古典芸術と現代アートは別物? ー出張Think School「はじめまして、現代アート」レポ (後編)
アートとまちづくりを学ぶアートスクールThink School卒業生有志により、企画された出張Think School「はじめまして、現代アート」。
美術史研究家 筧菜奈子さんの講演レポートの後編です。
いよいよ筧さんに現代アートについて案内していただきます。
前回の記事はこちら:
芸術の歴史をざっくりおさらい
それでは筧さんに、現代アートを案内してもらいましょう!
まず芸術の歴史をざっくり振り返ります。
世界各地で四〜六万年前の洞窟絵画が発見されているように、人類ははるか昔から芸術を作ってきたそうです。
その後の西洋美術は、明確な目的を持つようになります。
六世紀の初期キリスト絵画では、文字を読めない人にキリスト教を布教するために、宗教画が広まりました。
14世紀に始まるルネッサンス期には、権力を誇示するために肖像画など写実的な絵画が作られます。レオナルド・ダ・ヴィンチもこの時代に生まれました。ルネッサンスでは、油絵の具の発明や遠近法の発明によって、絵画がより写実的に進歩していきます。
しかし、18世紀後半から19世紀にかけてヨーロッパで起こった産業革命によって、大きな価値観の変化が生まれます。産業革命は、蒸気機関や電気、写真など、様々な技術を生み出しました。写真により、画家に高いお金を払って数ヶ月あるいは一年ほどかけて描かせていた肖像画の必要性がなくなりました。
「そこで芸術が消滅したのかというと、そうではありませんでした。そこが面白いところなのです。人は六万年前から、何かを作ったり描いたりすることが、どうしようもなく好きでした。これは、もう本能的な何かとしか言いようがありません。
そのため、産業革命が起こっても、作ることをやめたくはありません。そこで、機械では不可能な感情の表現や、奇抜な表現をしようと芸術家たちは考えました」
と、筧さんは続けます。
ピカソ、デュシャン……新しい発想を人間の創造性とする価値観
では、産業革命以降、どのようなアートが生まれてきたか具体例を見ていきましょう。
パブロ・ピカソの抽象的な絵画は、当時『これは醜い』と、多くの人から酷評されていたそうです。しかし、ピカソは決して写実的表現が下手だったから、抽象化をしたわけではありません。卓越した写実的な技術を持っていましたが、いかに写実的に上手い絵を描いたとしても、この先の世の中では評価されないということを、よくわかっていました。そこで彼は、『絵画にしかできない強い表現をしたい』と考え、デフォルメ化した人体を描くようになります。
ピカソと同時期にマルセル・デュシャンという芸術家が現れます。なんと彼は、男性用小便器をそのまま作品にしました。
「人間が手仕事で作り出した美しい絵や彫刻だけが芸術なのではなく、機械による大量生産品であっても人間の発想次第では芸術になりうる」と示したのです。つまり、芸術家の思考の働きが芸術になると考えたのです。
そしてこの思想は受け入れられ、二十世紀以降、多くの芸術家たちがこの価値を元に表現活動を行なっていきます。
「現代では、人工知能が名画家の作品を学習して、オリジナルの絵画を生み出せるようになっています。そのため、デュシャンの発想は、芸術の可能性を広げることで、芸術を延命させたとも言えます。」(筧さん)
現代アートは難しい?わからない? その根本にあるもの
では、現代アートに感じる違和感は、なぜ生じるのでしょう?
それは、芸術というものに対して、二つの価値観があることが原因のようです。
「十九世紀までの芸術は、天才の技巧による作品が芸術と考えられていました。
それに対し二十世紀以降は機械の出現により、新しい発想をすることに、重きが置かれるようになってきます。」(同)
私たちの多くが、二十世紀以前のアートまでしか美術教育を受けていないため、現代アートに対して混乱してしまうようです。
二十世紀以前と以降のもの、これら二つのアートは全く別ものだと考えた方がいいとのことでした。
今まで現代アート鑑賞で感じていた違和感に対して、とても腑に落ちる説明でした。
最後は、質問タイムで締めくくりです。会場からは、たくさんの質問が出ました。
その一つに、「新しいことをするために、なぜ学校で学ぶ必要があるのか」という学校の意味についての質問がありました。
筧さんからは、
「新しいものを作るために、古いものを知る必要があるので、学校で歴史や表現を学ぶ意味は、とてもあります。
もちろん、学校で学ばなくとも、人を感動させられるような作品は作れると思います」
とのことでした。
知識ももちろん大切ですが、根本は感動なのですよね。初心者でも、知識と自分の感覚でアートを味わいたいですね。
二時間にわたる濃密な講義でした。一部しかお伝えできないことがとても残念です。
最後に、もっと現代アートを知りたい! という方に筧さんの本の紹介です。
「めくるめく現代アート イラストで楽しむ世界の作家とキーワード」(フィルムアート社刊)は、わかりやすいイラストと共に、現代アートの重要なキーワードが解説されています。
一つのキーワードにつき、1~2ページの解説なので、気軽に読めますよ。
しかも、このかわいいイラストは、筧さんが全て描いています。研究のみならず作ることも続けたい、という筧さんの意志を強く感じます。ぜひ、手に取ってみて下さい。
筧菜奈子さんウェブサイト
(文:企画2期 加藤慶子/写真:制作1・2期 岩﨑麗奈/編集:企画2期わたなべひろみ)
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