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『震えるミュート』

『震えるミュート』 No.076

ベットの上でふと目を覚ます
私はゆっくりと身体を起こし、ベッドサイドの水を一口飲んだ
時間を見るため携帯電話を開く
通知が来ていたが震えた記憶がない
いつの間にかサイレントになっていた
もう4時間も前
夫からのメッセージ
開くと私の所に来た後に撮った動画があった
イヤホンをセットし、再生する
滑り台とブランコで遊ぶ娘
口の周りに着いたソフトクリームを拭う
池で白鳥のボートを漕ぐ夫
娘は“もっと早く~”と笑いかける
それにつられて私もフフフ
固定されたカメラに映るのは家の台所
“ママが帰って来たときの為に切れ味を良くしておきま~す”
帰り道に偶然見つけた金物屋さん
そこで買ってきた砥石が映る
私がいつも使う三徳包丁を研ぐ夫とそれをじっと見る娘
切れ味を試したレモンを食べる
すっぱがる顔は二人そっくり
あ、お義母さんも…
動画はここで切れていた
画面を閉じ、大きく深呼吸する
身体をゆっくりと起こし、サイドチェストを開いた
編みかけのぬいぐるみを取り出し、じっと眺める
次第に目の前がぼやけ始める
手が思うように上手く動かない
“ダメよ、私、戦うんだから…”
震える心で未だカラダだけの編み物をぐっと抱きしめた…

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