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隠し部屋(同人誌収録エッセイ)

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隠し部屋(同人誌収録エッセイ)
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記事一覧

光のしずく

詩の一節がずっと頭の片隅に残っていることはありませんか? 「わたしが死んだら黒姫山に骨を…

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記憶の宮殿

(2010年7月6日記) 五七の桐 4月19日、父が帰ってきました、献体先から遺骨となって。 実家…

『ナルニア国ものがたり』再読

『ナルニア国ものがたり全7巻』を読み終えました。 『さいごの戦い』は前半、ナルニアに悪が…

暗闇のなかの一本のろうそく

(2012年5月 親友への手紙) 里枝ちゃん。 今日ね、六本木の国立新美術館のセザンヌ展とエルミ…

ゴクヤスミ

夏といえば昼寝 真夏の昼下がり。田んぼの畦道、深い木立ち。戸を開け放って昼寝する人たち。…

ツバキ文具店 雨宮鳩子様

カサブランカ空港へ向かう機上で しっとりとやわらかい風が、田んぼの早苗をさわさわと撫でて…

三面鏡

彼女は三面鏡を見る。化粧のためでなく観察するために。まるで鏡の中に、だれも気づかないけれど見過ごしにしてはならない何かが潜んでいないかと探るように。 右の目の下に泣きぼくろがあるせいか、右半面は少し悲しそうだ。左半面はやや険があり意地悪そうに見える。低くてやや上を向いた丸く不器量な鼻は母から、泣き腫らしたようにふくらんだまぶたは父から、ぼさぼさの濃い眉毛は母方の祖父から、それぞれ受け継いだ。額の横じわが10代のころから中年のような印象を与えていた。 高校生のころ、彼女は密

我らの流儀

バックパッカーひとり旅 今頃飛行機はどのあたりを飛んでいるのだろう。 12泊13日のひと…

ゆるやかな着地

存在感のある姑 晩年を特別養護老人ホームで暮らしていた姑(夫の母親)は、曇った目の時と澄…

別れの風景

新聞広告の短いエッセイ(文・伊集院静 画・長友啓典)に目が止まる。「荒野」の読みはコウヤ…

わたしのミュージックポートレイト

わたしのミュージックポートレイト素顔を写し出す音楽 ミュージックポートレイトというテレビ…

60歳の誕生日に万年筆を

60歳の誕生日に万年筆を ペリカン社のスーベレーンM400 「カッコイイオトナ」の象徴のような…

ホドケテイクイノチ

ホドケテイクイノチ 北欧4カ国の旅                2008年12月29日から11日間…

ひばり

ひばり  初めて気づいた時は「なんてとんちんかんな奴」とあきれてしまった。  まだ朝の気配がないまっ暗な午前5時前。シーンと静まる深い夜。残業で煮詰まった頭を冷やそうと窓をあけると、4月の、ほんの少し夏の息吹を含んだ新鮮な空気が流れこんだ。  私の机は、二階の、北西むきの窓に面していて、隣家の屋根のすき間から、田畑のひろがりと、数百メートル先の街並みと、群馬の山並が遠くに見える。国道17号ぞいだが、夜になると灯りもまばらで、時に夜行列車が走り抜ける妙になつかしい音が聞こえ