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「熱狂の違い」欧州と北米サッカースタジアムを比較してみた!

何を「ウリ」にする?

今回はユベントスのホームである、Allianz StadiumとMLS(北米メジャーリーグサッカー)のPaypal parkを比較!両者の体験価値とウリの違いにフォーカスしてみます。
一言で言うと、ユベントスは観客全員が試合観戦に熱狂し、Paypal parkでは90分試合中もぶらぶらと自由に観戦という風景。一方で、ホスピタリティやスイート、飲食体験の価値観は同じ。これは、観客に再び訪れてもらい集客と収益を向上していく重要なポイントです。
単純比較はできませんが、「ウリ」としている体験価値をチーム自体が客観的に理解していることが見て取れます。

Allianz Stadium(ユベントス@イタリア、トリノ)

ここは行政所有のスタジアム(Stadio Delle Alpi:6.7万人収容)だったものをユベントスが2002年に購入し大規模な改修を行ったスタジアムです。
陸上トラックをなくす形でピッチのみを残し、既存のスタジアムを解体しました(3層スタンドを2層スタンドに減らし、4.2万人収容へ)。周辺にも商業施設やクリニック、クラブハウス、練習場などを開発し、学校やホテルも整備されています。

2~3年の短いスパンで施設の更新を行いながら持続的なスタジアムの開発を行っているところがポイントで常に顧客体験のアップデートを試みています(クラブによる民設民営だからクイックなトライアンドエラーが可能とのこと)。例えば、選手バスはスタジアムの地下に停車し選手を下ろしていましたが、ファンの体験価値向上のために地上レベルにバスを停め、ファンの目の前を通りスタジアムに入場する動線に変更したそうです。そこへ仮設LEDビジョンを設置して新たな広告価値も生み出しています。トップクラブであってもお金をかけない体験価値向上の取組みは脱帽ですね。
直近のチャレンジのコンセプトは「Connectivity」。飲食体験や会場のネットワークを向上させる予定です。
このスタジアムは熱狂ファンも多いため、観客席の10%である4000席はプレミアムシートとなっており、SKYBOX(VIPルーム)は合計64部屋も用意さてています。ローマやミラノには無い、とてもユニークなホスピタリティをコンセプトに取り組んでいます。
周辺の複合開発や様々な体験価値づくりによって、トリノ市の観光名所としては郊外にもかかわらず第2位となっています(第1位はトリノ市内のエジプト博物館)。ちなみに、ユベントスのミュージアムは年間15万人が来館し、スタジアムツアーも約2000人/日が来場するそうです。
郊外で元々治安が悪かった地域をスタジアム開発によって改善していったスタジアムによるまちづくりの好事例でもあるのです。

4万人が熱狂するスタジアムの一体感
SKY BOX内も試合中は空っぽ

Paypal Park(サンノゼ・アースクエイクス@アメリカ、カリフォルニア)

MLSのサンノゼ・アースクエイクスのオーナーであるルイス・ウルフ(不動産事業会社)が、55年間のスタジアムの維持費を支払う形で整備したのがカリフォルニア州のサンノゼにあるPaypal Parkです。土地も市から購入し、こちらも公的資金0の民設スタジアムとなります(2015年開業、約140億円、18000席)。サンノゼ空港周辺の商業、研究施設、オフィス、住居、ホテル等の周辺の再開発の1ピースとなります。

スタジアムネーミングライツは2021年からPayPal(インターネット決済システム企業)が新たに10年間で契約しています。
観客の動線は混在することを前提に計画されており、観客はチケットさえ持っていれば、どこでもアクセスができます。一般席とVIPの棲み分けは部屋の各エントランスにスタッフを配置してセキュリティチェックのみといった設備に余計なコストをかけない節約具合も伺えます。
このスタジアムの特徴のひとつがAwayサイドスタンド裏側にある広大な芝生広場。そこでは食事を楽しんだり、子どもとサッカーボールで遊んだり、寝転がってお酒を飲みながら大型ビジョンで観戦するなど、90分間の中で自由に過ごすことができます。まるで公園です。芝生に面した大型ビジョンの下には大型のBARが設置されており、その反対側には12台のフードトラックが並び、この広場で飲食に困ることはありません!
アメリカはサッカーであってもMLBのボールパークのように「ながら観戦」スタイルが主流。試合中でも芝生エリアとコンコースは常に人が動いているので飲食や物販も継続的に消費されるのです。余談ですが、これだけ飲食が充実していても施設内でUber Eatsを注文して受け取れるカウンターも設置されています!

大型ビジョン下部のバーと広大な芝生広場。試合中も多くの人で賑わう
VIPルーム利用者も同じコンコースを利用。
入口のセキュリティチェックをスタッフで対応している。

日本のスタジアムのあるべき姿とは?

日本では「熱狂型」も「ぶらぶら型」も、両パターンあるのではないかなと感じます。J1や都市部にあるチームは集客力も高く、熱狂的なファンも多い。それでもJ1の平均入場者数は2万人程度です。
一方、地方のスタジアムは建設も維持も大変になります。5000〜10000人程度のスタジアムでイニシャルコストを抑え、逆に満席に近い環境を生み出すことでスタジアムで観戦することの価値を高めることもできるのです。
ふらっと「遊びに来ました」といった感覚で来場できる、ゆとりのあるながら観戦が潜在顧客の掘り起こしにもつながるかもしれません。観戦中に食事やトイレを我慢していることはありませんか?サッカースタジアムでももっと自由な過ごし方があってもいいのです。
ユベントスとサンノゼ。両軸のスタジアムから「顧客が何を求めていて、どうやってそれに応えているか」そのヒントを探ってみてはいかがでしょうか?

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こちらの記事内容は、PodCast番組で楽しくトークしながら深掘りしています!「ながら聴き」でお楽しみください!




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