見出し画像

我らの流儀

バックパッカーひとり旅


今頃飛行機はどのあたりを飛んでいるのだろう。

12泊13日のひとり旅の夫を乗せて、飛行機は日本へと向かっているはずだ。行程は断片的に耳にしている。
・ユーラシア大陸の最西端「ここに地終わり海始まる」の碑の立つロカ岬で元日を迎える
・レーニンの通った図書館
・アルハンブラ宮殿
・ジブラルタル海峡を越えアフリカへ
・ガウディの次の世代へ築き継がれていく教会

でも詳しい日程は知らない。もちろん、旅行代理店が作成する留守宅用パンフなんかも、ない。彼の道連れは「地球の歩き方」「ヨーロッパ鉄道時刻表」とデジタルカメラ、そして意志。

5月の連休には、新潟の母を誘って2人でパック旅行。盆休みはアジア方面。年末年始はヨーロッパの一人旅。というおよその年間計画を立てて、夫はここ数年実行している。比較的長く休めるのは自営業だからこそだが、本当は月単位・年単位の長旅がしたいのだそうだ。

羽をのばす私と子どもたち


3人の子どもと私は、夫をにこにこと送り出す。後姿が見えなくなると、「サテ」とばかりに目を見交わし「何する?どこ行く?誰に会う?」と休日の計画を練り、羽根を思いっきり広げるのだ。

家族としてどうなの?と疑問に思われるかも知れない。
私たち夫婦はお互いに眉間に皺を寄せた苦しい顔しか見せていない。長い休日は別々に過ごすから、溌剌とした朗らかな笑顔をお互いに見られない。
子どもたちの魅力的で伸びやかな姿を、父親は知らない。
父親の憧れや夢や生き生きした体験を、子どもたちは知らない。
家族としてそれはとても残念なことに違いない。

でもこれでいい。
こうした休日の形は「我らの流儀」とでもいうような、独特で安定したものになりつつあるからだ。休日だけではない。仕事のやり方も、人とのつきあい方も、家族の、親子の、夫婦の今を映して、独自路線を走る。
「流儀」なんて、私が書くと変な感じがする。肩肘を張って、つっぱってるみたいで、かえって脆そう。
「アイツの流儀・アタシの難儀」が現実かも知れない。ぶつかりあって、ザラザラした傷をつけあっている。迷いながら探し、見つけたと喜んでよくよく見てみると、歪んだ共同幻想だったりする。

だけど、休日の夫との別行動は、これでよし、と思っている。私たち家族には風穴が必要不可欠なのだ。

夫はきっといい笑顔を見せて広い地球を歩いているだろう。
私もいい休日にしたい。子どもたちの強い願いも伝わってくる。
だから、我らの流儀でいこうと胸を張る。

冬休みを満喫


さて、どんな冬休みだったかと言えば・・・。

レンタルビデオを娘と選んで毎晩映画三昧できたことは嬉しかった。この頃は会話もすれ違うことの多くなった中2の薫だが、しっかり合流してくれた。
「奇跡の人」で年を越し、「ダンスウィズウルブス」「レジェンドオブフォール」「ユーガットメール」「シティーオブエンジェル」「ポネット」「マイフレンドメモリー」などなど。

一工夫した料理。家中の大そうじ。子どもたちはいつも私の相棒になってくれるから家事だって外出だって軽快なのだ。不思議なもので、本はあまり読まなかった。このところは花村萬月に熱中し、仕事が終わる午後2時とか3時頃から数時間、あのとびきり緊張感のある萬月ワールドに、(彼風に言えば)“淫して”いたのに・・・。

2日は実家の父を囲んで、子、孫が集い、庭に卓球台を出してピンポンに興じた。20年も前の、冬の夜の家族の楽しみだったこのなつかしい卓球台は、すべてが父の手作り。ルールブックどおりの公式サイズ。緑色のペンキ。ラケットは1本だけ買って、それを見本に3本作ってくれた。
「お父さんもお母さんも仲間に入ってたのしかったよね」
と、姉たちと思い出話が弾む。

3日は渋谷の叔母(父の妹)を訪ね、ずうずうしくも泊まってしまった。
志奈さんは長く、道玄坂でホテルを営んでいる。幼い頃祖母と一緒に東急デパートで天丼をごちそうになった日、世界にはこんなうんまいものがあるのか!と夢中でほおばったっけ。
そんな話をしたら昼食に東急本店で天ぷらをご馳走して下さった。
きっと、子どもたちも一生この味を覚えていることだろう。深夜、ホテルのフロントで志奈さんと2人で話せたことが忘れ難い。

5日は東京ディズニーランドへ。

6、7日と9日には天ちゃん兄弟(きづなの親友)と、うぶちゃん(薫の親友)が泊まりに来てくれて、一段と我が家はにぎやかになる。子どもが大好きなお泊り会だ。

私は動きつかれて熱を出すが、それを良いことに布団にもぐり込み、息子が用意してくれた湯たんぽをかかえてぬくぬくと過ごした。

自由な休暇が終わった。
夫が帰宅すればまたハードな仕事優先の日々が再開する。
「ヨシ」と小さく声に出して立ち上がり、私はこころもち足に力を入れる。

             「もらとりあむ6号 2000冬草」   

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?