デカフェコーヒーの製法
今回は就寝前、妊娠中のコーヒーラバーの味方、デカフェコーヒーについて、説明していきたいと思います(約3000文字)。
アラビカコーヒーにはカフェインが約1%含まれています。そしてロブスタ種は2%ほど含まれています。
カフェインに覚醒作用があることは有名です。カルディー伝説でヤギが躍ったのも、秘薬として世界に広まっていったのも、カフェインの薬効のおかげといっても過言ではありません。
https://note.com/tik190/n/nfa5b566e360d
コーヒーノキは進化する中でカフェインの合成能を収斂進化させてきたようです。
そもそも植物としてのコーヒーノキにとってカフェインは以下のような役割があります。
「カフェインの役割」
①競合植物の生育を阻害する
コーヒーノキの葉が枯れて地面に落ちると、その内部に含まれていたカフェインの成分が周囲の土壌に浸透します。すると、溶け出したカフェインの成分は他の植物が落とした種子の発芽を抑制し、結果的にコーヒーノキ以外の植物が生息しにくい環境を作り出します。
②花粉の運搬者(虫)を誘因する
コーヒーノキをはじめとするいくつかの植物は、分泌する蜜に、少量のカフェインを含有させ、蜜を集める虫を誘引しています。
花を咲かせる植物は蜜を分泌することで、虫をおびき寄せ、花粉拡散の手助けとして利用しています。
その蜜にカフェインがわずかに含まれていると、蜜を吸った虫は、刺激を受けて植物のニオイを覚える反応を見せます。
すると次からは虫がおびき寄せられるようになり、せっせと花粉を運んでコーヒーノキの勢力拡大を手伝ってくれます。
人間がカフェインの薬効に導かれ、世界中でコーヒーの木を栽培するに至っているのも、植物の生存戦略だったのかもしれません。
私もまんまとはまってしまっています。。。。
「カフェインの薬効」
さてそんな薬効のあるカフェインですが、薬理作用に関してポジティブな研究結果も、ネガティブな研究結果も報告されています。
ポジティブな薬理効果としては「自律神経の働きを高める」「集中力を高める」「体内の老廃物を排出する」などの効果が期待されます。
一方で多くの薬品と同様にカフェインも摂取し続けると耐性ができてしまい、カフェインに対する反応は弱くなっていきます。
こうなってくると常にカフェインを摂取していないと眠気や疲労感、集中できない状態が続くという状況になります。
そこまでいかなくても、眠気が覚めて寝つきが悪くなるのが嫌だったり、妊娠中は胎盤を通過して胎児への影響があるため、摂取を控えたいというニーズも生まれてきました。
「カフェイン除去の歴史」
そもそもカフェインは水溶性です。
そのため我々の普段のドリップでも、お湯を使ってコーヒーから、カフェインを抽出することができています。
なのでデカフェにするときも水でカフェインを抽出することができそうです。
でも水で抽出すると、カフェイン以外の成分(糖やアミノ酸等)も抽出されてしまいます。
もちろん焙煎後の風味も変わってしまいます。この成分の変化を、最小限にするために様々な方法が開発されています。
今回はその中でも、現在つかわれている3種類の方法を、説明していきたいと思います。
歴史を紐解いてみると、カフェインを取り除く技術のもととなったのは偶然の事故からでした。
コーヒー商が生豆の輸送時に事故で豆が塩水につかり、もったいないからと焙煎したところ、香味はそこまで抜けずにカフェインが抜けていることを見つけました。
その後研究を重ね、1903年に生豆を塩水につけ、ベンゼンで数回洗ってカフェインを抜く方法を考案しました。
「ダイレクトコンタクト法」
現在はベンゼンの有害性が確認された為、塩化メチレン(ジクロロメタン)などの、低沸点の有機溶媒と水の混合液に生豆をつけてカフェインを抽出し、加熱して溶媒を完全に飛ばす方法が用いられています。
海外で販売されているスターバックスの豆は塩化メチレンを用いて、カフェインの除去をしています。
ちなみに塩化メチレンの沸点は39.6℃、焙煎の工程で豆は200℃以上まで温度が上昇するために塩化メチレンは検出できないほど微量になります。
「スイスウォータープロセス」
ダイレクトコンタクト法では一度塩化メチレンを使用しますが、その後の焙煎の工程で蒸発します。
しかしながら安全性に不安を感じる方がいる中で、新しく開発されたのが、1933年にスイスで生まれたスイスウォータープロセスです。
生豆をお湯に浸すとコーヒー成分が溶け出します。この中からカーボンフィルター等を使用してカフェインを選択的に抽出し、カフェインを除去した後で豆を再度抽出液に浸して風味を戻します。
1980年代からアメリカで、より安全な脱カフェイン法として普及しました。
「二酸化炭素抽出法」
また1978年にはネスレ社が超臨界二酸化炭素を用いた脱カフェイン法を開発します。
超臨界って聞くと難しそうに感じますが、気体に圧力をかけながら同時に温度も高めることによって気体のような流動性を持った液体を作ることができます。
超臨界二酸化炭素はコーヒーの中から高い選択性でカフェインを抽出することができ、また焙煎の時に二酸化炭素は抜け、毒性もないためより安全性を高めたデカフェ豆にすることができます。
「エチルアセテート(酢酸エチル)法」
また上記の手法に加えて酢酸エチルという安全性の高い溶媒を使用してカフェインを抜く方法も使われています。
最近ではシュガーケーン・エチルアセテート・プロセス(Sugarcane E.A. processing)というコロンビア発の処理方法のものが欧米を中心に出回っているようです。さとうきびの絞り汁=糖蜜を発酵させてエタノールにし、酢酸と混ぜたもの→エチルアセテートを利用する方法です。 junkoさんより
原理的にはダイレクトコンタクト法と同じです。ただ、カフェインを抽出する時にジクロロメタンではなく、エチルアセテート(普通日本では酢酸エチルと言います)という物質を使います。
エチルアセテートは、沸点が約77度の液体ですが、天然物に含まれる物質で体内に入っても分解できるため安全性が一層高められています。
以上で説明してきた方法とは手法が異なりますが、現在はカフェインの少ないコーヒーの品種を選別、開発することによってカフェインが含まれないコーヒーの生産も検討されているそうです。
「日本で楽しめるデカフェコーヒー」
今回は様々なデカフェ方式を見てきましたが、消費地の法律によって使用できる薬剤が決まっています。
日本ではダイレクトコンタクト法が許されていないため、ダイレクトコンタクト法のデカフェは見ることがありません。
機会があれば今回の記事を読みつつ、下のようなお豆でデカフェと普通のお豆の味の違いを見てみると、カフェインだけを選択的に抜くという手間を取ることで本来の風味を残しながら、いつでも自由にコーヒーを楽しむ贅沢を感じられると思います。
https://product.starbucks.co.jp/beans/medium/4524785306233/
今日もコーヒーとともに豊かな一日を!
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