クローディアの秘密のコピーのコピー__1_

まるで舞台を観ていたような、/『メルカトル』

京都を訪れたときのこと、1週間ほど滞在していたこともあって早々に手持ちの本を読み終えてしまったわたしは本屋を見かけるたびにふらりと入っては物色していた。

そこで見つけたのが『メルカトル』(長野まゆみ)だ。

絵本のようなイラストと「地図収集館」なる場所で働く主人公に惹かれて、よくあらすじも読まずにレジに向かったのだけど、読み終わってから「これは手元に置いておきたい本だったな」と思えたので出合い運が冴えていたみたい。

【あらすじ】
港町ミロナの地図収集館で働き始めたリュスは救済院育ちの17歳。感情を封じて慎ましく暮らす彼のもとにメルカトルなる人物から一通の手紙が届いたその夜、アパートに見知らぬ女が立て続けに訪ねてくる。以来、彼の周辺で不可解な事件が次々と起こり、リュスの平穏な日々は大きく転回し始める。(Amazonより)

この物語の書き出しはこう始まる。

地図の歴史は、人々が日記をつけはじめるよりもはやく始まった、とする説がある。だとすれば、日記のかわりに地図を残す男がいても不思議はない。

わたしのなかで地図を作るといえば、伊能忠敬が苦労して日本中を歩いて測量した…なんて一大プロジェクトが頭に浮かぶのだけど、確かに町単位で考えたら文章で書くよりもイラストのほうがずっと楽だしわかりやすい。

お手製の地図に。この店ではこんなものがある…と書き込んでいく方がわかりやすいだろう。さらに旅人がそれをするのであれば、それだけで大きな資産になるのかもしれない。

今まで地図に関して思いを馳せることはなかったけど、そう考えたらとてつもなくロマンチックで大切なもののような気がしてきた。

そんな地図を収集している場所で働くリュスが立て続けに奇妙な事件に巻き込まれていく。

とても細かに作り込まれてたこの世界は、頭の中に描き出す工程こそ少し苦労はするが、すぐに映像で登場人物たちが動き出すようになる。

少ない登場人物たちがくるくると世界のなかで動き回る。

少し回りくどい言葉遣いも、異国感漂う舞台設定も、最後にわかる種明かしも全部が一本の舞台のような、映画のような。

完璧なパッケージが頭の中で作ることができて、読後は185ページの短さとは思えない達成感に包まれた。

もし、少しでも気になった方は、ぜひとも一気に読んでほしい。

「メルカトル」というのは地図の描き方の技法にひとつ。

全てを知ったリュスがこれからは自分だけのやり方で地図を描いていくのかなと思った。


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