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随筆

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記事一覧

年末随想

何となく発熱や体の痛みが認められるので、風邪を引いたかと思います。思考はまとまりにくく、また脳が体に指令を発しようとも鈍重な腕部脚部が私の思い通りに動いてくれないので、タイトルに自由と好奇心の象徴たる「wind」の意味合いはないことをここに不言します。

風邪をひいたときにしか書けない随筆があると思うので、試してみようと思いワープロを開く次第です。以前「note」で投稿した記事の上で、雨の日は人々

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注文哲学

6月も足早に過ぎて7月に入り、七夕を終えて、世は間も無く夏休みといいたいところだが、コロナのことがあるので、学生たちは“ロスタイム”を戦わされることになる。つまり、例年よりも2週間ほど遅れて夏季休暇がスタートするわけだ。

文月中頃のそんな折、昼過ぎの喫茶店に入る。時間帯も手伝って客足はまばら。カウンターへ進み店員に声をかけるが、作業に集中していて私に気づかないらしい。もう一度声を出すと、こちらに

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気になる表現「最高」

今回の記事は、頭のカタい私の、往年の謎が氷解するシリーズです。シリーズと言っても初回なのでバックナンバーはありません。

早速ですが、私が以前から気になっていた「最高!」という言葉について。作品に対する感想として「最高」という言葉を選択することについての是非を問う動きは、以前から私の頭の中で活発化しつつありました。

文字通りとらえれば「最も高い」という意味をつくり出すこの言葉。ある小説を「最高」

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「月見パイ」と一緒に食べているもの

「月見パイ」と一緒に食べているもの

マクドナルド社が秋の新商品として「月見パイ」を発売しました。いちど購入し実食しましたが、マーケティングを含め魅力的なプロダクトだと感じたので、その機構を書き留めておきたいと思います。

○ケースデザイン

・色彩

ケースは同社製「ホットアップルパイ」と同様の規格を用いつつ、既発製品にはない青と黄のコンビネーションで、鮮やかな色彩が目を引きます。

・月の配置

月は位置をセンタリングせず少し右に

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川と魚と風

川と魚と風

小学校2年生のとき、渓流へ魚釣りに行った。これは学年がまるごと大挙して出向くもので、ひとクラス30名の全3組、引率の先生を含めて100人くらいでの日帰り旅行であった。

山あいの駐車場にバスは止まり、そこから先は徒歩で川へ向かう。到着すると、はき古したスニーカーにTシャツ姿で、初夏の清々しい空気の中、水と戯れながらそれぞれイワナを手づかみで捕らえる。天然の川の水は冷たく、林に囲われた木陰であったこ

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風と空き箱

風と空き箱

ジムで汗を流したあと、しばらく外気に触れていたくて、ほど近くにある公園を目指す。二つあるベンチのうち、向かって右に腰掛けた。

過ごしやすい初夏の午後。

自分の身体を傷めつける苦行を経てから全身に浴びる風は、何ものにも代えがたい充実と、癒やしの感覚をもたらしてくれる。

5分ほど経つと、それまで雲に遮蔽されていた陽光が、烈しく降り注いで来た。たまらず木陰のベンチに居を移す。このベンチには煙草の空

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8年前の永久機関

8年前の永久機関

事務員Gさんというピアニストの方がいらっしゃって、ニコニコ動画(現niconico)で活躍されていた頃からよくお名前をお見かけしていました。

ご自身のブログを拝見すると、FM北海道AIR-Gのパーソナリティとしてラジオ放送を持たれているのだそう。

8年前の自分というのは「39転調(サンキュー・モデュレーション)」という自作曲のことです。事務員Gさんにこの曲をラジオ放送で流してもらい、この曲を作

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ひとに音楽をすすめること

「好きな音楽を人に勧める必要はあるのか?」という質問は「人間に生きる必要はあるのか?」という問いかけに似ている。答えは「どちらでもよい」。その吟味に関わるのは、その人が「そうしたいと思うかどうか」だけだと思う。

人に音楽を勧めるのには少々困難が伴う。自分の好きなものには、そのまま自分の分身みたいなところがある。受け入れられなかったら、まるで自分が拒絶されたような気持ちになってしまう。これは、発信

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板前さんの話

年に数回お世話になる鮨屋がある。デパートの最上階付近にあり、休日の午後、昼時を外した2時、3時を狙って訪れる。

学生時代、一人で牛丼屋に入るのも苦手だったぼくが、板前さんとのタイマンになってしまう時間帯に、あえて店の敷居をまたぐようになったのは、”先生”がいるからだ。

2018年春。好物のつぶ貝を食していると、感想を求められた。ぼくは海産物のプロを前にして、必死に、この貝類独特の食感を表す語彙

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FinalFantasy7「旅の途中で」

RPGゲーム「FF7」で二番目に訪れる街「カーム」。人々は親切に接してくれ、街並みもどこかやさしい雰囲気を持っています。街の情趣を一言で説明するなら「いこい」に尽きると思います。
直前に訪れた大都市は、住民の生活苦をリアルに描く、暗黒的な雰囲気をもつ空間です。そのため、二つの街の描き分けは、間違いなく対比的な効果を狙った演出だと考えられます。万が一狙っていなくとも、現実にそのような効果が発現してい

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セカオワぎらいが治ったはなし

◆飲食店で昼食をとっていると、不思議な感覚におそわれました。私のiPodに入っている曲(※1)が、店内BGMとして流れているのです。お店の再生機器と同期してしまったのか?と思い確認しますが、音楽再生アプリは作動していません。結局、私の持っている曲と同じ曲が、偶然お店で流れただけのことでした。

流れたものが一般に有名とは言えない曲であっただけに、自分の音楽プレイヤーがお店をジャックしているような錯

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音楽に意味はない

 私達が音楽に心を動かされるとき、純粋に作品のもつ性質だけによって感動を催しているとは限らない。音声を契機とし、鑑賞者にとって思い入れの深い情景や思い出が喚び起こされることもある。そのときには、音とそれら"想起物"とが相まって形成された、構成物の総体が、"音楽"として鑑賞されているはずなのである。即ち、音楽という媒体は、恐らく、音声情報だけで鑑賞されてはいない。音楽は、聴取者各人の人生経験と共鳴し

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帰りがけのできごと

 仕事帰りに駅を乗り過ごした。携帯端末で方方へ連絡をとっているうちに、乗り換え駅を通り過ぎていたらしい。終電も近く、帰宅できるかわからない。慌てて降りた駅で、外国人に話しかけられる。いわく、北千住に行きたいとのこと。英語の不得意と時間のない焦燥とが、私に退散を促す。とはいえ無下にはできないので、なけなしの中学英語で応対を試みた。何とか乗り換え順を伝えきると、その人は何度もお辞儀をしながら「Than

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