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探究学習トップランナーインタビュー Vol3帝京大学小学校校長 石井卓之先生

2022年度より高等学校で「総合的な学習の時間」に代わり「総合的な探究の時間」(総合探究)が導入されました。
タイガーモブも、民間企業としていち早くグローバル探究プログラムの提供を開始し、これまで50校以上の教育機関にプログラムやカリキュラムを導入いただいてきました。
本シリーズでは、これまでタイガーモブが探究学習に関わる中で出会ってきた、探究学習のトップランナーの皆様からその取り組みについてお話をお伺いし、「総合的な探究の時間」を成功させる秘訣を探っていきます。

脱平均!個性を伸ばす子供中心の教育


今回はお話をうかがう石井卓之先生は、帝京大学小学校校長、帝京大学大学院教職研究科准教授を兼務され、東京都公立小学校と東京都の教育委員会を行き来するキャリアを積まれ、現在に至っています。
企業と連携したキャリア教育や、里山を舞台にしたプロジェクトなど、そのユニークな取り組みについてお話を伺いました。

石井卓之先生プロフィール


帝京大学小学校校長
帝京大学大学院 教職研究科 教職実践専攻 准教授
東京都公立小学校教諭、東大和市教育委員会指導主事、東京都教職員研修センター指導主事、清瀬市立第六小学校副校長、西東京市教育委員会統括指導主事、新宿区立戸塚第一小学校校長・兼任戸塚第一幼稚園園長、東大和市教育委員会指導室長、港区立芝浦小学校校長・統括校長、港区立笄小学校校長を経て、2020年4月1日より現職。
著書に、『主体的・対話的で深い学びをつくる! 教師と子どものための体育の「教科書」高学年』2020年9月 明治図書(編著)、『主体的・対話的で深い学びをつくる!教師と子どものための体育の「教科書」中学年』2021年7月 明治図書(共著)、『主体的・対話的で深い学びをつくる! 教師と子どものための体育の「教科書」低学年』2021年7月 明治図書(共著)、『体育授業の1人1台端末 活用アイデア60』2022年9月明治図書(執筆分担)がある。



2005年開校の新しい小学校

Q.開校が2005年と私学の中では新しい学校ですが、どんな特徴がありますか?

元々は帝京大学のキャンパス内で、大学の施設を使ってスタートした小学校でした。
その後に、帝京大学の隣接地にあり閉校になった多摩市立竜ヶ峰小学校の跡地を取得し、2012年に現在の校舎が完成しました。
前校長が理数教育に力を入れ、レゴを使った授業が早くから行われていました。現在は探究の授業の中でレゴを使ったプログラミング学習を行っています。
また、教科担任制の取り組みにも早くから取り組んでいました。2020年に校長に着任した私は、これらの特徴をキャリア教育を柱にしてまとめることにしました。

ルール中心から子ども中心へ

Q.学校の方針や教育目標を教えてください。

私の日本の教育への問題意識は、ルール中心で動いていることと、平均を追いすぎていることです。
例えば、安全面から校庭の使用場所を決めることがあります。このルールが子どもの人数が減っても変更されません。しかし、これからの時代に求められているのは、ただルールに従うことではなく、自ら考えて行動する力です。
先生たちさえも何のためにあるのか分からないルールは、一つ一つ検討して、ルールを減らしています。
避難訓練も決まったルールで行うやり方から変更しました。地震は必ず授業中に起こるわけではなく、いつでも発生する可能性があります。
学校側が子どもたちのことを一番把握できない時間帯は、子どもたちが家から学校に向かっている登校中です。そこで、登校時間直前に避難訓練を実施しました。
先生たちも子どもたちも、安全に避難するためにはどうしたらいいのかを身を持って学んでいきます。初めての取り組みでは小さなトラブルは発生するものですが、人はトラブルから多くのことを学びます。
トラブルが起きないように、言われた通りにルールに従っていても学べることには限界があります。結果として失敗することもありますが、「成功させること」を狙っているのではなく、そこから何を学ぶかが重要です。「失敗」は学びの宝庫です。
初年度の結果を踏まえて、次年度はどうしたらいいのかを考えていくことを重視しています。

脱平均、キラッと光る一点突破の個性の伸長

Q.平均を追わないためにしていることはありますか?

