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『四角いブラックホール』

『四角いブラックホール』 No.026

男は何故か、丸いものより四角いものに惹かれる傾向があった
小さい頃はボールやフリスビーよりルービックキューブやジャングルジム
ペンより鉛筆、硬貨より紙幣を好んだ
大人になり、気づけばお気に入りの角部屋には多面的なもので溢れて返っていた
服やシーツなどのカバーは、全てチェック柄で統一してしまう癖がある
それからもう一つ、男には分からない事があった
何故かいつも家族や友達と口論になり、最終的には喧嘩に発展する
店の店員や職場の人とも、知らないうちに揉めてしまう
誰とも仲良くなれない自分に嫌気がさす毎日
今日も四角いフライパンで焼いたサイコロステーキを頬張る…

太陽が出る日中と満月の夜以外は、やはり気分が軽くなる
男は不意にテレビ画面に映るドラキュラを見つめた…
そして、在ることを閃く
服を着たまま湯の無いバスタブに入り、身体のサイズを確かめる
急いでホームセンターに走り、必要な材料や工具を買い漁った
そして朝日が昇るころ、試行錯誤の上にようやく完成した
生まれてからずっと追い求めていたもの…
其れは自分の身体がすっぽり入る、木製の正六面体だった
蓋になる一面を外して中を覗くと、その角に吸い込まれてしまいそうになる
男にとって、そこはまさに四角いブラックホール
武者震いを抑えるため、グレンチェックのバスタオルを肩に羽織る
真冬の露天風呂に入るかのように、ゆっくりと漆黒の極楽に身体を浸す
外した蓋で再び閉じた後、自作の立方体で恍惚の表情を浮かべる
究極のコーナーたちに包まれる極上の喜び
ずっとこの場所に居たい
もうここから二度と出たくない
そしてふと思った…
何をしても“角が立つ”人生に、もう用はない
きっと誰とも“縁が無かった”のだろう…


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