『月の沙漠の曽我兄弟(4)』
入社して三年が過ぎ、純一は、その温和で柔らかい物腰から、営業部のエースとなって源田印刷に貢献していた。しかし万が一、包装紙のセクションに配属になっていたら、果たしてこのように溌剌と仕事ができていたかどうか、純一本人も自信がない。
幼いころから自宅の隣にあった印刷工場で、多くの包装紙やショッピングバッグを目にしてきた。それらは純一と大吾の遊び場の記憶そのものだったのだから、自分を形作る物語の「起」から「承」の部分を網羅していたはずだ。そんな環境で心穏やかに仕事として割り切