私は元々体育科の教員ですが、スポーツテストの結果を活用するとき、とかく苦手なことを改善しようとします。そうではなく、得意なことを伸ばすことも大切だと考えています。
個性を伸ばすことを学校組織として取り組みたいと思い、「チーム帝京小」と名付け、その合言葉を「脱平均、キラッと光る一点突破の個性の伸長」としました。
博士ちゃんのような子、個性的な子、平均外の子を認め、変わっている子と言わないことだと思っています。

同じゴールを同じやり方で行うのではなく、「なりたい自分」になるために学ぶことが、真の学びだと考えています。その上で大切にしているのが、ゴールのイメージを持つことと学びの道筋です。
個性の違う子ども一人ひとりにはそれぞれのゴールがあります。そして、それぞれに合ったゴールに至る道筋があります。

個性を発揮するための「発表の場」も作っています。
以前、サッカーゴールを追加で買ってほしいと相談にきた子どもがいました。サッカーゴールが2個しかないので、サッカーゴールを使いたい時に使えないことがあるというのです。
せっかく一人一台iPadを持っているので、企画書を作って持ってきなさいと伝えました。そして、2回ほどやりとりしたところ、後援会(保護者団体)が買ってくれることになりました。
最近では、マスクの着用が徹底されていないなど、コロナ対策への緩みに問題意識を持っている子どもがプレゼン資料を持ってきました。良い内容でしたので、全校に伝えることにしました。当初、本人はみんなの前で発表することはいやだと言いましたが、担任の先生が本人と話をして、2学期の全校朝会で見事に発表をすることができました。苦手なことを得意なことを通して乗り越えていく、素晴らしい活動でした。

企業と連携したキャリア教育

Q.キャリア教育を柱にしているとのことでしたが、どんなことをされていますか?

港区立芝浦小学校で校長をしていた7年前からライフワークとして始めたのが企業と連携したキャリア教育です。
港区では3年生になると中学校受験のために通塾する子どもが増え、受験科目にない授業に対する取り組み姿勢や集中力に温度差があることに問題を感じていました。
そこで、学校の学びが単なる勉強ではなく、将来自分がなりたい自分になるための基礎づくりであることに気付いてもらう必要があると考えました。
それを伝えるには、学校外の色々な職業の方からお話いただくのが効果的だと思い、どうしたら企業の方や地域の大人に協力してもらえるのか近隣の自治会の方に相談しました。
会長の助言で、自治会の新年会に名刺100枚を持って挨拶しに行ったところ、芝浦の再開発を行なっている大手ディベロッパーの方にお会いすることができました。
地域学習で4年生が芝浦の街を回っていたことから、芝浦の再開発をテーマにした授業に協力いただくお願いをしました。
街を回りながら社員の方々から再開発について説明していただき、子どもたちは自分たちが考える理想の町について提案をまとめ、発表する場を設定しました。
その後、私は港区立笄小学校に移りましたが、こちらではキッザニアをイメージして、広告代理店の方に協力していただき、のべ20社以上を招いた体験型のキャリア教育を行いました。
そして、帝京大学小学校に来てからは、大学の冲永佳史理事長・学長に予算化してもらい、広告代理店の協力で、様々な企業の方を招いた体験型の授業をキャリア教育の一環として行っています。


