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横浜市内の「海軍道路」を歩く

午前10時、リュックサックを背負って家からゆっくり歩き始めた。

東京エクストリームウォーク」参加まであと2週間足らずとなった。

目指すのは横浜市最西端の瀬谷区。自宅から片道約8kmほどだ。

横浜と聞くと、どんなイメージを持たれるだろうか。

やはり、海や港といったイメージが真っ先に思い浮かぶかもしれない。

ランドマークタワーをはじめとする「みなとみらいエリア」は、テレビなどでもよく目にするだろうし、お洒落なデートスポットも多い。

とはいえ、市内には当然ながら海に面していない区もたくさんある。

今日歩いた瀬谷区も、横浜市でも海から離れた内陸部にある。

以前、「横浜大戦争」という1冊の本を読んだ。

一昨年、神奈川本大賞を受賞した超絶エンターテインメント長編とあって、地元の本屋では話題になっていた。

横浜市内18区を守る土地神たちが、横浜ナンバーワンの座を巡って戦いを繰り広げるというストーリーだ。

付録には18人それぞれの土地神の外見、職業、必殺技、性格などが細かく記されていて、夫婦・親子・兄弟同士などの設定になっていて人間味がある。

本を読み進めていくうちに、徐々に不安が募っていく。昔、僕が1人暮らしをしていた場所でもある瀬谷区の土地神がなかなか登場してこない。

小説もそろそろ終盤を迎える頃、ようやく登場して安心した。土地神たちが死闘を繰り広げている最中、瀬谷の土地神が発した最初のセリフはこうだった。

「いたー! やっと見つけた! どこ探してもみんないないから心配になっちゃったよぉ~!」

実際、物語の中でもその存在はほぼ忘れられていた。職業は「樹木医」、特徴として「肝心な時に運がない」という瀬谷の土地神は、他の土地神から「観光地がない」、「町田市や大和市とも言えるような場所」と散々の言われようである。

僕も読みながら思わず笑ってしまった。

小説では言われ放題で存在感が薄い瀬谷区だが、僕のお気に入りの場所がある。

今日歩いた「海軍道路」と呼ばれている道だ。全長約3㎞の市内で最も長い直線道路で、春には300本以上のソメイヨシノが沿道に咲き誇る。

「旧上瀬谷通信施設」と呼ばれる海軍道路付近の広大な敷地内は、区域によって米軍や旧日本海軍の施設としても使われていた時代があり、もともとは物資を輸送するために建設された海軍用の道路だった。

長い直線道路は、滑走路として利用することも視野に入れていたらしい。

今でも広大な農地と草原が広がっていて、その敷地面積は東京ドーム約50個分になるという。

この辺り一帯の景観や雰囲気のことを「西の軽井沢」と僕は勝手に読んでいる。西はともかく、軽井沢と呼ぶ理由は自分でも正直よくわかっていない。

ただ、車でこの海軍道路を通る度に妻に口にしていたせいで、妻や義母までが口にするようになった。

横浜のイメージとはかけ離れた長閑な風景がそこには広がっている。

今年7月、瀬谷区民にとっては驚くべきニュースが飛び込んできた。

この旧上瀬谷通信施設に、将来テーマパークを核にした複合施設を建設すると市長が明らかにしたのだ。2026年の国際園芸博覧会の招致計画も考えているという。

僕の中の「西の軽井沢」が、テーマパークに変貌してしまうのは少し寂しい気がする。

ただ、瀬谷の土地神は喜んでいるかもしれない。

「観光地がない」などと、言われることもなくなるだろう。

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歩きながら、時々晴れ間がのぞいた

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海軍道路入り口付近

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花見の時期はこの辺一帯が解放される

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広大な農地エリアは、テーマパークにそのまま活かす方針らしい

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