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試験管内で培養された精子と卵子、ヒト細胞の「エピジェネティック」リセットが新たな道を開く 京都大学

京都大学の研究チームが、ヒトの精子や卵子を試験管内で育成するための重要なステップを再現する方法を発見しました。この進展は、精子や卵子を人工的に生成する際に必要なDNAの化学タグを正しく配置する方法に関するもので、2024年5月20日に『Nature』に発表されました。

ヒトの生殖細胞が発達する過程で、エピゲノムと呼ばれる化学タグが一度リセットされ、再設定される必要があります。これまで、このリセットと再設定を実験室で再現することは大きな課題でしたが、京都大学の再生医科学研究所の斎藤通紀教授とそのチームが、この再プログラムを活性化する方法を見つけました。

斎藤教授は、このエピジェネティックな再プログラムが次世代を生み出すために不可欠であると説明します。しかし、彼はまだ多くの課題が残されていると述べており、この再プログラムが完璧ではないことを認めています。中国科学院のファン・グオ博士も、この課題を克服するためにはさらなる時間が必要であると同意しています。

試験管内でヒトの精子や卵子を生成することは、不妊に悩むカップルにとって希望となる可能性があります。また、病気の原因となるDNA配列を修正する方法としても期待されています。しかし、この技術には技術的な難しさに加えて、社会的・倫理的な問題も伴います。例えば、病気を防ぐための遺伝子改変が、知能や運動能力を向上させるための遺伝子強化に繋がる可能性があるためです。

エピジェネティックな再プログラムは、生殖細胞の形成において重要な役割を果たします。このプロセスがなければ、精子や卵子になる原始細胞は発達を停止してしまいます。また、エピゲノムは遺伝子の活性を制御し、同じDNA配列を持つ細胞が異なる機能を持つ細胞に分化するのを助けます。

マウスの精子や卵子を皮膚から作り出した幹細胞様細胞から育てる方法は確立されていますが、人間の細胞では同じ手法が通用しません。斎藤教授のチームは、ヒト細胞におけるエピジェネティックな再プログラムを制御する方法を探るため、BMP2というタンパク質がこのステップに不可欠であることを発見しました。BMP2を培養液に追加することで、細胞の発達がさらに進むことが確認されました。

再プログラム後も細胞の発達は再び停止しましたが、それでもこの一歩は大きな意味を持つとされています。斎藤教授とそのチームは、実験室で育てた細胞のエピジェネティックなマークを慎重に分析し、多くのマークが消去されたものの、いくつかは残っていることを発見しました。これにより、再プログラムが不完全である可能性が示唆され、こうした細胞が生殖に使われた場合には病気を引き起こすリスクがあることが示唆されます。

斎藤教授は、試験管内での精子や卵子の生成が急速に進展している一方で、慎重さが求められると強調します。「あと5年ほどで状況が落ち着き、良い科学だけが残るだろう」と彼は述べています。

詳細内容は、京都大学が提供する元記事を参照してください。

【引用元】

【読み上げ】
VOICEVOX 四国めたん/No.7


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