5ヵ年計画で着手した里山プロジェクト

Q.里山プロジェクトについて教えてください。

閉校した竜ヶ峰小学校の校庭には里山があり、アスレチック施設があったようですが、長い間放置され荒れ果てていました。
そこで、予算を5年分認めていただき、里山の専門家をアドバイザーとして、里山の再生と教育に活かすプロジェクトを始動しました。
最終的な形はやりながら模索していますが、課題解決の過程を経るプロジェクトとしています。5年経過後には、アドバイザーの方を本校のメンバーとして引き続き関わっていただきたいという希望を持っています。
1年目の今年は、里山プロジェクトは時間割に入れていません。そのため、関心の高い先生を中心に多様な観点から取り組んでいます。2年目の来年は時間割に位置付けて計画的に進めていきます。
里山でできることは色々とあります。例えば、6年生がシイタケの原木を作って、種菌を植えるとします。そして、次年度の6年生が収穫して、帝京小ブランドとしてネットで売り出してもいいかもしれません。その過程で、ネットリテラシーや著作権について学ぶこともできます。
カブトムシが集まる特定の木を植え、カブトムシに関する企画を進めることもできます。校庭にある小川は、里山の竹から竹炭を作って水質浄化を行うこともできます。落ち葉を堆肥化して、それを学級園に使うことで化学肥料の購入をやめて、学校内でサスティナブルな流れを作ることもできるでしょう。
3年生の子どもから「休み時間にも里山で活動したい」という声が出てきました。そこで、子どもたちが里山での活動ルールを自分たちで作って教頭先生にプレゼンし、安全面に問題がなければ許可することとしました。3回目のプレゼンで合格が出ました。里山で収穫したタケノコを調理した動画を作成して発表した子どももいます。
里山があることで、問題解決型学習、STEAM教育、起業家教育など、色々なことにつなげていけると考えています。

子どもが変わると先生が変わる

Q.新しい取り組みを実行するのは大変ではないですか?

もちろん、何事にも変化に対する戸惑いはあります。ただ、学校では、子どもが変わると先生が変わります。
まず先に、子どもたちが変わります。そして、子どもたちの良い変化が見えてくると、先生の動きが変わります。先生たちは子どもたちにとって良いことだと分かれば、積極的に動いてくれます。

Q.なぜ石井校長は、新しい取り組みを発想することができるのだと思いますか?

教育行政の仕事をしたのが大きかったように思います。
教員は職人のように一つのことに取り組み、緻密に作り上げていくところがあります。一方で、行政はどんどん仕事が発生して、完成度を高めることよりもスピードが優先される場面が多くあります。動きながら考えるという行動パターンが養われました。
また、行政は色んな学校の校長や現場の教員、学校以外の外部とも関わりますので、人脈が増え、それに伴い視点が広がったのも大きいように思います。

新宿区立戸塚第一小学校の校長時代は、幼稚園長も兼務していたのですが、幼稚園の先生からも多くのことを学びました。
例えば砂場に新しい砂が入ったときは、先生たちは子どもたちが自ら遊び方を発見して、創意工夫をするための仕掛けをうまく散りばめていました。
普段は綺麗に片付けられている園庭に、落ち葉を広げておいたり、水道のホースを脇に置いておいたり。子どもたちは、最初は新しい砂が入った砂場に夢中です。ところが、段々と飽きてきて、周囲を見ると落ち葉や水道のホースが目に入ります。
落ち葉や水を使って別の遊びを考え出し、「僕がホースを見つけたんだよ!」と自慢げに先生に言います。先生たちは環境を整えることで、子どもの遊びを広げています。私はこれを「授業を仕組む」と呼んでいます。

学校経営計画に掲げている、「自ら問題意識を持ち、考え、判断し、行動し、その結果に責任をもつ」子どもを育てるには、様々な方々のご協力を得て、色々な機会を創っていくことが欠かせないと思います。


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中学・高校を始め各種教育機関にグローバル探究プログラムを提供するタイガーモブが運営する、自分らしく生きていく社会と教育の実現のために、探究的な学びの実践機会を提供することを目的に立ち上げられたコミュニティです。
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参加資格:
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タイガーモブは、海外インターンシップや海外研修で培ってきたネットワークや企画力、ファシリテーション力をベースに、世界を舞台にした探究学習をサポートします。

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