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【連載小説】ガンズグロウ vol.15「スキ」

コミフェスが終わって、なんだか燃え尽き症候群のようになった私。


今日はバイトのシフトが完全にタツキと一緒だった。

うきうきしながら出勤。


するとタツキは来ていなかった。

代わりに田中先輩がいる。

「ぅはよーございまーす」

挨拶をして入ると、

「上坂が今日は風邪で休みなんだ。さやかちゃん、今日は頼むよ!」

と店長と田中先輩。

風邪で休みー?!

私聞いてないないナッシング。

こんな古いジョークを思い浮かべながら、

「はい……頑張ります」

としか言えない私。

タツキと付き合ってるというのは一応オフレコなわけで……



今日が木曜日でよかった。

木曜日は一番お客様が少ない日だから。

これだけ広いホールを一人で見るのは非常に大変なのだ。

ホールにはお客様が40人入る。さらに離れをあわせると60名近くを見ることになる。

今日は予約も入ってないし、楽勝かな……

と思いながら棚卸しをしていた。


ピンポーン

「いらっしゃいませ!何名様でいらっしゃいますか?」

最初の四人は一番奥の席に座った。

実は、面接の時に座ったこの席にはパーテーションがあり、あまりよく見渡せない。

ご案内をするとすぐに次のお客様がご来店。

あっという間に全席が埋まってしまうことに。


急いで店長にヘルプを頼む。

店長はもともとホテルのレストランのホール出身なので、手慣れたものだ。


しかし、客足が途絶えることはない。

キッチンも今日は一人でまわしているので、店長はキッチンに入ってはホールに出て…とさんざんな一日になったのである。


お店としては、売上上々でよかったよかった、なのだが、この日は閉店後に棚卸しを行うことになった。


長くかかりそうだから、と店長がコーヒーをいれてくれる。

私はいつも砂糖は30g、ミルクは二つと決めている。


結局、12時までかかって仕事を終わらせた。



「お疲れっしたー!」

店長が

「おう、お疲れ!」

と言ってくれる。

店長はこのあとも居残りで仕事らしい。

社会は厳しいな……と思って帰ろうと自転車に乗ったときに、田中先輩から声がかかった。

「よ、よかったから一緒に帰らない?」

「あ……でも、先輩んち、反対方向ですよ?」

「いやあ、遅くなって危ないからね、送っていくよ」

田中先輩は就活をしながらうちの店でバイトしている。

フツメンってとこかな、優しそうではある。

「いやあ、悪いですもん、チャリだったら、ひゅーっと帰れますから、大丈夫ですよ!」

「あ、じゃあ、じゃあ少し話して帰らない?」

「え?いいですけど……」


店の隣にある自販機でコーヒーをおごってもらう。


「実は……さ、好きなんだよね」

「えっ?わ、わ、私彼氏いるからだめですよ!」

私はかなり焦った。そんな展開考えてもみなかったから。

「あー、ごめん、違うんだ。俺が好きなのは、上坂。」

……!!!

「セセセ、先輩、上坂は男っすよ……?」

変な汗が出る。

「わかってるよ。だから、わかってくれそうなさやかちゃんに相談したいのさ」

「こここ、上坂ですか……?」

「うん、好きな子とかいたりするのかなって……さやかちゃん一番上坂と仲がいいだろう?だからと思って。」

私は混乱していた。

でも、付き合ってるのはオフレコにしとかなきゃ、バイト的にヤバいよね??

「す……好きな子はいるらしいですよ?」

「やっぱそうかー。叶わぬ願いってとこかなあ」

「そ、そうですね……」

「よかったら、さやかちゃん俺のこと応援してよ。叶わぬ願い、だけどさ」

「……はい」



はい、としか言えなかった自分。

田中先輩を裏切ることになるんだなぁ、と、ため息をついた。

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