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【連載小説】ガンズグロウ vol.8「ティファニー」

『DVD見てくれた?』

翌日はタツキのメールで起こされた。

『ごめんね、まだ見てない……』

眠い目をこすりながら返信する。

「休みの日くらい、ゆっくり寝かせてよ……」

このところ毎晩ガンズグロウを深夜までプレイしていて眠気がひどい。

『よかったらさ、今日はうちに遊びにこない?』

ガバッと起き上がる。

もう一度メールを見返す。

「うちに……ってタツキくんちに?!」

行く行く、行きますとも!


そうなるとのんびりはしていられない。

『何時ごろ行けばいい?』

『何時でもいいよ。学校まで迎えに行く』

『じゃあ、11時頃で、どう?』

『いいよ、昼飯何か食ってからにしようか』

『うんうん、じゃあ、後でね!』

慌てて服を選び出す私。

初めておうちにお邪魔するんだから、やっぱり清楚系だよね……

白いカットソーと黒いカットソーで迷う私。

白にピンクのスカート、これでいこう!

服が決まったらじっくりゆっくりシャワーを浴びる。

剃り残しはないよね……

鏡を見てバッチリチェックする。


脱がないとは思うけど、念のため勝負下着にする。

化粧は薄めにバッチリと。

最後に軽く香水をふりかけて準備は完了した。



11時。

セミの声がうるさい中、できるだけ汗をかかないように木の影に隠れてタツキを待つ。

やってくるタツキ、今日はチェックのシャツにジーンズ、うん、普通の格好だ。


「ご飯どこで食べようか?」

「こないだ美味しいカレー屋さんを教えてもらったから、そこでどう?」

「カレーいいね!夏はやっぱりカレーだよね!」

意気投合してカレーとなった。

私はキーマカレーを注文。

タツキは悩んだ末にグリーンカレーにした。

「カレーにこんなに種類があるなんて、びっくりだよ!」

タツキは目を輝かせる。

ホントにこの人何も知らないのね……わたしはそう考えながらラッシーを口にした。


会話はどうしてもガンズグロウの方へいく。

共通の話題がないから仕方ないんだけど、戦術があーでもない、こーでもない、やれ攻撃が遅いだの、ついついつられて熱くなる。

最近は自分でもわかるほどガンズグロウにはまっている。

そういうもんなのだろうか?


大学の話にも少しなった。

私は文学部に所属していて、将来は図書司書の資格をとりたいことなどを話した。

タツキは大学へ行きたかったけど、家庭の事情で行けなかったからうらやましいと言った。



タツキの家は木造の二階建てだ。

「さ、入って」

と言われ、恐る恐る

「お邪魔しまーす」

と言うと、タツキが

「誰もいないから大丈夫だよ」

と笑う。

「そ、そうなの?」

二階のタツキの部屋へ通される。

……なんじゃこりゃあぁ?!

壁一面の漫画の本に、こ積まれたDVDと本の山、天井にはどでかいアニメのキャラクターのポスターがべたべたと貼ってある。

ふと横の棚をみると、ぎちぎちにフィギュアやプラモデルがところ狭しと並んでいた。


男の子の部屋ってこういうもんなの?


頭がぐるぐるしていると、一階からタツキが麦茶を持って上がってきた。


「狭くてごめんねー」

「いやっ、全然大丈夫っ……」

言っている側から積まれた本にぶつかって倒した。

「あ、ごめんなさい」

「いいよ、俺もしょっちゅうやるから」

ベッドに腰掛けて座る。

「なんか気になる本があったら言ってね」

といいながら、モニターの前に座るタツキ。

「おうちの人は……?」

「あ、親父は今日は仕事でいないんだ」

「お母さんは?」

「お袋は俺が高校の時亡くなってさ」

「ごめん、なんかいけないこと聞いちゃったね……」

「いや、構わないよ。もう何年も経つしね。ティファニーのネックレス、してたでしょ?」

最初の出会いの時だ。

よく覚えてるなあなんて感心しながら聞いた。

「ティファニーはお袋が大好きでね。でも、高いからそうそう買えるもんでもないし」

タツキは麦茶をごくっと飲むと続けた。

「亡くなったときに、俺、バイト代を趣味にしか使ってなかったからさ、一つくらい買ってやりたかったなぁって思ってさ。いまだにチェックしちゃうんだよな。」

そうだったんだ……

なんかタツキの知らない一面を知れてよかった、と私は思った。

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