほうも見てみましょう。

心理的に距離がない (近い)
心理的に距離がある (遠い)

これも以下のように英語に訳してみたのですが…

心理的に距離がない (近い)
There’s no emotional distance between us. (We’re emotionally close.)
心理的に距離がある (遠い)
There’s emotional distance between us. (We’re emotionally distant.)

前者の "There’s no emotional distance between us." だけ、noが入っていることでゼロ距離感が出てしまうんです。
恋愛感情などで心が通うというよりは、双子みたいにシンクロしているような感じかもしれません。

一方、closeならあくまでも「近い」です。
近さにも幅がありますよね。「ものすごく近いのか」、「そこそこ近いのか」。

でも "There’s no emotional distance between us." だと、『まるでシンクロしているように心理的にスキマがない』というやや極端なニュアンスになってしまいます。

「アイツとは結構心通じ合ってるよ」「私の心はあなたのそばにいるわ」みたいな時に、 "There’s no emotional distance between us." はあまりふさわしくないということですね。

さて、頑張ってThere'sで表現できないのか試してみたのですが、私の英語力では以下が限界でした…。ちょっと違いますね。

There’s little emotional distance left between us.
(「心理的な距離が少しだけ残っている ⇒ 心理的に距離がない(近い)」と言える?)

left(leave)を使ってしまうと、『もともとは距離があったものが近づいて残っている』というニュアンスになってしまい、場面が限定的になってしまいます。

つまり英語だと、心理的な「近さ」のニュアンスを表すときだけ「有る/無し」では表さないことになりますね。(極端になりすぎてしまうため)

目的地まで距離がない (近い)
There’s little distance left. (We’re close to the destination.)
目的地まで距離がある (遠い)
There’s a long way to go to the destination. (We’re far from the destination.)

心理的に距離がない (近い)
There’s no emotional distance between us. (We’re emotionally close.)
心理的に距離がある (遠い)
There’s emotional distance between us. (We’re emotionally distant.)


経験からもそうですが、心の距離が近いことを英語で言う場合には、「私たちの心は近くにあるよ」とストレートに表現します。(洋画などのセリフでも出てきますね)


心が近い場合は
「私たち通じ合ってる。(We're close.)」
って言えば良い。


素敵なことです。
日本人的な婉曲表現も人を傷つけないための優しい表現ですが、時に優しいばかりでは伝わらないこともあります。

仕事の依頼メールで「本件、何卒ご配慮いただけますと…」などと言われると、『何かしなきゃいけないことはわかるけど、ご配慮って具体的に何をすればいいの?』と思ってしまうかもしれませんね。ビジネスだとすれば、それでは前に進みません。

行間を読み合うのも美しい心のありようですが、ぜひ「バシッと決めたい」ときはストレートな表現も意識してみましょう。


(余談:「あの人は優しいけど彼氏としては…」みたいなことも、優しい表現が頼りなく物足りないのかもしれません。まっすぐ突き刺さる愛情表現が、心を動かすピースかもしれませんね。)

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