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【連載小説】ガンズグロウ vol.11「初出勤」

それにしても、カフェに行ったことがないとか言って自分はしっかりカフェでバイトしてるじゃないの。

と私は思う。


今日は初出勤の日。

出勤すると、制服のポロシャツと名札、それから腰巻きのエプロンを与えられた。

それから滑らない靴。

下はジーンズやチノパンでよいと言われていたので、ジーンズを履いてきた。


まず最初にメニューから覚えていく。

メニューには略称があって、キッチンには略称で通す。

パスタが八種類くらいだから、なんとかなりそうだ。

次に接客。

「いらっしゃいませ」

「お席にご案内いたします」

「こちら、メニューでございます」

……初めてなので、先輩にひっついて歩いて覚えていく。

これがなかなかやっかいだった。



シフトは今日はタツキと違ったが、思いの外一緒のことが多くて大喜びだ。


タツキに会うまでに少しは役に立てるようになっておきたい。

私は張り切った。


張り切りすぎて、お冷をお客様の服にこぼしてしまった。

慌てて謝ると、店長に報告し、対応してもらう。


最初からこれじゃ……



「初めてのときは誰でもやることさ、気にするな」

店長のフォローに救われる私。

結局そのお客様の件は、大人一人分をただにすることで解決した。



うちのお店はワンオーダー制のビュッフェ形式になっており、まずパスタを一品注文いただいて、それからビュッフェをご案内する。

お冷がジャスミンティーなのも人気の一つだという。


タツキに会うまでに、なんとしても形にしておきたかった私は、先ほどのミスもそこそこに、積極的に接客をするようにした。


明日はタツキと一緒のシフトだ!



タツキは先にシフトで入っていた。

私は、一応後輩なので

「おはようございます。」

と挨拶をする。

「おはよう」

にこやかなタツキ。

「聞いたよ、頑張ってるんだって?」

「う、うん」

「今日は俺とコンビだから、しっかりついてこいよ!」

「はいっ!」

タツキは元々がいい男なので、制服を着ても見栄えする。

一つ一つの動きが綺麗でカッコいい。

あんな風になりたい……!!

今日はキッチンに通すメニューを言い間違えないように、カンペを作ってきた。

うちの店は手書きのメニューだから、間違えて書かないように、自分なりの工夫だ。


それを横から見たタツキが、

「頭いいな、さすが現役大学生だな」

とちょっと冗談で嫌味を言ってきた。

「そんな、普通です!私、頭悪くて覚えきれないから……」

タツキがそんな冗談を言うと思ってなかったので、ちょっとびっくりした。


職場のタツキは、よく笑い、まるでオタク臭を感じなかった。


帰りは同じ時間なので、送ってもらえることになった。

更衣室はないので、ロッカールームに簡易カーテンで男女交代で着替えることになっている。

私は夜の部で紅一点なので、先に着替えさせてもらえた。

着替えてタツキを待つ。

みんなには二人の関係は言ってないから、不思議そうに

「お疲れです。お先に」

と言って帰って行った。


自転車にそれぞれまたがった。

ゆっくり漕ぎながら、話しかけてくるタツキ。

「どう?バイトのほうは?」

「楽しいよ!覚えることたくさんで、まだまだだけど……」

「ならよかった」

「帰ってからはガンズやるんだよね」

「うん、今日は遅いから、二時間くらいかな」

「私、頑張るね!仕事もガンズも!」

「ほどほどにな。」

いつの間にかアパートについた私は、頭をぽふぽふされる。

それだけで充分幸せだった。

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