同志少女よ、敵を撃て をよみました
情勢を解説する動画で紹介されていて、小説なら読んでみるか…と軽い気持ちで読んでみたら、かなり熱中度が高くて一気に読んで読みおわった後すごい噛み締めてた本。
あらすじ
戦中ながらも、平和な田舎町だったイワノスフカヤ。猟師の娘であるセラフィマは今日も母と狩りに出かけていた。
彼らにとって猟とは、食肉を手に入れる手段であり、食害をする動物を減らす手段でもある。殺さなければ、飢えて誰かが死ぬ。だから殺す。そんな世界線で彼女は生きている。
しかし村に戻ると、様子がおかしい。
そっと様子をうかがうと、そこにはドイツ軍がいた。
遅れてソ連赤軍がやってきたが、もう遅い。生き残りはセラフィマひとりになってしまった。
ソ連赤軍の狙撃手、イリーナはセラフィマを女性狙撃手養成学校へと連れて行く。そこでセラフィマは色々な人と出会い、時を供にして、別れ、変わってゆく。
感想
6時間くらい一気に読み進められるくらい面白い。読むのにかかった時間数の通り結構長い話なのだが、それも感じさせないくらい次から次へと予測を上回る展開が繰り広げられていく。
狙撃手養成学校に集められたのは、みんな家族を戦争で失った少女たち。彼女らはそれぞれ背景があって、養成学校では純粋に彼女らの成長を喜ぶことができる。だが、彼女らは養成が終わったら戦争が待っている。戦争に投入されてからはなんともいえない。ひとりの少女が兵士になっていく、その過程を見守ることしかできない。
戦う理由は人それぞれで、戦地に行ってから出会う兵士たちも、それぞれの理由で戦っている。それぞれの正義があって、ここに絶対悪はない。そして彼らには、それぞれ失ったものがある。失ったものが、今の彼らの意思決定を形作っている。
セラフィマが村を失った時に絶対に撃つと決めた敵も、人外の鬼畜外道ではなく、ただただひとりの、彼らの正義と理由で戦っていて、いろんなものを失ったただの人間である。ここには人間しかいないんだなーと思うと、なんとも言えない気持ちになる。
なんとも言えない気持ちを抱え続ける話なのだが、映画のプライベートライアン、アメリカンスナイパー、ダンケルク、フューリーなどを見終わった後と同じように、ああ、すごい質の良い作品を見た、という気持ちになれる。すごい疲れるけど、没頭できる感はとてもすごいので、ぜひ。
ただし、読みはじめるのは金曜か土曜がおすすめ。私は6時間かかった。
【おまけ】作中に関わる史実や単語のしらべまとめ
そういえば作中で出てきた固有名詞とか、どこまでが史実だったんだろーっていうのを調べたまとめ。戦争系の映画見るたびに、背景の世界史を理解してると3倍くらい面白いんだろうなと思うけども、近現代の歴史は密度高くて中々覚えきれない…。
リュドミラ・パヴリチェンコは史実の人
読むきっかけになった現代の情勢を解説する動画の人もさらっと言っているけども、リュドミラ・パヴリチェンコは実在の人物で、ちゃんとウィキペディアにもページがある。作中でセラフィマたちの髪型を『ボブカット』と表現することがあるが、私が想像するボブカットではなく、wikipediaのリュドミラ・パヴリチェンコの髪型が近いのではないかと思う。
女子の狙撃手を養成するような学校があったのも史実で、彼女がアメリカに行っていたのも史実。
スターリングラードの流れもだいたい史実
wikipedia情報だが、だいたい史実と同じ流れ。ウラヌス作戦とかも実在する作戦名。作中でクリスマスを過ごす描写があるので、作中彼女らはスターリングラードにいるのは1943年の年末〜1944年の年始あたりということになる。この頃、スターリングラードで独ソの両方からの色々なラジオが流れていたのも本当らしい。この時代はラジオが主なマスメディアだったんだろう。
この時、司令部のみの降伏をしたのも史実。史実の話だが、ドイツ側は『補給路絶たれたし物資ももうないから降伏したいと現場は思ってるが、上がそれを許さない』という状態だったらしく、なんともいえない気持ちになる話である。
チェーカーが昔の呼称なのも史実
wikipediaのチェーカーの項いわく、『チェーカー』が正式名称だったのは1922年までで、1934年に作中でもでてくる『NKVD所属』になったらしい。作中は1944年頃なので、昔の呼称が使われてるの少々長い気もするが、インターネットのない時代の組織の呼称の浸透具合なんてそんなもんなのかもしれない。
コサックとは何なのか
『紛争でしたら八田まで』のウクライナ編でもコサックが出てくるが、コサックって何なの…?と調べてみたら、いまいちよくわからなかった。ウクライナという国家の祖先であるのはわかったのだが、具体的にどんな特徴があるのか?はいまいち謎である。日本語に情報が訳されていないだけのような気もする。
歴史としては遊牧民であり、傭兵であったようだ。ハンガリーやモンゴルに近い歴史を持つのかもしれない。
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