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暗闇のなかの一本のろうそく

(2012年5月 親友への手紙)

里枝ちゃん。
今日ね、六本木の国立新美術館のセザンヌ展とエルミタージュ展を鑑賞してきたんですけど。そこで、里枝ちゃんそっくりの男の子を見つけましたよ!!

左側にお父さんらしき人が右手にトンカチ、左手にノミを持ち、板を削っています。その手元を、一本のろうそくで照らしている少年が右側に描かれています。年は7歳くらいでしょうか。ゆったりした赤い衣を着て、ろうそくを持った左手を伸ばして、右手は机に自然な形で置いて体をあずけています。

全体的に暗い色調のなか、中心のろうそくの柔らかい灯りだけが、お父さんと少年の横顔とそれぞれの手元を照らしていて、静謐な雰囲気です。
ノミの先をじっと見ているお父さんは少し物憂げに見えます。しわだらけの顔は伸び放題のかみとひげに覆われています。職人の生真面目さや暮らしの労苦が感じられます。

対比的に、少年の横顔はひときわ明るく白く輝いています。視線はまっすぐお父さんに向かい、そこには曇りのない信頼、愛、いたわりのような晴れやかさが感じられます。真摯で聡明なまなざしは哲学者のようです。
画家の視線は顔より少し低い位置からなので、少年の横顔は真横よりもやや上向きに傾いています。少年の後ろには年上らしい少年または少女が二人、笑みを交わしています。背中に羽があるところをみると天使なのでしょう。

どうかな・・・絵のイメージ、少しは伝わりましたか?

その少年が、里枝ちゃんに似ている気がして、私はハッと立ち止まったのです。そしてしばらく絵の前に立ち尽くしていました。見れば見るほど似ています。あなたが誰かの話をひたむきに聴いているときの横顔に・・・。

画家の名は、ヘリット・ファン・ホントホルスト。
1620年ころに描かれた油絵で、題名は『幼少期のキリスト』
そう、少年はキリスト、老人は養父ヨゼフなのでした。


私は信仰を持たないので深く理解できないのですが、画家は、暗闇のなかの一本のろうそくを、神の愛の象徴として描きたかったのだろうと感じました。聖書をもっと深く知れば、意味とか寓意とかも味わうことができるのかもしれませんね。

里枝ちゃん。
いつもずっと変わらず、ろうそくの灯りのようなまなざしを私に向けてくれてありがとう。なかなか直接言えないけれど、心からの感謝の気持ちを、この一枚の絵に託します。


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